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ヒイヅル編
300.先ほどの店で出された人魚の鱗は
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「ノムル殿にも迷惑をかけた。すまない」
「すまないと思うなら、さっさとユキノちゃんを返せ!」
カイやローズマリナとの旅で、少しは学んだかと思ったノムルだが、あまり変わりはないようだ。
掌で顔を覆っていたカイは小さく息を漏らすと、ノムルへと体を向けた。
「迷惑ついでに、少し予定を変えさせてもらいたい。シーマー国へ行くのを少し遅らせる」
「は? なんでだよ?」
不満を隠さず口にするノムルに、カイがまとっていた空気がふっと緩む。
「隠しても無駄だろうから、正直に話す。おそらく先ほどの店で出された人魚の鱗は、人間に捕まった人魚のものだ」
「どういうことだ?」
カイの口から放たれた言葉に、ノムルは先ほどまでの苛立ちを消し、訝しげに眉をひそめる。
雪乃も不穏な空気を感じながら、カイの言葉の続きを待った。
「人魚の鱗が売り買いされることは、確かにある。だがそれは、抜け鱗だ。死んだ人魚は同族によって埋葬されるが、死者から鱗を剥ぐなどということはしない。一度に同じ人魚の鱗が、あれほどまとまって出ることはありえない」
「なるほどな。それで人間が人魚を捕らえて鱗を剥いだと考えたわけか。けど死体を漁ったって可能性もあるだろう?」
ノムルもいつになく真剣な表情でカイの言葉に耳を傾けている。
二人の会話を聞きながら、雪乃は精神安定作用のあるカモネーギの花を咲かせると、ぷつりと引っこ抜いてノムルに渡した。空間魔法から取り出したポットにカモネーギとお湯が投入され、ぽこぽこと音を立てる。
二つのカップに注ぐと、雪乃は一つをカイの前に差し出した。
受け取ったカイはゆっくりとカモネーギティーを飲み、一息吐く。青ざめていた顔色も良くなると、再び口を開いた。
「死体から奪ったのではないという根拠は、人魚の涙だ。あの量は異常だ。おそらく捕えた人魚の鱗を剥ぎ、その痛みでこぼした涙だろう」
雪乃は息を飲む。先ほど見たばかりのアクセサリーが、視界にちらついた。
綺麗だと単純に目を輝かせていた自分の姿と、握り締めた拳に血をにじませていたカイの姿が、脳裏で交錯する。
無邪気に喜んでしまった自分に対して罪悪感が込み上げてくる。体が急激に冷えて、息が詰まりそうだった。
「それで? どこに捕まっているかは見当が付いてるのか?」
ノムルの問いに、カイは首を横に振る。
「人魚は海水がなければ生きられない。だが海に繋がる場所であるなら、仲間の人魚たちが見つけ出して取り戻そうとしているはずだ。騒動が起きていないところを考慮すると、海から出ているが、海水を運ぶためにそれほど離れてはいない場所に囚われているはずだ」
カイの推測を聞いていたノムルは、顎に手を当てて考え始める。
「とりあえず、あの店を探る必要があるな。店に囚われていれば、すぐに見つかるだろうが、外部となると動きがあるまで見張る必要がある。そうなるといつになるか分かんないし、お前一人じゃ無理だぞ?」
店内に人魚がいないのであれば、鱗や涙を仕入れるために誰かが取りに行くか、運んでくるはずだ。
だが取引がどの程度の間隔で行われているのかは分からない。下手をすれば一ヶ月以上、足止めを食らうかもしれない。
更に行き先を突き止めるためには、店を出入りする人間全てを見張り、後を付ける必要がある。
とてもカイだけでは突き止めることは無理だろう。
「ああ。とりあえずあの店を探り、内部にいないようなら国許に連絡して応援をよこしてもらう。国へと誘っておいて悪いが、待ってほしい」
申し訳なさそうにカイは言うが、雪乃の心は決まっていた。
「気にしないでください。私も手伝います。人魚さんを助けましょう」
ローブの下で握りこぶしを作り、ガッツポーズをしてみせる。
「くうっ、ユキノちゃんが尊い。大丈夫だよ、ユキノちゃん。悪い奴等はおとーさんが退治してやるからね」
胸を抑えて悶える親ばか魔法使いに、雪乃とカイは心強いと思う反面、抱かなくて良いはずの不安が込み上げてくる。
「とりあえず、お店の中を探るんですよね?」
「ああ、そうだ。ざっと匂いを確認してみたが、人魚の匂いは感知できなかった。だが匂いや音を消す魔法もあるから、絶対とは限らない」
狼獣人であるカイの嗅覚は、建物の内部構造や人の動きまで感じ取ることができる。
「潜入か。久しぶりだな。さってと、今回はどの服がいいんだ?」
胡坐をかいたノムルの前には、いつの間にか幾つもの服が並んでいた。
ちらりと見てすぐに視線を戻した雪乃とカイは、一拍の間の後、勢い良くノムルの前に並ぶ服へと顔を向けて凝視した。
「うーん、これは違うな。燕尾服を着てたから……」
ぶつぶつ言いながら選別していく服の内容は、
「ドレス、ナース服、メイドさん、ドレス、バニーちゃん、シスター、赤いドレス、踊り子……」
雪乃とカイには、到底理解できない品目が並んでいた。
「私に着せるだけでなく、ノムルさん御自身も? え? 実は男の娘? いえ、女性に興味のないところや、娘に執着することから考えると、母性が強い? そっち? ええ? どういうことでしょう? ええーっ?」
「お、落ち着け、雪乃。きっと色々と訳が……どんな訳だ?」
雪乃を宥めようとしているカイも、充分すぎるほど混乱していた。
理解に苦しむ存在であるノムル・クラウだが、ここに至って更に謎が深まったようだ。
「とりあえず、マンドラゴラたちに潜入させてみるというのはどうでしょう? 彼らなら小さいですから、見つかりにくいと思います」
「わー?」
「わー」
「わー!」
変態魔法使いのことは忘れることにして、雪乃とカイは作戦会議に入る。マンドラゴラたちも出てきて、会議に参加する。
「危険だが頼めるか?」
「わー!」
「わー!」
「わー!」
やる気のようで、ぴょんこぴょんこと跳ねている。
「人間たちに、見つからないようにしてくださいね。死んだふりは駄目ですよ? 捕まえられちゃうかもしれませんから」
「わー?」
「わー」
「わー!」
「ありがとうございます。無理はしないでください。一緒に人魚さんを助けましょう」
「わー!」
「わー!」
「わー?」
なぜか一匹だけ根を傾げているが、他のマンドラゴラたちは理解しているようなので、大丈夫だろうと雪乃は判断する。
「すまないと思うなら、さっさとユキノちゃんを返せ!」
カイやローズマリナとの旅で、少しは学んだかと思ったノムルだが、あまり変わりはないようだ。
掌で顔を覆っていたカイは小さく息を漏らすと、ノムルへと体を向けた。
「迷惑ついでに、少し予定を変えさせてもらいたい。シーマー国へ行くのを少し遅らせる」
「は? なんでだよ?」
不満を隠さず口にするノムルに、カイがまとっていた空気がふっと緩む。
「隠しても無駄だろうから、正直に話す。おそらく先ほどの店で出された人魚の鱗は、人間に捕まった人魚のものだ」
「どういうことだ?」
カイの口から放たれた言葉に、ノムルは先ほどまでの苛立ちを消し、訝しげに眉をひそめる。
雪乃も不穏な空気を感じながら、カイの言葉の続きを待った。
「人魚の鱗が売り買いされることは、確かにある。だがそれは、抜け鱗だ。死んだ人魚は同族によって埋葬されるが、死者から鱗を剥ぐなどということはしない。一度に同じ人魚の鱗が、あれほどまとまって出ることはありえない」
「なるほどな。それで人間が人魚を捕らえて鱗を剥いだと考えたわけか。けど死体を漁ったって可能性もあるだろう?」
ノムルもいつになく真剣な表情でカイの言葉に耳を傾けている。
二人の会話を聞きながら、雪乃は精神安定作用のあるカモネーギの花を咲かせると、ぷつりと引っこ抜いてノムルに渡した。空間魔法から取り出したポットにカモネーギとお湯が投入され、ぽこぽこと音を立てる。
二つのカップに注ぐと、雪乃は一つをカイの前に差し出した。
受け取ったカイはゆっくりとカモネーギティーを飲み、一息吐く。青ざめていた顔色も良くなると、再び口を開いた。
「死体から奪ったのではないという根拠は、人魚の涙だ。あの量は異常だ。おそらく捕えた人魚の鱗を剥ぎ、その痛みでこぼした涙だろう」
雪乃は息を飲む。先ほど見たばかりのアクセサリーが、視界にちらついた。
綺麗だと単純に目を輝かせていた自分の姿と、握り締めた拳に血をにじませていたカイの姿が、脳裏で交錯する。
無邪気に喜んでしまった自分に対して罪悪感が込み上げてくる。体が急激に冷えて、息が詰まりそうだった。
「それで? どこに捕まっているかは見当が付いてるのか?」
ノムルの問いに、カイは首を横に振る。
「人魚は海水がなければ生きられない。だが海に繋がる場所であるなら、仲間の人魚たちが見つけ出して取り戻そうとしているはずだ。騒動が起きていないところを考慮すると、海から出ているが、海水を運ぶためにそれほど離れてはいない場所に囚われているはずだ」
カイの推測を聞いていたノムルは、顎に手を当てて考え始める。
「とりあえず、あの店を探る必要があるな。店に囚われていれば、すぐに見つかるだろうが、外部となると動きがあるまで見張る必要がある。そうなるといつになるか分かんないし、お前一人じゃ無理だぞ?」
店内に人魚がいないのであれば、鱗や涙を仕入れるために誰かが取りに行くか、運んでくるはずだ。
だが取引がどの程度の間隔で行われているのかは分からない。下手をすれば一ヶ月以上、足止めを食らうかもしれない。
更に行き先を突き止めるためには、店を出入りする人間全てを見張り、後を付ける必要がある。
とてもカイだけでは突き止めることは無理だろう。
「ああ。とりあえずあの店を探り、内部にいないようなら国許に連絡して応援をよこしてもらう。国へと誘っておいて悪いが、待ってほしい」
申し訳なさそうにカイは言うが、雪乃の心は決まっていた。
「気にしないでください。私も手伝います。人魚さんを助けましょう」
ローブの下で握りこぶしを作り、ガッツポーズをしてみせる。
「くうっ、ユキノちゃんが尊い。大丈夫だよ、ユキノちゃん。悪い奴等はおとーさんが退治してやるからね」
胸を抑えて悶える親ばか魔法使いに、雪乃とカイは心強いと思う反面、抱かなくて良いはずの不安が込み上げてくる。
「とりあえず、お店の中を探るんですよね?」
「ああ、そうだ。ざっと匂いを確認してみたが、人魚の匂いは感知できなかった。だが匂いや音を消す魔法もあるから、絶対とは限らない」
狼獣人であるカイの嗅覚は、建物の内部構造や人の動きまで感じ取ることができる。
「潜入か。久しぶりだな。さってと、今回はどの服がいいんだ?」
胡坐をかいたノムルの前には、いつの間にか幾つもの服が並んでいた。
ちらりと見てすぐに視線を戻した雪乃とカイは、一拍の間の後、勢い良くノムルの前に並ぶ服へと顔を向けて凝視した。
「うーん、これは違うな。燕尾服を着てたから……」
ぶつぶつ言いながら選別していく服の内容は、
「ドレス、ナース服、メイドさん、ドレス、バニーちゃん、シスター、赤いドレス、踊り子……」
雪乃とカイには、到底理解できない品目が並んでいた。
「私に着せるだけでなく、ノムルさん御自身も? え? 実は男の娘? いえ、女性に興味のないところや、娘に執着することから考えると、母性が強い? そっち? ええ? どういうことでしょう? ええーっ?」
「お、落ち着け、雪乃。きっと色々と訳が……どんな訳だ?」
雪乃を宥めようとしているカイも、充分すぎるほど混乱していた。
理解に苦しむ存在であるノムル・クラウだが、ここに至って更に謎が深まったようだ。
「とりあえず、マンドラゴラたちに潜入させてみるというのはどうでしょう? 彼らなら小さいですから、見つかりにくいと思います」
「わー?」
「わー」
「わー!」
変態魔法使いのことは忘れることにして、雪乃とカイは作戦会議に入る。マンドラゴラたちも出てきて、会議に参加する。
「危険だが頼めるか?」
「わー!」
「わー!」
「わー!」
やる気のようで、ぴょんこぴょんこと跳ねている。
「人間たちに、見つからないようにしてくださいね。死んだふりは駄目ですよ? 捕まえられちゃうかもしれませんから」
「わー?」
「わー」
「わー!」
「ありがとうございます。無理はしないでください。一緒に人魚さんを助けましょう」
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