『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

文字の大きさ
305 / 385
魔王復活編

357.勇者への進化が完了しました

しおりを挟む
「雪乃?!」

 慌ててカイが駆け戻ってきた。雪乃へと伸ばしたカイの手を、ムダイが遮る。

「ムダイ殿?!」

 戸惑いと叱責を含ませ、カイは鋭くにらみつけた。

「大丈夫だから、大人しく見ていて」

 焦りと憤りをにじませながらムダイを見つめるカイだが、すぐに雪乃に視線を戻す。光は小さな樹人の体に収束していった。

「雪乃!」

 すぐさまカイは雪乃を飛びつくように抱き上げる。

「雪乃、大丈夫か?」

 心配そうに顔をのぞきこみ、幹や枝を検分する。必死の形相に、雪乃はされるがままだ。

「カイ君も充分に過保護だなあ」

 呆れたようにムダイが呟くと、きつと睨みつけられた。

「雪乃に何かあったらどうする気だ?」

 雪乃を抱きかかえたまま、カイはムダイに詰め寄る。

「大丈夫だよ。こっちは危険は少ないって」

 と言いながら、ムダイは左手を上げて空から降ってきた二枚のカードを掴む。

「ちょっとムダイさん? なんで先に見るんですか?!」

 雪乃が抗議するが、気にせずムダイはカードを確認する。カードを見たムダイの口元が緩んだ。

「はい、どうぞ」

 吹き出しそうになるの耐えながら綺麗な微笑を作り、カードを差し出した。雪乃は奪うように受け取ると、内容を確認する。

『勇者への進化が完了しました』
「……存じております」

 虚ろな視界で文字を追うと、投げやりに答え、次のカードへ移る。

『勇者の剣を手に入れて、勇者であると証明しましょう』

 雪乃はそっと視線を外す。

「行き先は決まったようです」
「そうだね」

 がっくりと項垂れる雪乃を、ムダイは楽しそうに見ている。一人蚊帳の外となっているカイは眉をひそめているが、何も言わずに雪乃に従うようだ。
 再びぴー助の背中に乗った雪乃たちは、ゴリンからルモンに戻る途中で立ち寄った、勇者の聖剣が収められていると伝えられている山に向かう。

「……魔王効果だね」

 眼下を見下ろしたムダイは、ぽつりと呟いた。
 以前訪れたときは人っ子一人いなかった駅には、大勢の騎士や冒険者らしき人たちが集っている。人々が向かう方向は皆同じようで、蟻の行列のように一本の線ができていた。

「彼らと取り引きをして権利を譲るという手が」
「もう進化しちゃったからね。諦めなよ」
「くうっ」

 雪乃は悔しそうに葉噛みする。
 上空を飛行する飛竜に気付いた人々が顔を上げ、何か叫んでいる。剣や槍を持つ者は武器を掲げて威嚇しているだけだが、矢が放たれたり、魔法が放たれたりし始めた。

「がううー」

 ぴー助はかわすが、数が多い。下からの攻撃では、背に乗るムダイにはぴー助の体が邪魔をして何もできない。
 見かねたカイが矢だけでも焼き落とそうと、火魔法を放つ。火炎放射器どころか地上と空を隔てる火の海が現れ、矢はもちろん、魔法使いが放った魔法までも焼き尽くした。
 火は空中を薙いだだけで地面には到達していないが、熱波で下にいる人々が熱中症気味だ。中には膝を突いている者もいる。

「え? カイさん?」
「やりすぎじゃない?」

 ノムルじみた極大魔法に、雪乃とムダイは驚いてカイを見た。なぜか魔法を放った張本人であるカイまで、あ然として固まっている。

「ぴー助に届きそうな矢だけを払うつもりだったのだが。というより、これほどの威力、俺の魔力では不可能なはずだ」

 困惑しながら、魔法を放った右手をしげしげと見ている。その時、カイの肩の上で満足そうな声がした。

「わー!」

 胸を張るように根を反らしている。

「まさか、マンドラゴラの仕業なのでしょうか?」
「わー」

 こくりと頷くマンドラゴラ。褒めてとばかりに、きらりと根を光らせる。
 雪乃たちは黙ってマンドラゴラを見つめる。
 マンドラゴラは赤くなって、恥ずかしそうに根を捩った。

「マンドラゴラたちの謎が更に深く……。彼らは本当に、薬草マンドラゴラなのでしょうか?」
「わー?」

 疑問を投じる雪乃に、カイとムダイも心は同じと俯いた。ほめてもらえなかったマンドラゴラは、不満そうに声を上げる。
 それはさておき、

「このままだと死者が出かねないから、ちょっと行って話してくるよ」

 ということで、ムダイがぴー助から飛び降り、冒険者や騎士らしき人たちの集団に飛び込んでいった。
 飛竜から飛び降りてきた赤ずくめの男を見た人々は、攻撃を飛竜からムダイに切り替えた。空中でかわすこともできないムダイに、魔法やら弓やらが容赦なく浴びせられる。
 剣を薙いだ風圧で攻撃の大半を封じ、漏れた攻撃は剣や蹴りで叩きのめしていく。

「魔法って、蹴りでどうにかなるものなんですね」
「普通は魔力をまとわなければ無理だ。あんな力技で対処できるのは、ムダイ殿だけだと思うぞ?」
「がううー?」
「わー?」

 現実から目を逸らして夏の日差しを見上げる雪乃とカイを、ぴー助とマンドラゴラは、不思議そうに見つめる。
 地上では降臨した戦闘狂が、人々を蹂躙していく。何のためにムダイが単独で下りたのか、まったく意味がなかったと、雪乃とカイは呆れ果てていた。

「なぜ私はいつも、仲間が負わした怪我の治療をしているのでしょう?」

 ムダイの暴走が終わってから地上に降りた雪乃は、疑問を口にしながらも赤い戦闘狂の被害者達を救済する。

「いやあ、ごめんよ。でも君たちだって悪いんだよ? 騎竜か野生の竜種か確認もせずに攻撃するんだから」

 爽やか笑顔を振りまくムダイには、傷一つ付いていない。さすがに服は砂埃などで汚れてはいたが。
 ルモンが誇るSランク冒険者の登場に、居合わせた冒険者たちは感動して目を輝かせたり、賛辞の言葉を送ったりしている。
 重傷を負わされても喜べる彼らもまた、ムダイと同じ危ない扉を開いているのかもしれない。
 中には騎士や他国の者と思われる人々を中心に、悪態を吐いている者もいるようだが、敵わないと悟っているのだろう。面と向かって言う者はいなかった。

 怪我人の治療を全て終わる頃には、空は赤みがかり始めていた。今日は勇者の聖剣を取りに行くことは諦めて、人の列から離れた所で野営することにする。
 ぴー助に乗って充分に離れた所で、三人は地表に下りた。
 寝心地の良さそうな地面を探す雪乃とマンドラゴラの様子を窺いながら、カイはおもむろに右手を空に向けると、魔力を込め、魔法を発動してみる。

「わー」

 高層ビル並の火柱が、カイの手から迸った。
 土の状態を確かめていた雪乃は、根を止めて振り返り、火柱を見上げる。地面に座り込んでいたムダイもまた、空を見上げた。
しおりを挟む
感想 933

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

処理中です...