『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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ゴリン国編

203.きっと幸せな家庭を

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「すみません、ノムルさんが」
「いや、いっそ清々しすぎて、怒る気にもならん」
「ムキー! なにさ、余裕ぶって! ユキノちゃんは名実共に、俺の娘なんだからな!」

 ローブの裾を噛んで悔しがっているおっさんがいるが、三人はいないものとして扱うことにした。
 触れたら危険。相手をしてはいけない。

「酷い! ユキノちゃん、おとーさんを捨てる気?! ユキノちゃんの大好きなパパだよー?」

 何か言っているが空耳だと、カイとララクールは、雪乃が淹れ直したお茶をすすった。


「ローズマリナ様の恋人は、ぼくにとっては騎士団の先輩でね、強くて気配りができて、尊敬していたよ。ローズマリナ様との話を聞いたときは、お似合いだと思った。きっと幸せな家庭をお築きになるのだろうなって。まあ、そう考えていたのは、ぼくだけだったみたいだけど」

 ララクールは苦く笑む。

「今はどこにいらっしゃるのか、まったく分からない。冒険者ギルドに捜索依頼を出してみてはと勧めたんだけど、ローズマリナ様は、彼を不幸にしてしまったとご自分を責めて、探すことを許してくださらないんだ」

 ふうっと息を吐き、両手で包んでいたティーカップから手を放した。

「ローズマリナ様は、先輩はもう素敵な奥方を迎えて、お幸せに暮らしていると思っておられる。でもぼくは、そうは思えない。あのどれだけ女性に迫られてもまったく興味を示さなかった先輩が、他の女性を愛せるなんて、どうしても思えないんだ」

 ララクールは視線を上げる。
 そこに何があるでもなく、しばらく見つめたあと、まぶたを落とした。

「なにせ、あまりに女性に関心がなさ過ぎて、男色を疑われていたくらいだったからね。ローズマリナ様との熱愛があったのに、未だに彼を男色家だと思っている騎士までいるくらいだ」
 
 ゆっくりと目を開けたララクールは、ありえないと言いたげに首を左右に振った。

「男色家の騎士ねー。どっかで見たような……」

 じめじめ湿っていたノムルだが、話を聞いてはいたようだ。聞かなくて良い部分だけ聞いているようだが。
 ララクールはふるふると震えている。

「あー、ネーデルの口の軽い騎士崩れ共か」
「ええいっ! いい加減にしろ! そんなわけの分からん輩と一緒にするな! ナルツ先輩は男色家ではないし、口も軽くはない!」
「「ん?」」

 机を叩いて立ち上がったララクールの言葉に、雪乃とノムルはわずかに首を動かし、そして、

「あの男と口付けしてた騎士崩れか?! やっぱりそっちだったか」
「あれは人工呼吸です! 人命救助です!」

 と、揃って一人の冒険者を思い浮かべていた。
 そしてそこに、ばさりと布の塊が落ちる音が響く。
 四人が視線を向けると、ローブを足元に落としたローズマリナが、がく然として固まっていた。

「な、ナルツ様が、男の方と、く、く、く、く……」
「落ち着いてください、ローズマリナ様! 何かの間違いです。きっと同じ名前の別人です! あのナルツ先輩に限って、そのようなことはありえません!」

 椅子を蹴って駆け寄ったララクールは、動揺に震えるローズマリナを必死に宥める。
 
「なあ、雪乃?」
「何でしょう?」
「お前は俺たちと別れてから、どんな旅をしてきたんだ?」

 淡々とした口調でカイが問う。

「一言で表すなら、とてもこゆい旅でした」
「……。そうか」
「はい」

 カイたちと別れてからまだ一年も経っていないというのに、本当に色々とあったなと、雪乃はしみじみ思い浮かべた。

「わー?」

 思い出の中に登場したからか、マンドラゴラが顔を出す。すぐに抑えて引っ込めさせたが、獣人カイの耳はしっかり聞き取っていた。

「ぴー!」

 待ちくたびれたぴー助も、屋根の上で鳴いているようだ。
 そろそろ店を後にした方が良いかと思わなくもない雪乃だが、目の前の光景に、席を立つのもためらわれた。

「な、ナルツ様が……」
「何かの間違いです。お気を確かに!」

 ついに床に膝を付いてしまったローズマリナを、ララクールは支えながら慰める。
 悄然とする彼女に鞭打つかのように、
 
「ねー、ローブはどうなったのさ? ユキノちゃんとのペアルックー」

 空気の読めないノムルは、催促を続けた。
 この状況を放置して出て行くわけにはいかないだろう。
 はふうっと息を吐いた雪乃の頭を、ぽんぽんっと、カイの手が労うように叩いた。


 そんなこんなの騒動後、もう一悶着あって、雪乃は現在、にゃんこ雪乃と化していた。
 三毛猫をイメージしたという、ネコ耳としっぽのついた薄緑色のローブに着替えさせられ、カイのお膝に座っている。
 そのカイは、深緑色の狼耳付きのローブを着せさせられている。
 そして、機嫌よく座っているノムルが着ているのは、雪乃と同じくネコ耳の付いた薄緑色のローブだ。こちらはクロネコだが。

「へっへーんだ。やっぱりユキノちゃんは、おとーさんとのペアルックがしたかったんだねー」

 ご機嫌なのはノムルだけで、他の四人は呆れ果てた冷たい眼差しを送っている。
 ローズマリナが用意してくれた二着目のローブは、狼耳の付いた深緑色のローブだった。雪乃だけでなく、カイにも御揃いで仕立ててくれたのだった。
 しかし、これに対してノムルが猛反発した。

「ユキノちゃんは渡さん! どうしても欲しければ、俺を倒してみろ! 手加減はしないからな!」

 動く災厄と称されるノムルが本気になれば、国一つが吹き飛んでしまう。
 雪乃は慌てて宥めようとしたのだが、

「馬鹿らしい。誰と共に行きたいかは、雪乃が選ぶことだ。服くらいで騒ぐな」

 と、カイは相手にしなかった。
 この言葉がさらにノムルの怒りに火をつけ、杖を握りだしたのだが、

「わーい。おとーさんと御揃いで嬉しいなー。さ、おとーさん、着替えてきてください」
「やっぱりそうだよねー。ユキノちゃんは、おとーさんと一緒が嬉しいよねー」
「はい。だから、奥で着替えてきてくださいっ!」

 と、雪乃が大根芝居で無理矢理に押し切ったのだった。
 はふうっと息を吐き出し、汗を拭うように額をこする雪乃を、カイは不機嫌そうに見る。

「雪乃、無理をする必要は」
「カイさん、ノムルさんは根っからの悪ではありません。基本は単純で優しい人なんです。ただ、機嫌が悪くなると建物ごと吹き飛ばすという、悪癖持ちなだけで……」
「「「……」」」

 雪乃の説明に、一同沈黙した。
 悪癖のレベルを超えている。

「喧嘩はお店を出てからお願いできるかしら?」
「分かった」

 ローズマリナの縋るような目に、カイも矛を収めたのだった。
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