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ルモン大帝国編2
275.もしもノムル・クラウ殿が
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「質問に答えてほしい。もしもノムル・クラウ殿が世界を滅ぼそうとしたら、君はどうする?」
予想外の問い掛けに、雪乃は視界を丸くして、まじまじと皇太子を見詰めた。それから、
「とりあえず、飛び蹴りして罵倒して、落ち着かせます」
と、素直に答えた。
静かだったはずの部屋に、なぜか更なる沈黙が落ちる。
男たちは額を押さえて項垂れ、女たちは瞼を伏せて下を向く。
何か間違ってしまったのだろうかと、雪乃は一同を見回し、それからふむうっと幹を傾げて考えた。
だが特に間違った答えは言っていないと、結論付ける。
「雪乃ちゃん、たぶん、そこじゃない」
心を読んだムダイからツッコミが入ったが、雪乃はやっぱり理解できずに、幹を傾げることしかできない。
「そうは仰られても、ノムルさんと戦っても勝ち目はありませんよ? 世界を滅ぼそうとするなんて、どうせ頭に血が上って血迷っているときです。ショックを与えて意識をこちらに戻して、きちんと説得しなければ」
言いながら、雪乃は気持ちを新たにする。
冗談ではなく、あの魔王様は、うっかりで世界を滅ぼしかねないのだから。
「君たち親子って、どういう思考回路をしているの? ノムルさんの影で気付きにくいけど、雪乃ちゃんもぶっ飛んでるよね?」
「なんと?!」
ムダイの言葉に、雪乃はがく然としてふるふると震える。
「私は常識あるじゅ、いえ、ただの子供です。ノムルさんと同一視されるなんて、非常に不服です」
悲痛な声で訴える雪乃だが、同調してくれる人間は、この場にはいなかった。
ショックを受けて萎れる樹人の子供を慰めてくれる者も、ここにはいなかったのであった。
「なんという屈辱でしょう」
項垂れる小さな子供の姿に心は痛むが、全員がムダイに軍配を上げた。
「えっと、とりあえず、君に危険思想は無いと確認できたということで、この話は忘れよう」
皇太子アルフレッドは、先のやり取りを無かったことにすることで、淀んだ空気を振り払うという力技に出たようだ。
それで良いのかと思いつつも、全員一致でこの案を受け入れる。
「改めて、座ってくれ。ユキノ嬢もそちらの席へ」
促がされて、落ち込みながらも雪乃はソファに上る。
全員が座ったのを見計らい、アルフレッドは口を開く。
「時間が限られるので率直に話そうと思う。君たちの人となりは、騎士ナルツとパトから報告を受けているから、腹の探り合いに時間を割く気は無い。これから話すことは他言しないように」
重々しい口調に、雪乃たちも真剣な眼差しを返す。
同意と受け取ったアルフレッドは、一つ頷いてから話し始めた。
「まずはムダイ殿に問いたい」
「なんでしょう?」
先ほどの崩れた口調も表情も、すっかり無かったものとして、ムダイは余裕の笑みで応じる。
「『プレイヤー』とはなんだ?」
余裕の笑みは、固まった。雪乃は巻き込まれたくないとばかりに、そうっと視線を逸らす。
「冒険者ギルドの依頼のことですね? 僕も依頼されて探していたので、依頼主の許可無く口外することはできません」
すぐに取り繕ったムダイは動揺を押し隠し、ゆったりと出任せを答えた。
皇太子はムダイの瞳を正面から見据える。だが答えを引き出せないと感じたのか、目を細めると質問を変えた。
「ではこれから私が口にする言葉で、耳にしたことのある言葉があれば教えてほしい」
わずかに沈思した後、ムダイは了承した。
皇太子は口を開き、一つ一つの単語をゆっくりと紡いでいく。
微笑みを保っていたムダイの表情が、次第に引きつっていった。雪乃もまた、皇太子の唇の動きを、まじまじと見つめてしまう。
「……カクレキャラ、ハーレムルート、マトメサイト、チャラオ、ハラグロショタ……」
金髪碧眼の完璧皇子から次々と出てくる単語に、元日本人二人の精神はぐったりだ。白旗を上げることが許されるなら、すぐにでも上げてしまいたい。
「ちょ、ちょっと待ってください」
表情を隠せる雪乃より先に、表情筋が限界を迎えたムダイがギブアップした。
「ご存知か?」
にやりと、アルフレッドの口角が上がる。
ふるふると震える雪乃は、巻き込まれないようにソファの肘掛の陰にそっと身を縮めて、気配を消した。
「すみません、それは一人の人間から?」
「ああ、そうだ」
「女性ですか?」
「へえ? 今の単語でそこまで分かるんだ?」
にこにこと笑っているアルフレッドだが、その目はまったく笑っていない。獲物を見据える猛禽類のように、ムダイを凝視している。
「ちなみにその女性は、この国の誰かに言い寄ったりは?」
苦しげに発せられたムダイの問い掛けに、皇太子夫妻は視線を交わす。
「あなたもよくご存知の男達よ。フレック、マグレーン、そしてナルツ。後は第一皇子のレオンハルト殿下」
「フレック、マグレーン、ナルツ、レオンハルト殿下……。えー……?」
ちらりと、ムダイの視線が雪乃に向かう。巻き込まれまいと、小さな樹人は更に小さくなって、肘掛の陰に身を隠した。
だがムダイは、隠れる雪乃を逃さない。
「雪乃ちゃん、なんだか分かる?」
「存じません」
きっぱりと答えた雪乃を、ムダイは胡乱な目で見つめていたが、力にはなってもらえないと理解したようで、情けなく呻いて頭を抱える。
悲壮感あふれる姿を醸し出す赤い男に、雪乃も少しばかり同情の気持ちが生まれてきて、肘掛から顔を出すと、
「もっと他の単語は無いのでしょうか? 例えば、物語の題名のような」
と、助け舟を出してみた。
わずかに眉を跳ねて雪乃を見たアルフレッドは、柳眉の間に皺を寄せ、顎に手を添えた。
「そうだな、『ファーストキッスはルモン味』だったか」
思案顔で絞り出されたアルフレッドの重々しい声に被さるように、ぷふうっと吹き出す音が二つ、発せられた。
「も、申し訳ございません」
一方は、ふるふると震えながらも、必死に笑いを押さえ込んで謝罪する雪乃。
そしてもう一方は、
「や、やめて、アルフレッド。真剣な顔でそんな台詞」
フランソワだった。
小さな子供と愛する妃に笑われて、アルフレッドは赤面して眉間の皺を深くする。屈辱に耐えるように握り締めた拳が、膝の上で震えていた。
この場で最も身分の高い皇太子が辱められている状況に、ローズマリナとナルツは、どうしたものかと目を見交わす。
予想外の問い掛けに、雪乃は視界を丸くして、まじまじと皇太子を見詰めた。それから、
「とりあえず、飛び蹴りして罵倒して、落ち着かせます」
と、素直に答えた。
静かだったはずの部屋に、なぜか更なる沈黙が落ちる。
男たちは額を押さえて項垂れ、女たちは瞼を伏せて下を向く。
何か間違ってしまったのだろうかと、雪乃は一同を見回し、それからふむうっと幹を傾げて考えた。
だが特に間違った答えは言っていないと、結論付ける。
「雪乃ちゃん、たぶん、そこじゃない」
心を読んだムダイからツッコミが入ったが、雪乃はやっぱり理解できずに、幹を傾げることしかできない。
「そうは仰られても、ノムルさんと戦っても勝ち目はありませんよ? 世界を滅ぼそうとするなんて、どうせ頭に血が上って血迷っているときです。ショックを与えて意識をこちらに戻して、きちんと説得しなければ」
言いながら、雪乃は気持ちを新たにする。
冗談ではなく、あの魔王様は、うっかりで世界を滅ぼしかねないのだから。
「君たち親子って、どういう思考回路をしているの? ノムルさんの影で気付きにくいけど、雪乃ちゃんもぶっ飛んでるよね?」
「なんと?!」
ムダイの言葉に、雪乃はがく然としてふるふると震える。
「私は常識あるじゅ、いえ、ただの子供です。ノムルさんと同一視されるなんて、非常に不服です」
悲痛な声で訴える雪乃だが、同調してくれる人間は、この場にはいなかった。
ショックを受けて萎れる樹人の子供を慰めてくれる者も、ここにはいなかったのであった。
「なんという屈辱でしょう」
項垂れる小さな子供の姿に心は痛むが、全員がムダイに軍配を上げた。
「えっと、とりあえず、君に危険思想は無いと確認できたということで、この話は忘れよう」
皇太子アルフレッドは、先のやり取りを無かったことにすることで、淀んだ空気を振り払うという力技に出たようだ。
それで良いのかと思いつつも、全員一致でこの案を受け入れる。
「改めて、座ってくれ。ユキノ嬢もそちらの席へ」
促がされて、落ち込みながらも雪乃はソファに上る。
全員が座ったのを見計らい、アルフレッドは口を開く。
「時間が限られるので率直に話そうと思う。君たちの人となりは、騎士ナルツとパトから報告を受けているから、腹の探り合いに時間を割く気は無い。これから話すことは他言しないように」
重々しい口調に、雪乃たちも真剣な眼差しを返す。
同意と受け取ったアルフレッドは、一つ頷いてから話し始めた。
「まずはムダイ殿に問いたい」
「なんでしょう?」
先ほどの崩れた口調も表情も、すっかり無かったものとして、ムダイは余裕の笑みで応じる。
「『プレイヤー』とはなんだ?」
余裕の笑みは、固まった。雪乃は巻き込まれたくないとばかりに、そうっと視線を逸らす。
「冒険者ギルドの依頼のことですね? 僕も依頼されて探していたので、依頼主の許可無く口外することはできません」
すぐに取り繕ったムダイは動揺を押し隠し、ゆったりと出任せを答えた。
皇太子はムダイの瞳を正面から見据える。だが答えを引き出せないと感じたのか、目を細めると質問を変えた。
「ではこれから私が口にする言葉で、耳にしたことのある言葉があれば教えてほしい」
わずかに沈思した後、ムダイは了承した。
皇太子は口を開き、一つ一つの単語をゆっくりと紡いでいく。
微笑みを保っていたムダイの表情が、次第に引きつっていった。雪乃もまた、皇太子の唇の動きを、まじまじと見つめてしまう。
「……カクレキャラ、ハーレムルート、マトメサイト、チャラオ、ハラグロショタ……」
金髪碧眼の完璧皇子から次々と出てくる単語に、元日本人二人の精神はぐったりだ。白旗を上げることが許されるなら、すぐにでも上げてしまいたい。
「ちょ、ちょっと待ってください」
表情を隠せる雪乃より先に、表情筋が限界を迎えたムダイがギブアップした。
「ご存知か?」
にやりと、アルフレッドの口角が上がる。
ふるふると震える雪乃は、巻き込まれないようにソファの肘掛の陰にそっと身を縮めて、気配を消した。
「すみません、それは一人の人間から?」
「ああ、そうだ」
「女性ですか?」
「へえ? 今の単語でそこまで分かるんだ?」
にこにこと笑っているアルフレッドだが、その目はまったく笑っていない。獲物を見据える猛禽類のように、ムダイを凝視している。
「ちなみにその女性は、この国の誰かに言い寄ったりは?」
苦しげに発せられたムダイの問い掛けに、皇太子夫妻は視線を交わす。
「あなたもよくご存知の男達よ。フレック、マグレーン、そしてナルツ。後は第一皇子のレオンハルト殿下」
「フレック、マグレーン、ナルツ、レオンハルト殿下……。えー……?」
ちらりと、ムダイの視線が雪乃に向かう。巻き込まれまいと、小さな樹人は更に小さくなって、肘掛の陰に身を隠した。
だがムダイは、隠れる雪乃を逃さない。
「雪乃ちゃん、なんだか分かる?」
「存じません」
きっぱりと答えた雪乃を、ムダイは胡乱な目で見つめていたが、力にはなってもらえないと理解したようで、情けなく呻いて頭を抱える。
悲壮感あふれる姿を醸し出す赤い男に、雪乃も少しばかり同情の気持ちが生まれてきて、肘掛から顔を出すと、
「もっと他の単語は無いのでしょうか? 例えば、物語の題名のような」
と、助け舟を出してみた。
わずかに眉を跳ねて雪乃を見たアルフレッドは、柳眉の間に皺を寄せ、顎に手を添えた。
「そうだな、『ファーストキッスはルモン味』だったか」
思案顔で絞り出されたアルフレッドの重々しい声に被さるように、ぷふうっと吹き出す音が二つ、発せられた。
「も、申し訳ございません」
一方は、ふるふると震えながらも、必死に笑いを押さえ込んで謝罪する雪乃。
そしてもう一方は、
「や、やめて、アルフレッド。真剣な顔でそんな台詞」
フランソワだった。
小さな子供と愛する妃に笑われて、アルフレッドは赤面して眉間の皺を深くする。屈辱に耐えるように握り締めた拳が、膝の上で震えていた。
この場で最も身分の高い皇太子が辱められている状況に、ローズマリナとナルツは、どうしたものかと目を見交わす。
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