『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

文字の大きさ
230 / 385
ルモン大帝国編2

282.アルフレッドは真っ白に

しおりを挟む
「さっぱりです。特定に繋がりそうな情報は、『光のない死んだような目』『影がコイー』『大人の色気』『悲しみのドレイ』『死神なのにカマは持ってない。うーん、残念!』です。それと、出会える確立はとても低いらしいです」

 全員が額を抑えて俯いた。
 小さな樹人の言葉通り、さっぱり意味が分からない。
 こんなもののために、国でも有数の者たちを集めて解読させていたのかと、アルフレッドは真っ白になりそうな勢いだ。
 気の毒そうな視線が、アルフレッドに集う。

「ユキノちゃん、もし余力があるようなら、僕のを読んでもらっても良いかな?」

 救いの手を差し伸べるため、ナルツが自ら立候補した。

「よろしいのですか?」
「特に知られて困ることはないからね」

 頷いた雪乃は、ナルツのノートを読み解いていく。
 相変わらず酷い癖字で頭痛がしたが、先ほどよりはまともな文章だったので、分量は多いが早く読み終えることができた。文字にも慣れてきたのかもしれない。
 最後まで読み終えた雪乃は、幹を傾げる。そしてページを戻りだした。

「どうかしたのかい?」
「いえ、ちょっと気になったことが」

 ナルツの問い掛けに上の空で返した雪乃は、該当するページを見つけて、もう一度読み直す。

「ローズマリナさんって、公爵家のご令嬢ですよね?」
「ええ、そうよ?」
「えっと」

 と、雪乃は二人を見つめて言いよどむ。その視界に、青い双子石の指輪が映った。
 伝説とも言われる、真実の愛で結ばれたローズマリナとナルツだ。下らない予言などに惑わされることはないだろう。
 そう確信を持ち、雪乃はノートの内容を告げる。

「ナルツさんがゴリン国からルモン大帝国に移った理由が、ローズマリナさんから聞いていた話と違うようなのです」

 全員の視線が雪乃に集まった。
 何が書かれていたのかと、その内容に注目する。

「このノートによると、ナルツさんは伯爵家の令嬢と恋に落ち、身分違いの恋と嘲笑う別の令嬢に、恋人を殺されるそうです」

 大人たちは絶句した。糸で引かれるように、顔がナルツへと向かう。

「ありえません。私が愛したのは、ローズマリナ様だけです」
「わずかでも気になった女性は?」
「まったく」 

 視線が雪乃へと戻る。その全ての目に、困惑がありありとあふれている。

「ええっとですね、伯爵家の令嬢は騎士団に入っていまして、お二人が並ぶスチル? というのが、とても美しかったそうです。美形の男性同士が並んでいるようで、男性同士の恋愛話を好む女性たちから、絶大な支持を得ていたようですね。……『スチル』って何ですか?」

 雪乃はムダイを見る。
 ナルツが眉間に深いしわを刻み項垂れているが、他の男女も眉根を寄せて困惑していた。
 どうやらこの世界には、腐の文化は浸透していないようだ。日本でも好まない人はいるが。

「姿絵みたいなものかな。それよりそれって、もしかして……」
「なんでしょう?」

 ムダイに引き続き、ローズマリナも気付いたようで、息を飲む。

「まさか……」

 声を震わせるローズマリナの異変に気付き、慌てて顔を上げたナルツが彼女を支える。

「つまり、私がいなければ……。そんな」
「ローズマリナ様? 私が愛したのは、あなただけです」

 震えるローズマリナの肩を、ナルツは抱きしめる。ナルツは自分の相手となるはずだった女性に、気付いていないようだ。
 二人の絆は固く結ばれていると思っていた雪乃は、わたわたと慌て出す。自分のせいでローズマリナとナルツの絆にひびが入るなど、冗談ではない。

「気にしなくていいと思うよ? たぶん、そうなっていたとしても、ナルツとローズマリナさんのようにはなっていなかったと思うから」

 フォローを入れたのは、ムダイだった。二人の間を取り持つというよりも、本気でそう考えているようだ。

「ですけれども」
「ムダイさんは、相手が分かったんですか?」

 躊躇うローズマリナの声を遮って、ナルツが叫ぶように問うた。

「ああ、ララクールさんだろう?」

 さらりと答えられて、ナルツは目を見開いた。
 雪乃も驚いてムダイを見る。

「まさか?」

 雪乃とナルツの声が重なった。

「いやいや、美形の女性騎士なんて、彼女しかいないだろう?」

 呆れた声を出すムダイに、ナルツはわずかに不快感を示すように眉を寄せる。

「彼女は騎士団の仲間でした。そのような目で見たことなどありません」
「ララクールさんはナルツさんを、異性ではなく憧れの先輩として見ていました。違うと思います」

 雪乃も困惑しながらムダイに反論した。
 鈍感なのか鋭いのかわからない雪乃を、ムダイは残念そうに見つめる。

「たぶんナルツのことだから、他に好きな女の人ができなくて、気心の知れたララクールさんと付き合うことになったんじゃないかな? 周囲の騎士の勧めとかで。で、付き合った以上はきちんと対応しないとって考えそうだよね」

 ローズマリナを除く四人の視線がナルツでぶつかり、納得したように頷いた。彼の生真面目っぷりは、共通認識だったようだ。
 とはいえ、現実とは乖離しすぎている。

「だがなぜ、ローズマリナ嬢ではないんだ? ローズマリナ嬢らしき人物のことは書いてないのか?」

 思案顔のアルフレッドが、雪乃に問う。

「それが驚くことに無いんですよ。最初は公爵と伯爵を書き間違えていたのかと思って読んでいたんですけど、どうも違うみたいで。他に出てくる女性となると、この『ドリルの赤髪。美人だけど性格最悪。最強魔法使い。魔王になる』だけなんですよね」
「ドリル?」

 アルフレッドの眉間に皺が寄った。

「たぶん、縦ロールのことですね」

 答えたのはムダイだった。
 全員の視線が、今度はローズマリナに向かう。
 一致するのは髪の色だけだろう。性格は穏やかで優しく、顔に関しては好みは人それぞれということで。
 ちなみに彼女はツインテールで、ドリルではない。

「ローズマリナさんの魔力って、どのくらいなんです?」

 ムダイが確かめるように疑問を挟んだ。

「簡単な中級治癒魔法ならなんとか。ですが貴族の中では、それほど珍しいレベルでもないわ」
「魔力以前の問題ですよ」

 ぷくりと、雪乃は頬葉を膨らませるように逆立てて、ムダイに抗議する。なにせ彼女は、ローズマリナにすっかり懐いているのだから。
 ナルツも雪乃に賛同するように、強く頷いている。
しおりを挟む
感想 933

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

処理中です...