『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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魔王復活編

355.飛竜の到来に

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 ネーデルへと辿り着いた雪乃たちにより、町は大騒ぎとなった。
 なにせ魔王が復活したという情報が駆け巡っているところに、古竜と呼ばれてもおかしくないほどの、立派な飛竜が空から降りてきたのだ。
 騎竜として活躍している竜種もいるが、彼らは国に登録され、目立つ腹帯と胸懸(むながい)が付けられている。
 人間が管理している証を身に付けていない飛竜の到来に、人々は逃げ惑い、中には腰を抜かす人間までいた。

 そんな人々を視界に映し、雪乃は申し訳なさと恥ずかしさで身を小さくする。
 カイも顔を赤くしているようだが、保護対象である雪乃をなぐさめるためか、気を紛らわせるためか、彼女の頭を何度もわしゃわしゃと高速で撫でている。葉がむしられそうだ。

「――っと、雪乃ちゃんか」

 聞き覚えのある声に、雪乃は顔を上げた。なぜか目の前に、ムダイがしゃがみ込んでいた。相変わらず赤い。

「ってことは、もしかしてこの飛竜、ぴー助?」

 こくりと、雪乃は頷く。

「ちなみに二人は魔王サイド?」

 今度はふるふると横に幹を振った。
 なぜか苦笑を浮かべたムダイは、

「この辺に着地すると注目の的になりそうだから、とりあえず場所を変えてもらってもいい?」

 と誘導しようとする。そんなムダイを遮って、雪乃は右枝を上げた。ムダイは眉を跳ねて続きを促がす。

「町に行きたいわけではなく、ノムルさんがどうなったのか教えてほしいのです」

 雪乃はムダイの目をじっと見つめる。
 ムダイもまた、真顔になって雪乃を見つめ返した。

「分かった。すぐに戻るから、ちょっと待っていて」

 と言い残すなり、ムダイはぴー助の背を蹴って飛び降りた。その軌道を、雪乃とカイは目で追う。

「この高さから飛び降りて、大丈夫なものなのでしょうか?」

 地球ならかなりの高確率で天に召されそうな高さだったのだが、世界が違えば重力も違うだろう。ついでに魔法もあるのだ。ノムルは例外としても、ラジン国には空を飛ぶ魔法道具も存在していたのだから。

「いや、普通は……。地面に落ちる直前に、魔法を放てばなんとかなるのか? それよりも、どうやってここまで上ってきたんだ?」

 この世界で生まれ育ったカイのほうが、雪乃よりも困惑していた。

「お待たせ」

 町の人たちに安全を伝えてから戻ってきたムダイを乗せて、ぴー助は町を離れた。
 ムダイがどうやってぴー助の元まで跳んできたのかは、謎である。しかし雪乃もカイも、まあいっかと疑問を投げ捨てた。 
 彼もまた、ノムルに匹敵する人外生物なのだから。

「それで、いったい何がどうなっているのでしょうか?」

 人気の無い山の中に下り立つと、雪乃はムダイを見上げる。
 眉を上げて雪乃を見ていたムダイは、カイへと視線を動かした。カイは首を横に振って、情報を持たないことを示す。
 ううーんっと言い辛そうに声を上げながら頭を掻いたムダイは、

「ノムルさんが今どうなっているのか、二人はまったく知らないの?」

 と、確かめるように問うた。
 二人がこくりと頷くと、肩を竦めて近くの岩に腰を下ろす。話が長くなるのだとうと察したカイと雪乃も、適当な岩に腰掛けた。
 ノムルがどうしているのか、雪乃は知らない。それでも無敵な彼のことだ。危険な目には遭っていないだろうと、呑気に思っていた。
 けれムダイの表情からは、深刻な様子が窺われる。

 雪乃は深く息を吐き、気を引き締める。ノムルが何を仕出かしたのか、受け止めるために。
 あまり考えたくはないし、聞きたくもないが、聞かなければ先に進めない。脳裏には嫌な予感が容赦なく流れ込んでくる。濁流は小さな苗木など、いとも容易く飲み込み、押し流してしまいそうだ。
 雪乃の幹に寒気が走り、ふるりと震えた。呼吸を調え、声を出す。

「先に確認をさせていただきたいのですが」
「どうぞ」

 視線を外した雪乃は、心の動揺を抑えるため、重要な部分から確認していくことにした。

「お亡くなりになった方などは?」

 視界を閉じてうつむきつつ、震える声で問うた雪乃は、静かに答えを待つ。
 ノムルを信じてはいる。だがしかし、彼の魔法は規格外すぎる。うっかり大惨事を引き起こしかねないのだ。なにせ無意識に国を滅ぼした前科がある。
 雪乃は知らないのだが、町や集落レベルならば、一つや二つどころではなく滅ぼしていたりする。
 それはともかく、雪乃はふるふると震えながら、判決を待つ罪人のようにムダイの言葉を待った。慰めるようにカイが頭を撫でているが、それだけでは落ち着かない。

「それは今のところ、大丈夫だね」

 ムダイが発した言葉に、雪乃はほっと胸を撫で下ろす。

「たぶん」

 ぽつりと続いた一言で、葉がはらりと舞い落ちた。

「直接的な死者は、今のところ報告されていない。けど世界中から魔法使いが消えているらしいよ」

 雪乃は眉葉を寄せる。
 ムダイが話す内容と、ノムルがどう関係しているのか、要領を得ない。魔法使いの話が出てきたので、何か関与しているのだろうとは推測できたが。
 困惑している雪乃を、ムダイはじいっと見つめている。
 何とか立て直した雪乃は、顔を上げた。

「説明を、お願いできますか?」

 覚悟を決めた雪乃の言葉に、ムダイは頷き、説明を続けた。
 ルモンにノムルが現れ、魔王になると宣言したこと。その数日後、ラジン国が魔王復活を各国の王家や主要ギルドに通達したこと。

「魔法使いたちが消えているのは、魔法ギルドのカードに掲示された、召喚要請に従ったからだろうという話だ」

 雪乃とカイは、自分たちのギルドカードを取り出して確認する。
 しげしげと見つめる雪乃だが、何と書いてあるのか読めない。未だ彼女は、この世界の文字にてこずっていた。

「特に書いていないが?」

 確認したカイは訝しげな表情をムダイに向ける。

「ああ。僕のも同じだ。マグレーンによると、登録してから日の浅い者などは除外されているんじゃないかってさ」

 信頼できるか分からない者は、放置されているようだ。そしてノムルが魔王になっても、魔法使いたちのノムル崇拝は変わらないようである。
 掌返しをする人間よりは好感を持てるが、盲目的過ぎて雪乃は狂気さえ感じる。

「具体的に、ノムルさんは何をしているのでしょうか?」

 魔王にならなくとも、ノムルはその気になれば、世界を征服できそうだった。彼が魔王になる道を選んだのであれば、すでに世界はノムルの手中にあるはずだ。
 しかし現実には、ネーデルの町はいつもより少し浮き足立っている程度で、大きな異変は見当たらなかった。
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