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旅路編
252.双子石はありますか?
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色取り取りの魔石や鉱石が、棚に並んでいる。
品質の良い物や、希少と思われる魔石は、店主の座るカウンターの奥や近くに飾られていた。
木箱の中に乱雑に投げ込まれている魔石や鉱石は、あまり品質が良くないのだろう。石や土が付いていて、掘り出したままといった状態の石も混ざっている。
興味津々といった様子で見回していた雪乃だが、目的を忘れてはいない。
カウンターに向かうと、店主に声を掛けた。
「すみません、双子石はありますか?」
カウンター奥の椅子に座っていた店主は、声に視線を向ける。しかし誰もいない。
訝しげに目をすぼめて見れば、黒いローブの男がやってきた。
店主は眉をひそめる。可愛らしい少女の声と、目に映る男の姿は一致しない。
黒いローブの男は少し身を屈めると、両手で何かを持ち上げた。小さな子供がひょこりと姿を現す。
そこでやっと、カウンターの影に子供が居たのだと理解した。
しかし理解したところで、次の疑問が浮かんでくる。
双子石は結婚を控えた男女が買っていくものだ。こんな小さな子供が買うものではない。
とはいえ、結婚に憧れる少女が買いに来ることは、無いわけでもなかった。
「悪いが嬢ちゃん、双子石は魔石だ。おままごとに使うには危険が高いぞ? 大人になってから買いに来い」
追い払うように言われて、雪乃はぷくりと頬葉を膨らませた。
「おままごとじゃありません。大切な人達が結婚するから、お祝いに贈りたいのです」
雪乃の言葉を聞いて、店主は失敗したと顔をゆがめたが、すぐに気持ちを立て直す。
「そりゃあ悪かった。けどな、普通は結婚する当事者が買っていくもんだ。子供が買って贈るものじゃない」
むっとしていた雪乃だが、店主の説明を聞いて、納得すると同時に一瞬だけ意識が遠ざかりかけた。
ノムルは双子石を、雪乃と使おうとしていた。結婚指輪と似ていたために断ったが、流されていればノムルと結婚してしまうところだったようだ。
雪乃は自分が間違っていなかったことを確認した。
それは置いておくとして、店主の言葉にふむうっと雪乃は考える仕草をする。
日本でも結婚指輪は男性が購入し、結婚する女性に贈っていた。子供が買ってお祝いに贈るということはないだろう。
すでにナルツが購入して準備していたなら、雪乃の行動は余計なことになる。
「双子石は、ルモン大帝国でも購入できますか?」
店主は目を丸くして、雪乃を見る。
「ルモン? そりゃあ、あそこは大国だから、帝都に行けばあるかもしれないが。結婚するのはルモンの人間か?」
こくりと雪乃は頷く。
「双子石は産出量が少ないから、コダイの外に出ることは稀だ。ルモンで買うとなると、高位の御貴族様や皇族じゃないと手が出ないだろう。それなら嬢ちゃんたちが買って贈るのも納得だな」
店主は少し考える仕草をしてから立ち上がると、奥の棚からケースを取り出した。ケースの中には、大小さまざまなハート型をした、透明な魔石が並ぶ。
一番大きいものでもピンポン玉ほど、小さいものは小指の爪にも満たない大きさだった。
「これに二人で魔力を注ぎ込むと、色が付いた楕円形の魔法石が二つできる。それを指輪にはめ込んで身に付けるのが、コダイ国の婚姻の儀式だ」
「ほほう」
雪乃は身を乗り出して覗き込む。
やはり女の子ゆえか、好奇心が湧いているらしい。
「愛が強いほど赤く染まると言われているが、実際には赤く染まることは稀だ。普通は橙色が多いな」
「ほうほう」
雪乃は真剣に店主の説明に耳を傾け、相づちを打つ。
「片思いなら黄、片方が嫌がっている場合は茶、両者共にいがみ合っている場合は黒だ」
「……」
興奮していた雪乃が冷静になった。
そんな縁起でもない色はいらない。
とはいえ相思相愛なのに引き離され、それでも想い合っていたローズマリナとナルツだ。赤く染まる可能性が高いだろうと、雪乃は考える。最低でも橙色だろう。
「ほとんど伝説みたいなものだが、青色というのもあるな」
「それは?」
「決して離れることの無い、究極の愛だ。この色が出ると、強力な守護の加護を持つ魔法石になると言われている」
「おお!」
葉をきらめかせて、雪乃は小枝を握り締める。
ローズマリナとナルツならば、青色に輝かせてくれるかもしれないと、雪乃は夢想し始める。
だから、
「まあ、ありえないけどな。実際にそんな色が出たなんて、聞いたことも無い。いや、三十年くらい前に噂があったような……だがそれが本当なら、もっと騒ぎになってるはずだから、やっぱりデマだな」
と、店主がぼそぼそと言った言葉は、全く耳に入れていなかった。
「どの石が良いのでしょう? 違いは大きさだけですか? 透明度や形も、少しずつ違いますね」
きらきらと葉を輝かせながら、雪乃は改めて双子石を真剣に吟味し始める。
「どれが良いかは人によるな。大きいのを好むやつもいるし、普段使いしやすい小さめのを選ぶやつもいる。あとは予算によるなあ」
店主のアドバイスに、雪乃は予算を伝えて、それ以内に収まるものだけに絞ってもらった。
「相手は騎士だったのだろう? ならば剣を使うときに邪魔にならない、小さめのものが良いのではないか?」
カイも口添えする。
「だったら」
と、更に減った石の中から、雪乃は一つを選んだ。一際小さいが、透明度が高く、綺麗な形をした双子石だった。
「小さいのに見る目があるな。これは質が良いぞ。ただ小さすぎて選ぶ男はいないだろうから安くなってる。子供が新婚夫婦に送るなら、逆にちょうど良いだろう」
がははと笑って、店主は双子石を包みはじめた。
「指輪への加工はどうすれば良いのでしょう?」
ふと気付いて雪乃が問うと、店主は小さな銀色の石を見せる。
「鉱石から作った魔法石だ。二つになった双子石とこいつを一緒に握り締めて魔力を込めれば、そいつの指の大きさにあった指輪になる」
「凄いですね。ではそれも二つお願いします」
感心する雪乃に、店主は苦く笑む。
「こんな店で扱っている指輪だ。飾り気も無いただのリングだから、新郎に言ってちゃんとした指輪に仕立てさせることをお勧めするがな」
そう言いながらも、先に選んだ双子石と一緒に魔法石も包んでくれた。
雪乃は代金を支払うと、購入した双子石をほくほくと嬉しそうに受け取る。
そっとローズマリナの様子を窺うと、彼女は他の石を見ていた。
馬車の中で双子石の話を漏らしてしまった雪乃だが、魔王の威圧に当てられて気を失っていた彼女は、聞いていなかったようだ。
品質の良い物や、希少と思われる魔石は、店主の座るカウンターの奥や近くに飾られていた。
木箱の中に乱雑に投げ込まれている魔石や鉱石は、あまり品質が良くないのだろう。石や土が付いていて、掘り出したままといった状態の石も混ざっている。
興味津々といった様子で見回していた雪乃だが、目的を忘れてはいない。
カウンターに向かうと、店主に声を掛けた。
「すみません、双子石はありますか?」
カウンター奥の椅子に座っていた店主は、声に視線を向ける。しかし誰もいない。
訝しげに目をすぼめて見れば、黒いローブの男がやってきた。
店主は眉をひそめる。可愛らしい少女の声と、目に映る男の姿は一致しない。
黒いローブの男は少し身を屈めると、両手で何かを持ち上げた。小さな子供がひょこりと姿を現す。
そこでやっと、カウンターの影に子供が居たのだと理解した。
しかし理解したところで、次の疑問が浮かんでくる。
双子石は結婚を控えた男女が買っていくものだ。こんな小さな子供が買うものではない。
とはいえ、結婚に憧れる少女が買いに来ることは、無いわけでもなかった。
「悪いが嬢ちゃん、双子石は魔石だ。おままごとに使うには危険が高いぞ? 大人になってから買いに来い」
追い払うように言われて、雪乃はぷくりと頬葉を膨らませた。
「おままごとじゃありません。大切な人達が結婚するから、お祝いに贈りたいのです」
雪乃の言葉を聞いて、店主は失敗したと顔をゆがめたが、すぐに気持ちを立て直す。
「そりゃあ悪かった。けどな、普通は結婚する当事者が買っていくもんだ。子供が買って贈るものじゃない」
むっとしていた雪乃だが、店主の説明を聞いて、納得すると同時に一瞬だけ意識が遠ざかりかけた。
ノムルは双子石を、雪乃と使おうとしていた。結婚指輪と似ていたために断ったが、流されていればノムルと結婚してしまうところだったようだ。
雪乃は自分が間違っていなかったことを確認した。
それは置いておくとして、店主の言葉にふむうっと雪乃は考える仕草をする。
日本でも結婚指輪は男性が購入し、結婚する女性に贈っていた。子供が買ってお祝いに贈るということはないだろう。
すでにナルツが購入して準備していたなら、雪乃の行動は余計なことになる。
「双子石は、ルモン大帝国でも購入できますか?」
店主は目を丸くして、雪乃を見る。
「ルモン? そりゃあ、あそこは大国だから、帝都に行けばあるかもしれないが。結婚するのはルモンの人間か?」
こくりと雪乃は頷く。
「双子石は産出量が少ないから、コダイの外に出ることは稀だ。ルモンで買うとなると、高位の御貴族様や皇族じゃないと手が出ないだろう。それなら嬢ちゃんたちが買って贈るのも納得だな」
店主は少し考える仕草をしてから立ち上がると、奥の棚からケースを取り出した。ケースの中には、大小さまざまなハート型をした、透明な魔石が並ぶ。
一番大きいものでもピンポン玉ほど、小さいものは小指の爪にも満たない大きさだった。
「これに二人で魔力を注ぎ込むと、色が付いた楕円形の魔法石が二つできる。それを指輪にはめ込んで身に付けるのが、コダイ国の婚姻の儀式だ」
「ほほう」
雪乃は身を乗り出して覗き込む。
やはり女の子ゆえか、好奇心が湧いているらしい。
「愛が強いほど赤く染まると言われているが、実際には赤く染まることは稀だ。普通は橙色が多いな」
「ほうほう」
雪乃は真剣に店主の説明に耳を傾け、相づちを打つ。
「片思いなら黄、片方が嫌がっている場合は茶、両者共にいがみ合っている場合は黒だ」
「……」
興奮していた雪乃が冷静になった。
そんな縁起でもない色はいらない。
とはいえ相思相愛なのに引き離され、それでも想い合っていたローズマリナとナルツだ。赤く染まる可能性が高いだろうと、雪乃は考える。最低でも橙色だろう。
「ほとんど伝説みたいなものだが、青色というのもあるな」
「それは?」
「決して離れることの無い、究極の愛だ。この色が出ると、強力な守護の加護を持つ魔法石になると言われている」
「おお!」
葉をきらめかせて、雪乃は小枝を握り締める。
ローズマリナとナルツならば、青色に輝かせてくれるかもしれないと、雪乃は夢想し始める。
だから、
「まあ、ありえないけどな。実際にそんな色が出たなんて、聞いたことも無い。いや、三十年くらい前に噂があったような……だがそれが本当なら、もっと騒ぎになってるはずだから、やっぱりデマだな」
と、店主がぼそぼそと言った言葉は、全く耳に入れていなかった。
「どの石が良いのでしょう? 違いは大きさだけですか? 透明度や形も、少しずつ違いますね」
きらきらと葉を輝かせながら、雪乃は改めて双子石を真剣に吟味し始める。
「どれが良いかは人によるな。大きいのを好むやつもいるし、普段使いしやすい小さめのを選ぶやつもいる。あとは予算によるなあ」
店主のアドバイスに、雪乃は予算を伝えて、それ以内に収まるものだけに絞ってもらった。
「相手は騎士だったのだろう? ならば剣を使うときに邪魔にならない、小さめのものが良いのではないか?」
カイも口添えする。
「だったら」
と、更に減った石の中から、雪乃は一つを選んだ。一際小さいが、透明度が高く、綺麗な形をした双子石だった。
「小さいのに見る目があるな。これは質が良いぞ。ただ小さすぎて選ぶ男はいないだろうから安くなってる。子供が新婚夫婦に送るなら、逆にちょうど良いだろう」
がははと笑って、店主は双子石を包みはじめた。
「指輪への加工はどうすれば良いのでしょう?」
ふと気付いて雪乃が問うと、店主は小さな銀色の石を見せる。
「鉱石から作った魔法石だ。二つになった双子石とこいつを一緒に握り締めて魔力を込めれば、そいつの指の大きさにあった指輪になる」
「凄いですね。ではそれも二つお願いします」
感心する雪乃に、店主は苦く笑む。
「こんな店で扱っている指輪だ。飾り気も無いただのリングだから、新郎に言ってちゃんとした指輪に仕立てさせることをお勧めするがな」
そう言いながらも、先に選んだ双子石と一緒に魔法石も包んでくれた。
雪乃は代金を支払うと、購入した双子石をほくほくと嬉しそうに受け取る。
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