『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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ゴリン国編2

244.あそこに戻るのは

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「よし。ネーデルまで行って、それから南下しよう」

 道程は決まったようだ。
 そこでノムルは顔を上げて雪乃を見る。

「そういえば、薬草園に行ったんだよね? どうだったの?」

 気を取り直したノムルが、問いかけた。
 スライムだった時の記憶も、一応あるらしい。

「栽培されているものは取り込めませんでしたが、勝手に繁殖したものは取り込めました」
「そう。全部採集したの?」
「いいえ、途中でノムルさんにさらわれましたから」

 薬草園に放ったマンドラゴラたちを、回収する暇さえなかったのだ。

「くっ。あそこに戻るのは危険だけど、ユキノちゃんには代えられない。も、戻るか……」

 ノムルの額から、汗が滴っている。今日は温かいが、それだけではないのだろう。

「薬草栽培に関しては、魔法ギルドのほうが活発だと聞いたが、採取させなかったのか?」

 雪乃とノムルの首が、カイへと回る。
 すでに指摘され済みの雪乃は、すぐにそうっと首を戻して誤魔化すように歌いだした。
 逃げた雪乃をちらりと見やったカイは、追求することなくノムルを見つめる。
 ここで負けるわけにはいかないと、ノムルはどうでもいい闘志をたぎらせ、カイと向き合う。

「ふん。魔法ギルドはしっかり管理しているからな。栽培している薬草が勝手に繁殖するなんて、ないんだよ」

 なぜか胸を張って顎も上げて、見下すような視線を向けながら、強気の発言をした。
 対するカイは素っ気ない。

「そうか」

 の一言で、話を切り上げた。 
 話が終わったと見て取った雪乃は、すぐに新たな話題を投入する。

「ルモン大帝国に行くのでしたら、ローズマリナさんたちとご一緒してはどうでしょう? その方がローズマリナさんも安心して旅ができると思います」

 冒険者の中でも最強の一角を担うムダイが護衛する予定なので、危険は無いと言える。
 だが知り合ったばかりの男と、二ヶ月以上も掛かる長旅を共にするのは、気疲れするだろう。一人よりも大勢のほうが、互いに気を使わなくて済む。
 それに女の子がいるほうが、ローズマリナたちも安心できるだろう。

 雪乃の提案を受けて、ノムルは思案にふける。
 時折ちらちらと、カイを見ていた。

「そうだねー。こんな男と三人で旅するくらいなら、ストーカーやあの女達がいたほうが、いいかもしれないねー」

 笑顔を浮かべているノムルだが、目は笑っていない。よほどカイの存在が気に入らないようだ。

「ではやはり一度、冒険者ギルドに戻りますか」
「くっ。そうなるのか。おっさんの治療は最後にするべきだった」

 深く後悔しているノムルを、雪乃とカイは冷めた目で見る。
 ドインの料理が素晴らしく不味いことは理解したが、彼が料理の腕を振るったのは、昨日だ。
 多少の残り物はあるかもしれないが、今から戻ったところで食べさせられることはないだろう。

 とぼとぼと歩くノムルを引っ張るように、雪乃たちは冒険者ギルドへと戻っていったのだった。



「なんだ戻ってきたのか」

 冒険者ギルド本部に顔を出したノムルに、ドインは呆れたように言った。

「誰のせいだと思ってんだよ?!」

 即座にノムルがツッコミを入れたが、原因となった男は眉をひそめて訝しげにノムルを見ている。

「お前が勝手に出て行ったんだろうが。俺がせっかく飯を作ってやったのに。もう残ってないぞ?」
「それは僥倖」

 ほっと胸を撫で下ろすノムルを、雪乃もカイもヒツジーも、気の毒そうでありながら、わずかに咎めるような視線を向けた。
 本人を前にして、あからさま過ぎる。ドインは気にしていないようだが。
 ちなみに青い顔をしたムダイだけは、ノムルを恨めしそうに見ていた。共にいたのに何も知らされず、ドイン料理の犠牲になったのだから。
 知らされていたならば、彼も逃げただろう。そこまでとは考えず、そのまま残った可能性も否定できないが。
 と、そこへ、

「ドクター・ユキノが戻ってきたそうだね!」

 叫びながらナイオネルが飛び込んできた。

「薬師です」

 訂正を入れるも、まるで盗聴されているかのようにタイミングの良いナイオネルに、少しばかり警戒する雪乃だった。 

「戻って来たということは、昨日の続きをするのだね? 嗚呼、早くあのマンドラゴラを見せてくれたまえ。できうるならば一株でいい、分けてはもらえないか? ぜひとも研究がしたい。いやあ、あんなマンドラゴラは初めてだ」

 手を組んで、輝く目で天を見上げるナイオネル。天使か何かがいるのかと、雪乃も彼の視線の先を追ってみたが、天井が映るだけだ。

「ナイオネルの前でも、ちゃんと動いたのか?」

 問うたのはドインだった。
 昨日、雪乃が席を外している間、残ったマンドラゴラは、ドインたちには様々なポーズを見せた。
 それなのに、ナイオネルの視線に気付くと動きを止め、ただのマンドラゴラのふりをしたのだ。
 後でマンドラゴラが伝えたことによると、ナイオネルはからかいがいがありそうだったからという、なんともしょうもない理由だった。

「ああ、動いたとも。あれは今までのマンドラゴラを超越している。本当に魔植物というやつではないのかね?」

 ナイオネルの疑問に、雪乃は瞬く。
 魔力を与えて魔植物と化した薬草たちの中は、自力で動けるようになるものも多い。それこそ動物であるかのように。
 しかし彼らは攻撃的であり、人に従うことは無い。樹人の雪乃に対しても、敵意を向けてくる。

「そういえば、マンドラゴラには魔力を加えたことがなかったな。そもそも野生のマンドラゴラなんて、そうそう見つかるもんでもないし」

 雪乃が答えるより先に、ノムルが首を捻りだす。

「違うのかね? たしかにマンドラゴラの栽培は、野生のマンドラゴラを捕まえて根付かせるのが精々で、それさえ逃げられることが多い。根付かせたものも寿命が短く、繁殖に成功した例は無いが」

 そこでナイオネルは、何かに気付いたように雪乃を見つめる。
 しかし雪乃はナイオネルの視線に気付くことなく、カイのフードに隠れるマンドラゴラを見る。
 なんだか過酷なマンドラゴラ生を送るマンドラゴラもいるようだ。逃走に成功するものが多いようだが。

「わー?」

 自分たちの話だとわかっているのかいないのか、マンドラゴラは根を傾げた。
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