『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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魔王復活編

356.信憑性が低いどころか高すぎて

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「さあ? 魔法使いたちが魔王の下へ集まっているという情報しか聞かない。他に信憑性が低いとされる噂として」

 と、ムダイの視線が斜め上に向かい黄昏だした。なんだかとっても疲れているようで、彼の視線の先に夕日の幻が見えるようだ。

「樹人の子供がさらわれているそうだよ? 信憑性が低いどころか高すぎて、ノムルさんが魔王で確定だよ」

 雪乃の顔が歪み、ふるふると震えだす。カイもまた、呆れ返っていた。

「何を考えているのでしょう? 私が大人になってしまったから、代わりを? ロリコンだったのでしょうか? くっ! 私でなくとも良かったとは、何がおとーさんですか!」

 膝の上でぷんすかと紅葉している雪乃の頭を、カイは撫で続ける。ムダイは呆れや憐憫の混じった残念な顔で、雪乃を見つめた。
 ひとしきり怒った雪乃は、頬葉を膨らませたまま口葉を尖らせる。

「ラジンにいるんですよね? ノムルさんに文句を言いに行きましょう」

 さっそくぴー助に乗ろうと動き出した雪乃を、ムダイは止める。

「気持ちは分からないでもないけど、慎重に行動したほうが良いと思うよ?」

 ムダイの脳裏には、魔王の遺跡で別人のようになってしまった雪乃の姿が思い浮かんでいた。魔王となったノムルが、正気を保っているという保証はない。
 魔王の遺跡で自分がどのような状態になっていたか知らない雪乃は、ムダイほど深刻には捕えていないようだが、ムダイもカイも、この小さな樹人に真実を告げるつもりはなかった。
 いつになく沈痛な面持ちで見つめるムダイを、雪乃は不思議そうに見上げる。
 ぽんぽんっと少し強めに叩かれて振り仰ぐと、カイもまたムダイに同意するように頷いた。雪乃は不満そうに口葉を尖らせ直す。

「でもノムルさんですし」
「だからこそだよ」

 状況が分からない以上、無闇に雪乃をノムルに近付けさせるわけにはいかない。雪乃は対ノムルの切り札なのだ。
 そしてそれ以上に、もしもノムルがあの時の雪乃と同じ状態になっていれば、自分を忘れてしまったノムルを見て雪乃が傷付くことは目に見えている。
 なおも言い募ろうとする雪乃に、ムダイは首を横に振る。

「考えてもみなよ。あのノムルさんが、雪乃ちゃんからこれだけ長く離れていられると思うかい? 正気の状態なら、とっくに飛んできているはずだろ?」

 そう言われてしまえば、雪乃も反論できない。渋々ながら納得した。
 雪乃が落ち着いたと見ると、ムダイはカイへと顔を動かした。

「外してもらっても良いかな? 雪乃ちゃんと二人で話したい」

 その言葉に、雪乃も感情を引き締める。
 カイはすぐには答えず、ムダイの真意を探るように目の奥を探る。

「カイさん」
「分かった」

 雪乃が声を掛けようと顔を上げると、話すより先にカイは離れていった。彼が充分に離れたところで、ムダイは小声になって話を再開する。

「カイ君がいるから言わなかったんだけど、ノムルさんはカードを持っていたんだ。『魔王になりますか?』ってやつ」

 俯き小枝を握り締めた雪乃は、紅葉してふるふると震えた。ノムルはともかく、ムダイに見られてしまったことが恥ずかしい。だがそれ以上に、嫌な予感が脳裏を掠めた。

「まさか、そのカードを使って?」
「御名答」

 幹から力の抜けた雪乃は、両枝で顔を抑えて横向きに倒れる。ふるふるが止まらない。

「あれは譲渡が可能だったんですか? 私のこれまでの気苦労はいったい? どういうシステムなんですか?!」

 雪乃は小声ながら声を荒らげる。毎度のことだが、さっぱり意味が分からない。翻弄されまくりである。

「さすがは『無題』だよね。僕も冗談半分で言ったつもりだったのに成功しちゃって、驚いたのなんのって。しばらく思考がまとまらなったよ」

 どこか遠くを眺めるムダイ。その目に光はなく、淀んでいた。

「がううー?」
「わー?」
「わー?」
「わー……」

 ぴー助やマンドラゴラたちは、身悶える雪乃を不思議そうに覗き込んだり、ムダイと一緒に遠くを眺めたりしていた。

「まあ、そういうわけで」

 と、焦点を引き戻したムダイは、にっこりと笑む。いい笑顔だ。

「はい、雪乃ちゃん」

 差し出されたカードからムダイへと、雪乃は視線を動かす。にこにこと、爽やかイケメンが笑っている。

「なぜでしょう?」

 眉葉を寄せながら、雪乃は問う。

「だってさ、魔王が誕生した以上、必要でしょう? ナルツに譲ろうかとも考えたんだけど、あいつは真面目だから、討伐しようとすると思うよ? 相手がノムルさんでも。レオンハルト様でもいいけど、国の威信や汚名返上のために、やっぱり討伐を目標にするだろうね」

 にーっこりと、満面の笑みを浮かべる勇者候補ムダイ。

「くっ。つまり他の方が勇者になった場合、ノムルさんが葬られてしまうと?」
「そうそう」

 頷くムダイだが、本心は違った。
 あのノムル・クラウを倒せる人間など、存在するはずがない。勇者の力がどのようなものかは知らないが、ムダイより弱い人間がどれほどの力を手に入れたところで、ノムルの相手になるとは思えなかった。

「む、ムダイさんが」
「えー? 嫌だよ、勇者なんて。ノムルさんと戦えるのは嬉しいけどさ。それに、よく考えてごらんよ? 僕とノムルさんが勇者と魔王の力まで手に入れてやり合ったら、どうなると思う?」

 雪乃は沈黙した。
 想像するまでも無い。勇者が勝ったとしても、世界は崩壊しているか、崩壊間際だろう。

「世界を救うには、雪乃ちゃんが勇者になるしかないんだよ」
「くっ! なんと理不尽な」

 ぐうの音も出ないほど論破され、雪乃は葉噛みしながらも腰かけていた岩から飛び降りた。

「わかりましたー。やりますよー」

 口葉を尖らせて、やさぐれながらカードを受け取る。それでも逃げ道は無いかと、ムダイをちらちらと見た。
 にこにこにこにこと、爽やか笑顔を振りまく勇者候補ムダイ。
 しょんぼりと萎れながら、雪乃はカードに向かって答える。

「勇者になります」

 しかし何の変化も起こらない。雪乃とムダイはじいっとカードを凝視し、それから空を見上げた。今日もいい天気だ。

「勇者の譲渡は不可のようですね」

 きらきらと、雪乃は葉をきらめかせる。

「くっ。うまくいくと思ったのに」

 反対にムダイが悔しそうに顔をしかめたその時だった。
 カードが輝き始め、雪乃を包む。
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