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ゴリン国編2
236.抜けてるんだか鋭いんだか
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「抜けてるんだか鋭いんだか、いまいち分からんな」
ドインがぽろりとこぼした言葉に、男たちは頷く。
結局、抜け道が無いように、ドインが書類を作ることになった。
それだけドインも、ユキノの価値に気付いていたのだろう。彼女の知識も、ノムルを抑える重石としての価値も、どちらも世界に影響を与えかねないと。
この世界の文字を読めない雪乃のために、雪乃側であるカイが読み上げて説明する。
雪乃が納得したのを確認すると、ナイオネルが契約書にサインした。すると、契約書はくるくると丸まっていき、細い筒状になった。そしてナイオネルの右腕に巻きつく。
「あ。」
ここで気付いた雪乃は、思わず間の抜けた声を上げてしまう。この世界の契約書は、違反すると収縮し、腕がもげてしまうのだ。
あわあわと挙動不審になった雪乃を、男たちは不思議そうに見る。
「あの、お怪我させてしまうのは、その、そこまで望んでいないと言いますか」
「気にすることはない。契約を破らなければ何も起こらないのだ。私は君の研究成果を奪うつもりも必要もないからね。ただ知識欲という、究極の愉悦を手に入れたいだけだ」
恍惚として天を仰ぐナイオネルを見て、雪乃は本人が良いというならば良いかと、なんだか納得してしまった。
「う、うう……ユキノちゃん、うう……」
スライムは未だに鳴いている。
ちらりと見た雪乃は、はふうーっと大きく息を吐くと、近付いていく。まだ危ないのではと止める大人たちに首を振り、スライムの前にしゃがみ込んだ。
すぐ後ろで、カイがすぐに雪乃を抱えて逃げ出せるように、警戒しつつ心配そうに見守っている。
「ノムルさん」
雪乃は小枝の先で、つんつんと草色のスライムを突付いてみた。
「うう、ユキノちゃん……おとーさんを、許して……」
スライムは潤んだ目玉を縋るように向けてくる。元は無精ひげを生やしたおっさんだなんて、考えてはいけない。
後ろで思いっきり顔をしかめてドン引きしている男達がいるが、雪乃はただのスライムだと思い込み、話を続ける。
「許すも何も、私は怒っていませんよ?」
「え?」
スライムがわずかに盛り上がった。
「私はスキンシップや愛情に対しての、抗体が無いんです。だから過剰な親ばか行動は、精神が削られてしまうのです」
雪乃の言葉に、背後の男たちは何とも言えない表情になる。
「スキンシップや愛情に対しての抗体が無いって、どんな子供時代を送ったのさ?」
「それよりも、そこに『抗体』って単語を使うか?」
小さな少女の育ってきた環境が気になり哀れに思う一方で、彼女が選択した無機質な単語が、その感情を砕いていく。
ひそひそと話している男たちの声を、雪乃は聞こえなかったことにして話を進める。
「だから今度からは、もう少し加減してください。今回は私にも責任があります。悪意たちを浄化させるためとはいえ、ノムルさんの心を操作してすみませんでした」
「ユキノちゃん……。許してくれるの?」
「もちろんです」
雪乃は微笑む。
じめじめスライムが、少しずつ人の姿へと戻り始めた。
「これからはノムルさんが暴走しないよう、『おとーさん大好き』とか、『おとーさんは雪乃の自慢です』とか、『おとーさんの娘になれた雪乃は、世界一の幸せものです』とか」
と、雪乃が言葉を紡ぐたびに、スライムはノムル・クラウの形へと戻っていく。その表情も、輝きだした。
両腕を広げ、愛しい娘を抱きしめようと、歩を進める。
「ユキノちゃ」
「もう二度と言いませんから」
にっこりと、雪乃は言い切った。
「え?」
ノムルは石化した。
「だからもう、気にしないでください」
無邪気な笑顔で宣言する、樹人の子供。
至高にして孤高の魔法使いノムル・クラウの石像は、風に吹かれて砂となっていく。
「あの、雪乃ちゃん?」
おそるおそる、ムダイが声をかける。ドインも恐ろしい子を見る目で雪乃を見つめている。
「なんでしょう?」
振り向いた雪乃は、あ然として固まっている男たちを、不思議そうに見上げた。
「トドメ、刺してるよ?」
「ん?」
ムダイの指差す先へと顔を戻した雪乃は、ぽてりと幹を傾げる。
そこには、人間ノムルも、スライムもいない。ただ砂山が、わずかに残っていた。
「はて? ノムルさんはどこに隠れたのでしょう?」
きょろきょろと辺りを見回し、うむう? と幹を傾げる小さな少女に、男たちは額を押さえ、大きく息を吐き出したのだった。
消えたノムルはとりあえず後回しにして、雪乃はナイオネルの案内で、薬草園へと向かうことにした。
多くのギルド関係者や冒険者が出入りしている中央の建物から出て、北側へと向かう。広い敷地内は、移動用の馬車も用意されていた。
雪乃はカイやムダイ、ナイオネルと共に、馬車に乗り込む。無駄な装飾もない、小型の箱馬車だ。
何とか二人座れそうな木製の椅子が二つ、前後に向き合うように設置されている。
体格の良いムダイの隣に、カイやナイオネルが座るのはきつそうだったので、ムダイは一人で座り、カイとナイオネルが並んで座った。
雪乃ならば、ムダイの隣のスペースにも座れそうだったが、ひょいっとカイの膝の上に座らされた。
「この馬車って、防音魔法は装備されてるんですか?」
馬車に乗り込むなり、ムダイが確認する。
「もちろんだとも。敷地内とはいえ、移動中に重要な話をすることもあるからね」
ナイオネルの答えに頷いたムダイは、雪乃を見る。意を察した雪乃は、こくりと頷いた。
「薬草採取の際は、人払いをお願いします」
頷きかけたムダイに、なぜか雪乃は凝視された。
正体を明かすようにという意味だったのかもしれないが、さすがにこの変人二号だか何号だかに、樹人だと伝える気にはなれない。
何だか恐ろしい目に遭いそうな気がする。
ちらりと確認するようにカイを見ると、こくりと頷く。どうやら彼も雪乃と同じ考えのようだ。
カイの考えにムダイは片眉を上げたが、何も言わずに引いた。
三人のやり取りを見ていたナイオネルは、何かを察したようだが、こちらもつっ込まずに素直に頷く。
「指示通りにしよう。私は立ち会っても構わないのかね?」
雪乃は首肯する。
契約の腕輪がある以上、余計なことを他言されることはないだろう。それに採取して良い薬草と、そうでない薬草の区別は、雪乃たちにはつけられない。
ドインがぽろりとこぼした言葉に、男たちは頷く。
結局、抜け道が無いように、ドインが書類を作ることになった。
それだけドインも、ユキノの価値に気付いていたのだろう。彼女の知識も、ノムルを抑える重石としての価値も、どちらも世界に影響を与えかねないと。
この世界の文字を読めない雪乃のために、雪乃側であるカイが読み上げて説明する。
雪乃が納得したのを確認すると、ナイオネルが契約書にサインした。すると、契約書はくるくると丸まっていき、細い筒状になった。そしてナイオネルの右腕に巻きつく。
「あ。」
ここで気付いた雪乃は、思わず間の抜けた声を上げてしまう。この世界の契約書は、違反すると収縮し、腕がもげてしまうのだ。
あわあわと挙動不審になった雪乃を、男たちは不思議そうに見る。
「あの、お怪我させてしまうのは、その、そこまで望んでいないと言いますか」
「気にすることはない。契約を破らなければ何も起こらないのだ。私は君の研究成果を奪うつもりも必要もないからね。ただ知識欲という、究極の愉悦を手に入れたいだけだ」
恍惚として天を仰ぐナイオネルを見て、雪乃は本人が良いというならば良いかと、なんだか納得してしまった。
「う、うう……ユキノちゃん、うう……」
スライムは未だに鳴いている。
ちらりと見た雪乃は、はふうーっと大きく息を吐くと、近付いていく。まだ危ないのではと止める大人たちに首を振り、スライムの前にしゃがみ込んだ。
すぐ後ろで、カイがすぐに雪乃を抱えて逃げ出せるように、警戒しつつ心配そうに見守っている。
「ノムルさん」
雪乃は小枝の先で、つんつんと草色のスライムを突付いてみた。
「うう、ユキノちゃん……おとーさんを、許して……」
スライムは潤んだ目玉を縋るように向けてくる。元は無精ひげを生やしたおっさんだなんて、考えてはいけない。
後ろで思いっきり顔をしかめてドン引きしている男達がいるが、雪乃はただのスライムだと思い込み、話を続ける。
「許すも何も、私は怒っていませんよ?」
「え?」
スライムがわずかに盛り上がった。
「私はスキンシップや愛情に対しての、抗体が無いんです。だから過剰な親ばか行動は、精神が削られてしまうのです」
雪乃の言葉に、背後の男たちは何とも言えない表情になる。
「スキンシップや愛情に対しての抗体が無いって、どんな子供時代を送ったのさ?」
「それよりも、そこに『抗体』って単語を使うか?」
小さな少女の育ってきた環境が気になり哀れに思う一方で、彼女が選択した無機質な単語が、その感情を砕いていく。
ひそひそと話している男たちの声を、雪乃は聞こえなかったことにして話を進める。
「だから今度からは、もう少し加減してください。今回は私にも責任があります。悪意たちを浄化させるためとはいえ、ノムルさんの心を操作してすみませんでした」
「ユキノちゃん……。許してくれるの?」
「もちろんです」
雪乃は微笑む。
じめじめスライムが、少しずつ人の姿へと戻り始めた。
「これからはノムルさんが暴走しないよう、『おとーさん大好き』とか、『おとーさんは雪乃の自慢です』とか、『おとーさんの娘になれた雪乃は、世界一の幸せものです』とか」
と、雪乃が言葉を紡ぐたびに、スライムはノムル・クラウの形へと戻っていく。その表情も、輝きだした。
両腕を広げ、愛しい娘を抱きしめようと、歩を進める。
「ユキノちゃ」
「もう二度と言いませんから」
にっこりと、雪乃は言い切った。
「え?」
ノムルは石化した。
「だからもう、気にしないでください」
無邪気な笑顔で宣言する、樹人の子供。
至高にして孤高の魔法使いノムル・クラウの石像は、風に吹かれて砂となっていく。
「あの、雪乃ちゃん?」
おそるおそる、ムダイが声をかける。ドインも恐ろしい子を見る目で雪乃を見つめている。
「なんでしょう?」
振り向いた雪乃は、あ然として固まっている男たちを、不思議そうに見上げた。
「トドメ、刺してるよ?」
「ん?」
ムダイの指差す先へと顔を戻した雪乃は、ぽてりと幹を傾げる。
そこには、人間ノムルも、スライムもいない。ただ砂山が、わずかに残っていた。
「はて? ノムルさんはどこに隠れたのでしょう?」
きょろきょろと辺りを見回し、うむう? と幹を傾げる小さな少女に、男たちは額を押さえ、大きく息を吐き出したのだった。
消えたノムルはとりあえず後回しにして、雪乃はナイオネルの案内で、薬草園へと向かうことにした。
多くのギルド関係者や冒険者が出入りしている中央の建物から出て、北側へと向かう。広い敷地内は、移動用の馬車も用意されていた。
雪乃はカイやムダイ、ナイオネルと共に、馬車に乗り込む。無駄な装飾もない、小型の箱馬車だ。
何とか二人座れそうな木製の椅子が二つ、前後に向き合うように設置されている。
体格の良いムダイの隣に、カイやナイオネルが座るのはきつそうだったので、ムダイは一人で座り、カイとナイオネルが並んで座った。
雪乃ならば、ムダイの隣のスペースにも座れそうだったが、ひょいっとカイの膝の上に座らされた。
「この馬車って、防音魔法は装備されてるんですか?」
馬車に乗り込むなり、ムダイが確認する。
「もちろんだとも。敷地内とはいえ、移動中に重要な話をすることもあるからね」
ナイオネルの答えに頷いたムダイは、雪乃を見る。意を察した雪乃は、こくりと頷いた。
「薬草採取の際は、人払いをお願いします」
頷きかけたムダイに、なぜか雪乃は凝視された。
正体を明かすようにという意味だったのかもしれないが、さすがにこの変人二号だか何号だかに、樹人だと伝える気にはなれない。
何だか恐ろしい目に遭いそうな気がする。
ちらりと確認するようにカイを見ると、こくりと頷く。どうやら彼も雪乃と同じ考えのようだ。
カイの考えにムダイは片眉を上げたが、何も言わずに引いた。
三人のやり取りを見ていたナイオネルは、何かを察したようだが、こちらもつっ込まずに素直に頷く。
「指示通りにしよう。私は立ち会っても構わないのかね?」
雪乃は首肯する。
契約の腕輪がある以上、余計なことを他言されることはないだろう。それに採取して良い薬草と、そうでない薬草の区別は、雪乃たちにはつけられない。
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