『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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ゴリン国編

200.家のないカタツムリに

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「とりあえず、会計を済ませようか? 良かったら奥で休んでいかないかい? お連れは体調が悪そうだし、ローズマリナ様も、もう少し時間が掛かりそうだから」

 雪乃はカイを見る。頷いたカイに頷き返し、ララクールの言葉に甘えさせてもらうことにした。
 家のないカタツムリになっている魔法使いは、とりあえず放っておく。
 会計を終えた雪乃は、さっそく飾りも無い麻袋から、ポシェットに硬貨を移し変え、肩に掛ける。地球にいた時も、こんなに可愛いポシェットは持っていなかった。
 嬉しそうにしている雪乃の頭を撫でたカイも、嬉しそうに微笑む。

「二人は兄弟かい? 先ほどのやり取りを見るに、少し複雑な家庭事情のようだが」

 三人はノムルに視線を向ける。
 複雑化させているのは、おそらくあの魔法使いが原因だ。実際に種族がそれぞれ違うという、複雑な部分がないでもないのだが。

「まあいい。おいでよ。お茶とお菓子があるから」
「ありがとうございます」

 お礼を言う雪乃の一方で、カイは小さく苦笑する。
 なにせ雪乃は樹人。人間のように飲食をすることはできないのだから。

「ほら、置いていきますよ、おとーさん」
「はっ! 待ってー、ユキノちゃん」

 単純に復活したノムルは、カイに威圧することを忘れず、店の奥へと入る。
 その様子を見ていたララクールの視線が、少し厳しく細められたことに気付いたのは、カイだけだったようだ。

 テーブルを囲む四脚の椅子に、それぞれ腰かける。雪乃を挟んでノムルとカイが座り、対面にララクールが座った。
 食べることの出来ない雪乃に遠慮するように、カイはお茶にだけ口を付ける。それに対してノムルはといえば、遠慮なく飲み食いしていた。
 胃はどうした?! と、聞きたくなるほどに。

「お待たせしたわね」

 そこへ店長――ローズマリナが、薄緑色のローブを持って現れた。
 先程とは打って変わって、穏やかな表情と口調だ。
 カイは席を譲るため、雪乃を膝の上に乗せて隣の席に移った。

「なに勝手にユキノちゃんをお膝抱っこしているのさ? ユキノちゃんもどうしておとなしくしてるの?」

 すかさず隣の魔法使いから抗議が入ったが、カイは呆れを含んだ眼差しをちらと向けただけで、相手にはしなかった。
 ちなみに膝に乗せられるだけならば、ノムルが相手でも雪乃はあまり拒否をしない。頬を摺り寄せてくるから、枝を突っ張って逃げようとするのだ。

 ローズマリナは恥ずかしそうに、ほんのり朱に染まった頬を片手で押さえる。

「さっきは恥ずかしい姿を見せてしまったわね。良いデザインが浮かぶと、居ても立ってもいられなくなってしまうのよ」

 そう言って、持ってきたローブを広げて見せた。

 大人用のローブは、ノムルが着ても違和感の無いように、シンプルなデザインだ。フードにはなぜか、黒いネコ耳が付いている。
 そして子供向けのローブは、色や形からお揃いだと分かるのに、レースが施されてかわいくなっている。
 こちらのローブには、三毛猫の耳と尻尾が付いていた。

「……。ノムルさん?」

 雪乃から冷たい怒気が吹き荒れる。
 目の前のローブだけならば、可愛いローブだと思える。しかしこれまでのノムルの所業を考えると、素直に「可愛い」で済ます気にはなれなかった。

「可愛いでしょ? きっと似合うよ? おとーさんとお揃いだよ?!」

 必死に詰め寄ってくるノムルを、雪乃は苦々しく見つめた。

「あら残念。気に入らなかったかみたいね」

 作ってくれたローズマリナが、しょぼんと項垂れる。それを見て雪乃が罪悪感を抱く前に、ララクールが殺気を放った。
 瞬時に雪乃を庇う、ノムルとカイ。

「駄目よ、ララ!」
「しかし……」
「いいの。これは私がやりたくてしたことだもの。ごめんなさいね。気にしないで」

 目に見えて落ち込んでいるのに、ローズマリナは雪乃に優しく微笑んだ。
 罪悪感が、雪乃の胸を焦がす。

「あの、違うんです」
「うん?」

 ローズマリナは、優しい眼差しを雪乃に向ける。

「そのローブは可愛いなって、本当に思うんです」
「あら、ありがとう」

 柔らかい声だが、信じてはいないようだ。雪乃が気を使っていると思っているのだろう。
 雪乃は申し訳なくて、理由を説明する。

「でも、ノムルさんは今までにも、私にメイド服を着せてご奉仕させようとしたり、シスターにしたり、緑頭巾ちゃんにしたり、ナース服を着せられたり……」

 恥ずかしさに紅葉しながら、雪乃は今までの経験を告白した。
 言葉が紡ぎ出されるたびに、魔法使いを除く三人の表情が硬くなっていき、口の端がひくひくと痙攣しだす。最後は軽蔑しきった眼差しを、変態魔王に向けていた。

「そんなわけで、つい警戒してしまったんです。ごめんなさい」

 ぺこりと幹を曲げる雪乃。

「本当に、気にしなくていいわ。それは警戒して当然だもの」
「たしかにそれは、仕方ないね」
「雪乃、大変だったな」

 ローズマリナとララクールは、心底から気の毒そうに雪乃を見る。
 カイは励ますように、優しく雪乃の頭を撫でた。

「んー? つまりユキノちゃんは、そのローブは気に入らないってこと?」

 ここまでの話を聞いていなかったのか?! と、四人の刺すような視線がノムルに向かう。
 気にする男ではないが。

「じゃあ作り直してよ。ユキノちゃんが喜ぶような、俺とお揃いのローブ」

 どうすればここまで我が道を行けるのだろうかと、雪乃は呆れ返ってしまう。他の三人も、同じような気持ちのようで、冷めた目をノムルに向けていた。

「少しお話をしても良いかしら?」

 ローブを畳んで椅子に座ったローズマリナは、ノムルの目をじっと見つめる。

「話すのは構わないけど、ユキノちゃんとのペアルックは完成させろよ?」
「ええ、もちろん。受けた依頼はきちんとやり遂げるわ」

 柔和な微笑を浮かべているが、決意のこもった真剣な瞳のローズマリナに、ララクールは息を飲んだ。

「ローズマリナ様」

 悲痛な声で制止するが、ローズマリナは首を横に振って、それを抑えた。

「昔ね、とても仲の良い父娘がいたの。父親は本当に娘を可愛がっていて、娘の幸せを願っていたわ」

 そうして始まったのは、とある公爵家令嬢の、恋の物語だった。



 公爵家に生まれたローズは、容姿の美しい女とは言えなかったわ。
 それでも家にいるときは、娘を溺愛する父や、優しい使用人達に囲まれて、気にすることもなかったわね。
 けれど社交界に出るようになると、彼女は嫌と言うほど、自分の容姿を直視しなければならなくなったの。

 口の悪い貴婦人や紳士、令息令嬢は、影で彼女の醜悪ぶりを囁いたわ。
 公爵家令嬢という身分ゆえに、表立って口にする者はいなかったけれども。
 夜会に出れば、ダンスを申し込んでくれる令息もいたの。でもね、

「おい、よくあんなのと踊れるな」
「このくらい我慢するさ。公爵家と縁をつなげば利は大きい。あの顔だ、下位貴族の俺でも、こちらに有利な婚姻を結んでくれるさ。出世は間違いなしだ」
「分かってても、あれはなあ」

 何度も耳にしているうちに、笑顔を貼り付けたままでいられるようになったけど、胸の中はぐちゃぐちゃよ。
 苦しくて、悲しくて、どうしてこんな体に生まれてきてしまったのかしらって、毎晩のように泣いていたわ。
 そんな中、彼に出会ったの。
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