『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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ルモン大帝国編2

264.彼も、その……

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「カイだ」
「フレックだ。よろしく」

 短い自己紹介と共に、フレックの義手とカイの手で握手が交わされた。ちらりと、フレックはカイのフードの下を気にする。

「えっと、彼も、その……」

 フレックの視線が雪乃やムダイに向かった。
 わずかに引きつった口元と、さ迷うような目線に、ムダイはフレックの聞きたいことに気付き、微笑を漏らす。

「大丈夫だ。ここにいるメンバーは全員、雪乃ちゃんの正体を知っている。でもカイ君は、雪乃ちゃんとは違うよ?」

 と、ムダイは問うようにカイを見る。
 ムダイがフレックを信頼していたとしても、カイ本人の了承を取らずに、その正体を告げるわけにはいかない。
 ムダイの視線を受けて、カイは少し考える素振りを見せてから、口を開く。

「獣人だ」

 カイ自身から示された言葉に、フレックはほっと胸を撫で下ろした。その仕草に、カイのほうが訝しげに眉をひそめた。

「いやだってさ、ユキノちゃんが懐いてるし、ムダイさんが連れてきたしで、いったいどんな種族かと思ってたんだけど、人で良かった。これ以上の常識崩壊は避けたいからね」

 フレックが心の底から吐き出した声に、カイは目を丸くする。
 獣人は人族に属してはいるが、多くの人間は、自分たちと同じ『人』とは認めていない。蔑み差別の対象とするのが、この大陸では一般的だ。
 カイの中で、フレックへの好感度がぐんっと上昇したのだった。

「ところでどこに向かっているのさ?」

 自己紹介も済んだところで、ノムルが尋ねた。促がされるまま車に乗り込んだが、未だ行き先は告げられていない。

「アークヤー公爵の邸ですよ。ナルツの彼女が来たら、連れてくるように言われてて」

 ぽふんっとローズマリナの顔が真っ赤に染まる。

「俺かマグレーンの実家でもと考えてたんですけど、結婚前のご令嬢をお泊めするなら、避けたほうが良いだろうってことで、皇太子妃殿下がご配慮くださったんです」
「皇太子妃殿下がですか?」

 ローズマリナが目を瞠った。
 元はゴリン国の公爵家令嬢といえど、今は庶民だ。破格の対応に、驚きを隠せない。

「それだけ皇太子ご夫妻が、ナルツを買ってるってことです。アークヤー公爵家は、皇太子妃殿下の御生家ですから」

 怪訝な視線を向けられたフレックは、逃げるように視線を逸らす。
 無理に聞き出すこともはばかられて、一同はそれ以上は聞かずに、とりあえず頷いた。

 周囲の景色は、アパートやマンションが立ち並ぶ町並みを抜け、広い庭の付いた一戸建ての建物が並ぶ地域に移った。
 一戸建てと言っても、アパートやホテルと呼んでも差し支えないような、大きな邸だ。
 その中でも一際大きく目立つ邸の前で、車は停まった。

 一同は門の向こうに見える邸を、じいっと凝視する。焦点を引き寄せ、門や塀も観察する。

「魔王城」

 思わずぽつりとこぼした雪乃の口を、カイが手で覆って塞いだ。口はないので、気持ちの問題だが。

 三階建ての建物の外壁は、真っ黒だった。黒光りする門の上には、なぜか角の生えた鷹のような飾が付いている。邸を囲む塀は高く、上には棘だらけの柵が設置されていた。
 周囲に視線を廻らせれば、爽やかな緑や色とりどりの花に包まれるように白い邸が目に入る。
 視線を戻せば、そこだけ世界が異なるように、黒い邸。奥に見える木立も、なぜか禍々しい。上を見上げればアークヤー家の上空だけ、雲に覆われていた。

「なんだか懐かしいわ」

 頬に手を添え目尻を下げるローズマリナを、一向はぐりんっと首を回して凝視する。

「ゴーリー家の邸も、黒壁で有名だったのよ。空もなぜか雲っていたわね。領地は日照不足のせいか他領に比べると不作で、大変だったわ」

 地球ならば、オカルト好きが喜びそうな不思議現象だが、魔法や精霊が存在するこの世界では珍しくはないのかもしれないと、雪乃は思い込もうとした。
 しかし、

「呪われてんじゃないの?」

 魔法ギルド総帥から、ツッコミが入った。
 全員、目尻や眉間に皺が寄るほど、ぎゅっと目を瞑り俯く。思っても言ってはいけないことだと、常識を知らぬ魔王様にはご理解いただけないようだ。
 精神的な疲労を覚えながら、車は開いた門の中へと入っていく。公爵家などの高位貴族の邸には、車のまま乗り込めるように魔術式が仕込まれていた。

 庭という名の黒バラ園を過ぎ、邸の前に停まる。ドーム状の蓋が開き、邸の前で待っていた執事らしき男が扉を開けてくれた。
 どやどやと下りて、そのまま邸の中へと入っていく一行を、使用人たちは静かに迎え入れる。
 ふとムダイが足を止めた。

「どうかしたのかい?」

 ノムルを除く他のメンバーも、足を止めて振り返る。
 なぜかフレックは邸に入ろうとせず、車の前に立ったままだ。

「俺のことは気にしないでください。送っただけですから」

 笑顔を見せているが、表情が硬い。
 アークヤー家の使用人たちも、フレックを誘おうとはしない。どこか険のある感情を隠そうともせず、睨むように向けていた。
 不思議そうに見つめる雪乃たちへ、邸の奥から声が掛かる。

「ようこそ。アークヤー家当主の妻、オスカー・アークヤーですわ」

 そう名乗ったアークヤー公爵夫人は、優雅にドレスの裾を摘まんで、淑女の礼を取った。
 真紅のバラを思わせる赤毛の、三十代前半に見える艶やかな美女だ。緩やかな山形の糸目は、微笑んでいるように見えるのに、なぜか冷たい印象を与える。

「お招き頂きありがとうございます。ローズマリナでございます」

 ローズマリナもスカートの裾を摘まみ、流れるような動作で膝を折った。
 さすがは公爵家の令嬢として育っていたというところか。道中とは違う気品あふれる姿に、雪乃は思わず見惚れてしまった。
 緋色の羽扇を開いたアークヤー公爵夫人は、口元を隠して満足そうにふふっと笑う。

「娘から話は聞いておりますわ。聖女ローズマリナ様。ナルツ様には我がアークヤー家もお世話になりましたの。どうぞ我が家と思って、くつろいでいらして」

 きょとんと、ローズマリナが目を瞬く。

「あの、聖女とはどういうことでしょうか?」

 驚きながらも、ローズマリナは平静を装った声で問い返した。
 公爵夫人は扇に口元を隠し、くすりと笑む。

「あら失礼。ですがルモンでは、あなたは有名ですのよ? あのナルツ様が選んだ唯一の人。きっと本物の聖女のように、清らかな女性に違いない、とね」
「もったいないお言葉です」

 家族以外からの誉め言葉に慣れていないローズマリナは、顔を真っ赤に染めながら深く礼を取った。
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