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ルモン大帝国編2
281.五冊のノートが
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「ノートに書きとめたと聞きました」
「回収している。だが暗号で書かれていて、今だ解読されていない」
「構いません。見せていただけますか?」
アルフレッドは少し考える素振りを見せたが、鈴を鳴らして従者を呼ぶと、ノートを持ってくるように指示を出した。しばらくして、五冊のノートが運ばれてきた。
ぱらぱらとめくったムダイは、
「雪乃ちゃんにも見せていいですか?」
と、確認する。
「彼女に解読できると?」
「こう見えても、あのノムル・クラウが唯一認めた子供ですよ?」
にこりとムダイは自信ありげに笑む。便利な言葉である。
「分かった。ユキノ嬢も見てみてくれ」
「では失礼します」
お辞儀をして、雪乃はソファから下りて机に近付くと、一冊目のノートを手に取る。
表紙を開いて文字を見た雪乃は、思わず一言。
「暗号ですね」
真顔で感想を述べた。
「雪乃ちゃんでもか」
「ムダイさんは私をどういう存在だと思っているんですか?」
不快感を顕わにムダイを睨んだ雪乃だが、すぐにノートに視線を戻す。
書かれている文字は、日本語だ。ただし、とてつもなく癖が強い。女の子にたまにある、仲間内でしか通じない謎文字だ。
「えーっと、読みにくいですね」
ぶつぶつ言いながらも数ページめくった雪乃は、次のノートを手に取る。それも数ページめくってから、次へ、そして更に次へ。
最後のノートは、降参したムダイが机に戻し、雪乃の手へと渡った。
皇太子夫妻とナルツ、ローズマリナは、息を飲んで雪乃の行動を見つめている。しかし数枚めくってはすぐに机上に戻す姿に、やはり読めないのかと、失望を覗かせる。
五冊目のノートも同じように数ページだけめくると、雪乃は再びノートを一冊ずつ手に取った。
「ナルツさん」
「なんだい?」
「ん?」
名前を呼ばれて応じたナルツに対して、雪乃は不思議そうに顔を上げる。
ナルツもまた、不思議そうに雪乃を見下ろす。
「ああ、すみません。ナルツさんを呼んだわけではなく、そのご令嬢が声を掛けていたという男性の名前を確認しただけです」
「そういうことだったんだ。気にしないで」
納得したナルツは、照れ笑いを浮かべながら身を引く。
雪乃はノートを一冊ずつ手にしては、名前を口にしながら机の上に並べていく。
「フレックさん、マグレーンさん、レオンハルト皇子様」
その動作に、いち早くアルフレッドが気付いた。
「ちょっと待て。まさか本当に読めたのか?」
雪乃とアルフレッドの会話に、ナルツとフランソワがぎょっと目を剥いた。
なにせ国で雇うほどの優秀な文官たちでさえ、まともに解読できなかった暗号文字だ。それを小さな子供が、まるで理解しているかのように振舞っているのだ。
信じられないとばかりに、目を剥くのも仕方ないだろう。
彼らの様子にわずかに驚いた雪乃だが、すぐにしたり顔で応じる。
「ご安心ください。プライベートなことが書かれている可能性を考慮しまして、ノートに書かれている詳しい内容は読んでいません」
雪乃は気遣いもできる樹人なのだ。きらりんっと葉を光らせた。
だがアルフレッドの剥き出されていた目は震えだし、閉じられた。全員が俯いて耐えかねたように肩を震わせている。
「雪乃ちゃん、そこじゃない」
「はい?」
ムダイがツッコミを入れたが、まったく理解していない小さな子供に、大人たちは今の気持ちをどう伝えれば良いのか、さっぱり分からなかった。
なんとか気持ちを立て直した皇太子は、こめかみを抑えながら雪乃とノートを見る。
小さな子供は一冊ずつ、名前を読み上げながら机上に並べた。しかし巻き込まれた男性は四人。対するノートは、机の上に四冊と雪乃の手に一冊、合計五冊ある。
「まさか、もう一人いるのか?」
皇太子は驚愕と動揺に、顔色を青ざめさせた。
「そうみたいです。一人につき一冊ずつにまとめられているんですけど、この一冊だけ、名前がないんですよね」
と、雪乃は最後のノートを手に持ち、ふむうっと幹を傾げながらもう一度開く。
皇太子夫妻は目を見交わした後、ナルツへと向ける。ナルツはわずかに首を振って、心当たりの無いことを示した。
「最後のノートがどのような内容か、詳しく教えてくれ」
「個人的な内容なので、ご本人の許可なく読むのは」
「気にしなくて良い。問題になれば私が責任を取ろう」
被せ気味に、皇太子は雪乃に命じた。
「そうですか? では皇太子様のご命令ですから、読んでみます」
「頼む」
不満そうに口葉を尖らせながら、雪乃は誰のものか分からないノートをめくっていく。
文字が大きくなったり小さくなったり踊っていたり、抽象文字のようになっていて読みにくいが、なんとか読んでいく。
読んでいったのだが、
「意味が分かりません」
と、途中で匙を投げた。
「読めるのではないのか?」
「文字はなんとか読めますけど、流れが分からなくて、さっぱりなんです」
眉間に皺を寄せたアルフレッドから、すがるような声が絞り出てきたが、雪乃も負けてはいない。
「だって、『だから?』『私は死んだりしない。ずっとあなたの傍にいるわ』『←このときの表情がサイコー! キャー!!』とか、前後の説明もなく書かれてるんですよ? こんなの理解できません」
愚痴る雪乃に、全員一致で納得した。
それは確かに意味が分からない。
「たぶん、その言葉を相手が言った時に、その台詞を選べば好感度が上がるとか、そういうことだと思うよ」
「なるほど」
ムダイのアドバイスを受けて、雪乃は更に読み進めていく。
薄いノートであるのに、文庫本を読む以上に脳が酷使されていく。樹人に脳ミソは詰まっていないが。
目眩と頭痛を覚えながらも、雪乃はなんとか完読した。読んでいるうちに、絨毯の上に座り込んでいた雪乃はそのままソファに寄りかかり、だれている。
皇太子夫妻の前だということをすっかり忘れてしまった態度だが、責める人間はいない。
小さな子供ということもあるが、それ以上に、国を代表する文官たちでさえ解読できなかった暗号文を、読み解かせたのだ。
疲弊して当然だと、理解を示していた。
「その謎の人物のことは、何か分かったのだろうか?」
気の毒そうに雪乃を見ながらも、皇太子としての義務を果たすため、アルフレッドは問いかける。
雪乃はソファから身を離し、姿勢を正す。絨毯に座ったままだが。
「回収している。だが暗号で書かれていて、今だ解読されていない」
「構いません。見せていただけますか?」
アルフレッドは少し考える素振りを見せたが、鈴を鳴らして従者を呼ぶと、ノートを持ってくるように指示を出した。しばらくして、五冊のノートが運ばれてきた。
ぱらぱらとめくったムダイは、
「雪乃ちゃんにも見せていいですか?」
と、確認する。
「彼女に解読できると?」
「こう見えても、あのノムル・クラウが唯一認めた子供ですよ?」
にこりとムダイは自信ありげに笑む。便利な言葉である。
「分かった。ユキノ嬢も見てみてくれ」
「では失礼します」
お辞儀をして、雪乃はソファから下りて机に近付くと、一冊目のノートを手に取る。
表紙を開いて文字を見た雪乃は、思わず一言。
「暗号ですね」
真顔で感想を述べた。
「雪乃ちゃんでもか」
「ムダイさんは私をどういう存在だと思っているんですか?」
不快感を顕わにムダイを睨んだ雪乃だが、すぐにノートに視線を戻す。
書かれている文字は、日本語だ。ただし、とてつもなく癖が強い。女の子にたまにある、仲間内でしか通じない謎文字だ。
「えーっと、読みにくいですね」
ぶつぶつ言いながらも数ページめくった雪乃は、次のノートを手に取る。それも数ページめくってから、次へ、そして更に次へ。
最後のノートは、降参したムダイが机に戻し、雪乃の手へと渡った。
皇太子夫妻とナルツ、ローズマリナは、息を飲んで雪乃の行動を見つめている。しかし数枚めくってはすぐに机上に戻す姿に、やはり読めないのかと、失望を覗かせる。
五冊目のノートも同じように数ページだけめくると、雪乃は再びノートを一冊ずつ手に取った。
「ナルツさん」
「なんだい?」
「ん?」
名前を呼ばれて応じたナルツに対して、雪乃は不思議そうに顔を上げる。
ナルツもまた、不思議そうに雪乃を見下ろす。
「ああ、すみません。ナルツさんを呼んだわけではなく、そのご令嬢が声を掛けていたという男性の名前を確認しただけです」
「そういうことだったんだ。気にしないで」
納得したナルツは、照れ笑いを浮かべながら身を引く。
雪乃はノートを一冊ずつ手にしては、名前を口にしながら机の上に並べていく。
「フレックさん、マグレーンさん、レオンハルト皇子様」
その動作に、いち早くアルフレッドが気付いた。
「ちょっと待て。まさか本当に読めたのか?」
雪乃とアルフレッドの会話に、ナルツとフランソワがぎょっと目を剥いた。
なにせ国で雇うほどの優秀な文官たちでさえ、まともに解読できなかった暗号文字だ。それを小さな子供が、まるで理解しているかのように振舞っているのだ。
信じられないとばかりに、目を剥くのも仕方ないだろう。
彼らの様子にわずかに驚いた雪乃だが、すぐにしたり顔で応じる。
「ご安心ください。プライベートなことが書かれている可能性を考慮しまして、ノートに書かれている詳しい内容は読んでいません」
雪乃は気遣いもできる樹人なのだ。きらりんっと葉を光らせた。
だがアルフレッドの剥き出されていた目は震えだし、閉じられた。全員が俯いて耐えかねたように肩を震わせている。
「雪乃ちゃん、そこじゃない」
「はい?」
ムダイがツッコミを入れたが、まったく理解していない小さな子供に、大人たちは今の気持ちをどう伝えれば良いのか、さっぱり分からなかった。
なんとか気持ちを立て直した皇太子は、こめかみを抑えながら雪乃とノートを見る。
小さな子供は一冊ずつ、名前を読み上げながら机上に並べた。しかし巻き込まれた男性は四人。対するノートは、机の上に四冊と雪乃の手に一冊、合計五冊ある。
「まさか、もう一人いるのか?」
皇太子は驚愕と動揺に、顔色を青ざめさせた。
「そうみたいです。一人につき一冊ずつにまとめられているんですけど、この一冊だけ、名前がないんですよね」
と、雪乃は最後のノートを手に持ち、ふむうっと幹を傾げながらもう一度開く。
皇太子夫妻は目を見交わした後、ナルツへと向ける。ナルツはわずかに首を振って、心当たりの無いことを示した。
「最後のノートがどのような内容か、詳しく教えてくれ」
「個人的な内容なので、ご本人の許可なく読むのは」
「気にしなくて良い。問題になれば私が責任を取ろう」
被せ気味に、皇太子は雪乃に命じた。
「そうですか? では皇太子様のご命令ですから、読んでみます」
「頼む」
不満そうに口葉を尖らせながら、雪乃は誰のものか分からないノートをめくっていく。
文字が大きくなったり小さくなったり踊っていたり、抽象文字のようになっていて読みにくいが、なんとか読んでいく。
読んでいったのだが、
「意味が分かりません」
と、途中で匙を投げた。
「読めるのではないのか?」
「文字はなんとか読めますけど、流れが分からなくて、さっぱりなんです」
眉間に皺を寄せたアルフレッドから、すがるような声が絞り出てきたが、雪乃も負けてはいない。
「だって、『だから?』『私は死んだりしない。ずっとあなたの傍にいるわ』『←このときの表情がサイコー! キャー!!』とか、前後の説明もなく書かれてるんですよ? こんなの理解できません」
愚痴る雪乃に、全員一致で納得した。
それは確かに意味が分からない。
「たぶん、その言葉を相手が言った時に、その台詞を選べば好感度が上がるとか、そういうことだと思うよ」
「なるほど」
ムダイのアドバイスを受けて、雪乃は更に読み進めていく。
薄いノートであるのに、文庫本を読む以上に脳が酷使されていく。樹人に脳ミソは詰まっていないが。
目眩と頭痛を覚えながらも、雪乃はなんとか完読した。読んでいるうちに、絨毯の上に座り込んでいた雪乃はそのままソファに寄りかかり、だれている。
皇太子夫妻の前だということをすっかり忘れてしまった態度だが、責める人間はいない。
小さな子供ということもあるが、それ以上に、国を代表する文官たちでさえ解読できなかった暗号文を、読み解かせたのだ。
疲弊して当然だと、理解を示していた。
「その謎の人物のことは、何か分かったのだろうか?」
気の毒そうに雪乃を見ながらも、皇太子としての義務を果たすため、アルフレッドは問いかける。
雪乃はソファから身を離し、姿勢を正す。絨毯に座ったままだが。
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