『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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ヒイヅル編

340.コイワシさんのほうが

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 スオウは雪乃が怯えていると、ムサシの肩に手を添えて注意を促がそうとしたのだが、

「……コイワシさんのほうが、ムキムキでした」

 ぽつりと漏れ出た雪乃の呟きに、獣人たちは揃って硬直した。
 ただ一人だけ、雪乃の性格を見抜いているカイだけは、凍りついた空気の中を難なく歩いてきて、雪乃の頭に手を乗せる。

「雪乃、兄上は別に、筋肉自慢をしているわけではないからな」

 念のためとばかりに、フォローを入れたのだった。ぽてりと幹を傾げた小さな樹人は、理解していないようだが。 
 川原で三角座りをしたムサシは、小石を拾っては川に投げ込み始めた。大きな体から投げられる石は、どぼんっと音を立てては沈んでいく。
 微妙な空気が流れる中、スオウが雪乃に接近を再開する。少し顔が強張っているようだが、まだ親しくないから緊張しているのだろうと、雪乃はスオウが話しかけるのを待つ。

「御子様は、どのような男がお好きですか?」

 直球で行った! と、その勇気に賞賛する獣人たちの視線が、スオウに集まった。同族の視線を受けて、スオウの笑顔が引きつる。
 対する雪乃は、ふむうっと考える。

「そうですねえ。どっしりと太くて、美味しい木の実をつける、広葉樹が良いです」

 スオウは両手で顔を覆い、丸くなってぷるぷると震え始めた。
 獣人たちは気の毒そうにスオウを眺める。やはり樹人と獣人とでは感性が違うのかもしれないと、諦め交じりの視線を雪乃に向けた。

「雪乃、たぶん兄上が聞きたかったことは、そういうことではないと思うぞ?」

 見かねたカイが雪乃の隣にしゃがみ込み、説明を始める。

「兄上たちが知りたいのは、雪乃がどういう相手と結婚したいかだ」

 雪乃はじいっとカイを見つめる。じいっと、じいいーっと、本当にカイを見ているのか疑わしいほど、カイを見つめたまま動かない。
 ようやく顔を上へと動かしたかと思えば、ぽてりと幹を傾げた。

「そのような先の話を聞かれましても……。私はまだ子供ですよ?」
「そうだな。雪乃にはまだ早い話だな」

 雪乃の頭を撫でながら、カイも同意する。
 地球にいた頃の雪乃の年代であれば、恋愛話自体は珍しくはない。むしろ話題を振られれば盛り上がる年頃だろう。
 しかし雪乃は、色恋沙汰にはあまり興味がなかった。まして結婚などまだまだ先の話であって、考えようという気にもなれなかった。
 それはさておき、

「はて? もしやムサシさんとスオウさんは、私と本気で結婚するつもりだったということでしょうか?」

 と、ここまでの二人の行動や話の流れをを思い返した雪乃は、その可能性に思い当たる。
 ぴくりと震えたムサシとスオウが、期待を込めて雪乃を見つめる。その視線で、雪乃は彼らが本気で自分を結婚相手として見ていたのだと理解した。
 だから、

「カイさん、お兄さんたちはロリコンのようです。しかも植物に恋をするという、ノムルさん属性です。気を付けたほうがいいですよ」

 カイの後ろに身を隠すと、こっそりと囁いた。
 ムサシもスオウも二十代の大人である。この世界に生まれて一年、地球の記憶を入れてもまだ十代前半の雪乃は、恋愛対象として二人を見ることなど到底できなかった。
 しっかりと聞きとめてしまった獣人たちは、やるせなさに肩を落とす。当事者であるムサシとスオウに至っては、顔面崩壊の上、真っ白になっていた。

「一応、言い訳をさせていただきたい」

 なんとか持ち直したムサシとスオウは、雪乃の前で神妙に跪いた。
 雪乃はカイの後ろに隠れたまま、顔を半分だけ出して様子を窺っている。
 ノムル二号や三号に狙われてはたまらない。あんな変態はノムルだけで充分だ。ノムルだけで手一杯どころか、手に余りまくっているのだから。

「ナンデショウ?」

 警戒心を顕わにする雪乃に、皇子二人は苦笑いを禁じえない。ついでにカイの後ろから顔を覗かせている、マンドラゴラたちも気になって仕方がない。
 ヒイヅルに到着してからあまり姿を現さなかったマンドラゴラたちだったが、雪乃の不安を感じ取ったのか、出てきたようだ。
 そして雪乃と一緒になって、カイの背中から獣人の皇子二人を見つめている。

 雪乃とマンドラゴラたちから警戒の眼差しを向けられて、居心地の悪いムサシとスオウだが、それでもこのままにしてはおけないと判断したのだろう。気合を入れなおして釈明を開始する。
 兄二人と雪乃に挟まれて、カイも居心地が悪そうに座っている。

「御子様は、ご自身の価値をご理解していないように見受けられます」

 じいっと、雪乃はムサシを見つめる。
 カイの背中から半分ほど出ていた顔が、少し引っ込んだ。マンドラゴラたちも、あわせて少し引っ込む。

「御子様がお選びになった者の同族が、祝福を受けることはご存知ですね?」

 ヒミコの話を思い浮かべ、雪乃はこくりと頷く。

「わが狼獣人は、御子様が一族の者をお選びになった場合、その者を王とするという決まりがあるのです」

 ムサシの説明を聞き、雪乃は納得して警戒を解く。どうやらロリコンだったわけではないようだ。
 危機は去ったと理解したようで、マンドラゴラたちもくつろぎ始めた。と思ったら、慌てたように雪乃の中に引っ込んだ。
 いつもは出たがるマンドラゴラたちにしては珍しい行動だ。雪乃は不審に思うが、今はムサシたちの問題が先である。

「なるほど。つまり王様になるために、皆さん私に近付いていたのですね?」

 はっきりと言われて、ムサシとスオウは気まずそうに顔を逸らした。二人の後ろに控えていた獣人たちも、同じように雪乃と視線を合わせないよう、斜め下を向いている。
 雪乃はぽりぽりと頬葉を掻く。

「別に怒ってはいませんよ? 私を気に入る人なんて、余程の変人だけだと分かっていますから。ノムルさんみたいな」

 まったくもって常識の通じない変態魔法使いを、雪乃は思い浮かべる。
 雪乃の言葉を聞き、獣人たちはショックを受けたように顔を歪め、苦しげに俯いた。
 カイも眉をひそめる。まだ背中に隠れ気味になっている雪乃に手を伸ばすと、ひょいっと抱き上げて、いつものように頭を撫でた。
 くすぐったそうに、雪乃は葉をきらめかせて揺らした。

「念のために言っておくが、雪乃が特別な存在だと俺が知ったのは、雪乃たちと共に里に戻ってからだからな? ただの樹人だろうと、御子様だろうと、雪乃は雪乃だ。どちらでも構わない。だがノムル殿と同類だとは、思われたくない」

 最後の一言と同時に冷たい空気が流れたような気がして、雪乃はふるりと震えた。
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