『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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ゴリン国編2

242.なぜかノムルのほうが

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「いいだろう。同行を許してやろう。ただし」

 と、ぎらりんっとノムルは目を光らせて、カイを見据える。

「この弁当を食いきれたらだ!」

 差し出された弁当を、カイと雪乃はじっと見つめる。
 意味が分からない。
 しかし視線を横に向ければ、硬直した状態で倒れたままのぴー助が映る。碌でもない結果になりそうなことは、何となく予想できた。

「カイさん、無理は」
「分かった」

 止めようとした雪乃の声を遮って、カイはドイン作の弁当を受け取った。
 ノムルの満面に、あくどい笑みが浮かぶ。
 不安げに見つめる雪乃の視線の先で、カイは例の謎肉をフォークで突き刺し、口に運んだ。もぐりと噛みしめた瞬間、カイの動きが止まる。
 ふふっと笑うノムルの声が、雪乃の耳に届いた。

「カイさん……」

 心配に押しつぶされそうになる胸を抑えながら、雪乃はカイを見守る。
 だがカイの動きが止まったのは、その一瞬だけだった。その後は普通に弁当を頬張っていく。

「え?」

 なぜかノムルのほうが、呆けて固まった。じっとカイを見つめ、それから弁当へと視線を下ろす。

「どういうことだ? ドインのおっさんが作った弁当じゃないのか? 本物の弁当? だとしたら」

 ぶつぶつ言っていたノムルの目が、ぎらんっと光り、弁当に向かった。

「返せ!」

 と言って弁当を奪い返すと、残っていたおかずから謎肉をつまみ口に入れる。その直後、

「うっ」

 短い一言を残して、ぱたりと倒れた。地面に伏す前に、弁当はカイが回収して無事だ。
 雪乃はじいっと、倒れたノムルを見つめる。きょろきょろと辺りを見回して、落ちている枝を拾うと、つんつんっと突付いてみた。
 反応は無い。

「ドイン殿は、変わった才能をお持ちのようだ」

 ぐるりと雪乃が振り向くと、カイはノムルの奇行にも動じず、弁当を頬張っていた。

「見た目に惑わされると、食べれたものではないな」

 不思議そうに見つめている雪乃に、カイは説明を始める。
 肉らしきものは、口に入れると甘くどろりと溶けたそうだ。ニンジンっぽい赤い野菜は、塩気の利いた生肉。その他も、外見と実物は、相反する素材だったらしい。

「味だけならば、正直、不味いな」

 そう言いながらも、カイは特に気にする様子もなく食べ続ける。
 ノムルとぴー助が大げさなのだろうかと、雪乃は一人と一匹を観察していたのだが、

「シナノのほうが上だ」

 という呟きに、真実を悟った気がしたのだった。


 意識を取り戻したノムルは、愕然として項垂れていた。

「なんでこれが食えるんだよ? おかしいだろう?」

 ぶつぶつ文句を言っていたが約束は守るようで、カイの同行を渋々承諾する。

「それで、なんで一緒に行かなきゃいけないんだよ?」

 まだ諦めていないようだが。
 口を尖らせて不満顔のノムルに、カイは自国に雪乃を連れて行きたいことを説明した。

「お前の国って、どこだよ?」
「ヒイヅルだ」
「ヒイヅル? 却下だ。あそこは一度入ると、出られないはずだろうが」

 ノムルは即答で断った。
 けれどカイもすぐに返答する。

「問題ない。我が君から許可を得た。出国は可能だ」

 ヒイヅルに行ってみたいと思っていた雪乃は、カイが優勢になると楽しみだと葉を輝かせる。逆にノムルが拒否すると、葉を萎れさせた。
 そんな雪乃の様子が、一層ノムルの不機嫌に輪をかけていた。

「行ってどんなメリットがあるんだよ?」
「先ほども説明したが、様々な国の薬草が生える森がある。雪乃の薬草採集に、役に立つはずだ」
「けっ。そんな森を利用しなくても、薬草は集められるさ。ねえ、ユキノちゃん」

 と、話を振られた雪乃は、そっと視線を逸らした。

「ユキノちゃん?」

 訝しげに眉をひそめるノムルを、とりあえず視界の隅に映していた雪乃だが、諦めたように、がくりとうなだれた。

「え? ユキノちゃん? どうしたの?」

 取り乱すおっさん魔法使いは、何を血迷ったか、カイを睨み付けて杖を向け始めた。
 慌てて雪乃は顔を上げる。

「ナイオネルさんから薬草を分けていただき、その後、これからの行き先を相談するはずだったのですが」

 と、雪乃は遠くに見える巨大魔デンゴラコンを眺める。
 今から戻っても構わないのだが、ちらりと、雪乃はノムルを見る。

「駄目だよ。あそこはもう、危険地帯だ」

 深刻な表情で、呻くように言われてしまった。その危険なものは、逃げても配達されてダメージをもたらしたのだが。
 はあっと大きな息を漏らしたノムルは、

「あとどれくらい残ってるの?」

 と、雪乃に薬草の採取状況を確認した。
 雪乃は地図を開く。

「未採集の薬草が、これだけあるのです。同じ色のものは、同じ薬草です。微妙な色の違いですが」

 相変わらず、所々塗りつぶされているが、それでも昨日、冒険者ギルド本部で相談した時よりかは、減っていた。
 薬草園で育てていた薬草の種が飛び、勝手に繁殖した薬草が、結構あったのだ。もう少し時間があれば、もっと採取できていたかもしれないと悔やまれるが、過ぎたことだ。

「なるほどねえ。最初に相談してくれれば良かったのに。ここなんて、通ったよ?」

 雪乃はついーっと幹を回して、顔を逃がした。反論の余地も無い。
 現実逃避している間に、ノムルは地図とにらみ合い、顎に手を当てて何度か唸った。

「一番効率のいいルートは、これだな。薬草を採集する時間を含めると、ざっと計算して三年ちょっとくらいか?」

 ノムルの独り言に、雪乃の聴覚がぴくりと反応する。

「今、なんと?」

 世界中の薬草を集めるのだから、それでも短いのかもしれないが、結構な長旅だ。

「ん? 三年ちょっとって話? まあ、急ぐ旅でもないし、のんびりと観光でもしながら」

 と、地図から顔を上げたノムルは、眉間に深いしわを刻んだ。なぜか雪乃がふるふると震えている。
 カイも怪訝な表情で雪乃を見る。

「ユキノちゃん? どうしたの?」

 心配そうにノムルが声を掛けた。

「実は……」

 雪乃は躊躇うように言いよどみながらも、重大なことを伝えた。

「は?」

 話を聞いたノムルは真っ青だ。カイも目を丸くしている。
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