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ルモン大帝国編2
266.ご冗談を仰らないでくださいませ
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「とりあえず、あの親子のことは放っておいてくださって構いませんから。……ホテルにでも置いてくるべきでしたね。配慮が足らずに申し訳ありません」
軽く謝罪するムダイに、公爵夫人はぎょっと目を剥く。
「ご冗談を仰らないでくださいませ。ノムル・クラウ様を我が邸にお迎えできるなど、光栄の至りですわ」
親ばかっぷりを見ても、ノムル・クラウの威光は消えないようだ。
「パトから伺っておりましたのに、気付かぬとは真にお恥ずかしい限りです。その節はパトをお救いくださり、ありがとうございました」
深々と、公爵夫人は頭を垂れる。
カイから奪って頬擦りしようと奮闘するノムルに、枝を突っ張って対抗していた雪乃は、幹を向ける。
「パトさんですか?」
ぽてりと幹を傾げて、雪乃はうーんっと唸る。
思い出そうと頑張ってみるが、誰のことだか分からない。自分と出会う前のノムルが何かしたのだろうと、思い出すことをやめた。
そんなことよりも、雪乃は親ばか魔王との戦いが忙しい。
「カイさんのお膝の上でも襲ってくるとは、どこまで進化するつもりですか? ふんにゅうー!」
公爵家の邸でも、自粛という言葉は使われないようだ。王族の前でも騒いでいたのだから、今更か。
雪乃はノムルから逃れようと、必死である。
「ほら、ナルツたちと一緒に、覆面の子がいなかった? 弓使いの」
雪乃とノムルの戦いなどいつものことと気にせず、ムダイは説明した。
枝を突っ張りながら、雪乃はムダイを見る。じいっと見つめていた雪乃は、
「おお! あの方ですか。パトさんと仰るのですね」
と、声を上げる。どうやら思い出したようだ。
パトはナルツやフレックと共に、街道近くに巣を作った飛竜を討伐するために派遣された、冒険者の一人だった。彼も深手を負っていたが、雪乃の薬草により、後遺症もなく完治した。
小柄で影が薄く、思い出しても雪乃の記憶には、ぼんやりとしか顔が浮かんでこない。
ふと、雪乃は気付いて真顔になる。
「パトさんは公爵家のご子息だったのですか?」
フレックが実は貴族の息子だったと、ムダイから聞いたことを思い出し、雪乃は問う。うっかり色々と失礼なことをやらかしたかもしれないと、少し心配になってくる。
「いいえ、パトは娘が拾ってきた使用人ですわ」
ふふっと扇を開いて笑う公爵夫人だが、目は虚ろで笑っていなかった。
彼女の目の前では、貴族のご夫人が目にすることなど無いであろう光景が、繰り広げられているのだ。仕方あるまい。
そこに、廊下から足音が響いてきた。
扉が叩かれ現れたのは、二人の男だった。
男の一人は四十代ほどの、黒々とした髪と燃えるような赤い瞳の、獅子を思わせる威厳あふれるナイスミドルだ。
そして今一人は、雪乃も見知った元騎士の冒険者、ナルツである。白い騎士服に身を包んだ彼は、以前にも増した精悍さをまとっていた。
物語に出てきそうな眉目秀麗の騎士に、思わず雪乃も目を凝らして、ほうっと吐息を漏らす。
ナルツは部屋の中へと視線を向けるなり、一点に釘付けになる。その表情が、蕩けるように柔らかく笑み崩れた。
愛しくてたまらないと、口に出さずとも分かるほどに、目が訴えている。
その視線の先では、ローズマリナが両手で口元を押さえ、涙を浮かべていた。
「ナルツ様……」
こぼれ落ちた声。
雪乃はローズマリナを見ようと、
「お願いだから、落ち着いてください。空気を読んでください。今、感動の場面なんですから。ふんにゅうううーっ!」
戦っていた。
感動の再会を彩っていた、花やらキラキラとした光のオーブといった幻覚が、一瞬でどこかへ逃げ去った。
「雪乃ちゃん、せっかくの雰囲気が台無しだよ」
ムダイから浴びせられたツッコミに、雪乃はがく然とした。
「わ、私ですか?」
呆けて力が抜けてしまった雪乃の隙を突いて、ノムルは小さな樹人をゲットする。油断大敵、頬を摺り寄せられた雪乃は、悲鳴を上げた。
「みぎゃあああーっ! ぐぬぬぬ、お髭には負けません!」
部屋には何とも言いがたい、微妙な空気が淀んでいた。小さな樹人の悲鳴の影で、常識人たちの太い溜め息が虚しく落ちる。
テーブルの上に、温かな緑茶とカンヨーが並ぶ。カンヨーの乗った小皿には、ピンクの結晶が添えられていた。
雪乃は気になるが、食べることができたいため、それが何か確かめることができない。じいっと、周囲の人間たちの様子を窺った。しかし誰も手をつけようとしない。
「アークヤー家当主、ジャルジャ・アークヤーです。我が家にお招きできて光栄です、偉大なる魔法使い、ノムル・クラウ様」
さすがは皇族に次ぐ地位にある男と言うべきか。アークヤー公爵は混沌とした状況でも、きちんと挨拶を行った。更にはノムルからの返事がなくとも、気にせず話を進めていく。
雪乃はカイの膝の上で、息を殺している。
では親ばか魔王はどうしているのかと言うと、
「ユキノちゃん、おとーさんのこと好きー?」
「「「わー!」」」
「そっかそっかー。おとーさんもユキノちゃんのこと、大好きだよー」
「「「わー!」」」
三匹のマンドラゴラに夢中になっていた。
決して指摘してはいけない。わずかでも違和感に気付かれてしまえば、再び会話は進まなくなる。
全員は心を一致団結させ、全力でノムル・クラウとマンドラゴラを、意識の外へ弾き出した。
「これ、部屋を変えてもらったほうが良くない? ノムルさんも二人っきりのほうがいいですよね?」
「おー、どこへでも行け」
警戒しながら会話をすることに疲れたらしいムダイが、早々に提案した。
ノムルの返事を聞くなり、一同は迷うことなく頷きあって、部屋から立ち去った。残されたノムルとマンドラゴラは、
「「「わー!」」」
「うんうん、おとーさんもだよー」
「「「わー!」」」
と、なんだか巧くやっている。
気まずさとわずかな罪悪感に包まれながら、雪乃たちは声が聞こえぬよう、離れた部屋へと移ったのだった。
改めて、一同はソファに座り直す。なんだか全員、疲れたように肩を落としている。
それでも優秀な侍女たちが、全員分の紅茶を淹れ直し、新しいカンヨーも配膳してくれた。
最初に通された部屋に残されたカンヨーはきっと、全てノムルのお腹に収まるのだろう。
「どうぞ遠慮なくお食べください。ラトヤのカンヨーと、桃色塩ですわ」
ピンクの結晶の正体が分かり、
「おおー」
と、声を上げそうになった雪乃だが、慌てて口元を押さえる。
今更だが、やんごとなき身分の御方の家にいることを、思い出したようだ。
軽く謝罪するムダイに、公爵夫人はぎょっと目を剥く。
「ご冗談を仰らないでくださいませ。ノムル・クラウ様を我が邸にお迎えできるなど、光栄の至りですわ」
親ばかっぷりを見ても、ノムル・クラウの威光は消えないようだ。
「パトから伺っておりましたのに、気付かぬとは真にお恥ずかしい限りです。その節はパトをお救いくださり、ありがとうございました」
深々と、公爵夫人は頭を垂れる。
カイから奪って頬擦りしようと奮闘するノムルに、枝を突っ張って対抗していた雪乃は、幹を向ける。
「パトさんですか?」
ぽてりと幹を傾げて、雪乃はうーんっと唸る。
思い出そうと頑張ってみるが、誰のことだか分からない。自分と出会う前のノムルが何かしたのだろうと、思い出すことをやめた。
そんなことよりも、雪乃は親ばか魔王との戦いが忙しい。
「カイさんのお膝の上でも襲ってくるとは、どこまで進化するつもりですか? ふんにゅうー!」
公爵家の邸でも、自粛という言葉は使われないようだ。王族の前でも騒いでいたのだから、今更か。
雪乃はノムルから逃れようと、必死である。
「ほら、ナルツたちと一緒に、覆面の子がいなかった? 弓使いの」
雪乃とノムルの戦いなどいつものことと気にせず、ムダイは説明した。
枝を突っ張りながら、雪乃はムダイを見る。じいっと見つめていた雪乃は、
「おお! あの方ですか。パトさんと仰るのですね」
と、声を上げる。どうやら思い出したようだ。
パトはナルツやフレックと共に、街道近くに巣を作った飛竜を討伐するために派遣された、冒険者の一人だった。彼も深手を負っていたが、雪乃の薬草により、後遺症もなく完治した。
小柄で影が薄く、思い出しても雪乃の記憶には、ぼんやりとしか顔が浮かんでこない。
ふと、雪乃は気付いて真顔になる。
「パトさんは公爵家のご子息だったのですか?」
フレックが実は貴族の息子だったと、ムダイから聞いたことを思い出し、雪乃は問う。うっかり色々と失礼なことをやらかしたかもしれないと、少し心配になってくる。
「いいえ、パトは娘が拾ってきた使用人ですわ」
ふふっと扇を開いて笑う公爵夫人だが、目は虚ろで笑っていなかった。
彼女の目の前では、貴族のご夫人が目にすることなど無いであろう光景が、繰り広げられているのだ。仕方あるまい。
そこに、廊下から足音が響いてきた。
扉が叩かれ現れたのは、二人の男だった。
男の一人は四十代ほどの、黒々とした髪と燃えるような赤い瞳の、獅子を思わせる威厳あふれるナイスミドルだ。
そして今一人は、雪乃も見知った元騎士の冒険者、ナルツである。白い騎士服に身を包んだ彼は、以前にも増した精悍さをまとっていた。
物語に出てきそうな眉目秀麗の騎士に、思わず雪乃も目を凝らして、ほうっと吐息を漏らす。
ナルツは部屋の中へと視線を向けるなり、一点に釘付けになる。その表情が、蕩けるように柔らかく笑み崩れた。
愛しくてたまらないと、口に出さずとも分かるほどに、目が訴えている。
その視線の先では、ローズマリナが両手で口元を押さえ、涙を浮かべていた。
「ナルツ様……」
こぼれ落ちた声。
雪乃はローズマリナを見ようと、
「お願いだから、落ち着いてください。空気を読んでください。今、感動の場面なんですから。ふんにゅうううーっ!」
戦っていた。
感動の再会を彩っていた、花やらキラキラとした光のオーブといった幻覚が、一瞬でどこかへ逃げ去った。
「雪乃ちゃん、せっかくの雰囲気が台無しだよ」
ムダイから浴びせられたツッコミに、雪乃はがく然とした。
「わ、私ですか?」
呆けて力が抜けてしまった雪乃の隙を突いて、ノムルは小さな樹人をゲットする。油断大敵、頬を摺り寄せられた雪乃は、悲鳴を上げた。
「みぎゃあああーっ! ぐぬぬぬ、お髭には負けません!」
部屋には何とも言いがたい、微妙な空気が淀んでいた。小さな樹人の悲鳴の影で、常識人たちの太い溜め息が虚しく落ちる。
テーブルの上に、温かな緑茶とカンヨーが並ぶ。カンヨーの乗った小皿には、ピンクの結晶が添えられていた。
雪乃は気になるが、食べることができたいため、それが何か確かめることができない。じいっと、周囲の人間たちの様子を窺った。しかし誰も手をつけようとしない。
「アークヤー家当主、ジャルジャ・アークヤーです。我が家にお招きできて光栄です、偉大なる魔法使い、ノムル・クラウ様」
さすがは皇族に次ぐ地位にある男と言うべきか。アークヤー公爵は混沌とした状況でも、きちんと挨拶を行った。更にはノムルからの返事がなくとも、気にせず話を進めていく。
雪乃はカイの膝の上で、息を殺している。
では親ばか魔王はどうしているのかと言うと、
「ユキノちゃん、おとーさんのこと好きー?」
「「「わー!」」」
「そっかそっかー。おとーさんもユキノちゃんのこと、大好きだよー」
「「「わー!」」」
三匹のマンドラゴラに夢中になっていた。
決して指摘してはいけない。わずかでも違和感に気付かれてしまえば、再び会話は進まなくなる。
全員は心を一致団結させ、全力でノムル・クラウとマンドラゴラを、意識の外へ弾き出した。
「これ、部屋を変えてもらったほうが良くない? ノムルさんも二人っきりのほうがいいですよね?」
「おー、どこへでも行け」
警戒しながら会話をすることに疲れたらしいムダイが、早々に提案した。
ノムルの返事を聞くなり、一同は迷うことなく頷きあって、部屋から立ち去った。残されたノムルとマンドラゴラは、
「「「わー!」」」
「うんうん、おとーさんもだよー」
「「「わー!」」」
と、なんだか巧くやっている。
気まずさとわずかな罪悪感に包まれながら、雪乃たちは声が聞こえぬよう、離れた部屋へと移ったのだった。
改めて、一同はソファに座り直す。なんだか全員、疲れたように肩を落としている。
それでも優秀な侍女たちが、全員分の紅茶を淹れ直し、新しいカンヨーも配膳してくれた。
最初に通された部屋に残されたカンヨーはきっと、全てノムルのお腹に収まるのだろう。
「どうぞ遠慮なくお食べください。ラトヤのカンヨーと、桃色塩ですわ」
ピンクの結晶の正体が分かり、
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