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ゴリン国編
205.よく懐いた犬のよう
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「ぴー!」
「お待たせしました。良い子で待てて、ぴー助は偉いですね」
「ぴー!」
店を出たところで、屋根に上っていたぴー助が飛び降りてきた。
飛竜の登場に警戒したローズマリナたちだったが、雪乃の態度を見て態度を緩めた。
カイはぴー助を見やると、雪乃へと視線を向ける。
「先程話していた飛竜の子か?」
「はい」
卵を動かすことができず、山に帰れなくなっていた飛竜から、雪乃は卵を譲り受けた。その卵から孵ったのが、ぴー助だった。
「よく懐いているな」
「ぴー助は良い子なんですよ。ねー?」
「ぴー!」
褒められたと嬉しそうに、ぴー助は雪乃に頭を摺り寄せる。
まるでよく懐いた犬のようだが、間違ってはいけない、ぴー助は竜種だ。卵から育てることで人間に懐くこともあるが、その確率は低い。
さらに懐くといっても、それは騎獣として制御できる程度で、甘えたりはしてこないというのが、人間世界の常識だった。
雪乃とぴー助の関係に、元公爵令嬢のローズマリナと騎士であるララクールは、自分が見たことのある竜種との違いに、目を瞠っている。
そして道行く冒険者たちも、足を留めて凝視していた。その目は、
「信じられない!」
と、口には出さずとも叫んでいた。
ローズマリナとララクールに改めてローブやお茶の御礼を言うと、雪乃たちは冒険者ギルド本部へと向かった。
重厚な塀に囲まれた冒険者ギルド本部の門を、雪乃とノムル、カイは潜る。
門を抜けたところで、ぴー助を獣舎に預けるよう指示があった。ぴー助は不満そうだが、仕方がない。
雪乃はぴー助を抱きしめて何度も撫でると、職員に預けた。
そうして冒険者ギルド本部の建物に、三人は足を踏み入れたのだが、
「げっ!」
ノムルは苦々しく顔を歪める。
広いホールでノムルを待っていたのは、真っ赤な男だった。
燃えるような長い赤髪、切れ長の緋色の目、真紅の鎧、朱色のマント。細身でありながら引き締まった肉体を持つ青年の優しげで端整な顔に、行き交う女性たちは思わず頬を染め、視線を送っている。
そんな乙女達とは対称的に、ノムルは嫌悪感をむき出しに、言い放った。
「なんの用だ? ストーカー野郎」
爽やかなほほ笑みが、ぷるぷると引き攣っている。
「そろそろ本部に来る頃ではないかと思って、待っていたんですよ。ここならちょうど、戦える施設もありますし」
「つまり、息の根を止めてほしいと?」
赤い男ことムダイは、撃沈した。
相変わらずの、一方通行の片思いのようである。
「あ、ちょうど良かったです。ムダイさんに聞きたいことが」
「何? やっぱり僕にも同行を……」
声を掛けた雪乃に視線を落としたムダイは、そこで固まった。雪乃の猫耳にわずかに表情を緩め、ゆっくりと視線を上へと上げていく。
雪乃と仲良く手をつないでいるカイの姿に、敵対心を顕わにすぼめた目が、その上のフードを映して点となった。
ムダイの威圧感に警戒を強めていたカイだったが、ムダイの視線の先に気付くと、顔を赤くして俯いた。
「雪乃ちゃんのネコ耳はともかく、男の獣耳って……。それ流行ってるの? ペアルック? もしかして、雪乃ちゃんの彼氏?」
どがあああーーーーっんっと良い音がして、砂塵が舞い荒れる。
居合わせた冒険者たちは瞬時に警戒態勢を取り、身構えた。
諸悪の根源である魔王ノムルは、影に覆われた顔から、目だけを光らせていた。
「おい、ストーカー野郎。遺書の準備はできてるよな?」
「おや? やる気になってくれましたか? 嬉しいですね」
怒れる魔王に対して、爽やかに微笑む赤い勇者。
やっぱりこの二人が魔王と勇者で良いのではないかと、雪乃は心底から思った。
そんな抜けている雪乃を抱きかかえ、カイは一瞬にして、魔王と勇者から距離を取る。
他の冒険者たちも、自分たちの手には負えないと気付き、退避行動に移っていた。
雪乃は「はふう」と息を吐く。それから思いっきり息を吸い込んで、
「おと」
「くおらあああーっ!」
声を掛ける前に、雷声に遮られた。
雪乃の葉がびりびりと震える。
獣人であるカイは、眉間に深く皺を寄せ、目を白黒させていた。
周囲の冒険者たちは、先程までとは違う緊張を浮かべ、顔色を青ざめている。
命の危機に対する恐怖が、怖い親父を前にした恐怖へと、変換されていったようだ。
現れたのは、車椅子に乗せられた、ごついおじさんだった。
白いシャツから覗く腕は、丸太のように太い。厳つい四角顔には、右目の上から口端に掛けて、古い刃物傷がある。
うっかり『お頭!』とか、『船長!』と呼びたくなるような、鍛え抜かれた男だった。
「げ。おっさん」
驚くことに、ノムルまでが怒気を鎮め、やばいやつに見つかったとばかりに顔をしかめている。
「人ん家に来て、何してやがる? ちゃんと直しとけよ?」
「いや、直すけどさー。悪いのは俺じゃなくて、喧嘩売ってきたこいつだからな」
ノムルはムダイを指差し、一寸の躊躇もなく、責任転嫁した。しかし、
「この馬鹿者っ! 無闇に魔法を振りかざすなと、あれほど言っただろうが! まだ分からんのか?」
車椅子の男は一切耳を貸さず、ノムルを怒鳴り上げた。
ついにカイはしゃがみ込み、雪乃を下ろして耳を押さえる。
雪乃はノムルが本気で怒り出すのではないかと、あわあわとうろたえた。
だが当のノムルはといえば、唇を尖らせて不満顔だが、魔王の気配は消えていた。
「いーじゃん、このくらい。あいっかわらず煩いなー。せっかく俺の娘を見せに来てやったのに、茶菓子くらい出せよー」
いつもの呑気なノムルの口調ではあるが、それだけに、雪乃は混乱した。
今までになかった展開である。
「お前の娘? なんだ、嫁を取ったのか?」
「誰が嫁なんて取るかよ。娘だって。ほら、可愛いでしょー?」
と、ノムルは男に見せるように、雪乃の肩を抱く。
「いつの間に」
一瞬にして背後に回り込まれて、雪乃はノムルを見上げた。
「可愛いって、顔見えねえよ。まあ、服は可愛いと思うが。いい年したおっさんが着ると、むしろ怖ええけど」
車椅子の男は、白い目をノムルに向けた。
現在ノムルの服装は、淡い薄緑色のローブに、黒いネコ耳が付いている。
その場にいた冒険者や職員たちは、車椅子の男の言葉に揃って首肯した。
ただ一人、なぜかムダイだけは、
「まあノムルさんですし」
と、自然に受け入れていたが。
そして雪乃も、ノムルの趣味はすでに諦めていたため、他の事に意識を向けていた。
「お待たせしました。良い子で待てて、ぴー助は偉いですね」
「ぴー!」
店を出たところで、屋根に上っていたぴー助が飛び降りてきた。
飛竜の登場に警戒したローズマリナたちだったが、雪乃の態度を見て態度を緩めた。
カイはぴー助を見やると、雪乃へと視線を向ける。
「先程話していた飛竜の子か?」
「はい」
卵を動かすことができず、山に帰れなくなっていた飛竜から、雪乃は卵を譲り受けた。その卵から孵ったのが、ぴー助だった。
「よく懐いているな」
「ぴー助は良い子なんですよ。ねー?」
「ぴー!」
褒められたと嬉しそうに、ぴー助は雪乃に頭を摺り寄せる。
まるでよく懐いた犬のようだが、間違ってはいけない、ぴー助は竜種だ。卵から育てることで人間に懐くこともあるが、その確率は低い。
さらに懐くといっても、それは騎獣として制御できる程度で、甘えたりはしてこないというのが、人間世界の常識だった。
雪乃とぴー助の関係に、元公爵令嬢のローズマリナと騎士であるララクールは、自分が見たことのある竜種との違いに、目を瞠っている。
そして道行く冒険者たちも、足を留めて凝視していた。その目は、
「信じられない!」
と、口には出さずとも叫んでいた。
ローズマリナとララクールに改めてローブやお茶の御礼を言うと、雪乃たちは冒険者ギルド本部へと向かった。
重厚な塀に囲まれた冒険者ギルド本部の門を、雪乃とノムル、カイは潜る。
門を抜けたところで、ぴー助を獣舎に預けるよう指示があった。ぴー助は不満そうだが、仕方がない。
雪乃はぴー助を抱きしめて何度も撫でると、職員に預けた。
そうして冒険者ギルド本部の建物に、三人は足を踏み入れたのだが、
「げっ!」
ノムルは苦々しく顔を歪める。
広いホールでノムルを待っていたのは、真っ赤な男だった。
燃えるような長い赤髪、切れ長の緋色の目、真紅の鎧、朱色のマント。細身でありながら引き締まった肉体を持つ青年の優しげで端整な顔に、行き交う女性たちは思わず頬を染め、視線を送っている。
そんな乙女達とは対称的に、ノムルは嫌悪感をむき出しに、言い放った。
「なんの用だ? ストーカー野郎」
爽やかなほほ笑みが、ぷるぷると引き攣っている。
「そろそろ本部に来る頃ではないかと思って、待っていたんですよ。ここならちょうど、戦える施設もありますし」
「つまり、息の根を止めてほしいと?」
赤い男ことムダイは、撃沈した。
相変わらずの、一方通行の片思いのようである。
「あ、ちょうど良かったです。ムダイさんに聞きたいことが」
「何? やっぱり僕にも同行を……」
声を掛けた雪乃に視線を落としたムダイは、そこで固まった。雪乃の猫耳にわずかに表情を緩め、ゆっくりと視線を上へと上げていく。
雪乃と仲良く手をつないでいるカイの姿に、敵対心を顕わにすぼめた目が、その上のフードを映して点となった。
ムダイの威圧感に警戒を強めていたカイだったが、ムダイの視線の先に気付くと、顔を赤くして俯いた。
「雪乃ちゃんのネコ耳はともかく、男の獣耳って……。それ流行ってるの? ペアルック? もしかして、雪乃ちゃんの彼氏?」
どがあああーーーーっんっと良い音がして、砂塵が舞い荒れる。
居合わせた冒険者たちは瞬時に警戒態勢を取り、身構えた。
諸悪の根源である魔王ノムルは、影に覆われた顔から、目だけを光らせていた。
「おい、ストーカー野郎。遺書の準備はできてるよな?」
「おや? やる気になってくれましたか? 嬉しいですね」
怒れる魔王に対して、爽やかに微笑む赤い勇者。
やっぱりこの二人が魔王と勇者で良いのではないかと、雪乃は心底から思った。
そんな抜けている雪乃を抱きかかえ、カイは一瞬にして、魔王と勇者から距離を取る。
他の冒険者たちも、自分たちの手には負えないと気付き、退避行動に移っていた。
雪乃は「はふう」と息を吐く。それから思いっきり息を吸い込んで、
「おと」
「くおらあああーっ!」
声を掛ける前に、雷声に遮られた。
雪乃の葉がびりびりと震える。
獣人であるカイは、眉間に深く皺を寄せ、目を白黒させていた。
周囲の冒険者たちは、先程までとは違う緊張を浮かべ、顔色を青ざめている。
命の危機に対する恐怖が、怖い親父を前にした恐怖へと、変換されていったようだ。
現れたのは、車椅子に乗せられた、ごついおじさんだった。
白いシャツから覗く腕は、丸太のように太い。厳つい四角顔には、右目の上から口端に掛けて、古い刃物傷がある。
うっかり『お頭!』とか、『船長!』と呼びたくなるような、鍛え抜かれた男だった。
「げ。おっさん」
驚くことに、ノムルまでが怒気を鎮め、やばいやつに見つかったとばかりに顔をしかめている。
「人ん家に来て、何してやがる? ちゃんと直しとけよ?」
「いや、直すけどさー。悪いのは俺じゃなくて、喧嘩売ってきたこいつだからな」
ノムルはムダイを指差し、一寸の躊躇もなく、責任転嫁した。しかし、
「この馬鹿者っ! 無闇に魔法を振りかざすなと、あれほど言っただろうが! まだ分からんのか?」
車椅子の男は一切耳を貸さず、ノムルを怒鳴り上げた。
ついにカイはしゃがみ込み、雪乃を下ろして耳を押さえる。
雪乃はノムルが本気で怒り出すのではないかと、あわあわとうろたえた。
だが当のノムルはといえば、唇を尖らせて不満顔だが、魔王の気配は消えていた。
「いーじゃん、このくらい。あいっかわらず煩いなー。せっかく俺の娘を見せに来てやったのに、茶菓子くらい出せよー」
いつもの呑気なノムルの口調ではあるが、それだけに、雪乃は混乱した。
今までになかった展開である。
「お前の娘? なんだ、嫁を取ったのか?」
「誰が嫁なんて取るかよ。娘だって。ほら、可愛いでしょー?」
と、ノムルは男に見せるように、雪乃の肩を抱く。
「いつの間に」
一瞬にして背後に回り込まれて、雪乃はノムルを見上げた。
「可愛いって、顔見えねえよ。まあ、服は可愛いと思うが。いい年したおっさんが着ると、むしろ怖ええけど」
車椅子の男は、白い目をノムルに向けた。
現在ノムルの服装は、淡い薄緑色のローブに、黒いネコ耳が付いている。
その場にいた冒険者や職員たちは、車椅子の男の言葉に揃って首肯した。
ただ一人、なぜかムダイだけは、
「まあノムルさんですし」
と、自然に受け入れていたが。
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