『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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ルモン大帝国編2

273.雪乃たちは城の中へと

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 車を下りた雪乃の目に入ったのは、堅牢な城だった。
 切り立った崖のようにそびえる四角い城には、角ごとに高い塔が設置されていた。歴史を感じさせる灰色の建物は、見る者を威圧する。

「じゃあ、俺はここで」
「ああ、助かったよ」

 雪乃たちが車から下りると、フレックは車をUターンさせて去っていった。高い塀を過ぎると左折して、車は姿を消す。
 マンドラゴラに気を取られて雪乃は見ていなかったが、城の周りは幾重もの塀が複雑に囲い、迷路のようになっていた。

 ナルツの案内で、雪乃たちは城の中へと入っていく。
 廊下で行き交った人たちは、雪乃とローズマリナをちらりと見ては、瞠目したり、眉を跳ねたりした後で、ナルツと見比べてからなぜか頷いた。
 注目の的であるローズマリナは、身を小さくして俯いている。そんな彼女の耳元に、そっとナルツが囁く。

「顔を上げてください。皆、あなたの美しさに驚いているだけです」

 にっこりと柔らかな笑顔を向けて、ナルツはローズマリナをエスコートしていく。
 ぽてぽてと付いていく雪乃は、二人の様子をにまにまと眺めていた。彼女にも多くの視線が集まっているのだが、まったく気にしていない。
 なにせいつも大魔法使い、ノムル・クラウと共に行動していたのだ。人の視線など、すでに慣れっこになっていた。

 階段に差し掛かると、枝を突きつき、ひょこひょこと上っていく雪乃にナルツが足を止める。

「抱っこしようか?」

 雪乃はふむうっと考える。ちらりとローズマリナを見やると、ふるふると幹を振った。

「お構いなく。大丈夫です」

 きりりとした表情ではっきりと答える。

「遠慮しなくて良いのよ?」

 ローズマリナも優しく声を掛けるが、雪乃は幹を縦には振らない。恋人たちの邪魔をするなど、雪乃の矜持が許さないのだ。
 困ったように笑みを浮かべる二人を放って、雪乃は再び階段を上り始める。
 恋人達からの視線を向けられたムダイは、困ったように口元だけで笑む。

「雪乃ちゃん、ナルツに甘えたら?」
「お馬さんに蹴られる趣味はありません」

 頑なに拒否して、枝を突いては一段一段、上っていく。
 頬を掻いたムダイは雪乃の隣にしゃがみ込み、彼女にだけ聞こえるように問う。

「雪乃ちゃんって、本当は何歳?」

 唐突な問い掛けに、雪乃はぐるんっと幹を回し、

「ふにゃあっ?!」

 バランスを崩して階段から落ちかけた。
 とっさにムダイが受け止めて事なきを得たが、ローズマリナとナルツは、眉根を寄せてムダイを咎めるように見る。

「いきなりなんですか? ムダイさん」
「いや一応、確認をね。今はこんな見た目だけど、さすがに恋人でもない女性を抱っこするのは、ねえ?」

 不機嫌な声を出す雪乃に、ムダイはこそこそと小さな声で言い訳した。
 雪乃はてしっとムダイの手を払うと、再び階段と向き合う。

「小学校は卒業しました。今は中学生のはずです。まだ一度も行ってませんけど」

 棘のある声だが、小さな声で答える。

「はあ?! ちょっと待って、小学校を卒業した頃って、こんなだったっけ? あれ?」

 赤い人は頭を抱えて悩み始めた。自分の世界に入って、ぶつぶつ言っている。

「まったく。大人はどうして自分が子供の頃のことを、忘れてしまうのでしょう? 一部の漫画や小説に出てくるような、純粋無垢な子供なんて、見たことないですよ」

 雪乃もぶつぶつ言いながら、階段を上っていく。
 ウサギムダイを置いてけぼりにして、カメ雪乃は階段を上り終えたのだった。

 階段を上り終えると、再び廊下をぽてぽてと進む。
 思考の沼に入り込んでいたムダイだったが、ナルツに促がされて、夢遊病者のように付いてきている。

「すでにお子が……?」
「再会したのは最近だと聞いたわ」
「別れる前に生していたのでは?」

 ひそひそと囁かれた言葉が耳に入ったようで、ナルツもわずかに顔を赤らめた。ローズマリナにいたっては、首筋まで真っ赤だ。

 ようやく目的の部屋に辿り着き、ナルツの足が止まる。わずかに目を細めた彼の表情は引き締まり、騎士の顔付きになっていた。
 それを見たローズマリナもまた、すうっと息を吸い込むと、柔らかな令嬢の微笑を浮かべてみせる。

「騎士ナルツです。ローズマリナ嬢とムダイ殿をお連れしました」
「入れ」
「失礼いたします」

 扉の前に控えていた騎士が扉を開き、中へと促がされる。
 ナルツにエスコートされたまま入室したローズマリナに続き、雪乃とムダイも部屋に足を踏み入れた。
 状況を理解しているのか、ムダイはSランク冒険者らしく、泰然とした態度で進む。
 いつの間に正気に戻っていたのかと、雪乃は思わず上を向いた。

 室内には、一組の男女がソファに隣り合って座っていた。
 金色の髪がふわりと波打つ青年は、碧い瞳が強い意志を放つ、白馬に乗ってアニメーション映画に現れそうな、ザ・王子様といった雰囲気だ。
 寄り添うのは、ルビーのように輝く赤毛に、少し吊り上がった赤い瞳の、気品あふれる美しい令嬢だった。体のラインに沿った真紅のドレスが、彼女の艶やかな美貌を更に際立たせているようだ。

 きらきらと見つめていた雪乃だが、ふと幹を回して隣の男を見上げる。
 燃えるような長い赤髪に、切れ長の緋色の目。今日は紅のスーツに茜色のシャツと赤いネクタイを合わせている。
 赤色対決である。
 雪乃はぐっと小枝に汗を握り、男と女の戦いを見守った。
 
 ムダイの体が小刻みに震える。どうやら雪乃の思考を読んでしまったようだ。
 なんとか感情を飲み込み、それ以上の醜態を回避する。

「ルモン大帝国が皇太子、アルフレッドだ。噂は聞いている、ゴーリー公爵令嬢、そしてムダイ殿」

 金髪碧眼の王子様は、本物の皇子だったようだ。
 雪乃はほうっと吐息を漏らす。
 以前にも本物の王子を見ているのだが、彼はカボチャパンツの似合う王子様で、白馬に乗って迎えに来る王子様とは少しイメージが違った。

「お目にかかれて光栄ですわ、皇太子殿下。ローズマリナでございます」

 ローズマリナはドレスの裾を取り、淑女の礼を取る。

「お声掛け頂き恐縮です、皇太子殿下。冒険者をしているムダイです」

 ムダイもまた、そつなく右手を胸に当て、恭しく腰を曲げた。
 二人の様子を見ていた雪乃は、自分の番かと幹筋を伸ばしかけたのだが、

「皇太子妃のフランソワよ。お会いするのを楽しみにしていたわ、ゴーリー令嬢。ローズマリナさんと呼んでよろしいかしら? 私のこともフランソワと呼んでくださる?」

 赤髪のフランソワが、ローズマリナに声を掛けた。
 雪乃は何事もなかったかのように、そっと後ろに身を引いて気配を消す。視界が泳いでいたのだが、フードで隠れているため誰にも気付かれることはない。フードがなくても気付かれることはないだろうが。
 草笛でも吹いて誤魔化したい気分だったが、怒られそうなので我慢した。
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