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ヒイヅル編
309.変態魔法使いの手には
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「ユキノちゃん、これはどう?」
ノムルの声に振り返った雪乃とカイは、固まった。困惑に、体がふるふると震える。
見なかったことにして、二人はぐりんっと顔を前に向けて進み出す。
「あの店に入ってみましょうか」
「そうだな」
「ユキノちゃん?! どうして無視するの? 色か? 緑色が良いのか?!」
騒いでいるが見当違いも良い所だと、雪乃もカイも深く息を吐き出す。
変態魔法使いの手には、ホタテのような貝で作られた、水着があった。
淡い桜色を雪乃が気に入らなかったと勘違いしているようだが、もちろん問題はそこではない。
あれは二次元だからこそ許されるのであって、現実で使える代物ではない。
「そういえばノムルさんが人魚になった時、貝殻の水着を着けていましたね。なぜ持っていたのでしょう?」
狭い店内にゴチャゴチャと詰め込まれた、椰子の実のような固い実で作られた食器や飾りを眺めながら、雪乃は疑問を口にした。
「雪乃、考えるな。そしてそれはどうかと思うぞ?」
カイにしては珍しく、雪乃の頭に乗せた手を動かして、彼女の顔の向きを強制的に変えた。
雪乃の視線の先にあったもの、それは綺麗な歯並を見せて笑う、コイワシらしき人魚の彫刻が施されたペンダントだった。
頬肉までしっかり鍛え上げられた、ボディビルダー世界一を目指せそうなムキムキマッチョのコイワシを、きちんと筋肉まで再現した、それは見事なペンダントだった。
彼はこの島で有名なのか、ペンダントの他にも姿絵や置物、絨毯など、様々な土産物に描かれていた。
中にはコイワシグッズ専門店もあり、筋肉だらけの世界に、雪乃もカイも二の句が継げなかった。
適当に見物をした雪乃たちは、ヒイヅル国を目指して東へと進んで行く。
街道沿いに進みながらも、密林の中に踏み込み、薬草や野生種の果物を見つけて採取していった。
食べることはできなくても果物を生らせるようになり、雪乃は少しだけ溜飲を下げる。それが彼女にとって、どういう利点があるのかは分からないが。
東の海岸に出ると、舟を出して海へと繰り出す。
幾つもの島でできたシーマー国は、陸と海を交互に進まなければならない。小舟に乗って、隣の島へと向かう。
予想通りというべきか、ノムルの魔法でエンジンつきのボートのように快調に進んで行くどころか、競艇も真っ青な速度だ。
船の後ろには、巨大な水しぶきが吹き上がっていた。
「ふみゃあああーーっ?! 葉っぱが、葉っぱが飛びます!」
風で雪乃とカイのフードが取れているが、周囲に舟はなく、視界に映る小島も無人島のため、そのままにしている。
「あはははは。大丈夫だよ、ユキノちゃん」
「ぴー!」
「わー!」
何がどう大丈夫なのか分からないが、ノムルは楽しそうだ。ぴー助もマンドラゴラも、猛スピードで海上を走る船に大喜びである。
「……ん? マンドラゴラ?」
「わー?」
雪乃は思わず幹を捻って小舟の様子を改めて確認する。
隣に座るマンドラゴラや、足元にいるマンドラゴラたちはまだ良い。いや、彼らの重量を考えると、うっかり飛ばされそうなので良くはないのだが。
しかし、である。
「ちょっ?! マンドラゴラたち、そこはさすがに危ないです!」
「わー?」
「わー?」
「わー!」
彼らの大半は、小舟の縁や舳先に腰掛けていた。暴風で蕪に似た緑の葉っぱが、折れそうな勢いで靡いている。
楽しそうにしているマンドラゴラたちだが、波に当たって小舟が跳ね、ざっぱーんと海水を被ってしまった。
「わぁー……」
海水を頭から被った一部のマンドラゴラたちは、さすがに声を落として俯いた。
「大丈夫ですか? 全員いますか?」
「わー」
「わー」
「わー!」
雪乃は慌てて点呼を取り、波に飲まれたマンドラゴラがいないことに胸を撫で下ろす。
一方で、至高の魔法使いは不思議そうに首を捻っている。
「なんでこいつら飛んでいかないんだ? あの波を食らっても流されないって、おかしいだろう?」
そのツッコミに、雪乃はもちろん、然して表情を変えることもなくマンドラゴラたちを見ていたカイまでが、固まった。
「え? ノムルさんが何か魔法で、飛ばないようにしてくださっていたのでは?」
「何もしてないよ? ユキノちゃんには、スリルを味わいながらも楽しめる程度に、障壁を張ってるけどね」
へらりと表情を緩める親ばか魔法使い。雪乃はぐるりと幹を回してマンドラゴラたちを凝視する。
「わー?」
可愛く根を傾げているが、騙されてはいけない。
「どうして飛ばないのでしょう? いったいどのような現象が?」
カイも角度を変えて、じいっと見つめている。二人を真似て、ぴー助もマンドラゴラを見つめだした。
「わあー……」
大きい種族たちに見つめられて、マンドラゴラはニンジンのように赤く染めた根をよじる。時々いやんっとばかりに根を大きく捻っているが。
「雪乃」
タネに気付いたらしきカイが、マンドラゴラの一部を指差すと、ノムルが杖を撫でて雪乃の周囲の風を和らげた。
示された部分を、雪乃もじいっと凝視する。ノムルも一緒になって、雪乃の頭に顎を乗っけて覗き込む。
「「あ……」」
マンドラゴラの秘密を目にした雪乃とノムルから、気の抜けた声が漏れ出た。
「なるほど。こうやって固定していたのですね」
「どうやってローブによじ登ってくるのかと思ってたら、こういう仕組みだったのか」
「わぁー……」
恥ずかしそうに、いやいやと根を左右に振るマンドラゴラ。
マンドラゴラが船から飛ばされない理由、それは、根に生える白く細い側根を、木製の船に突き刺していたのだった。
手が無いのに器用だと思っていた彼らは、別に特殊な能力を持っていたわけではなく、たくさんの側根を手の代わりに操っていたようだ。
「マンドラゴラの謎がまた一つ、解けました」
昼時になると小舟を止めて、食事休憩となった。
ノムルは空間魔法から弁当と、ぴー助用の肉塊を取り出し食べ始める。カイには渡さなかったが、それは彼も予想の範疇なので、自分の荷袋から取り出した干し肉を齧っていた。
透き通った海は、深いはずの底までよく見える。
風紋が描かれた白い砂には、鮮やかな珊瑚が色を添え、青や黄色の熱帯魚たちが踊っていた。
雪乃は縁に枝を掛けて、海を覗き込む。
「雪乃、あまり覗き込むと」
「ふにゃあっ?!」
カイが声を掛けようとしたタイミングで、覗き込みすぎていた雪乃は重心を失って船から落ちかけた。
慌ててカイは手を伸ばす。
ノムルの声に振り返った雪乃とカイは、固まった。困惑に、体がふるふると震える。
見なかったことにして、二人はぐりんっと顔を前に向けて進み出す。
「あの店に入ってみましょうか」
「そうだな」
「ユキノちゃん?! どうして無視するの? 色か? 緑色が良いのか?!」
騒いでいるが見当違いも良い所だと、雪乃もカイも深く息を吐き出す。
変態魔法使いの手には、ホタテのような貝で作られた、水着があった。
淡い桜色を雪乃が気に入らなかったと勘違いしているようだが、もちろん問題はそこではない。
あれは二次元だからこそ許されるのであって、現実で使える代物ではない。
「そういえばノムルさんが人魚になった時、貝殻の水着を着けていましたね。なぜ持っていたのでしょう?」
狭い店内にゴチャゴチャと詰め込まれた、椰子の実のような固い実で作られた食器や飾りを眺めながら、雪乃は疑問を口にした。
「雪乃、考えるな。そしてそれはどうかと思うぞ?」
カイにしては珍しく、雪乃の頭に乗せた手を動かして、彼女の顔の向きを強制的に変えた。
雪乃の視線の先にあったもの、それは綺麗な歯並を見せて笑う、コイワシらしき人魚の彫刻が施されたペンダントだった。
頬肉までしっかり鍛え上げられた、ボディビルダー世界一を目指せそうなムキムキマッチョのコイワシを、きちんと筋肉まで再現した、それは見事なペンダントだった。
彼はこの島で有名なのか、ペンダントの他にも姿絵や置物、絨毯など、様々な土産物に描かれていた。
中にはコイワシグッズ専門店もあり、筋肉だらけの世界に、雪乃もカイも二の句が継げなかった。
適当に見物をした雪乃たちは、ヒイヅル国を目指して東へと進んで行く。
街道沿いに進みながらも、密林の中に踏み込み、薬草や野生種の果物を見つけて採取していった。
食べることはできなくても果物を生らせるようになり、雪乃は少しだけ溜飲を下げる。それが彼女にとって、どういう利点があるのかは分からないが。
東の海岸に出ると、舟を出して海へと繰り出す。
幾つもの島でできたシーマー国は、陸と海を交互に進まなければならない。小舟に乗って、隣の島へと向かう。
予想通りというべきか、ノムルの魔法でエンジンつきのボートのように快調に進んで行くどころか、競艇も真っ青な速度だ。
船の後ろには、巨大な水しぶきが吹き上がっていた。
「ふみゃあああーーっ?! 葉っぱが、葉っぱが飛びます!」
風で雪乃とカイのフードが取れているが、周囲に舟はなく、視界に映る小島も無人島のため、そのままにしている。
「あはははは。大丈夫だよ、ユキノちゃん」
「ぴー!」
「わー!」
何がどう大丈夫なのか分からないが、ノムルは楽しそうだ。ぴー助もマンドラゴラも、猛スピードで海上を走る船に大喜びである。
「……ん? マンドラゴラ?」
「わー?」
雪乃は思わず幹を捻って小舟の様子を改めて確認する。
隣に座るマンドラゴラや、足元にいるマンドラゴラたちはまだ良い。いや、彼らの重量を考えると、うっかり飛ばされそうなので良くはないのだが。
しかし、である。
「ちょっ?! マンドラゴラたち、そこはさすがに危ないです!」
「わー?」
「わー?」
「わー!」
彼らの大半は、小舟の縁や舳先に腰掛けていた。暴風で蕪に似た緑の葉っぱが、折れそうな勢いで靡いている。
楽しそうにしているマンドラゴラたちだが、波に当たって小舟が跳ね、ざっぱーんと海水を被ってしまった。
「わぁー……」
海水を頭から被った一部のマンドラゴラたちは、さすがに声を落として俯いた。
「大丈夫ですか? 全員いますか?」
「わー」
「わー」
「わー!」
雪乃は慌てて点呼を取り、波に飲まれたマンドラゴラがいないことに胸を撫で下ろす。
一方で、至高の魔法使いは不思議そうに首を捻っている。
「なんでこいつら飛んでいかないんだ? あの波を食らっても流されないって、おかしいだろう?」
そのツッコミに、雪乃はもちろん、然して表情を変えることもなくマンドラゴラたちを見ていたカイまでが、固まった。
「え? ノムルさんが何か魔法で、飛ばないようにしてくださっていたのでは?」
「何もしてないよ? ユキノちゃんには、スリルを味わいながらも楽しめる程度に、障壁を張ってるけどね」
へらりと表情を緩める親ばか魔法使い。雪乃はぐるりと幹を回してマンドラゴラたちを凝視する。
「わー?」
可愛く根を傾げているが、騙されてはいけない。
「どうして飛ばないのでしょう? いったいどのような現象が?」
カイも角度を変えて、じいっと見つめている。二人を真似て、ぴー助もマンドラゴラを見つめだした。
「わあー……」
大きい種族たちに見つめられて、マンドラゴラはニンジンのように赤く染めた根をよじる。時々いやんっとばかりに根を大きく捻っているが。
「雪乃」
タネに気付いたらしきカイが、マンドラゴラの一部を指差すと、ノムルが杖を撫でて雪乃の周囲の風を和らげた。
示された部分を、雪乃もじいっと凝視する。ノムルも一緒になって、雪乃の頭に顎を乗っけて覗き込む。
「「あ……」」
マンドラゴラの秘密を目にした雪乃とノムルから、気の抜けた声が漏れ出た。
「なるほど。こうやって固定していたのですね」
「どうやってローブによじ登ってくるのかと思ってたら、こういう仕組みだったのか」
「わぁー……」
恥ずかしそうに、いやいやと根を左右に振るマンドラゴラ。
マンドラゴラが船から飛ばされない理由、それは、根に生える白く細い側根を、木製の船に突き刺していたのだった。
手が無いのに器用だと思っていた彼らは、別に特殊な能力を持っていたわけではなく、たくさんの側根を手の代わりに操っていたようだ。
「マンドラゴラの謎がまた一つ、解けました」
昼時になると小舟を止めて、食事休憩となった。
ノムルは空間魔法から弁当と、ぴー助用の肉塊を取り出し食べ始める。カイには渡さなかったが、それは彼も予想の範疇なので、自分の荷袋から取り出した干し肉を齧っていた。
透き通った海は、深いはずの底までよく見える。
風紋が描かれた白い砂には、鮮やかな珊瑚が色を添え、青や黄色の熱帯魚たちが踊っていた。
雪乃は縁に枝を掛けて、海を覗き込む。
「雪乃、あまり覗き込むと」
「ふにゃあっ?!」
カイが声を掛けようとしたタイミングで、覗き込みすぎていた雪乃は重心を失って船から落ちかけた。
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