258 / 385
ヒイヅル編
310.食後のデザートは
しおりを挟む
「危ないよー?」
「面目ないです。ありがとうございます」
カイの手が雪乃に触れるより先に、ノムルが雪乃を膝の上へと回収した。
海に落ちかけてドキドキしている脈を落ち着かせるため、雪乃はゆっくりと深呼吸をする。落ち着いてくると、魔力を込めた。
きらりーんと目元を光らせた雪乃の左枝の下に、オレンジや黄色の果物が実を結ぶ。
「食後のデザートは如何でしょう?」
「おおー!」
「ぴー!」
「もらおう」
シーマー国に着いてから採取した果物を、さっそく披露したのだった。
「お味はどうでしょう?」
「うーん、凄く甘くて美味しいよ」
「ああ、露店の果物より美味いな。それに疲れも取れる」
「ぴー!」
どうやら樹人の魔力も混じって、味覚も栄養もアップしたようだ。
雪乃は満足そうに葉をきらめかせる。
枝に生った果物がなくなると、雪乃はノムルの膝の上に乗せられながらも、再び海を覗き込もうと幹を伸ばす。
小さな熱帯魚に混じって、時々マンタのような大きな魚も、舟の下を泳いでいく。中にはマグロも吃驚な、大きな向日葵色の魚の尻尾も見えた。
「ん?」
雪乃は幹を伸ばして覗き込む。
「ユキノちゃん、そんなに海が好きなのー? おとーさんのお膝よりもー?」
がっしりと雪乃の腰をホールドしたノムルが、不貞腐れた顔で尋ねた。
「おとーさんのお膝はともかく、今何か、見覚えのある魚が……」
雪乃がよく見ようと、舟の下を覗きこんだ瞬間、
「はっはっはー! 君たちだったのか」
と、暑苦しい笑顔のマッチョ人魚コイワシが、海面に飛び出してきた。
「ふみゃあっ?! コイワシさん、驚かさないでください」
「はっはっはー、凄いスピードで泳いでいたから、ついつい追いかけてきてしまったよ。惨敗だったけどね」
爽やかに笑っているコイワシは、楽しそうだ。
周囲に他の人魚の姿は無い。どうやら小舟に追いついてこられたのは、コイワシだけらしい。
笑っていたコイワシの視線が、雪乃へと注がれる。同時にノムルとカイの目が細まった。
カイの目には警戒が宿り、ノムルの眼には殺気まで混じっている。
フードを被せられた雪乃は、身をすくめるようにノムルの腹に体を寄せる。
探るような視線だったコイワシの手が、舟の縁へと掛かったその時、ピシャーンっと雷光が閃いた。
「俺の娘に何をする気だ?」
親ばか魔王様降臨である。
小舟の縁に足を掛けて、白目を剥いてぷかぷか浮かぶコイワシを見下ろしていた。
「はっはっはー。いやあ、驚いた」
ムキムキな御胸にロープを括りつけられたコイワシは、現在一人で小舟を牽引していた。
他にも小舟を追いかけてきた人魚はいたそうなのだが、雷を恐れて離れていってしまったようだ。
「なるほどなるほど。どうして人間をヒイヅルに運んでいるのか気になってはいたんだけど、そんな時期だったんだねえ」
感慨深そうに、コイワシは青い空を見上げる。
向日葵色の尾びれが力強くしなり、ノムルの魔法や人魚の集団には負けるものの、エンジン付きのボート並の速度で進んでいた。
含みのありそうなコイワシの言葉に、雪乃たちは顔を見合わせる。
「どういう意味だ?」
代表するように、ノムルが問うた。
するとコイワシは泳ぎながらも振り返り、真剣な眼差しでノムルの本性を探ろうと、じいっと見つめる。
見つめられたノムルは、目を細めて見つめ返す。光を消した暗い瞳。背後には八つ首の龍が蠢く。
引き締まったコイワシの表情筋に瘤ができ、ひくひくと波打つ。だらだらと汗が流れては、海水に混じっていった。
「コイワシ、ノムル殿は雪乃の味方だ。正確には、雪乃だけの味方かもしれないが」
二人の間を取り持つように、カイが口を挟む。後半はなぜが死んだ魚のような目になっていたが。
ちらりとカイと雪乃へと視線を向けたコイワシは、緊張を解く。同時にノムルから魔王様が抜けていった。
「そうだねえ。人魚たちは彼女の敵にはならないとだけ伝えておくよ」
何か知っている様子のコイワシだが、それ以上の話はする気が無いようだ。気になった雪乃だが、
「ふぬぬぬぬーっ! お、お髭が……」
魔王様が撤退した途端に、無精ひげの猛攻を受け、戦いに身を投じたのだった。
その日はそのままコイワシに牽引してもらい、日が傾き出すと、夜を越すために適当な島に上陸した。
「明日の朝、また迎えにこよう」
ロープを外したコイワシは体を解すように、鳩尾の前で拳を合わて胸の筋肉を強調するポーズや、腕を直角に曲げた力瘤ポーズを繰り出している。
「ありがたいが良いのか?」
「はっはっはー。カイは何も聞いていないのか?」
申し訳なさそうに眉を下げたカイに、コイワシは探るように真剣な眼差しを向けた。
にわかに動揺するカイを、窺うように見上げていたコイワシは、ふっと力を抜く。
「まだ若いからな。だが任せられたのならば、それだけ認められているということだ。胸を張れ」
コイワシは鍛え上げられた胸の筋肉を強調するように体をそらし、ぴくぴくと動かして見せた。
「ありがとう」
カイは礼を言ったが、
「いやお前、そんなの見せられて礼を言うとか、どんな趣味だよ? ユキノちゃん、やっぱりこの狼、危険だよ? 近付いちゃ駄目だよ」
と、ノムルから呆れと軽蔑を向けられ、半目で地平線を眺めた。
諭すように注意されている雪乃の視界もまた、細くなっていた。
海中に潜っていくコイワシを見送ってから、雪乃たちは内陸にある密林に入って夜を越した。
翌日は、コイワシの他にも人魚達がやってきて、小舟を牽引してくれた。
海の中を見たがる雪乃がすぐに身を乗り出そうとするため、カイはしっかり雪乃を膝の上に固定している。
日の光を受けて輝く海原の向こうに、大きなシルエットが飛びだした。その姿を捉えた雪乃は、興奮して立ち上がりかけてカイに抑えられた。
「イルカさんです! 角が生えていますよ!」
一角クジラとは違い、ユニコーンのように、額に一本の角が生えるイルカに似た海獣だ。
群は海面を飛ぶように跳ねていく。次々と飛び出す姿は、美しく幻想的な光景だった。白く滑らかな水に濡れた体は、日の光を受けて輝いている。
優しそうな黒い瞳が、悪戯っぽく雪乃を見ていた。
人魚たちは速度を落とし、イルカたちと戯れるように泳ぐ。
「イルカ? あれは一角カイトンというのだよ?」
コイワシから訂正が入った。感動していた雪乃は、わずかに落ち着きを取り戻す。ちなみにイルカを漢字で書くと、『海豚』となる。
「面目ないです。ありがとうございます」
カイの手が雪乃に触れるより先に、ノムルが雪乃を膝の上へと回収した。
海に落ちかけてドキドキしている脈を落ち着かせるため、雪乃はゆっくりと深呼吸をする。落ち着いてくると、魔力を込めた。
きらりーんと目元を光らせた雪乃の左枝の下に、オレンジや黄色の果物が実を結ぶ。
「食後のデザートは如何でしょう?」
「おおー!」
「ぴー!」
「もらおう」
シーマー国に着いてから採取した果物を、さっそく披露したのだった。
「お味はどうでしょう?」
「うーん、凄く甘くて美味しいよ」
「ああ、露店の果物より美味いな。それに疲れも取れる」
「ぴー!」
どうやら樹人の魔力も混じって、味覚も栄養もアップしたようだ。
雪乃は満足そうに葉をきらめかせる。
枝に生った果物がなくなると、雪乃はノムルの膝の上に乗せられながらも、再び海を覗き込もうと幹を伸ばす。
小さな熱帯魚に混じって、時々マンタのような大きな魚も、舟の下を泳いでいく。中にはマグロも吃驚な、大きな向日葵色の魚の尻尾も見えた。
「ん?」
雪乃は幹を伸ばして覗き込む。
「ユキノちゃん、そんなに海が好きなのー? おとーさんのお膝よりもー?」
がっしりと雪乃の腰をホールドしたノムルが、不貞腐れた顔で尋ねた。
「おとーさんのお膝はともかく、今何か、見覚えのある魚が……」
雪乃がよく見ようと、舟の下を覗きこんだ瞬間、
「はっはっはー! 君たちだったのか」
と、暑苦しい笑顔のマッチョ人魚コイワシが、海面に飛び出してきた。
「ふみゃあっ?! コイワシさん、驚かさないでください」
「はっはっはー、凄いスピードで泳いでいたから、ついつい追いかけてきてしまったよ。惨敗だったけどね」
爽やかに笑っているコイワシは、楽しそうだ。
周囲に他の人魚の姿は無い。どうやら小舟に追いついてこられたのは、コイワシだけらしい。
笑っていたコイワシの視線が、雪乃へと注がれる。同時にノムルとカイの目が細まった。
カイの目には警戒が宿り、ノムルの眼には殺気まで混じっている。
フードを被せられた雪乃は、身をすくめるようにノムルの腹に体を寄せる。
探るような視線だったコイワシの手が、舟の縁へと掛かったその時、ピシャーンっと雷光が閃いた。
「俺の娘に何をする気だ?」
親ばか魔王様降臨である。
小舟の縁に足を掛けて、白目を剥いてぷかぷか浮かぶコイワシを見下ろしていた。
「はっはっはー。いやあ、驚いた」
ムキムキな御胸にロープを括りつけられたコイワシは、現在一人で小舟を牽引していた。
他にも小舟を追いかけてきた人魚はいたそうなのだが、雷を恐れて離れていってしまったようだ。
「なるほどなるほど。どうして人間をヒイヅルに運んでいるのか気になってはいたんだけど、そんな時期だったんだねえ」
感慨深そうに、コイワシは青い空を見上げる。
向日葵色の尾びれが力強くしなり、ノムルの魔法や人魚の集団には負けるものの、エンジン付きのボート並の速度で進んでいた。
含みのありそうなコイワシの言葉に、雪乃たちは顔を見合わせる。
「どういう意味だ?」
代表するように、ノムルが問うた。
するとコイワシは泳ぎながらも振り返り、真剣な眼差しでノムルの本性を探ろうと、じいっと見つめる。
見つめられたノムルは、目を細めて見つめ返す。光を消した暗い瞳。背後には八つ首の龍が蠢く。
引き締まったコイワシの表情筋に瘤ができ、ひくひくと波打つ。だらだらと汗が流れては、海水に混じっていった。
「コイワシ、ノムル殿は雪乃の味方だ。正確には、雪乃だけの味方かもしれないが」
二人の間を取り持つように、カイが口を挟む。後半はなぜが死んだ魚のような目になっていたが。
ちらりとカイと雪乃へと視線を向けたコイワシは、緊張を解く。同時にノムルから魔王様が抜けていった。
「そうだねえ。人魚たちは彼女の敵にはならないとだけ伝えておくよ」
何か知っている様子のコイワシだが、それ以上の話はする気が無いようだ。気になった雪乃だが、
「ふぬぬぬぬーっ! お、お髭が……」
魔王様が撤退した途端に、無精ひげの猛攻を受け、戦いに身を投じたのだった。
その日はそのままコイワシに牽引してもらい、日が傾き出すと、夜を越すために適当な島に上陸した。
「明日の朝、また迎えにこよう」
ロープを外したコイワシは体を解すように、鳩尾の前で拳を合わて胸の筋肉を強調するポーズや、腕を直角に曲げた力瘤ポーズを繰り出している。
「ありがたいが良いのか?」
「はっはっはー。カイは何も聞いていないのか?」
申し訳なさそうに眉を下げたカイに、コイワシは探るように真剣な眼差しを向けた。
にわかに動揺するカイを、窺うように見上げていたコイワシは、ふっと力を抜く。
「まだ若いからな。だが任せられたのならば、それだけ認められているということだ。胸を張れ」
コイワシは鍛え上げられた胸の筋肉を強調するように体をそらし、ぴくぴくと動かして見せた。
「ありがとう」
カイは礼を言ったが、
「いやお前、そんなの見せられて礼を言うとか、どんな趣味だよ? ユキノちゃん、やっぱりこの狼、危険だよ? 近付いちゃ駄目だよ」
と、ノムルから呆れと軽蔑を向けられ、半目で地平線を眺めた。
諭すように注意されている雪乃の視界もまた、細くなっていた。
海中に潜っていくコイワシを見送ってから、雪乃たちは内陸にある密林に入って夜を越した。
翌日は、コイワシの他にも人魚達がやってきて、小舟を牽引してくれた。
海の中を見たがる雪乃がすぐに身を乗り出そうとするため、カイはしっかり雪乃を膝の上に固定している。
日の光を受けて輝く海原の向こうに、大きなシルエットが飛びだした。その姿を捉えた雪乃は、興奮して立ち上がりかけてカイに抑えられた。
「イルカさんです! 角が生えていますよ!」
一角クジラとは違い、ユニコーンのように、額に一本の角が生えるイルカに似た海獣だ。
群は海面を飛ぶように跳ねていく。次々と飛び出す姿は、美しく幻想的な光景だった。白く滑らかな水に濡れた体は、日の光を受けて輝いている。
優しそうな黒い瞳が、悪戯っぽく雪乃を見ていた。
人魚たちは速度を落とし、イルカたちと戯れるように泳ぐ。
「イルカ? あれは一角カイトンというのだよ?」
コイワシから訂正が入った。感動していた雪乃は、わずかに落ち着きを取り戻す。ちなみにイルカを漢字で書くと、『海豚』となる。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。
お小遣い月3万
ファンタジー
異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。
夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。
妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。
勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。
ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。
夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。
夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。
その子を大切に育てる。
女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。
2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。
だけど子どもはどんどんと強くなって行く。
大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる