『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

文字の大きさ
216 / 385
ルモン大帝国編2

268.握りこまれた扇がミシミシと

しおりを挟む
「自国の恥を晒すようだが、六年ほど前に、皇太子となるはずだった第一皇子やその側近達が、一人の悪女に誑かされて国を乱したことがあったのだ。あのままだと、我が国は大きく国力をそがれていただろう」

 ソファの背もたれに体を預けた公爵は、眉や額に深いしわを寄せる。公爵夫人も扇で口元を隠しているが、握りこまれた扇がミシミシと音とを立てていた。

「現皇太子である第二皇子殿下とナルツ殿が、女の本性を暴いたことで事を収めることができた。その件で王太子殿下はナルツ殿を高く評価し、近衛になるよう何度も誘いをかけていた」

 ちらりと、公爵の目がナルツを射る。
 ナルツは苦笑を浮かべて曖昧に濁しているが、皇族からの誘いを蹴るなど、不敬に問われかねない。ローズマリナは心配そうにナルツを見上げた。

「今回ようやくナルツ殿が皇太子殿下の誘いを承諾したとの事で、気が変わらぬうちに、爵位を与えて取り込むことになったわけだ」

 公爵はにやりと口角を上げて、ナルツとローズマリナを交互に見る。
 ローズマリナは驚き通しだ。離れている間に、想い人は他国で高い評価を受けていたのだから。

「そんなわけで、ナルツ殿とローズマリナ嬢の婚姻を成立させるために、皇太子殿下夫妻を中心に動いている。なに、国力の差もあることだ。まず問題なく婚姻は結べるだろう」

 かかと公爵は愉快そうに声を上げて笑った。
 雪乃も嬉しそうに葉をきらめかせる。

「良かったですね、ローズマリナさん、ナルツさん」

 ぽかんっと口を開けて目を瞬いていたローズマリナは、雪乃の言葉にはっと正気に戻り、笑みをこぼした。その目には、涙が浮かんでいる。

「ありがとうございます、アークヤー公爵様。ありがとう、ユキノちゃん」

 涙に濡れるローズマリナの肩を、ナルツが優しく抱き寄せる。

 ローズマリナが落ち着いたところで、雪乃はポシェットの中から、小さな包みを取り出した。

「ローズマリナさん、ナルツさん、これ、お祝いです」
「ありがとう。なにかしら?」

 雪乃から包みを受け取ったローズマリナは、その場で包みを開く。ナルツも恋人の手元を覗き込んだ。

「あら、可愛いハート型の魔石ね。こちらの魔法石は何かしら?」

 出てきたのは、小指の爪にも満たない、小さなハート型をした透明な石だ。それと銀色をした、小指の先ほどの小さな魔法石だった。

「もしかして、双子石かしら?」

 ローズマリナの掌に乗るハート型の魔石を目に留めた公爵夫人が、目を輝かせてはしゃいだ声を上げた。
 先ほどまでの落ち着いた雰囲気はどこへやら、身を乗り出して凝視している。

「何だ? それは」

 双子石を知らないらしいアークヤー公爵が、夫人に問うた。

「これだから殿方は無粋でいけないわ。双子石というのは、コダイ国で産出される愛の石よ。想い合う恋人が二人で魔力を込めると、赤く色を変えると言われているの」

 頬を赤く染めてうっとりとした表情で語る公爵夫人。女性は幾つになっても、恋に恋する乙女なのかもしれない。
 公爵夫人の説明を聞き、ローズマリナとナルツの視線が、雪乃へと向かう。雪乃は肯定するように、幹を縦に振った。
 恋人たちの頬も赤く染まり、笑みが浮かぶ。

「さあ、さあ、見せてちょうだい。あなた達の愛の印を!」

 ソファから立ち上がって二人の傍まで来た公爵夫人は、糸状の目がわずかに開き、ギラギラと双子石を見つめている。
 対するローズマリナとナルツは、公爵夫人のあまりの勢いに、ちょっと引き気味だ。

「そんなに素晴らしい石ならば、お前とフランソワにも取り寄せよう」

 妻の威勢に驚いていたアークヤー公爵だったが、微笑を浮かべて執事に命じ始めた。しかしその心遣いに対し、公爵夫人はぎらりと目を光らせて仁王立ちすると、夫に向かって言い放った。

「駄目よ! 双子石は別名『別れの石』。本当に愛し合っていなければ赤く染まらず濁り、恋人たちは別れてしまうのよ?!」

 ぴしりと、空気が固まった。
 全員の視線が双子石に集まり、それから雪乃へと向かう。

「ええっと、たしかに想いによって色が変わるそうですが、別れるとは聞いていません。それにローズマリナさんとナルツさんなら、赤く染まるはずです」

 凍りついた眼差しにたじろぎながらも、雪乃はローズマリナとナルツへ、期待の眼差しを向ける。
 雪乃の発言により、その場の視線はローズマリナとナルツへと移った。

「私は一欠片の迷いもなく、ローズマリナ様を愛していると誓えます」

 ナルツは真摯な瞳でローズマリナをひたと見つめると、愛の言葉を告げた。頬を赤く染め、ふわりと顔をほころばせたローズマリナもまた、愛を返す。

「私も、ナルツ様だけを愛しておりますわ。全てを捨てて、こんなところまで追いかけてきてしまうほどに」

 二人の甘い雰囲気に、室内に感嘆の吐息があふれる。

「いいわ。究極の愛だわ。私もこんな恋愛をしたかった」

 ぐっと拳を握り締めて漏らした公爵夫人の言葉に、アークヤー公爵の顔が、とても気の毒なくらい崩壊していた。

 互いの愛を目と言葉で確かめ合ったローズマリナとナルツは、改めて双子石に向き合う。
 ローズマリナの掌に小さな双子石が乗り、彼女の手ごと包むように、ナルツが手を重ねる。
 見つめあいながら、二人の魔力が小さな石に流れ込んでいった。
 しばらくしてナルツが手を離すと、小さなハート型の双子石は、二つの楕円形の魔法石へと変わっていた。その色は、

「青?」

 公爵夫人の眉根がものすごく寄って、ローズマリナの手に目がくっ付かんばかりに近付いて、魔法石を凝視している。
 ローズマリナとナルツも困惑顔だ。他の面々も、戸惑いを隠せない。

 そんな中、雪乃はきらきらと葉をきらめかせて、ローズマリナとナルツを見つめる。カイも表情を緩めて、雪乃の頭をぽんぽんと撫でていた。
 当然のように、大人たちの視線は雪乃へと向かう。

「青色は、『決して離れることの無い、究極の愛』だそうです。滅多に現れない伝説的な色で、強力な守護の加護を持つ魔法石にもなるそうですよ」

 石屋の店主から聞いた言葉を雪乃が伝えると、一緒に聞いていたカイも首肯した。
 一同は驚きに目を見合わせていたが、すぐに破顔していった。
しおりを挟む
感想 933

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

処理中です...