『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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魔王の遺跡編

230.忘れてはいけない

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 そんなランタに乗せてもらい、雪乃は玉座へと上る。グレーム森林で出会ったランタだが、ヤギ同様に、高い所に上ることはお手の物のようだ。
 玉座に上った雪乃は、枝を伸ばし、青い石を叩く。

「えいっ!」

 ぽしっと、小さな音がする。

「ていっ!」

 ぽしっと、やっぱり小さな音がする。
 忘れてはいけない。雪乃の攻撃力は猫パンチ以下だ。
 男二人は、無言で小さな樹人の行動を見つめていた。

「これ、無理じゃない?」
「否定できない」

 がくりと肩を落としたムダイとカイは、雪乃の武器になりそうなものがないか、辺りを見回した。だが、これといって使えそうな物は見当たらなかった。

「杖とか壷とかありそうなのにな」

 残念そうにムダイがこぼす間も、雪乃は青い石を叩き続けている。
 初めは呆れたように見ていたカイだが、今は軽く拳を握って応援を始めていた。

「雪乃、諦めるな!」
「いや、そこは諦めて他の手を考えようよ」

 ムダイの冷静なツッコミが入った。

「くっ! 中々手ごわいですね。まだ壊れないとは!」

 と、雪乃は悔しげに言っているが、子供がぺしぺし叩いたくらいで壊れるような魔法石や装飾など、逆に問題があるだろう。
 雪乃は呼吸を調え、もう一度、

「んめ゛え゛え゛え゛え゛ええええーーーーーっっ!!」

 叩き始めようとしたところで、ランタが頭突きを食らわした。
 生え始めた小さな角が、青い石にひびを入れる。

「「あ。」」

 思わず雪乃とムダイの口から、情けない声が漏れる。
 ちなみにカイは耳を押さえて蹲り、ぷるぷる震えている。油断していた狼獣人の耳にも、ランタはダメージを与えたようだ。
 そんなカイの肩で、マンドラゴラが心配そうにカイを見つめている。
 だがしかし、

「もう一突きです!」
「んめ゛え゛え゛え゛え゛ええええーーーーーっっ!!」

 と、雪乃はカイに気付かず、ランタをけしかけた。
 ランタが活躍し、青い石が砕ける。それと同時に、玉座とムダイたちの間を遮っていた結界も、ガラスが割れたような高い音を立てて、砕け散った。

「よし!」

 すぐさまムダイは駆け出す。
 雪乃とランタを両手に抱えると、即座に踵を返して出口へと向かう。

「脱出するよ!」
「あ、ああ……」
「わー」

 ムダイの声に、ふらつきながらも立ち上がったカイは、少し遅れて廊下へ出た。
 冒険者としてのランクを考慮すると、ムダイとの差は広がるばかりのはずなのだが、カイは一定の差が開いたまま付いていく。
 さすがは獣人の脚力といったところか。
 カイの肩に乗っていたマンドラゴラは、振り落とされないようにフードの中に潜っていた。

 出口に向かって廊下を走っていると、階上から聞き覚えのある声と足音が響いてきた。

「ユキノちゅあーんっ!」

 ムダイとカイは眉を跳ねるが、足を止めることはない。
 大魔王が暴走する可能性を示唆されていたため、更に足に力を込めて速度を上げる。
 階段の前を駆け抜け、出口に向かって疾走する。

「ぐおらああーっ! ムダイ! ユキノちゃんを返せえええーっ!」

 暗黒龍のオーラが、口を開けて追いかけてきた。

「無理無理、無理ですって。怖っ! その暗黒龍をとりあえず収めてください!」

 ムダイは必死に逃げる。止まったら、ノムルが暴走していようと通常だろうと、命の保証は無い。
 そう本能で理解したムダイは、全速力で逃走する。

「しかも人の娘を裸にして抱きかかえてるとか、お前は変質者かっ?!」
「誤解です! というか、誤解を生むような台詞を叫ばないでください!」

 どうせ他には誰もいないのだが、恥ずかしいらしい。
 ムダイは顔を紅く染める。見事に全身真っ赤だ。それでも廊下を死に物狂いで駆けていく。
 外へと出ると、雪乃とランタを地面に置き、ノムルへと向き直る。

「落ち着いてください!」
「ふざけんな! 俺の娘は誰にもやらん!」

 ムダイの脇を駆け抜けたカイは、雪乃を抱えると、更に後方へと距離を取った。
 安全と思われる位置まで逃げると、雪乃とランタを下ろし耳を塞いだ。
 その途端、落雷がムダイを襲う。
 至近距離に落ちた眩しい雷光に、雪乃の視界が白黒と点滅する。葉もびりびりと震えていた。
 凄まじい音に、カイは苦悶に顔をゆがめた。

 雷撃が収まると、雪乃は素早くランタを回収する。
 一方、剣を地面に突き立て、雷撃の威力を逸らしたムダイの口元には、愉悦の笑みが浮かんでいた。瞳孔が開き気味になり、目がキラキラとしている。

「やっと勝負してくれる気になったんですね? ノムルさん。存分にやりましょう!」

 こっちはこっちで戦闘狂が降臨したようだ。
 嬉々としてノムルとの間合いを一瞬で詰めるなり、構えた剣を振り下ろす。

「そんな剣で俺に傷を付けられるわけないだろう? ユキノちゃんに俺と戦わせるように取り引きしてたな。ここで願いを叶えてやるよ」

 ノムルの目は、虫けらを見るように冷たく細められている。杖で軽く剣を捌くと、そのままムダイの脇腹に蹴りを入れた。
 吹き飛ばされ、ビルらしき建物にぶつかったムダイだが、その目は爛々と輝きを放ちノムルを映す。

「嗚呼、本っ当に、あなたは最高です。ノムルさん」

 すぐさま起き上がるとビルの壁を蹴り、再びノムルに向かって突進した。

「とりあえず、調査は終わったということでいいだろう。帰ろうか、雪乃」
「そうですね」
「わー」

 雪乃はカイが回収してくれていた狼さんローブを着ると、カイと手をつないで魔王の遺跡を後にしたのだった。
 その背後では、最凶の魔法使いと、最強の冒険者の戦いが繰り広げられていた。

 後日、再調査に訪れた冒険者たちは、地形が変わり、巨大な穴だらけとなった大地を目にし、魔王の復活を報告したとかなんとか。




「……で、何か言い訳はあるか?」

 雪乃たち四人の前には、眉間に青筋を立てて仁王立ちしている、ドイン副会長がいた。そう、仁王立ちしていた。
 雪乃たちが魔王の遺跡の調査に行っている間も、ヒツジーやナイオネルによって、治療は続行されていたのだ。

 薬草の知識しか持たない雪乃と違い、きちんと医術を収めているナイオネルにより、ドインは目立つ副作用もなく、ほぼ完治に近い状態となっていた。
 ナイオネルは性格はアレだが、冒険者ギルド本部に雇われるだけあって、優秀な医者なのだ。きっと。
 彼は魔デンゴラコン漬けの湿布時間などもきちんと記録していたそうで、今後の治療を確実なものにする予定らしい。

 それはともかく、雪乃はノムルの膝の上でぐったりと疲れ果てていた。
 タールの海を浄化するために発した数々の言葉が、ノムルの親ばか具合を悪化させた。
 雪乃を手放そうとせず、文句を言っても照れ隠しだと思われてしまう。






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※実際に雷が落ちてきたら、逃げましょう。
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