『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

文字の大きさ
154 / 385
ゴリン国編

206.大切に思うなら

しおりを挟む
「もしかして、あの方がノムルさんの『大切な人』ですか?」

 ノムルと車椅子の男のやり取りは、いつものノムルとはまったく違っている。気心知れた相手だということは、すぐに分かる。
 それにノムルの大切な人は、融筋病という病に侵されて、体の自由を失いつつあるのだ。 
 そう推察した雪乃だったが、

「何言ってるのかなー? ユキノちゃん。こんなおっさんが、俺の大切な人なわけないだろー?」

 と、即座にノムルに否定された。
 車椅子の男も、苦い顔で雪乃とノムルを見ている。

「それだけは無いな。大切に思うなら、もう少しおとなしくして、俺の仕事を増やさないだろう?」
「何言ってるのさ? 何もしてないだろう?」
「ギルド三件も破壊したそうだな?」
「すぐに直したんだから問題ないだろう?」
「あるわ! 大有りだ!」

 言い争っている内容が、常識を超えている。聞いていた人々は、ぽかーんと口を開けて、耳に届いた言葉を疑った。

「雪乃、本当にあの人は大丈夫なのか?」
「ええっと、まあ、なんとか?」

 大丈夫だと答えてカイを安心させたいが、どうしても言いきれない雪乃だった。

「まあいい。さっさと直せ。それから俺の執務室に来い。こんな所で騒いだら、他のやつらの迷惑だ」
「騒いだのおっさんじゃん」
「お前が先に騒いでたんだろうが!」

 ぶーぶー言いながら、ノムルは壊した壁を直していく。と言っても、かるく杖を指で撫でただけで、一瞬だったが。

「さすがはドイン副会長。あのノムルさんを指導できるとは」

 雪乃のすぐ脇に来ていたムダイが呟く。

「偉い人なのですか?」
「ああ。冒険者ギルドのナンバー二だよ」
「ほう」

 頷きながらも、雪乃はその名前に、どこかで聞き覚えがあるような気がした。

「なるほど、そんなお偉いさんとお知り合いだから、今までの暴走が大目に見られていたのですね」
「それにしても、ルモンの件はやりすぎだと思うけど? みんな軽いトラウマになってたし」
「……」

 次からはしっかり止めなければと、雪乃は心に誓った。必ず止められるという自信はないのだが。
 修理を終えた一行は、ドインについて彼の執務室へと案内された。
 三人掛けのソファに座る面々。

「なんでお前まで来てるんだよ?!」
「僕とノムルさんの仲じゃないですか」
「どんな仲だ?! 気持ち悪いこと言うな!」

 ソファから赤い勇者を押し出そうとする魔王様。そして意地でも座り続けようとする赤い勇者。
 喧嘩するほど仲が良いと言うが、本当に仲が良さそうだと、雪乃はカイの膝の上で思うのだった。

「騒ぐな。余ってる椅子でも引っ張ってくればいいだろうが? お前らならコップを運ぶのと変わらんだろう?」

 ドインは面倒くさそうに言ったが、部屋に置かれた椅子は、どれも重厚な作りのソファや、布張り椅子だ。
 雪乃には運ぶどころか、押して動かすこともできないだろう。

「それで、今度はどんな厄介ごとを持ってきたんだ?」

 深い、それは深い溜め息を吐きながら、ドインは気だるげにノムルを睨む。

「なんだよ? その言い方! せっかく会いに来てやったのに」
「お前が来る時は、確実に面倒かつありえない厄介ごととセットだろうが? しかも今回は竜殺しまで上乗せとか、厄介ごと以外の臭いがせんわ!」

 雪乃はドインの苦労を何となく察し、勝手に仲間意識を芽生えさせていた。

「酷っ! こんな可愛い娘を連れてきただけでも、感謝するところだろ?」
「そもそも、お前に娘ってどういうことだ?」
「それは僕も気になっていました。娘設定は以前も聞きましたけど、どういうことです?」

 ムダイも質問に加わった。
 視線は雪乃へと集中し、ノムルへと戻る。
 二人の疑問に対し、ふふんっと得意げに胸を張るノムル。

「ユキノちゃんは、俺の実子として届け出た」
「「「はあ?!」」」

 男三人から、素っ頓狂な声が飛び出る。

「ちょっと待て! 実子って、本当に実の子なのか?」
「そんなわけありませんよ。そもそも戸籍登録できるんですか?」
「雪乃、本当か?」

 男たちは三者三様の戸惑いを見せる。
 雪乃は紅葉して俯いた。

「ふふん。お前達凡人と一緒にしてくれるな! 魔法ギルドの力を使えば、このノムルおとーさんに出来ないことは無い!」

 ふんぞり返る、ネコ耳フードの魔法使いのおっさん。

「お前、権力の使い方を間違っているぞ? というか、お前誰だ? 本当にノムルか? 偽者じゃないのか?」
「親ばか怖っ! キモっ!」

 ドインとムダイが騒ぐ中、カイはこれ以上関わることは不毛と判断し、静かに雪乃の頭を撫でている。

「お前が何かを大切に思えるようになったことは、喜ばしいことだが。しかし極端すぎるだろう? 下で会った時から気になってたが、完全に別人だぞ?」
「それは同意見です。雪乃ちゃんと関わってからのノムルさんは、完全に別人格です。僕も初めは、そっくりさんかと思いましたから」
「だよな? 誰が見ても別人だよな?」

 かつてのノムルを知るドインとムダイは、しきりにノムル別人説を唱えているが、今のノムルしか知らない雪乃には、よく分からない。
 確かに最初に会った当初とは、イメージが大きく変わっているが。
 初めは陰のある、危険な人だと警戒していたのだ。親しくなると、面倒見が良く、その十倍は面倒を掛けられる、困った人だと気付いたが。
 しかしこのまま放っておくと、いつまで経っても本題に入りそうにない。
 雪乃は自ら促がすことにした。

「それよりもノムルさん、副会長さんに、お渡しする物があるのでしょう?」

 雪乃の台詞に、ドインが硬直した。
 顔を強張らせて、ゆっくりとノムルに視線を向ける。

「やっぱり厄介ごとを持ってきたか?」
「はあ? その口の悪さ、少しは直せないわけ?」
「お前には言われたくないわ!」

 押しが弱いようだ。
 雪乃はもう一度、言葉を重ねる。

「ノムルさん、あれを出してください」

 いつもよりも厳しい声を出しながら、雪乃はぎんっとノムルを睨む。
 わずかにたじろいだノムルだが、すぐにでれりと頬を緩めた。

「怒ったユキノちゃんも可愛いー」
「……ノムルさん? いい加減にしないと二度と『おとーさん』って呼びませんよ?」

 雪乃から黒いオーラが放たれる。
 ピシリっと固まったノムルは、すぐさま杖を弾き、空間魔法から大人も入れそうな、大きな銀の樽を五樽取り出した。
 そのうち三樽には、なぜか魔カマーフラワーが描かれている。
しおりを挟む
感想 933

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

処理中です...