『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

文字の大きさ
229 / 385
ルモン大帝国編2

281.五冊のノートが

しおりを挟む
「ノートに書きとめたと聞きました」
「回収している。だが暗号で書かれていて、今だ解読されていない」
「構いません。見せていただけますか?」

 アルフレッドは少し考える素振りを見せたが、鈴を鳴らして従者を呼ぶと、ノートを持ってくるように指示を出した。しばらくして、五冊のノートが運ばれてきた。
 ぱらぱらとめくったムダイは、

「雪乃ちゃんにも見せていいですか?」

 と、確認する。

「彼女に解読できると?」
「こう見えても、あのノムル・クラウが唯一認めた子供ですよ?」

 にこりとムダイは自信ありげに笑む。便利な言葉である。

「分かった。ユキノ嬢も見てみてくれ」
「では失礼します」

 お辞儀をして、雪乃はソファから下りて机に近付くと、一冊目のノートを手に取る。
 表紙を開いて文字を見た雪乃は、思わず一言。

「暗号ですね」

 真顔で感想を述べた。

「雪乃ちゃんでもか」
「ムダイさんは私をどういう存在だと思っているんですか?」

 不快感を顕わにムダイを睨んだ雪乃だが、すぐにノートに視線を戻す。
 書かれている文字は、日本語だ。ただし、とてつもなく癖が強い。女の子にたまにある、仲間内でしか通じない謎文字だ。

「えーっと、読みにくいですね」

 ぶつぶつ言いながらも数ページめくった雪乃は、次のノートを手に取る。それも数ページめくってから、次へ、そして更に次へ。
 最後のノートは、降参したムダイが机に戻し、雪乃の手へと渡った。

 皇太子夫妻とナルツ、ローズマリナは、息を飲んで雪乃の行動を見つめている。しかし数枚めくってはすぐに机上に戻す姿に、やはり読めないのかと、失望を覗かせる。
 五冊目のノートも同じように数ページだけめくると、雪乃は再びノートを一冊ずつ手に取った。

「ナルツさん」
「なんだい?」
「ん?」

 名前を呼ばれて応じたナルツに対して、雪乃は不思議そうに顔を上げる。
 ナルツもまた、不思議そうに雪乃を見下ろす。

「ああ、すみません。ナルツさんを呼んだわけではなく、そのご令嬢が声を掛けていたという男性の名前を確認しただけです」
「そういうことだったんだ。気にしないで」

 納得したナルツは、照れ笑いを浮かべながら身を引く。
 雪乃はノートを一冊ずつ手にしては、名前を口にしながら机の上に並べていく。

「フレックさん、マグレーンさん、レオンハルト皇子様」

 その動作に、いち早くアルフレッドが気付いた。

「ちょっと待て。まさか本当に読めたのか?」

 雪乃とアルフレッドの会話に、ナルツとフランソワがぎょっと目を剥いた。
 なにせ国で雇うほどの優秀な文官たちでさえ、まともに解読できなかった暗号文字だ。それを小さな子供が、まるで理解しているかのように振舞っているのだ。
 信じられないとばかりに、目を剥くのも仕方ないだろう。
 彼らの様子にわずかに驚いた雪乃だが、すぐにしたり顔で応じる。

「ご安心ください。プライベートなことが書かれている可能性を考慮しまして、ノートに書かれている詳しい内容は読んでいません」

 雪乃は気遣いもできる樹人なのだ。きらりんっと葉を光らせた。
 だがアルフレッドの剥き出されていた目は震えだし、閉じられた。全員が俯いて耐えかねたように肩を震わせている。

「雪乃ちゃん、そこじゃない」
「はい?」

 ムダイがツッコミを入れたが、まったく理解していない小さな子供に、大人たちは今の気持ちをどう伝えれば良いのか、さっぱり分からなかった。

 なんとか気持ちを立て直した皇太子は、こめかみを抑えながら雪乃とノートを見る。
 小さな子供は一冊ずつ、名前を読み上げながら机上に並べた。しかし巻き込まれた男性は四人。対するノートは、机の上に四冊と雪乃の手に一冊、合計五冊ある。

「まさか、もう一人いるのか?」

 皇太子は驚愕と動揺に、顔色を青ざめさせた。

「そうみたいです。一人につき一冊ずつにまとめられているんですけど、この一冊だけ、名前がないんですよね」

 と、雪乃は最後のノートを手に持ち、ふむうっと幹を傾げながらもう一度開く。
 皇太子夫妻は目を見交わした後、ナルツへと向ける。ナルツはわずかに首を振って、心当たりの無いことを示した。

「最後のノートがどのような内容か、詳しく教えてくれ」
「個人的な内容なので、ご本人の許可なく読むのは」
「気にしなくて良い。問題になれば私が責任を取ろう」

 被せ気味に、皇太子は雪乃に命じた。

「そうですか? では皇太子様のご命令ですから、読んでみます」
「頼む」

 不満そうに口葉を尖らせながら、雪乃は誰のものか分からないノートをめくっていく。
 文字が大きくなったり小さくなったり踊っていたり、抽象文字のようになっていて読みにくいが、なんとか読んでいく。
 読んでいったのだが、

「意味が分かりません」

 と、途中で匙を投げた。

「読めるのではないのか?」
「文字はなんとか読めますけど、流れが分からなくて、さっぱりなんです」

 眉間に皺を寄せたアルフレッドから、すがるような声が絞り出てきたが、雪乃も負けてはいない。

「だって、『だから?』『私は死んだりしない。ずっとあなたの傍にいるわ』『←このときの表情がサイコー! キャー!!』とか、前後の説明もなく書かれてるんですよ? こんなの理解できません」

 愚痴る雪乃に、全員一致で納得した。
 それは確かに意味が分からない。

「たぶん、その言葉を相手が言った時に、その台詞を選べば好感度が上がるとか、そういうことだと思うよ」
「なるほど」

 ムダイのアドバイスを受けて、雪乃は更に読み進めていく。
 薄いノートであるのに、文庫本を読む以上に脳が酷使されていく。樹人に脳ミソは詰まっていないが。
 目眩と頭痛を覚えながらも、雪乃はなんとか完読した。読んでいるうちに、絨毯の上に座り込んでいた雪乃はそのままソファに寄りかかり、だれている。

 皇太子夫妻の前だということをすっかり忘れてしまった態度だが、責める人間はいない。
 小さな子供ということもあるが、それ以上に、国を代表する文官たちでさえ解読できなかった暗号文を、読み解かせたのだ。
 疲弊して当然だと、理解を示していた。

「その謎の人物のことは、何か分かったのだろうか?」

 気の毒そうに雪乃を見ながらも、皇太子としての義務を果たすため、アルフレッドは問いかける。
 雪乃はソファから身を離し、姿勢を正す。絨毯に座ったままだが。
しおりを挟む
感想 933

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

処理中です...