『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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ルモン大帝国編2

267.そういえば、なぜナルツさんが

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 くすくすと笑う声に雪乃が顔を上げると、ローズマリナの隣に座るナルツが、雪乃のほうを悪戯っぽく見た。

「あれ以来、流行ってるんだよ。カンヨーに塩を付けて食べるのが」

 どうやら雪乃がノムルに、カンヨーに塩を付けて食べることを進めたことが原因のようだ。

「パトから教えてもらったのですけど、甘みが引き立って美味しいですわよ」

 ふふっと笑う公爵夫人の言葉に、雪乃は葉をきらめかせる。小さなことだが、喜んでもらえれば嬉しい。

「そういえば、なぜナルツさんがマンドラゴラを連れているのでしょう?」

 ナルツとローズマリナの間にちょこんっと座っているマンドラゴラに、全員の視線が集中する。
 このマンドラゴラ、雪乃が出したわけではない。カイに付いているマンドラゴラでもない。
 雪乃がナルツと再会した後で、ナルツの懐から三匹のマンドラゴラが飛び出してきたのだ。
 そのうち二匹は、カイのマンドラゴラと共に、親ばか魔王様を謀っている。

「わー」

 ぴょこんっと立ち上がったマンドラゴラは、きょときょとと辺りを見回した後、ローズマリナの膝を越えて、雪乃の元にやってきた。
 それから雪乃の肩まで登ると、葉をもっさもっさと雪乃の顔に当ててくる。
 話があるのだと気付いた雪乃は、部屋の中を見回す。

 カイたちやナルツは雪乃の正体を知っているが、アークヤー公爵夫妻と使用人たちは知らない。
 ソファの陰に隠れようかとも考えたが、使用人全員の視線を切ることは難しそうだ。
 うーんと幹を捻った雪乃は、くるりと向きを変えて、ソファの背もたれに顔を隠すように丸まった。

 小さな子供の奇行に、一瞬だけ注目が集まるが、小さな子供のすることだ。すぐに微笑して注目は逸れた。
 正確には、雪乃がマンドラゴラと何かしようとしていることに気付いたムダイたちが、アークヤー公爵家の気を逸らすために、適当に話題を振ってくれたのだが。

 雪乃はフードの中にマンドラゴラを入らせると、葉と葉を合わせて情報を受け取る。
 その内容に、雪乃はわずかに目眩を覚えた。

「なるほど、了解しました。大冒険でしたね」
「わー」

 フードから出て雪乃に葉を撫でられたマンドラゴラは、嬉しそうに答える。
 雪乃が正面に向き直ると、マンドラゴラもナルツの元へ戻った。
 大人たちの視線が、再び雪乃とマンドラゴラへ向かう。

「もしかしてこのマンドラゴラは、ユキノちゃんのだったのかな? 普通のマンドラゴラと違って、人馴れしているようだから、気になっていたんだけど」

 戻ってきたマンドラゴラを掌に乗せながら、ナルツが心配そうに問うた。

「いえ。すでに彼との契約は切れていますから、お気になさらず。大切にしてあげてください」

 言って雪乃は、ナルツとマンドラゴラに向かって葉をきらめかせる。
 先ほどの伝えられた内容によると、三匹のマンドラゴラは、ヤナの町で冒険者たちの元に残してきたマンドラゴラたちだった。
 どうやらヤナの町に住む冒険者たちとの関係に厭きたらしく、ユキノを追ってルモン大帝国に辿り着き、ナルツと出会ったらしい。
 そのままナルツを気に入って、共に行動するようになったのだとか。
 一緒にいた魔法使いが食べようとしたのだと、しっかり告げ口も忘れない。おそらくマグレーンかタッセのことだろうと、雪乃は考える。

「契約? マンドラゴラとか?」

 アークヤー公爵の声で、雪乃は思考を引き戻した。なぜか公爵には、戸惑いの表情が浮かんでいる。
 うっかり妙なことを口走ってしまったようだと、雪乃は顔を青くした。どう誤魔化すかと、頭を回転させる。

「魔物と契約する魔法使いの話はたまに聞くが、マンドラゴラは、動くとはいえ植物ではないのか?」

 どうやら魔物などと契約することはあるようだ。これならば適当に誤魔化せるかと、雪乃は算段を付ける。しかし、

「やっぱり珍しいですよね。冒険者ギルドでも確認されたばかりなんですよ。自我の有るマンドラゴラが存在するって。でもまだ発見されたばかりで解明できていない部分が多いので、公表されるまでは、できたら口外しないでいただけると助かるのですが」

 と、雪乃が考えている間に、ムダイがにこやかに誤魔化した。

「たしかにマンドラゴラに自我が有るとなると、扱いが変わってきますからな。分かりました。冒険者ギルドの不興を買うほど愚かではありません。他言はいたしませんよ」
「ありがとうございます」

 公爵とSランク冒険者の間で、早々に決着が付いたようだ。
 良いことではあるが、空回りした雪乃はなんだが落ち着かず、幹を捻った。そんな雪乃の頭を、カイが撫でている。

「それで、これからの話だが」

 と、公爵の目はナルツとローズマリナへと移る。
 二人の表情が、緊張に厳しくなった。

「公爵家の令嬢となると、外交にも関わる。公爵家の許しがない状態で婚姻するのは、いささか問題があるだろう。娘を持つ父親としても、出来ればゴーリー公爵と、和解してほしいと思うのだが」

 ローズマリナは、膝の上でぎゅっと拳を握った。その手の上に、ナルツの手が優しく重なる。

「聞けばナルツ殿とローズマリナ嬢の婚姻が反対されたのは、身分の問題だと聞いたが、他にも問題はあるのかね?」
「いいえ、身分以外には聞いておりません」

 けれど、それが最大の難題なのだと、ローズマリナは思う。
 生まれながらに付随する身分を変えることは、難しい。国に大きな貢献をした者に爵位を与えられることもあるが、滅多に起こることではない。仮にそのような事態が起こったとしても、公爵家の娘が嫁ぐには低い身分だ。

 家を出て庶民に下ったつもりのローズマリナだが、公式に絶縁されたわけではない。
 一人で生きていく分には公爵家の名から離れることもできるが、婚姻となれば、そうもいかないだろう。どうしても、公爵家の影がちらついてしまう。

 俯くローズマリナに、アークヤー公爵は頷く。

「ナルツ殿は、皇太子妃付きの近衛騎士を拝命することが決まっている。爵位は男爵となる」

 驚きに目を瞠りながら、顔を上げたローズマリナはアークヤー公爵を凝視し、次いでナルツを見た。
 平民出身の騎士が、皇族の近衛騎士を拝命するなど、ゴリン国では滅多に無いことだ。しかもナルツは、このルモン大帝国の人間でさえない。
 驚いているローズマリナに、ナルツは大きく首を縦に揺らす。
 公爵は愉快そうに目元を緩めた後、苦虫を噛み潰したような顔になって説明を始めた。
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