『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

文字の大きさ
207 / 385
旅路編

259.魔法はイメージよ?

しおりを挟む
 マグレーンと行動する時などは、魔法で熾した火で薪を燃やすこともあったが、ムダイが自分で火を熾したことはない。
 冒険者になって駆け出しの頃に、ライターのような魔法石を利用して何度か挑戦してみたのだが、巧く薪に火を移すことはできなかった。
 日本にいた頃に火を見たのは、化学の実験や夏の花火くらいだろう。

「魔法はイメージよ? 水ならば水に触れたり、口に含んだりして五感に憶えさせるの。だから難易度としては、水、土、風、そして火と上がっていくわ。水や土と、風や火を操る難易度の差は大きいそうよ」

 そこまで指摘されて、ようやくムダイは、自分がなぜ魔法を使いこなすことが出来ないのか気付く。

「五感のうち、視覚でしか火を知らないから」

 それも本物の火ではなく、映像の火。更に言えば、人の手によって描かれた、偽物の炎だ。
 ゲームやアニメで目にしていたから、イメージは完璧だと考えていた。だが全く理解していなかったようだ。

「幻影、か」

 自分が出現させた炎の鳥を思い出し、ムダイは太く息を吐いた。
 ふっと、ローズマリナは慰めるように微笑む。

「それでもこんな短期間で、あんなにも素晴らしい魔法を使えるようになったのだもの。才能はおありだと思うわ」

 素直な賞賛の言葉に、ムダイは仄かな温かみを感じながらも、苦笑を浮かべる。

「いやいや、駄目だろう。ユキノちゃんなんて、初めは魔力の違いも分からなかったのに、一時間足らずで治癒魔法が使えるようになったよ?」

 浮かび上がりかけていたムダイは、至高の魔法使いの言葉で一気に沈没した。

「種族の関係かしら? いえ、天才なのかもしれないわね」

 ローズマリナも細めた目で遠くを眺めている。

「治癒の魔法は、難易度は低いんですか?」
「初歩的な魔法はね。中級だと貴族階級の人間には使える者も珍しくないけれど、平民で使える人はまずいないわ」
「雪乃ちゃんのレベルは?」

 お茶をすすりながら何気なく問うたムダイに対して、ローズマリナは沈黙する。
 怪訝に思ったムダイがちらりと視線を向ければ、ローズマリナは視線を落とした。

「聖女と呼ばれても不思議ではないレベルよ。ノムル様の庇護下にあるから、誰も手を出さないでしょうけれど」

 なんとなくそんな気がしていたムダイは、それ以上深くは聞かず、冷めたお茶と最後のカンヨーで心を落ち着かせる。

「しかしなんであの子は、そんなに魔法が使えるんだ?」

 疑問には思うが、答えを知ると自分の何かが崩壊しそうだったので、ムダイはそっと蓋をしておいた。



「やっぱり機関車の旅は途中下車しながらの、のんびり旅が良いですよね?」

 駅の窓口に切符を買いに行ったムダイが、爽やかな笑顔を浮かべている。
 雪乃は半目でじとりと見つめた。カイとローズマリナも、少しばかり呆れ眼だ。

 ネーデルまで直行する夜行機関車は、日に一度だけ運行されている。
 しかし今日の夜行機関車の一等車輌の切符は、早朝に売れたという。次は三日後までネーデル行きの機関車はない。
 昨日のうちに購入しておけば、乗車できたのだ。

 とはいえ、雪乃たちはムダイを責めているわけではない。
 このタイミングで買われてしまうなど、誰にも予想はできなかったのだ。そもそも一等車輌は一両しか付いていないのだから、当日に買えるほうが幸運だろう。
 雪乃たちはただ、爽やか笑顔で誤魔化そうという魂胆の見えるムダイに、呆れていただけだった。

「二等車輌を二部屋借りれば良いのではないですか?」

 気を取り直して、雪乃が提案する。二等車輌ならば、まだ空きが有ると駅員は言っていた。

「僕たちは良いけど、ローズマリナさんを椅子で眠らせるわけにはいかないよ」

 ムダイは紳士的な理由を持って、雪乃の意見に拒否を示す。

「機関車での宿泊は、雪乃にも負担だろう? 夜は一度降りて、休んだほうが良いのではないか?」

 カイも別の理由で夜行機関車に難色を示した。

「そうだな。前回のこともあるし」

 昨日よりは幾分か復活したノムルだが、今日もあまり元気が無いようだ。とはいえノムル・クラウだ。

「またあんなことがあったら、おとーさんは耐えられないいっ!」
「ふみゃああーっ?! いきなりですか? 油断していました。ふんにゅうーっ!」

 ひしっと抱きつかれて、雪乃は慌てて枝を突っ張る。
 以前ルモン大帝国を訪れた際、機関車の旅で栄養と水分をしっかり吸収できなかった雪乃は、枯れかけてしまったのだ。
 思ったよりも元気そうだと、残りの三人は安心したような不安が戻ってきたような、複雑な表情で見物している。

「じゃあ、次に出る機関車の切符を買ってきますね」
「ちゃんと自然の多い駅で休めるようにしろよ?!」
「はいはい。分かってますって」

 肩越しに、ひらひらと手を振って、ムダイは切符売り場へと向かった。
 列の最後尾に並んだムダイだが、なぜか次々と客たちが順番を譲っている。あっと言う間に窓口に辿り着いていた。

「さすがはSランク冒険者ね」
「ああ」

 感嘆するローズマリナとカイ。
 その横では、未だに不毛な争いが繰り広げられていた。

「ふんにゅううーっ! 萎れたノムルさんは心配でしたけど、これはこれで私の身が……ま、負けません、ぐぬぬぬぬうーっ!」

 昨夜の慰労はなんだったのだろうかと、ローズマリナは微かに頭痛を覚えた。
 
 ゴリン国から出たことの無いローズマリナはもちろん、ルモンを訪れたことは有るというカイも、蒸気機関車に乗るのは初めてだった。
 獣人のカイは、正体が露見しても逃げ場の無い蒸気機関車は危険だということで、乗車は避けていたという。
 相変わらずのポーカーフェイスだが、尻尾がぶんぶん揺れていた。

 当然のようにムダイが選んだのは、一等車輌だった。
 窓にはもちろん、外から見えないようにノムルが魔法を掛ける。

「噂では聞いていたけれど、不思議ね。馬もなく走るのでしょう?」

 大きな窓に向かって設置されたソファで出発を待っていたローズマリナは、隣に座る雪乃に声を掛けた。
 雪乃を挟んで向こう側にノムルが陣取り、雪乃にぴったりとくっ付いてる。
 カイとムダイはソファには座らず、テーブル席に設置された椅子に、向かい合って座っている。
 ちなみに一等車輌の定員は四名までとなっているのだが、雪乃は小さいため数に入っていない。
 ついでにぴー助も人ではないので数には含まれなかった。
しおりを挟む
感想 933

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

処理中です...