306 / 385
魔王復活編
358.間違いなくマンドラゴラが
しおりを挟む
「カイさん、凄いです」
素直に賞賛の声を向けた雪乃だが、カイは複雑そうな表情だ。喜びはなく、戸惑いの色に染まっている。
「まぐれという訳ではなかったようだな。間違いなくマンドラゴラが原因だとは思うが」
「わー」
見つめられたマンドラゴラは、赤くなって根を捩る。その仕草がわざとらしいと感じるのは、カイの心がすさんでしまっているからだろうか。
翌朝、目覚めた雪乃たちは勇者の聖剣を目指して移動を始めた。
昨日の二の舞にならないよう、ぴー助には低めに飛んでもらう。これならば人間に見つかってもすぐに声を掛けるなり、下りて説明するなりできる。
飛ばずに歩かせようかとも考えたのだが、ぴー助が嫌がった。そしてそれ以上に、
「落ちるかと思いました」
上下運動が激しすぎた。
一歩踏み出すたびに、軽い雪乃は一メートル以上も跳ね上がった。カイがキャッチしてくれなければ、落ちていただろう。
水墨画に描かれるような木々の生えない細く高い岩山に、腕に覚えのある者たちが列をなして登っている。
山肌に沿って螺旋状に道もあるようだが、その幅は広くても五十センチに満たない狭さで、場所によってはロープが張られただけの岩壁を進まなければならない。
それだけでも高難易度の登山となっているが、山から下る者たちもいるため、すれ違う時は命懸けだ。
早々にリタイアして下山している者もいる。
彼らの恨めしそうな視線を浴びながら、雪乃たちはぴー助に乗ったまま、悠々と頂上に下り立った。
吹きさらしの岩に、一本の剣が突き立っている。雨よけの囲いさえないにも関わらず、剣には錆も汚れも見当たらなかった。
「毎日誰かが磨いているのでしょうか?」
雪乃はふむうっと真剣に悩む。
「感想はそこなんだ。確かに気になるけど」
千年も経てば大抵の物は劣化してぼろぼろになる。それが新品同然の姿に保たれているなど、地球ではありえない現象であろう。
聖剣の前には、ずらりと登頂成功者たちが並んでいた。雪乃たちもその列に加わる。
ちらちらと向けられる視線は、ムダイを見ているようだ。
最強とも呼ばれるSランク冒険者、竜殺しのムダイ。彼が勇者候補であったことを知らないこの世界の人間から見ても、勇者の座に近い人物の一人と目されていても不思議ではない。
ムダイのついでのようにカイと雪乃を見る者もいたが、彼らから向けられる感情は、ムダイに対してとは大きく異なる。
特に雪乃は一メートルにも満たない小さな子供だ。なぜ竜殺しがこんな子供を連れてきたのかと、疑問に感じるのは仕方あるまい。
列の先頭からは、力を込める唸り声や気合声、奇声が聞こえてくる。それから落胆の溜め息や怒声や絶叫が続いた。
大きな声だが山彦は真似をする気はないようだ。周囲の山よりあまりに高い山のため、返してくれる山もなく、そのままどこか遠くまで旅立っていく。
もしかすると遠くに暮らす一般の方々が、ここしばらく奇妙な声が届き気味悪がっているしかもしれないと、順番を待ちながら雪乃は呑気に考えていた。
ようやく雪乃たちに順番が回ってきた。
すでに挑戦を終えている者も、竜殺しの姿を見止めて勇者誕生に立ち会おうと、下山せずに残っている。
山頂にいる者たちの視線が集まる中、ムダイは聖剣の前に進むよう、雪乃を促す。雪乃はじとりとムダイを睨んだ。
「この状況で私に行けと仰るのですか? 御無体な。まずは皆さんの期待の星である、ムダイさんが引っこ抜いてください」
ムダイが雪乃に先を譲ろうとしたことで、咎めるような視線が発生している。自ら嫌われに行くほど、雪乃は豪胆でも変わり者でもない。
「えー? もし抜けたらどうするのさ?」
ムダイは不満そうに眉間にしわを刻む。
「その時はムダイさんが勇者になれば良いではないですか。ノムルさんと戦い放題ですよ?」
「後半は魅力的だけどね」
戦闘狂は思わず本音をこぼす。
聖剣を前に話し込むムダイと雪乃に、周囲は苛立ち始めた。
「ほら、皆さんが待っているのですから、早くしてください」
雪乃はムダイを両枝で押して、聖剣の前に立たせる。
まだ納得していないようだが、ムダイは仕方なくといった様子で聖剣に手を掛けた。すると、聖剣が淡く輝きだす。
「おおーっ!」
山頂に歓声が響いた。しかし剣は地面に突き刺さったままだ。
「ムダイさん、ちゃんとしっかり抜いてください」
雪乃の叱責が飛ぶ。
勇者を押し付けたい気持ちもあるが、わざと抜かないでいることのほうに、雪乃は怒っていた。意外と真面目な雪乃である。
「ちゃんと引っ張ったって」
「もっとしっかり踏ん張ってください!」
びしりと人差し小枝を突きつける雪乃に、周囲の挑戦者たちも強く頷く。
孤立無援となったムダイは、渋々剣の柄にもう一度手を掛けると、淡く輝きだした聖剣を両手で引っ張る。
しかし聖剣が抜けることはなかった。
「ムダイさん?」
じとりと、雪乃は疑いの目を向ける。
「本気で引っ張ってるって。むしろなんで抜けないの? どういう仕組み?」
首を捻ったムダイは、もう一度引っ張り始める。赤い勇者の唯一赤くない肌が、朱に染まっていく。その内に、
「くくく。これだけ引っ張っても抜けないとは、舐められたものですね」
ギラギラと目を輝かせ、唇をちろりと舐める戦闘狂が現れた。
「本気だったようだな」
「疑ってしまいました。後で謝らなければ」
カイと雪乃は虚ろな視界で目の前の暴挙を眺める。
引っこ抜くどころか、地面がえぐれてひびが入っていく。人々は逃げ惑うが、落ちれば終わりの高山だ。逃げ場など無い。
それでも聖剣は地面に刺さり続ける。
「あれ、どうやったら戻せるのでしょうか?」
「さあな」
大魔王様は雪乃の呪文で封じることができたが、戦闘狂を押さえ込んだ経験は、雪乃とカイにはない。
自分の迂闊な行為に、深く反省した雪乃だった。
「がうう?」
困り果てている雪乃を見ていたぴー助が、ムダイに近付いていく。
「駄目です、ぴー助! 危険です!」
雪乃は慌てて制止した。いくら成獣となったぴー助でも、竜種を一人で倒すムダイに敵うとは思えない。
そう思って止めようとしたのだが、
「がうううーっ!」
ぴー助はムダイにつっ込み、蹴り飛ばした。
素直に賞賛の声を向けた雪乃だが、カイは複雑そうな表情だ。喜びはなく、戸惑いの色に染まっている。
「まぐれという訳ではなかったようだな。間違いなくマンドラゴラが原因だとは思うが」
「わー」
見つめられたマンドラゴラは、赤くなって根を捩る。その仕草がわざとらしいと感じるのは、カイの心がすさんでしまっているからだろうか。
翌朝、目覚めた雪乃たちは勇者の聖剣を目指して移動を始めた。
昨日の二の舞にならないよう、ぴー助には低めに飛んでもらう。これならば人間に見つかってもすぐに声を掛けるなり、下りて説明するなりできる。
飛ばずに歩かせようかとも考えたのだが、ぴー助が嫌がった。そしてそれ以上に、
「落ちるかと思いました」
上下運動が激しすぎた。
一歩踏み出すたびに、軽い雪乃は一メートル以上も跳ね上がった。カイがキャッチしてくれなければ、落ちていただろう。
水墨画に描かれるような木々の生えない細く高い岩山に、腕に覚えのある者たちが列をなして登っている。
山肌に沿って螺旋状に道もあるようだが、その幅は広くても五十センチに満たない狭さで、場所によってはロープが張られただけの岩壁を進まなければならない。
それだけでも高難易度の登山となっているが、山から下る者たちもいるため、すれ違う時は命懸けだ。
早々にリタイアして下山している者もいる。
彼らの恨めしそうな視線を浴びながら、雪乃たちはぴー助に乗ったまま、悠々と頂上に下り立った。
吹きさらしの岩に、一本の剣が突き立っている。雨よけの囲いさえないにも関わらず、剣には錆も汚れも見当たらなかった。
「毎日誰かが磨いているのでしょうか?」
雪乃はふむうっと真剣に悩む。
「感想はそこなんだ。確かに気になるけど」
千年も経てば大抵の物は劣化してぼろぼろになる。それが新品同然の姿に保たれているなど、地球ではありえない現象であろう。
聖剣の前には、ずらりと登頂成功者たちが並んでいた。雪乃たちもその列に加わる。
ちらちらと向けられる視線は、ムダイを見ているようだ。
最強とも呼ばれるSランク冒険者、竜殺しのムダイ。彼が勇者候補であったことを知らないこの世界の人間から見ても、勇者の座に近い人物の一人と目されていても不思議ではない。
ムダイのついでのようにカイと雪乃を見る者もいたが、彼らから向けられる感情は、ムダイに対してとは大きく異なる。
特に雪乃は一メートルにも満たない小さな子供だ。なぜ竜殺しがこんな子供を連れてきたのかと、疑問に感じるのは仕方あるまい。
列の先頭からは、力を込める唸り声や気合声、奇声が聞こえてくる。それから落胆の溜め息や怒声や絶叫が続いた。
大きな声だが山彦は真似をする気はないようだ。周囲の山よりあまりに高い山のため、返してくれる山もなく、そのままどこか遠くまで旅立っていく。
もしかすると遠くに暮らす一般の方々が、ここしばらく奇妙な声が届き気味悪がっているしかもしれないと、順番を待ちながら雪乃は呑気に考えていた。
ようやく雪乃たちに順番が回ってきた。
すでに挑戦を終えている者も、竜殺しの姿を見止めて勇者誕生に立ち会おうと、下山せずに残っている。
山頂にいる者たちの視線が集まる中、ムダイは聖剣の前に進むよう、雪乃を促す。雪乃はじとりとムダイを睨んだ。
「この状況で私に行けと仰るのですか? 御無体な。まずは皆さんの期待の星である、ムダイさんが引っこ抜いてください」
ムダイが雪乃に先を譲ろうとしたことで、咎めるような視線が発生している。自ら嫌われに行くほど、雪乃は豪胆でも変わり者でもない。
「えー? もし抜けたらどうするのさ?」
ムダイは不満そうに眉間にしわを刻む。
「その時はムダイさんが勇者になれば良いではないですか。ノムルさんと戦い放題ですよ?」
「後半は魅力的だけどね」
戦闘狂は思わず本音をこぼす。
聖剣を前に話し込むムダイと雪乃に、周囲は苛立ち始めた。
「ほら、皆さんが待っているのですから、早くしてください」
雪乃はムダイを両枝で押して、聖剣の前に立たせる。
まだ納得していないようだが、ムダイは仕方なくといった様子で聖剣に手を掛けた。すると、聖剣が淡く輝きだす。
「おおーっ!」
山頂に歓声が響いた。しかし剣は地面に突き刺さったままだ。
「ムダイさん、ちゃんとしっかり抜いてください」
雪乃の叱責が飛ぶ。
勇者を押し付けたい気持ちもあるが、わざと抜かないでいることのほうに、雪乃は怒っていた。意外と真面目な雪乃である。
「ちゃんと引っ張ったって」
「もっとしっかり踏ん張ってください!」
びしりと人差し小枝を突きつける雪乃に、周囲の挑戦者たちも強く頷く。
孤立無援となったムダイは、渋々剣の柄にもう一度手を掛けると、淡く輝きだした聖剣を両手で引っ張る。
しかし聖剣が抜けることはなかった。
「ムダイさん?」
じとりと、雪乃は疑いの目を向ける。
「本気で引っ張ってるって。むしろなんで抜けないの? どういう仕組み?」
首を捻ったムダイは、もう一度引っ張り始める。赤い勇者の唯一赤くない肌が、朱に染まっていく。その内に、
「くくく。これだけ引っ張っても抜けないとは、舐められたものですね」
ギラギラと目を輝かせ、唇をちろりと舐める戦闘狂が現れた。
「本気だったようだな」
「疑ってしまいました。後で謝らなければ」
カイと雪乃は虚ろな視界で目の前の暴挙を眺める。
引っこ抜くどころか、地面がえぐれてひびが入っていく。人々は逃げ惑うが、落ちれば終わりの高山だ。逃げ場など無い。
それでも聖剣は地面に刺さり続ける。
「あれ、どうやったら戻せるのでしょうか?」
「さあな」
大魔王様は雪乃の呪文で封じることができたが、戦闘狂を押さえ込んだ経験は、雪乃とカイにはない。
自分の迂闊な行為に、深く反省した雪乃だった。
「がうう?」
困り果てている雪乃を見ていたぴー助が、ムダイに近付いていく。
「駄目です、ぴー助! 危険です!」
雪乃は慌てて制止した。いくら成獣となったぴー助でも、竜種を一人で倒すムダイに敵うとは思えない。
そう思って止めようとしたのだが、
「がうううーっ!」
ぴー助はムダイにつっ込み、蹴り飛ばした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。
お小遣い月3万
ファンタジー
異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。
夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。
妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。
勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。
ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。
夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。
夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。
その子を大切に育てる。
女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。
2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。
だけど子どもはどんどんと強くなって行く。
大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる