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ヒイヅル編
306.頭にワカメを
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※昨日の更新は昼に行っています。朝はメンテしてて更新できませんでした。すみません。
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そんなわけで、雪乃たちは小船に乗せられ、人魚に運ばれている。
人魚たちは物語のように、美しく若い少女ばかりというわけではない。
もちろん少女やお姉さんたちもいるが、男の子や青年、おじさんやおばさんもいる。ムキムキマッチョだって、もちろんいる。
毎日海水浴をしているからだろう。褐色に焼けたお肌は、海水に濡れてテカテカと光っていた。
マッチョ人魚は頭にワカメを乗せて、白い歯を輝かせている。頭にワカメを乗せているのは彼だけなので、人魚独自のファッションでも、流行でもないようだ。
しばらくマッチョ人魚を見物していた雪乃だが、無駄に大振りなクロールを披露したり、バタフライをしたり、トビウオのように飛んだり、ムキムキポーズを決めたりする彼を眺めていた視界が、徐々に霞がかって白くなってきたので、幹を回して見える景色を変えた。
多くの人魚達が、一人の少年人魚を労わるように囲んでいる。少年人魚は反抗期なのか、優しくしてくれる人魚たちに顔を赤くして言い返していた。
少年人魚はとぷりと海に潜ると、雪乃たちが乗る小船のすぐ横に顔を出した。
「どう? 乗り心地は?」
頬を赤く染めた少年人魚は、ノムルに尋ねる。
「ユキノちゃん、乗り心地はどう?」
問われたノムルは、雪乃に問うた。
この流れは誰かにバトンタッチをするべきなのかと、雪乃はカイを見上げたのだが、ノムルの微笑が黒く染まり出したので、間違っていたことに気付き答える。
「海なのに揺れもなく素晴らしいです。そして速いです」
モーターボートかそれ以上に速く進み、揺れもほとんどない。
港で見た船は帆船がほとんどだったので、波に揺れながらのまったり旅を予想していたのだが、予想は外れたようだ。
仮に帆船だったとしても、ノムルの魔法で高速移動になっていたかもしれないが。
「そっかそっかー。乗り心地良いってー」
雪乃の答えを聞いて、ノムルは少年人魚に伝えた。うっとりとした目でノムルを見つめていた少年人魚は、顔をしかめて雪乃を睨んだ。
ぽてりと、雪乃は幹を傾げる。
睨まれる理由が分からない。
「そうだ、人魚の涙で何か作ってあげるよ。何が良い?」
表情を再び緩めて、ノムルに問う少年人魚。
「ユキノちゃん、人魚の涙で何か作ってくれるってー。何が欲しい?」
再び雪乃に問うノムル。そして雪乃を睨みつける少年人魚。
気付かぬ雪乃は、
「うーん、私は特に欲しい物はないですね。そうだ、ヒイヅルに行くということは、シナノさんにもお会いできるのですよね? 何かお土産が欲しいですね。何が良いでしょう?」
と、カイを見上げる。
「気にすることは無いぞ? あれは放っておいて良い」
素っ気なく返されて、雪乃はふむと考える。
蜂蜜色のふわふわとした長い髪を持つシナノには、髪留めなどが良いかもしれない。もしくはシンプルなネックレスも似合いそうだ。
「シーマー国に着いてから、見て決めます」
アクセサリーに親しみの無い雪乃は、頭の中でデザインを決めることができなかった。
「俺はノムルさんにプレゼントしたいのに……」
少年人魚はぶつぶつと呟きながら、雪乃を睨み続けている。
そんな少年人魚を見て、青藤色の尾を持つ少女人魚がくすくすと笑う。
「子供ねえ」
「何だと?!」
すかさず怒鳴る少年人魚。
「その子はノムルさんの娘よ? 人間は子離れしないんだから、ノムルさんを番にするなら、その子はあなたの娘になるのよ?」
くすくすと笑いながら、青藤色の少女人魚は言った。
人間だって子離れも親離れもする。
だが幼少期を過ぎると独り立ちさせられる人魚から見れば、いつまでも親子の縁を保ち続けたり、親の最期まで共に暮らしたりすることのある人間は、子離れも親離れもしないように見えるのだろう。
少年人魚は驚いた顔をして、ノムルと雪乃を交互に見ている。
人魚たちの話を聞いてしまった雪乃とカイも、少年人魚をまじまじと凝視する。
「カイさん」
「何だ?」
「今、何か変な会話が聞こえた気がしたのですが、空耳でしょうか?」
「俺の耳にも聞こえた」
雪乃とカイは、視線を合わせることもなく確かめ合う。今日はあまりに衝撃的な出来事が続きすぎて、思考の整理がまったくもって追いつかない。
ノムル・クラウはどこまで行くのだろうか。
「恋愛は個人の自由です。私は止めません。私に被害がなければ」
「それは難しいかもしれないな。なにせ……」
視線は全ての原因たる、ノムルへと向かう。
「目を離した隙に、何があったのでしょう? 目を離してはいけないと学習していたはずなのに……」
小舟の中で、雪乃は項垂れた。
少し離れていただけで、どうしてこうもありえない出来事が起きてしまうのか。
雪乃は改めて、ノムル・クラウの恐ろしさを知ったのだった。世間一般の人々が彼に感じる恐ろしさとは、まったく違う意味で。
「何があったのか、そろそろ説明してもらってもいいか?」
ポーカンの町もずいぶんと遠ざかったところで、カイはノムルに向かって問うた。
「なんでお前の言うことを聞かないといけないんだ?」
「おとーさん、説明してください」
「いーよー」
カイに悪態をついたはずのノムルは、雪乃の言葉で相好を崩す。同じことを言っているはずなのだが、あまりに露骨に態度を変えてきた。
「その人魚が捕まってたんだよ」
ノムルが指差したのは、先ほどからノムルに声を掛けていた、桃花色の尾をした人魚の少年だった。
「地下で見つけたから、地面に向かって穴を開けて脱出したんだー。そのまま逃がしても良かったんだけど、逆恨みされてユキノちゃんが面倒なことに巻き込まれたらいけないから、ちゃんとお仕置きもしてきたよ」
てへっと笑う美人さんに、釣られて笑みを返しかけるが、絆されてはいけない。高波で町を覆うなど、やりすぎである。
「ちなみにあの高波は幻影だよ。そのどさくさに紛れて、あの店だけ木っ端微塵にしておいたから安心してねー。どっかのストーカーより、おとーさんのほうが凄いでしょ?」
なぜかムダイを引き合いに出してきた。確かに彼も、火魔法を使おうとして幻影を生じさせていたが。
それはさておき、
「どの辺が安心できる要素なのでしょう?」
と、雪乃は波間に揺れる海鳥を眺めた。
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そんなわけで、雪乃たちは小船に乗せられ、人魚に運ばれている。
人魚たちは物語のように、美しく若い少女ばかりというわけではない。
もちろん少女やお姉さんたちもいるが、男の子や青年、おじさんやおばさんもいる。ムキムキマッチョだって、もちろんいる。
毎日海水浴をしているからだろう。褐色に焼けたお肌は、海水に濡れてテカテカと光っていた。
マッチョ人魚は頭にワカメを乗せて、白い歯を輝かせている。頭にワカメを乗せているのは彼だけなので、人魚独自のファッションでも、流行でもないようだ。
しばらくマッチョ人魚を見物していた雪乃だが、無駄に大振りなクロールを披露したり、バタフライをしたり、トビウオのように飛んだり、ムキムキポーズを決めたりする彼を眺めていた視界が、徐々に霞がかって白くなってきたので、幹を回して見える景色を変えた。
多くの人魚達が、一人の少年人魚を労わるように囲んでいる。少年人魚は反抗期なのか、優しくしてくれる人魚たちに顔を赤くして言い返していた。
少年人魚はとぷりと海に潜ると、雪乃たちが乗る小船のすぐ横に顔を出した。
「どう? 乗り心地は?」
頬を赤く染めた少年人魚は、ノムルに尋ねる。
「ユキノちゃん、乗り心地はどう?」
問われたノムルは、雪乃に問うた。
この流れは誰かにバトンタッチをするべきなのかと、雪乃はカイを見上げたのだが、ノムルの微笑が黒く染まり出したので、間違っていたことに気付き答える。
「海なのに揺れもなく素晴らしいです。そして速いです」
モーターボートかそれ以上に速く進み、揺れもほとんどない。
港で見た船は帆船がほとんどだったので、波に揺れながらのまったり旅を予想していたのだが、予想は外れたようだ。
仮に帆船だったとしても、ノムルの魔法で高速移動になっていたかもしれないが。
「そっかそっかー。乗り心地良いってー」
雪乃の答えを聞いて、ノムルは少年人魚に伝えた。うっとりとした目でノムルを見つめていた少年人魚は、顔をしかめて雪乃を睨んだ。
ぽてりと、雪乃は幹を傾げる。
睨まれる理由が分からない。
「そうだ、人魚の涙で何か作ってあげるよ。何が良い?」
表情を再び緩めて、ノムルに問う少年人魚。
「ユキノちゃん、人魚の涙で何か作ってくれるってー。何が欲しい?」
再び雪乃に問うノムル。そして雪乃を睨みつける少年人魚。
気付かぬ雪乃は、
「うーん、私は特に欲しい物はないですね。そうだ、ヒイヅルに行くということは、シナノさんにもお会いできるのですよね? 何かお土産が欲しいですね。何が良いでしょう?」
と、カイを見上げる。
「気にすることは無いぞ? あれは放っておいて良い」
素っ気なく返されて、雪乃はふむと考える。
蜂蜜色のふわふわとした長い髪を持つシナノには、髪留めなどが良いかもしれない。もしくはシンプルなネックレスも似合いそうだ。
「シーマー国に着いてから、見て決めます」
アクセサリーに親しみの無い雪乃は、頭の中でデザインを決めることができなかった。
「俺はノムルさんにプレゼントしたいのに……」
少年人魚はぶつぶつと呟きながら、雪乃を睨み続けている。
そんな少年人魚を見て、青藤色の尾を持つ少女人魚がくすくすと笑う。
「子供ねえ」
「何だと?!」
すかさず怒鳴る少年人魚。
「その子はノムルさんの娘よ? 人間は子離れしないんだから、ノムルさんを番にするなら、その子はあなたの娘になるのよ?」
くすくすと笑いながら、青藤色の少女人魚は言った。
人間だって子離れも親離れもする。
だが幼少期を過ぎると独り立ちさせられる人魚から見れば、いつまでも親子の縁を保ち続けたり、親の最期まで共に暮らしたりすることのある人間は、子離れも親離れもしないように見えるのだろう。
少年人魚は驚いた顔をして、ノムルと雪乃を交互に見ている。
人魚たちの話を聞いてしまった雪乃とカイも、少年人魚をまじまじと凝視する。
「カイさん」
「何だ?」
「今、何か変な会話が聞こえた気がしたのですが、空耳でしょうか?」
「俺の耳にも聞こえた」
雪乃とカイは、視線を合わせることもなく確かめ合う。今日はあまりに衝撃的な出来事が続きすぎて、思考の整理がまったくもって追いつかない。
ノムル・クラウはどこまで行くのだろうか。
「恋愛は個人の自由です。私は止めません。私に被害がなければ」
「それは難しいかもしれないな。なにせ……」
視線は全ての原因たる、ノムルへと向かう。
「目を離した隙に、何があったのでしょう? 目を離してはいけないと学習していたはずなのに……」
小舟の中で、雪乃は項垂れた。
少し離れていただけで、どうしてこうもありえない出来事が起きてしまうのか。
雪乃は改めて、ノムル・クラウの恐ろしさを知ったのだった。世間一般の人々が彼に感じる恐ろしさとは、まったく違う意味で。
「何があったのか、そろそろ説明してもらってもいいか?」
ポーカンの町もずいぶんと遠ざかったところで、カイはノムルに向かって問うた。
「なんでお前の言うことを聞かないといけないんだ?」
「おとーさん、説明してください」
「いーよー」
カイに悪態をついたはずのノムルは、雪乃の言葉で相好を崩す。同じことを言っているはずなのだが、あまりに露骨に態度を変えてきた。
「その人魚が捕まってたんだよ」
ノムルが指差したのは、先ほどからノムルに声を掛けていた、桃花色の尾をした人魚の少年だった。
「地下で見つけたから、地面に向かって穴を開けて脱出したんだー。そのまま逃がしても良かったんだけど、逆恨みされてユキノちゃんが面倒なことに巻き込まれたらいけないから、ちゃんとお仕置きもしてきたよ」
てへっと笑う美人さんに、釣られて笑みを返しかけるが、絆されてはいけない。高波で町を覆うなど、やりすぎである。
「ちなみにあの高波は幻影だよ。そのどさくさに紛れて、あの店だけ木っ端微塵にしておいたから安心してねー。どっかのストーカーより、おとーさんのほうが凄いでしょ?」
なぜかムダイを引き合いに出してきた。確かに彼も、火魔法を使おうとして幻影を生じさせていたが。
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