『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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ゴリン国編

199.ララクール様あああーっ!

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 雪乃たちが視線を向けると、店の奥から、騎士服に身を包んだ男装の麗人が出てきた。その姿を見るなり、息を潜めていた女性冒険者達が、

「「「キャー!! ララクール様あああーっ!」

 と、黄色い叫び声を上げた。
 その直後、店の外から地響きが聞こえてくる。
 雪乃とカイは、思わず店の外を見て、固まった。

「「「キャー!! ララクール様ああーっ!!」

 店の前は、一瞬にして女性に囲まれていた。いや、男性も混じっている。

「有名な方なのでしょうか?」
「さあ?」

 雪乃とカイは、揃って首を傾げる。
 そんな二人をちらりと視界の端に映したララクールは、ふっと口元を緩める。それだけで、黄色い悲鳴が上がり、数名の女性が失神した。

「会計だったね? ローズマリナ様はお忙しそうだから、ぼくが代わりにするよ。こちらへどうぞ」
「「「キャアーッ!」」」

 ララクールがカウンターに入るなり、女性達が殺到した。
 カイは雪乃が巻き込まれないよう、即座に隅に寄る。
 カウンターのほうでは、ララクールが眉をひそめていた。

「美しいお嬢さん方。ローズマリナ様の商品を購入していただけるのは嬉しいけれど、まずは最初のお客様からお相手させてもらっても良いかな?」
「「「はいっ!!」」」

 目をハートに輝かせた女性たちは、一斉に頷く。その視線が瞬時に殺気交じりとなり、雪乃に向けられた。

「えーっと、私たちは急ぎませんので、どうぞお先に」

 枝を突き出し、迷わず譲る。雪乃はこんな集団に睨まれたくないし、関わりたくもなかった。

「そうかい? では優しいお嬢さん、少し待っていておくれ」
「はい。お気遣いなく」

 にこりと微笑んだララクールは、その笑顔のままに女性達を一気に捌き出した。商品が舞うように袋詰めされ、支払いが進んで行く。
 よく観察してみれば、一度に何人もの会計を同時進行していた。

「素晴らしいお手並みです。あれは日本の店員も、白旗を揚げざるを得ないかもしれません」
「ん?」

 ぽつりと呟いた雪乃の言葉に、カイは不思議そうに視線を落とした。

「ちょっと、いつまで抱っこしてるのさ! 返せよ」

 騒動に気を取られている間に、隣に移動していたノムルが、雪乃を奪おうと手を伸ばす。その手をするりとカイはかわした。
 ノムルが手を伸ばす。カイがかわす。ノムルが……杖を握り締めた。

「駄目です! 待ってください! おとーさん、冷静に!」

 おとーさんと呼ばれたノムルは、へらりと顔を緩める。杖は握り締めたままだが。
 とりあえず最悪の事態は防げたと、雪乃はほっと胸を撫で下ろした。

「カイさん、ノムルさんは気が高ぶると、魔法を暴発させます。家一軒が吹き飛ぶ威力なので、気を付けてください」
「分かった」

 雪乃は獣人のカイにだけ聞こえるよう、本当に小さな声で囁いた。しっかり聞き取ったカイは、表情を固くしながらも頷いた。
 聞き取れなかったノムルは、二人がこっそりやり取りしたことに気付き、顔をしかめる。

「えーっと、とりあえず、自己紹介からしましょう」

 まずは場の空気を和ませようと、雪乃は基本に立ち戻る。

「こちら、以前お世話になったカイさんです。そしてこちら、カイさんと別れてからずっとお世話になっている」

 と、雪乃はちらりとノムルの様子を窺う。
 顔をしかめながらも、何かを期待する目が向けられている。
 期待に応えたくはないが、無視をするとさらに機嫌を損ないそうだ。ここで暴れられるのも、カイを傷付けられるのも、避けたい。
 観念した雪乃は、はふうっと息を吐き出してから、続きを口にした。

「おとーさんのノムルさんです」

 満足したようで、ノムルはへらりと笑う。
 脱力する雪乃をカイは怪訝な顔で窺うと、ノムルへと視線を移す。

「ああ。あのときの魔法使いか。しかし『おとーさん』というのは、父上のことか?」
「それ以外に何があるのさ?」

 確認するカイに、ノムルは憤懣やるかたないとばかりに言い返した。
 カイは首を回して視線を逸らすと、不思議そうに首を捻った。

「すまない、少し雪乃に確認させてもらっても良いだろうか?」
「却下する。大体、なんでユキノちゃんのことを呼び捨てにしてるのさ? お前みたいなのと、ユキノちゃんの交際を許した憶えはないぞ?! ……交際?」

 自ら口にした言葉にダメージを受けたノムルは、俯いて湿度を増す。

「ユキノちゃんと交際? ボーイフレンド? けっこ……」

 こふりっと、ノムルの口から鮮血が飛び出した。

「ええっ?!」

 これには雪乃も吃驚だ。
 わたわたと慌てふためき、急いで薬草図鑑をめくる。

「吐血、吐血……。えっと、口や咽を切ったわけじゃないですよね? 胃ですか? ノムルさんの胃……ノムルさんの胃っ?!」

 胃にも心臓にも毛が生えているどころか、伝説の金属でできてそうな、我が道を突っ走る魔法使いの胃だ。痛めるほどのストレスが存在するのかと疑問に思いつつ、雪乃は薬草を生やす。

「はい、ノムルさん。煎じて飲んでください。お湯は沸かせますか?」
「だ、大丈夫」

 雪乃から薬草を受け取ったノムルは、水玉で包むと、沸騰させた。空中に浮かぶ水玉の中には泡が発生し、次第に薬草から色が抜けてお湯は緑色に染まっていく。
 空間魔法から取り出した湯飲みに収めると、ノムルはゆっくり飲んでいく。

「の、ノムルさん、大丈夫ですか?」
「……。駄目かも」
「ええ?!」

 弱々しいノムルの声に、雪乃は不安で萎れる。

「ユキノちゃんが、おとーさん以外の人に懐くなんて……。ユキノちゃんは、おとーさんだけのものなのに……。ユキノちゃんを抱っこしても良いのは、おとーさんだけなのに……」
「「……」」

 雪乃とカイは、ノムルに冷めた目を向ける。

「大丈夫そうですね」
「ああ。とりあえず、雪乃を大切にしてくれていることが分かって安心……していいのか?」

 なんとも言いがたい、苦悶に満ちた渋い顔で、カイは首を捻った。

「なんだか大変なことになっているね」

 声に振り向けば、女性陣を捌き切ったララクールが立っていた。
 店の中で騒動を起こしてしまったことに、雪乃は紅葉しつつ素直に謝る。

「お騒がせしてしまい、申し訳ありません」
「気にしなくて良いよ。こっちの方が、驚かせてしまっただろう?」

 否定できず、雪乃はそっと視線を逸らした。
 あの女性の集団は、魔法ギルドのノムル信者にも匹敵しそうな勢いだった。
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