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ヒイヅル編
318.なんでこんな所に呑気に
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「爆発するぞ。離れろ」
「「は?」」
カイの声が雪乃とノムルの横を通り抜けた次の瞬間、カイが浸かっていた温泉は、砂とお湯を巻き上げて、爆発した。
もちろん雪乃もノムルも、障壁を張ったので無傷だ。
「なんでこんな所に呑気に浸かってたんだ?!」
「気持ちいいからな。今回は運が悪かった。いつもはもう少し、ゆっくり入れるんだが」
何事も無かったかのように体を拭いて服を着るカイに、さすがのノムルも絶句する。
獣人たちの文化は、人間とは色々と違うようだ。
「ユキノちゃん、こいつ、本当に信用して良いの?」
「大丈夫だと思います。ただ、常識人だと信じていたのに、ちょっぴりショックです」
雪乃はがくりと項垂れた。
そんなこんなの観光を楽しんでいるうちに、ヒイヅル国へと向かう船に乗る日がやってきた。
港には漁に使う船や、近隣の島に向かうための小舟が多く停泊している。その中で一際目立つ大きな帆船が、ヒイヅル国へ向かう船だった。
「大きなマストですね。どうやって洗濯するのでしょう?」
たくさんのロープをまとった白いマストや、木造の美しい船体に、雪乃は歓声を上げて葉をきらきらと輝かせている。
「機関車はこんなに喜ばなかったのに……」
なぜか落ち込んだノムルがカイを睨みつけているが、雪乃もカイも気にしない。もう慣れすぎて当たり前になってきている。
「ではタンゴムシさん、お世話になりました。色々と楽しかったです。ありがとうございました」
タンゴムシとはここでお別れだ。雪乃はぺこりと幹を曲げた。
『私も楽しかったわ。旅の安全を祈っているわね』
「ありがとうございます。タンゴムシさんも気を付けて帰ってくださいね」
『ええ、ありがとう』
丸くなったタンゴムシは、猛スピードで転がって港から離れていく。あの速さで移動していたのかと、雪乃は初めて知ったのだった。
タンゴムシの姿が見えなくなると、雪乃たちは帆船へと向かった。大きな帆船は海岸に直接つけることができないため、小舟に乗って船近くの筏まで運ばれる。
そこから幅一メートルほどの板を上り、帆船に乗り込む。
板には滑り止めは着いているが、手すりも無い。バランスを崩せば海にまっ逆さまだ。
筏の近くならば大した高さではないが、帆船の入口近くとなると、かなり高くなる。入水するときの身体の角度が悪いと、大怪我をしてしまいそうな高さだ。
上手く入水しても海深くまで落ちて行き、泳ぎが達者でなければ溺れかねないだろう。
雪乃はごくりと息を飲み込む。
前の客が橋を渡り始め、次は雪乃の番だ。緊張しながら、雪乃は一歩踏み出す。
しかし橋に根を掛ける前に、ひょいっと抱き上げられた。
振り返ると、カイが抱っこしていた。
「危ないから、雪乃は俺が運ぼう」
「お願いします」
雪乃は逆らわずにカイに身を任す。
カイに抱き上げてもらったことで、最初は怖がりながらも余裕のあった雪乃だが、橋を上っていくにしたがって高度に樹液が引いていく。
ひしりと、カイにしがみ付いたその時、
「おい、狼! 返せ!」
後ろを歩いていたノムルが嫉妬に耐えかねて、喚きながら雪乃へと手を伸ばした。
「ノムルさん?! 落ち着いてください、危な……ってわ、わ、わ……」
板を渡しただけの簡易的な橋は、一人が暴れれば大きくしなり揺れる。渡っていた人たちは上下に跳ね、ぐらぐらと振られ、数人が海へと落下した。
しがみ付いてなんとか残っている者には余裕など無いが、立ったままバランスを取っている者たちは、怒気を含んだ眼をノムルに向ける。
カイに抱きかかえられ、橋の上に残っている雪乃だが、それでも揺れは伝わってくる。
恐怖で更にカイにしがみ付けば、親ばか魔法使いは歯軋りをして、更に奪おうと暴れだす。
前にいた客たちが落ちたり、絶妙なバランス感覚で帆船へと渡りきったことを確認すると、カイも駆け出した。
「待てっ! 逃げるな!」
追いかけてくる親ばか魔法使い。
跳ねるように橋を蹴って船に乗り込んだカイは、くるりと向きを変える。雪乃はまだ、ドキドキして頭が回らない。
「他の客の迷惑だ。時と場所を考えろ」
「お前がユキノちゃんにしがみつかれるのが悪い! おとーさんには中々甘えてくれないのに」
地団駄を踏んでいる魔法使いに、騒ぎを見ていた船員や客たちは、呆れ眼を向けている。
「船で暴れるのは禁止だ。守れないなら降りてくれ」
船員を引き連れた船長らしき竜人が、カイとノムルの間に入った。
肉体労働によって鍛え上げられた筋肉を覆う、海のような紺碧色の鱗が、明るい日差しの下できらきらと光っている。
「すまない。航海の間はおとなしくしているよう注意しておくから、乗船を許してほしい」
雪乃を下ろしたカイは、船長に対して頭を下げる。すぐにノムルに奪われた雪乃もまた、無精ひげと戦いながら頭を下げた。
「すみません。注意不足でした」
騒動の主因である魔法使いに、人々の顔が向かう。視線さえ向けない魔法使いに対して、険がこもっていく。
「重ねてすまない。彼はちょっと……いや、かなり常識がずれているんだ」
カイの謝罪に、船長は眉間に皺を寄せる。納得していない顔付きに、カイはそっと船長の耳元に口を近付けてなにやら囁いた。
途端に船長は目を丸くし、雪乃とノムルを交互に見た後、カイに視線を戻す。
「必ず抑えておいてくれ」
「分かった」
なんとか乗船拒否は免れたようだと、雪乃はほっと胸を撫で下ろす。
船長が船員に指示を出すと、船員たちは乗船口から降りていく。
騒動で乗船できずに筏で待っていた乗船客たちに乗り込むように声を掛け、海に落ちた人たちが筏に乗り込むのを手伝った。
「ふぬぬぬぬー。ノムルさん、落ちた方々の治療、それに服や体、荷物を洗浄してから乾かしてあげてください。ふんにゅうー」
無精ひげと戦いながら、雪乃はノムルに言った。
「大丈夫だよ? 今日は暑いからねー。海に飛び込んで調度良いよ」
「よくありません! 言う通りにしないなら、船にいる間、私はカイさんと別室で過ごさせていただきます」
ぴしりと固まった親ばか魔法使いは、すぐに杖を出すと指で軽く撫でた。
筏のほうから驚嘆するような声が上がったので、雪乃の言ったことを実行したのだろう。
「さ、これでユキノちゃんはおとーさんと同室だねー」
どこか納得のいかない雪乃だが、これ以上の騒ぎを起こさせるわけにはいかない。
「「は?」」
カイの声が雪乃とノムルの横を通り抜けた次の瞬間、カイが浸かっていた温泉は、砂とお湯を巻き上げて、爆発した。
もちろん雪乃もノムルも、障壁を張ったので無傷だ。
「なんでこんな所に呑気に浸かってたんだ?!」
「気持ちいいからな。今回は運が悪かった。いつもはもう少し、ゆっくり入れるんだが」
何事も無かったかのように体を拭いて服を着るカイに、さすがのノムルも絶句する。
獣人たちの文化は、人間とは色々と違うようだ。
「ユキノちゃん、こいつ、本当に信用して良いの?」
「大丈夫だと思います。ただ、常識人だと信じていたのに、ちょっぴりショックです」
雪乃はがくりと項垂れた。
そんなこんなの観光を楽しんでいるうちに、ヒイヅル国へと向かう船に乗る日がやってきた。
港には漁に使う船や、近隣の島に向かうための小舟が多く停泊している。その中で一際目立つ大きな帆船が、ヒイヅル国へ向かう船だった。
「大きなマストですね。どうやって洗濯するのでしょう?」
たくさんのロープをまとった白いマストや、木造の美しい船体に、雪乃は歓声を上げて葉をきらきらと輝かせている。
「機関車はこんなに喜ばなかったのに……」
なぜか落ち込んだノムルがカイを睨みつけているが、雪乃もカイも気にしない。もう慣れすぎて当たり前になってきている。
「ではタンゴムシさん、お世話になりました。色々と楽しかったです。ありがとうございました」
タンゴムシとはここでお別れだ。雪乃はぺこりと幹を曲げた。
『私も楽しかったわ。旅の安全を祈っているわね』
「ありがとうございます。タンゴムシさんも気を付けて帰ってくださいね」
『ええ、ありがとう』
丸くなったタンゴムシは、猛スピードで転がって港から離れていく。あの速さで移動していたのかと、雪乃は初めて知ったのだった。
タンゴムシの姿が見えなくなると、雪乃たちは帆船へと向かった。大きな帆船は海岸に直接つけることができないため、小舟に乗って船近くの筏まで運ばれる。
そこから幅一メートルほどの板を上り、帆船に乗り込む。
板には滑り止めは着いているが、手すりも無い。バランスを崩せば海にまっ逆さまだ。
筏の近くならば大した高さではないが、帆船の入口近くとなると、かなり高くなる。入水するときの身体の角度が悪いと、大怪我をしてしまいそうな高さだ。
上手く入水しても海深くまで落ちて行き、泳ぎが達者でなければ溺れかねないだろう。
雪乃はごくりと息を飲み込む。
前の客が橋を渡り始め、次は雪乃の番だ。緊張しながら、雪乃は一歩踏み出す。
しかし橋に根を掛ける前に、ひょいっと抱き上げられた。
振り返ると、カイが抱っこしていた。
「危ないから、雪乃は俺が運ぼう」
「お願いします」
雪乃は逆らわずにカイに身を任す。
カイに抱き上げてもらったことで、最初は怖がりながらも余裕のあった雪乃だが、橋を上っていくにしたがって高度に樹液が引いていく。
ひしりと、カイにしがみ付いたその時、
「おい、狼! 返せ!」
後ろを歩いていたノムルが嫉妬に耐えかねて、喚きながら雪乃へと手を伸ばした。
「ノムルさん?! 落ち着いてください、危な……ってわ、わ、わ……」
板を渡しただけの簡易的な橋は、一人が暴れれば大きくしなり揺れる。渡っていた人たちは上下に跳ね、ぐらぐらと振られ、数人が海へと落下した。
しがみ付いてなんとか残っている者には余裕など無いが、立ったままバランスを取っている者たちは、怒気を含んだ眼をノムルに向ける。
カイに抱きかかえられ、橋の上に残っている雪乃だが、それでも揺れは伝わってくる。
恐怖で更にカイにしがみ付けば、親ばか魔法使いは歯軋りをして、更に奪おうと暴れだす。
前にいた客たちが落ちたり、絶妙なバランス感覚で帆船へと渡りきったことを確認すると、カイも駆け出した。
「待てっ! 逃げるな!」
追いかけてくる親ばか魔法使い。
跳ねるように橋を蹴って船に乗り込んだカイは、くるりと向きを変える。雪乃はまだ、ドキドキして頭が回らない。
「他の客の迷惑だ。時と場所を考えろ」
「お前がユキノちゃんにしがみつかれるのが悪い! おとーさんには中々甘えてくれないのに」
地団駄を踏んでいる魔法使いに、騒ぎを見ていた船員や客たちは、呆れ眼を向けている。
「船で暴れるのは禁止だ。守れないなら降りてくれ」
船員を引き連れた船長らしき竜人が、カイとノムルの間に入った。
肉体労働によって鍛え上げられた筋肉を覆う、海のような紺碧色の鱗が、明るい日差しの下できらきらと光っている。
「すまない。航海の間はおとなしくしているよう注意しておくから、乗船を許してほしい」
雪乃を下ろしたカイは、船長に対して頭を下げる。すぐにノムルに奪われた雪乃もまた、無精ひげと戦いながら頭を下げた。
「すみません。注意不足でした」
騒動の主因である魔法使いに、人々の顔が向かう。視線さえ向けない魔法使いに対して、険がこもっていく。
「重ねてすまない。彼はちょっと……いや、かなり常識がずれているんだ」
カイの謝罪に、船長は眉間に皺を寄せる。納得していない顔付きに、カイはそっと船長の耳元に口を近付けてなにやら囁いた。
途端に船長は目を丸くし、雪乃とノムルを交互に見た後、カイに視線を戻す。
「必ず抑えておいてくれ」
「分かった」
なんとか乗船拒否は免れたようだと、雪乃はほっと胸を撫で下ろす。
船長が船員に指示を出すと、船員たちは乗船口から降りていく。
騒動で乗船できずに筏で待っていた乗船客たちに乗り込むように声を掛け、海に落ちた人たちが筏に乗り込むのを手伝った。
「ふぬぬぬぬー。ノムルさん、落ちた方々の治療、それに服や体、荷物を洗浄してから乾かしてあげてください。ふんにゅうー」
無精ひげと戦いながら、雪乃はノムルに言った。
「大丈夫だよ? 今日は暑いからねー。海に飛び込んで調度良いよ」
「よくありません! 言う通りにしないなら、船にいる間、私はカイさんと別室で過ごさせていただきます」
ぴしりと固まった親ばか魔法使いは、すぐに杖を出すと指で軽く撫でた。
筏のほうから驚嘆するような声が上がったので、雪乃の言ったことを実行したのだろう。
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