『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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旅路編

250.今夜からは、私も

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 食事の関係もあり、今はノムルとムダイが並んで座り、雪乃とローズマリナが隣り合って座っている。
 ぴー助は屋根の上で、景色や風を楽しんでいた。

「はいはい、喧嘩しないで仲良く食べてくださいね。あ、そのサンドイッチは私が詰めました」

 二人で譲り合っていた野菜サンドを、雪乃が指し示す。即座にノムルが掴み取った。

「ユキノちゃんのサンドイッチー」

 作ったのはローズマリナで、雪乃はバスケットに詰めただけなのだが、親ばか魔法使いにはそれでも充分らしい。
 今日の雪乃はローブを脱いでくつろいでいる。

 馬車から出るときは、いつもどおりローブをまとうが、馬車の中には雪乃の正体を知る者しかいない。
 窓にも視覚操作の魔法が掛けられているため、覗かれても安全だ。
 魔法を掛けていなくても、普通に座っていれば、小さな雪乃の姿が外から見えることはないのだが。

「今夜からは、私もお料理をお手伝いしてもいいですか?」

 雪乃は仄かに紅葉しながら、隣に座るローズマリナに尋ねた。

「もちろんよ。一緒に作りましょう」
「はい。ありがとうございます」

 嬉しそうに、雪乃は根をぷらぷらと揺らす。

「ちょっと、あんまりべたべた」
「ノムルさん。ローズマリナさんから料理を教えてもらえば、私の料理の腕も上がるはずです。そうすれば旅の間、私が料理を作ってノムルさんにご馳走することもできますよ?」

 殺気を放ち出したノムルに、すかさず雪乃は斬り込んだ。
 降臨しかけた魔王が、宿る前に消えていく。

「ユキノちゃんの手料理。今までにも何度か作ってくれたけど、カレー以外はあれだったからなあ。この女は料理の腕はいい。それをユキノちゃんが習得するのかー。もしも懐いたとしても、コイツはおとーさんにはなれないし……」

 なにやらぶつぶつ言っているが、耳に届いた内容に、馬車の中には沈黙が落ちる。
 色々とつっ込みたいが、つっ込めば更なる混沌が訪れそうだと、三人は必死に抑え、体をぷるぷると震わせている。
 御者台に座るカイにも聞こえていたようで、彼は眉根を寄せてちらりと後ろを振り返った。

「やはり私の作る料理は、美味しくなかったのですね。そんな気はしていました」

 窓から見える雲を眺めながら、雪乃は寂しく独白した。


「ローズマリナさんは、魔法は使えるんですか?」

 食事を終えて一息ついてから、ムダイが切り出した。

「ええ。ゴリン国の貴族は魔力を持つ者が多いから、家庭教師を付けて学んだわ」
「魔力を感じるコツってありますか?」

 規格外のノムルはもちろん、カイや同郷の雪乃も役に立たなかったムダイは、同じ人間であるローズマリナに救いを求めることにしたようだ。

「そうね、コツというわけではないけれど、体内に魔力を流してもらって、感覚を掴むという方法を取ることもあるわ。ただ流す魔力量が多すぎたり反発する属性の魔力だと、重傷を負う危険もあるの。だから滅多に行わないわね。どうしても必要な場合は、高位の魔法使いに依頼して行うわ」

 顎に指を当て、考える仕草をしたローズマリナは、丁寧に教えてくれた。
 高位の魔法使いと聞き、ムダイは隣を見る。
 そこには世界最強の魔法使いが座っていた。

「やめたほうがいいと思います」

 ムダイが口を開く前に、雪乃が止めた。
 ローズマリナとムダイの視線が、雪乃へと集まる。

「ノムルさんは魔力が強すぎて、杖を使って抑えないと、人間が弾けちゃうこともあるそうですから」

 ムダイとローズマリナは深く俯いて、肩を震わせる。
 現実離れした恐ろしい発言だが、それを否定できないどころか、容易に想像できてしまった。

「焦らなくても良いと思うわ。魔力の流れを感じることができるまでには、数ヶ月から数年掛かるのが普通だもの」
「そんなに?! でもカイくんや雪乃ちゃんの話では……」

 驚きの声を上げたムダイは、雪乃を見る。
 自分より後からこの世界に来たのに、すでに治癒魔法を会得している少女。

「言われてみれば、座禅をするようになってから、すでに三年ほど経過しています」

 真顔で話す樹人の子供。

「いやだから座禅が習慣って……。本当に雪乃ちゃんってどんな生活してたの? 今度じっくり教えてよ」

 戸惑いを抑えきれないようで、ムダイが雪乃に訴える。その言葉に、魔王様が反応する。

「俺の娘に何をじっくり教わるつもりだ?」

 暗黒オーラがムダイを包み込む。

「もう本当、親ばか面倒くさ」

 顔をしかめて肩を落とすムダイに、雪乃もローズマリナも、がくりと頭を垂れるように同意した。
 しばらくして、気を取り直したローズマリナがムダイに向き合う。 

「魔力の感じ方は、種族によって違うのかもしれないわね。私でよろしければ、魔力を流しましょうか?」
「それはありがたいですけど、大丈夫なんですか?」

 危険が伴うと説明されたばかりだ。
 思わず視線をさ迷わせたムダイに、ローズマリナは微笑む。

「私の魔力は光属性と相性が良いの。木と水も少しは使えるけれど、初歩魔法しか使えないわ」

 だから? と不思議そうに見つめるムダイの一方で、雪乃はキラキラと葉をきらめかせた。

「私も光属性です」
「あら、お揃いね」
「はい!」

 ふふっと笑い合う、雪乃とローズマリナ。

「くうっ! おとーさんになれないって聞いてても、なんだかもやもやする」

 そのもやもやの原因に心当たりがありながらも、決して告げてはいけないと、心で誓い合う三人であった。

「光属性が関係あるんですか?」

 持ち直したムダイが、話題を戻す。
 ローズマリナもなんとか思考を戻して話を進める。

「光属性の魔力は、闇属性以外の魔力に対しては反発する確率が極めて低いの」
「血液型みたいなものか」

 ムダイが呟いた例えに、雪乃も納得する。
 血液型の例に則ると、光属性の魔法はO型に該当するのだろうか。

「となると、カイくんも相性がいいわけか」

 カイはムダイと同じ、火属性と相性の良い魔力の持ち主だ。
 魔力を血液だと例えるならば、光属性よりも同じ火属性の魔力を注いでもらったほうが、危険は少ないかもしれない。
 そんなふうにムダイは考えたようだが、ローズマリナはこの回答を否定した。
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