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ルモン大帝国編2
265.残り三人に
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女性二人が挨拶を交わしたところで、アークヤー公爵夫人の目が周囲に移る。
「そちらは?」
視線を向けられたムダイは、にこりと爽やかな笑みを浮かべた。
「お初にお目にかかります、アークヤー公爵夫人。Sランク冒険者のムダイと申します。お会いできて光栄です」
右手を左胸に当て、ムダイは慣れた様子で紳士の礼を見せた。冒険者でも数えるほどしかいないSランクの彼は、王族や貴族から指名依頼を受けることもある。
その関係で慣れていたのかもしれない。
「お噂は聞き及んでいますわ。殿方はもちろん、令嬢方もあなたの噂で持ちきりですもの。それにパトがお世話になっているとか」
「こちらこそ、パト君には色々と教えてもらって助かっています」
にこにこと、穏やかな会話が進んでいく。
眉目秀麗なイケメンムダイが相手だと、公爵夫人といえども顔が緩むようだ。
ひとしきりムダイを堪能した公爵夫人の視線が、ちらりと残り三人に向かった。
雪乃はもうすぐ自分の番かと、幹を伸ばして姿勢を正す。隣のカイは気にする様子もなく、いつもどおりだ。
後ろの魔法使いは厭きたようで、大きな欠伸をしている。公爵夫人の顔が、ぴしりと固まった。
細い糸目が、わずかに開いて鋭く三人を観察する。
洗いざらしのローブを着た魔法使いらしき男が二人。そしてにゃんこローブを着た小さな子供。
護衛に雇われた冒険者だろうと見て取った夫人は、ついっと視線をローズマリナとムダイに戻そうとして、玄関扉の向こうで止まった。
屋内に足を踏み入れることなく、開いた扉の外で待っていたフレックが、公爵夫人の視線に気付いて深く頭を下げる。
「害虫がいるようですわね。入らないように扉を閉めなさい」
公爵夫人の言葉に、雪乃は驚いて彼女の顔を見、それからフレックに振り向いた。
頭を垂れたままのフレックの口元が、苦しげに歪んだように見えたが、すぐに扉が閉まり見えなくなった。
「さあどうぞ奥へ」
公爵夫人に案内されて、一行は玄関ホールから奥の廊下へと進む。
外は夕暮れに赤く染まり始めていたが、邸の中は明るく、伸びかけていた雪乃の根も戻っていた。
少し進んだところで、すいっと執事が雪乃とカイ、ノムルの前に立ちはだかった。
「護衛の方々は、こちらへどうぞ」
その発言に、ローズマリナとムダイが足を止めて固まる。
言われた雪乃たち三人は、まったく気にしていないのだが、ぎこちなく後ろを振り返ったローズマリナとムダイの顔は、青ざめている。
「えー? どうせならこいつも連れていってよー。俺はユキノちゃんと二人きりがいいー」
「セクハラですか? ご遠慮させていただきます」
機嫌を損ねはしなかったようだと、ローズマリナとムダイは、ほっと胸を撫で下ろす。
しかし公爵夫人と執事のほうが、機嫌を損ねたようだ。口の端がひくりと動いた。
扇がぴしゃりと閉じた音に、ムダイが素早く反応する。下手な言動を起こされないよう、先手を取るため動いた。
「そういえば、紹介していませんでしたね」
にこやかな笑みを浮かべて、公爵夫人の正面に立つ。
美しい青年の爽やかスマイルに、思わず頬を染めて目尻を緩めた公爵夫人。ムダイはすぐさま口を開く。
「至高にして孤高の魔法使いと名高いノムル・クラウさんと、彼の娘の雪乃ちゃん。それに彼女の友人であるカイ君です」
「雪乃です」
「カイだ」
ムダイに紹介されたので、雪乃もぺこりとお辞儀をする。カイも一応、名乗った。
おっさん魔法使いは、
「ムダイ、よく分かってるじゃないか。そう、俺が雪乃ちゃんのおとーさんの、ノムル・クラウだ」
と、きりりと表情を引き締めてご満悦だ。
思わず視線を斜め下へと向けた、ムダイとローズマリナ。一方で、公爵夫人とアークヤー家の使用人たちは、瞠目してノムルを凝視している。
「の、ノムル・クラウ様とは、あの? 魔法ギルドの総帥であられる、至高の魔法使い様でしょうか?」
ぱくぱくと開け閉めしていた公爵夫人の口から、ようやく言葉が出てきたようだ。ノムルの様子を窺いながらも、目は確かめるようにムダイへと向かっている。
「ええ、そのノムル・クラウさんです」
剥がれ落ちそうな爽やかスマイルを、なんとか引っ付けたままムダイが答えれば、アークヤー公爵夫人は、慌てて膝を折って最上級の礼を披露した。
「も、申し訳ございません、ノムル・クラウ様。気付かずご無礼をいたしましたこと、どうぞお許しください」
ドレスの裾を摘まむ手が、ぷるぷると震えていた。使用人たちも、慌てて膝を付いて深くお辞儀をしている。
まるでお忍び中の皇帝に出くわしてしまったかのような騒ぎだ。
驚いた雪乃は、きゅっとカイの手を握り締めて縋り寄る。それから周囲をきょどきょどと見回した。
「くっ。おい狼! いい加減に代われ! 俺のユキノちゃんだぞ?!」
周囲の感情も空気も、まったく興味のないノムル・クラウは、嫉妬にローブを噛みしめていた。
威厳も何もあったものではない。
雪乃とカイは、残念なものを見るようにノムルに呆れ眼を向け、ムダイとローズマリナは、額を押さえて俯いた。
どれほど高名が広まっていようとも、ノムル・クラウは親ばかノムルなのである。
怯えるように震えていたアークヤー公爵夫人や使用人たちも、ぽかーんと口を開けて、目の前の光景を見つめていた。
「あー、深く考えないほうがいいですよ? あの人に、威厳なんてものは無いですから。娘の雪乃ちゃんにさえ危害を加えなければ、機嫌を損ねることは滅多にありません」
ムダイの説明に、困惑しながらも頷く公爵夫人であった。
応接室に通されてから、改めて公爵夫人はノムルに対して挨拶をした。
「我が家にお招きできて光栄ですわ。偉大なる魔法使い、ノムル・クラウ様。当主が留守にしておりますこと、お詫び申し上げます。すぐに戻るように伝えおきましたので、しばらくは私がお相手いたしますこと、ご容赦くださいませ」
丁寧に辞儀をし、彼の魔法使いの出方を見る。
しかし、
「ユキノちゃーん、おとーさんのお膝においでよー」
親ばか魔王様は、公爵夫人の挨拶など気にも留めず、カイの膝の上に座っている雪乃に両手を差し出していた。
どんな場面でも、感情を表に出さないように鍛えられていたはずの公爵夫人も、ノムル・クラウの前では白旗を上げるしかない。眉と口角が、ひくひくと動いている。
公爵家の使用人たちも、表情筋を総動員させて、しかめそうになる表情を押さえ込んでいた。
「そちらは?」
視線を向けられたムダイは、にこりと爽やかな笑みを浮かべた。
「お初にお目にかかります、アークヤー公爵夫人。Sランク冒険者のムダイと申します。お会いできて光栄です」
右手を左胸に当て、ムダイは慣れた様子で紳士の礼を見せた。冒険者でも数えるほどしかいないSランクの彼は、王族や貴族から指名依頼を受けることもある。
その関係で慣れていたのかもしれない。
「お噂は聞き及んでいますわ。殿方はもちろん、令嬢方もあなたの噂で持ちきりですもの。それにパトがお世話になっているとか」
「こちらこそ、パト君には色々と教えてもらって助かっています」
にこにこと、穏やかな会話が進んでいく。
眉目秀麗なイケメンムダイが相手だと、公爵夫人といえども顔が緩むようだ。
ひとしきりムダイを堪能した公爵夫人の視線が、ちらりと残り三人に向かった。
雪乃はもうすぐ自分の番かと、幹を伸ばして姿勢を正す。隣のカイは気にする様子もなく、いつもどおりだ。
後ろの魔法使いは厭きたようで、大きな欠伸をしている。公爵夫人の顔が、ぴしりと固まった。
細い糸目が、わずかに開いて鋭く三人を観察する。
洗いざらしのローブを着た魔法使いらしき男が二人。そしてにゃんこローブを着た小さな子供。
護衛に雇われた冒険者だろうと見て取った夫人は、ついっと視線をローズマリナとムダイに戻そうとして、玄関扉の向こうで止まった。
屋内に足を踏み入れることなく、開いた扉の外で待っていたフレックが、公爵夫人の視線に気付いて深く頭を下げる。
「害虫がいるようですわね。入らないように扉を閉めなさい」
公爵夫人の言葉に、雪乃は驚いて彼女の顔を見、それからフレックに振り向いた。
頭を垂れたままのフレックの口元が、苦しげに歪んだように見えたが、すぐに扉が閉まり見えなくなった。
「さあどうぞ奥へ」
公爵夫人に案内されて、一行は玄関ホールから奥の廊下へと進む。
外は夕暮れに赤く染まり始めていたが、邸の中は明るく、伸びかけていた雪乃の根も戻っていた。
少し進んだところで、すいっと執事が雪乃とカイ、ノムルの前に立ちはだかった。
「護衛の方々は、こちらへどうぞ」
その発言に、ローズマリナとムダイが足を止めて固まる。
言われた雪乃たち三人は、まったく気にしていないのだが、ぎこちなく後ろを振り返ったローズマリナとムダイの顔は、青ざめている。
「えー? どうせならこいつも連れていってよー。俺はユキノちゃんと二人きりがいいー」
「セクハラですか? ご遠慮させていただきます」
機嫌を損ねはしなかったようだと、ローズマリナとムダイは、ほっと胸を撫で下ろす。
しかし公爵夫人と執事のほうが、機嫌を損ねたようだ。口の端がひくりと動いた。
扇がぴしゃりと閉じた音に、ムダイが素早く反応する。下手な言動を起こされないよう、先手を取るため動いた。
「そういえば、紹介していませんでしたね」
にこやかな笑みを浮かべて、公爵夫人の正面に立つ。
美しい青年の爽やかスマイルに、思わず頬を染めて目尻を緩めた公爵夫人。ムダイはすぐさま口を開く。
「至高にして孤高の魔法使いと名高いノムル・クラウさんと、彼の娘の雪乃ちゃん。それに彼女の友人であるカイ君です」
「雪乃です」
「カイだ」
ムダイに紹介されたので、雪乃もぺこりとお辞儀をする。カイも一応、名乗った。
おっさん魔法使いは、
「ムダイ、よく分かってるじゃないか。そう、俺が雪乃ちゃんのおとーさんの、ノムル・クラウだ」
と、きりりと表情を引き締めてご満悦だ。
思わず視線を斜め下へと向けた、ムダイとローズマリナ。一方で、公爵夫人とアークヤー家の使用人たちは、瞠目してノムルを凝視している。
「の、ノムル・クラウ様とは、あの? 魔法ギルドの総帥であられる、至高の魔法使い様でしょうか?」
ぱくぱくと開け閉めしていた公爵夫人の口から、ようやく言葉が出てきたようだ。ノムルの様子を窺いながらも、目は確かめるようにムダイへと向かっている。
「ええ、そのノムル・クラウさんです」
剥がれ落ちそうな爽やかスマイルを、なんとか引っ付けたままムダイが答えれば、アークヤー公爵夫人は、慌てて膝を折って最上級の礼を披露した。
「も、申し訳ございません、ノムル・クラウ様。気付かずご無礼をいたしましたこと、どうぞお許しください」
ドレスの裾を摘まむ手が、ぷるぷると震えていた。使用人たちも、慌てて膝を付いて深くお辞儀をしている。
まるでお忍び中の皇帝に出くわしてしまったかのような騒ぎだ。
驚いた雪乃は、きゅっとカイの手を握り締めて縋り寄る。それから周囲をきょどきょどと見回した。
「くっ。おい狼! いい加減に代われ! 俺のユキノちゃんだぞ?!」
周囲の感情も空気も、まったく興味のないノムル・クラウは、嫉妬にローブを噛みしめていた。
威厳も何もあったものではない。
雪乃とカイは、残念なものを見るようにノムルに呆れ眼を向け、ムダイとローズマリナは、額を押さえて俯いた。
どれほど高名が広まっていようとも、ノムル・クラウは親ばかノムルなのである。
怯えるように震えていたアークヤー公爵夫人や使用人たちも、ぽかーんと口を開けて、目の前の光景を見つめていた。
「あー、深く考えないほうがいいですよ? あの人に、威厳なんてものは無いですから。娘の雪乃ちゃんにさえ危害を加えなければ、機嫌を損ねることは滅多にありません」
ムダイの説明に、困惑しながらも頷く公爵夫人であった。
応接室に通されてから、改めて公爵夫人はノムルに対して挨拶をした。
「我が家にお招きできて光栄ですわ。偉大なる魔法使い、ノムル・クラウ様。当主が留守にしておりますこと、お詫び申し上げます。すぐに戻るように伝えおきましたので、しばらくは私がお相手いたしますこと、ご容赦くださいませ」
丁寧に辞儀をし、彼の魔法使いの出方を見る。
しかし、
「ユキノちゃーん、おとーさんのお膝においでよー」
親ばか魔王様は、公爵夫人の挨拶など気にも留めず、カイの膝の上に座っている雪乃に両手を差し出していた。
どんな場面でも、感情を表に出さないように鍛えられていたはずの公爵夫人も、ノムル・クラウの前では白旗を上げるしかない。眉と口角が、ひくひくと動いている。
公爵家の使用人たちも、表情筋を総動員させて、しかめそうになる表情を押さえ込んでいた。
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