『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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ルモン大帝国編2

272.じいっとローズマリナを

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 その後、無言のままの大きい種族たちを詰まらなさそうに眺めていたマンドラゴラの一匹が、じいっとローズマリナを見つめだした。
 ナルツの元で待っていた二匹のうちの、片方だ。
 気付いたローズマリナが口元を緩めて眉を上げると、マンドラゴラはナルツの膝からローズマリナの膝へと飛び移る。

「わー」
「あら? もしかして、私といてくれるのかしら?」
「わー」

 ローズマリナが手を差し出すと、マンドラゴラは嬉しそうに葉を摺り寄せた。

「ふふ。可愛いわね。でも良いのかしら?」
「マンドラゴラも、ローズマリナ様の美しさに魅せられたようですね。私は構いません」
「私も構いませんよ。すでに私の管理下から外れていますから」

 ナルツは微笑んで了承する。次いで視線を向けられた雪乃も、嬉しそうに答えた。
 ローズマリナの元にマンドラゴラがいれば、彼女と連絡を取ることができるようになる。
 一方通行だったり、要領を得ない可能性など、問題はあるが。

「では遠慮なく預からせてもらうわね。お名前はあるのかしら?」
「私は付けていませんが」

 と、視線を向けられた雪乃は答えたのだが、すぐに大きい種族たちの視線は、マンドラゴラたちに向けて下がった。ナルツの膝の上にいるマンドラゴラの葉が、なぜか萎れている。
 残りのマンドラゴラが駆け寄り、根を摺り寄せて慰め始めた。

「名前は嫌なのかしら?」

 残念そうに頬に手を添えるローズマリナを、ちらちらと見たマンドラゴラたちは、雪乃を見つめる。

「どうしたのでしょう?」

 幹を傾げた雪乃は、はっと気付いた。
 この三匹は、ヤナの町から逃げ出してきたマンドラゴラたちである。彼らには、冒険者達が付けた名前があったはずだ。

「たしか、マーちゃん」
「わー」

 雪乃が口にすれば、ムダイを慰めようとしたマンドラゴラが返事をした。

「ティンカーベ……ではなくて、えっと、ティンクルベルでしたか?」
「わー」

 今度はローズマリナを選んだマンドラゴラが、返事をする。
 そして最後に、

「エリザベス」
「わー……」

 萎れたマンドラゴラから、なんとも嫌そうな声が返ってきた。
 がっくりと根元を落として、漬物のように萎びている。

「ええっと、そのお名前がお嫌なのですか?」
「わー……」
「そうですか。では新しいお名前を頂いては? 他の二匹は、そのままでよろしいのでしょうか?」

 雪乃が確かめるように聞くと、

「わー!」

 と、エリザベスは嬉しそうに跳ねたが、

「わー?」
「わー?」

 残りの二匹は、どうでも良さそうに返事をした。

「なぜエリザベスだけ、そんなに嫌がるのでしょう?」

 彼らの考えが分からず、雪乃は幹を傾げる。

「もしかして、エリザベスちゃんは女の子なのかしら?」

 ふと思いついたようにローズマリナが問うと、エリザベスは顔を上げて、ふるふると葉を左右に揺らした。
 聞いていた雪乃はぽてりと幹を傾げ、ムダイも訝しげにローズマリナを見ている。

「『エリザベス』は、人間の男の子に付ける名前なのよ」

 雪乃とムダイはローズマリナに合わせていた焦点を放り捨てた。
 マンドラゴラたちも、呆然としてローズマリナを見上げたあと、確かめるように他のマンドラゴラに近付いて葉を寄せ合う。彼らもローズマリナの意見に困惑しているようだ。
 この世界の存在であるはずのマンドラゴラだが、彼らの持つ知識は宿主である雪乃の影響を受けているのかもしれない。
 それはそれとして、雪乃は気になったことを確認する。

「マンドラゴラには、雌株と雄株があったのですか?」

 けれどマンドラゴラたちは、一斉に葉を左右に振った。

「ん?」

 いつの間にか、車の中にはマンドラゴラたちが大量発生していた。気付かぬうちに、雪乃の中からもマンドラゴラたちが出てきていたようだ。

「雌雄は無いのですか?」
「わー」

 頷くマンドラゴラ。

「では気分の問題でしょうか?」
「わー」

 再び頷くマンドラゴラ。

「なるほど」

 雪乃は納得したが、成り行きを見守っていた人間たちは、戸惑いと納得しがたい気持ちで顔が歪んでいた。
 マンドラゴラや樹人の感性は人間とは違うようだと、彼らは気付かれぬように同意しあう。

「じゃあ彼の名前を考えれば良いんだね?」

 自分の膝に乗るマンドラゴラを見つめたナルツは、

「男の子なら、大きくなるようにジャイ○ンはどうだろう?」

 と、命名した。
 ぴしりと、車内の空気が固まる。

「それはやめたほうがいいと思うよ?」

 いつの間にやら、自分の世界から戻ってきていたムダイが、ナルツの命名に待ったを掛けた。

「しかし声による攻撃力は上がりそうです」
「確かに」

 雪乃の言葉に、ムダイは深く首肯する。元日本人には、とてつもない説得力だったようだ。
 そんな二人を不思議そうに見ていたナルツとローズマリナ、フレックだが、ローズマリナとフレックも、ナルツの命名には思うところがあるようだ。
 名付けられかけているマンドラゴラも、ふるふると怯えている。
 そんなわけで、全員一致で否決された。

「ではローズマリナ様にお願いできますか?」

 不思議そうにしていたナルツだったが、特にこだわりはないようで、あっさりとローズマリナに命名権を譲った。

「そうね」

 と、小首を傾げるローズマリナを、これで自分の運命が決まるのだとばかりに、エリザベスはすがるように凝視する。
 ローズマリナは、自分を選んでくれたティンクルベルを見る。

「スターベルはどうかしら?」

 きらきらと、エリザベス改めスターベルの根が光る。ティンクルベルも祝うように、スターベルに身を寄せた。
 どうやら気に入ったようだ。

「ではスターベルで決まりだな。これからもよろしく、スターベル」

 ナルツが指を差し出すと、スターベルも握手を返すように根を寄せる。微笑ましい姿に、車内の空気がほっこりと温かくなった気がした。
 その様子を、じいっと見つめていたマーちゃんは、ティンクルベルとナルツを交互に見比べる。それからフレックを、じいっと凝視した。
 しばらくして、とてとてと歩きだす。

「どうした?」

 膝に乗ってきたマーちゃんに、フレックの視線が向かう。見詰め合う一人と一匹。

「俺のところに来たいのか?」

 目尻を下げて、フレックは問う。
 じいっと見つめ続けるマーちゃん。

「わー……」

 なぜかしょんぼりと葉を萎れさせて、ナルツの元へと戻っていった。
 凍りつく車内の空気。
 ただ一人、嬉しそうな赤い男は、ぽんぽんっと優しくフレックの肩を叩く。白い歯が、きらりんっと輝いた。
 ひくりと、フレックの口角が引きつったのだった。

「何がしたかったのでしょう?」

 色男二人を落ち込ませたマーちゃんを、雪乃は呆然として見下ろした。
 そんなことをしている内に、車は目的地に着いたようで停車した。

「さ、マンドラゴラたち。戻ってください」
「わー」
「わー」
「わー」

 マンドラゴラたちは、それぞれの主の元へと駆け上っていき、身を隠す。
 
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