『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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ヒイヅル編

298.豪華なネックレスが

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「指輪と髪飾りは不要です。腕輪も取れそうなのでいらないですね」

 小枝の指では肉もなく、人間の指以上に外れやすいだろう。腕輪も雪乃の細い枝では、人間用のサイズでは外れてしまう。
 髪飾りに関しては、言うまでもなく髪が無い。葉に付けられなくも無いが、栄養が行き渡らず枯れそうだ。

「じゃあネックレスかブローチだね」

 ノムルの言葉に店員が視線を動かす。入ってきた扉とは別の扉が開き、別の店員が白木で作られた平たい箱を二つ、重ねて持ってきた。
 テーブルの上に並べられた箱を、ちりちりパーマの店員が開く。
 中には青のビロードが敷かれ、一つ目の箱には白い真珠をふんだんに使ったネックレスが、二つ目の箱には貝殻を使った豪華なネックレスが入っていた。

「却下です」

 一瞥するなり、雪乃は即答した。
 商品の説明をしようと口を開きかけた店員が固まる。雪乃たちの背後に控えていたカイは、斜め下を向いて肩を震わせていた。
 言った張本人である雪乃も、失態に気付いたようで店員を見て固まっている。

「却下だって」

 ただ一人、駄目押しのように雪乃の言葉を繰り返すノムルだけは、まったくもって動じていない。

「ええっと、すみません。こういうごちゃごちゃしたのはちょっと。趣味ではないと言いますか、私には似合わないと言いますか、重そうと言いますか」

 必死に言い訳しているが、フォローになるどころか泥沼にはまりつつある。
 二人の店員は引きつった笑みの底から、苦々しいオーラを隠しきれていない。箱の蓋を閉じて奥へと持ち帰った店員が扉の奥へ消えた直後、舌打ちが聞こえた。

「お気に召さなかったようですね。次はとっておきの商品をご覧に入れましょう」

 対面に座るチリチリパーマの店員は、口角をぎゅっと引き上げる。目は笑っていないどころか暗く陰鬱で、獲物に狙いを定めた毒蛇のようだ。
 カイはわずかに警戒を強め、雪乃も緊張した空気を感じ取って身を硬くした。

「最初から出せよ」

 気付いているのかいないのか、ノムルは普段と変わらぬ気だるげな声で対応した。
 店員のこめかみと口の端がひくひくと痙攣し、雪乃とカイは脱力感に肩をすくめる。
 そんな中、次の商品が運び込まれた。先ほどの木箱と違い、側面と蓋に貝殻や波が彫刻されている。
 箱からして高価そうな一品である。

「こちら、大変貴重な人魚の涙を使ったネックレスになります」

 店員の説明に、雪乃は顔を上げる。元地球人の雪乃にとって、人魚といえば一度は憧れる伝説の存在だ。
 人間の体に魚の下半身を持つ人魚たちは、なぜか物語では、若く美しい娘で歌が上手いとなっている。
 その可憐な美しさに、女の子たちは純粋な憧れを抱き、男たちは下心のある憧れを抱く。
 きらきらと葉を煌かせる雪乃の一方で、後ろに立つカイは鋭く目を細めた。

 箱の蓋が店員の手によって開かれると、虹色に輝く真珠のチョーカーが現れた。一粒一粒は五ミリほどで、トップには幾つも組み合わせて象られた虹色の花が咲いている。
 思わず嘆息するほどに美しい一品だ。だがしかし、

「私には使えませんね」

 と、雪乃は即断した。
 目をぎらつかせ、勝利を目前にしたかのように口角を上げていた店員は、そのまま口角と瞼を引き攣らせた。

「お気に召しませんか?」
「お気に召す以前に、真珠は傷付きやすいですから、子供のアクセサリーには向きませんよ」

 貴族の令嬢のように、室内でおとなしくしているのであればともかく、雪乃は旅の樹人だ。動き回れば繊細なチョーカーは傷まみれになるだろう。
 更に言えば、雪乃の首は人間のように柔らかな肉や皮膚が付いていない。
 硬い幹はごつごつとした樹皮に覆われているのだ。とてもではないが、身に付ける気にはなれない。
 ついでに言うと、雪乃にはサイズが大きすぎた。大人サイズのチョーカーでは、ぶらぶらとゆれて胸下の幹や枝にぶつかって、傷だけではなく引っ掛けてばらばらになりかねない。

「私にはネックレスも無理そうですね」

 そう結論付けた雪乃に、店員は引き攣る笑顔を貼り付けて、人魚の涙でできたチョーカーをしまう。額には見事にくっきりと、青筋が浮かんでいた。

「もっとユキノちゃんに似合いそうなの持って来いよ。それでもプロかよ? あの筋肉女の方がいい仕事するじゃないか」

 雪乃を喜ばせられると思っていたノムルは、ここまで全敗で機嫌は最悪だ。迷うことなく毒を吐く。

「まさかとは思いますが、それってローズマリナさんのことではないですよね? 悪口なら今度から口を聞きません」

 店員のみならず、ローズマリナへの悪口とも取れる言葉に、雪乃は言い返す。

「ええ?! 悪口じゃないよ? 褒めたんだよ?」
「そうは聞こえませんでした」
「ええー?」

 雪乃は頬葉を膨らませると、ぷいっと顔を逸らす。
 共に旅をしたローズマリナは、雪乃にとって大切な人なのだから。

「お前らが趣味の悪いもんばっか持ってくるから、ユキノちゃんの機嫌を取る予定が、損ねたじゃないか。次も変なもの持ってきたら、店ごと潰すからな?」

 親ばか魔王様から、物騒な発言が飛び出した。
 店員たちは出来もしない暴言だと、侮蔑と呆れをない交ぜにした視線を向けたが、雪乃とカイは顔色を悪くする。
 ノムルの発言は、脅しでも例えてもない。この魔王様は本気でやるのだ。

「ええっと、私はシンプルなデザインが好きですので、清楚なデザインをお願いします。そして私はまだ小さいので、小さい子供でも使えそうなサイズの物を……いえ、ブローチにサイズはありませんね。そうですね、軽めの物がいいでしょうか? ゴージャスな感じは成金っぽくて苦手です。素材を生かして素朴な感じで……」

 失敗は許されないと、雪乃は自分の好みや苦手なデザインを、必死に並べた。
 何も知らない店員からしてみれば、我が侭な子供に映ったかもしれないが、そんなことを気にしていては、この店が吹き飛んでしまう。
 面倒くさそうに睨みつけてくる店員に神経をすり減らしながら、雪乃は必死に伝える。

「雪乃、もうそのくらいで大丈夫だ」

 憐憫を漂わせる眼差しを向けたカイが止めに入った頃には、雪乃の声はわずかに涙声になっていた。

「よく頑張ったな」
「あい。あいがとーごじゃいましゅ」

 カイは雪乃の健闘を褒め称える。二人の間には、しっかりと通じ合うものがあった。

「なんで二人の世界に入ってるのさ? ユキノちゃん、こんなヤツは放っておいて、おとーさんに甘えなよ」

 そもそもの原因はそう言ったノムル自身なのだが、本人はまったく気付いていないようだ。
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