『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

文字の大きさ
302 / 385
魔王復活編

354.カイは疑念を抱く

しおりを挟む
 森から出ることのなかったエルフのラスエルが障壁の外にいて、必死に中に入ろうと攻撃を繰り返していたが、障壁が破られることはなかった。
 なんとか彼女を宥めて話を聞くと、どうやらノムルが、森からラスエルを追い出したことが判明する。
 ラスエルと獣人たちは、人間がまたしても樹人の御子を奪おうとしているのだと怒りに震えたが、カイは疑念を抱く。

 雪乃を溺愛していたノムルが、彼女に危害を加えるはずはないと、何か理由があるのではないかと訴えたが、ラスエルも獣人たちも耳を貸さなかった。
 果ては人間と通じているのではないかと疑われ、捕えられてしまったという。
 獣人たちは障壁を破ろうと奮闘したが、結局、未だに障壁は破れていない。

「では、カイさんはなぜここに?」

 ぽてりと、雪乃は幹を傾げた。今の話であれば、カイは獣人たちに捕まっているはずである。
 雪乃の疑問を受けて、カイは困ったように頬を掻くと、

「実は雪乃から預かっていたマンドラゴラなのだが」

 と、顔を横に向ける。肩の上には、ちょこんと座るマンドラゴラの姿があった。なんだかいつもと雰囲気が違う。根が艶やかで輝いているように見え、葉もふさふさだ。
 雪乃はおもむろに、自分の周りにいるマンドラゴラたちを見た。

「わー?」
「わー?」
「わー」

 改めて見てみると、それぞれに薄っすらと色が加わっている。赤みがかっていたり、薄くなっていたりするマンドラゴラはともかくとして、青みがプラスされて紫色のマンドラゴラまでいた。
 カイのマンドラゴラのように、てかっているマンドラゴラはいないようだが、以前とは明らかに違っていた。

「なぜ私はすぐに気が付かなかったのでしょう?」
「わー?」
「わー?」
「わー!」

 ぼんやり雪乃の呟きに、マンドラゴラたちは根を傾げた後、楽しそうに跳ねた。よくわかっていないように見えるが。
 苦笑をこぼしながら、カイは話を戻す。

「実はヒイヅルに到着した辺りから、あまり外に出ようとしなかったんだ。雪乃のマンドラゴラたちも姿を見せなくなっていたから、獣人たちの目を気にして隠れているのだと思っていたのだが」

 今日になって突然動き出し、牢からの脱出を提案し始めたらしい。

「雪乃に何かがあったのだと思い、牢番に掛け合って出てきた」

 と、なぜかカイの目は半眼になり、どこか遠くを眺めだした。嫌な予感を覚えた雪乃は、そうっと幹を回して視線を逸らす。
 カイの肩に乗っているマンドラゴラが、胸を張って根をきらきらと輝かせている様子を見るに、マンドラゴラが何かしたのだろう。
 最強魔法使いさえも手玉に取るマンドラゴラだ。獣人たちを思いのままに操るなど、朝飯前に違いない。

「特に大きな被害は無い。気にしないでくれ」
「はい」

 肩を落として項垂れながら、カイと雪乃はこの件に関しては、これ以上つっ込まないことにした。

「それはそうと、ノムル殿は一緒ではないのか?」

 てっきり雪乃の傍にいると思っていたカイは、辺りの匂いを嗅いで、眉根を寄せた。
 雪乃もまた、疑問に思う。
 大樹に育って動けなくなった雪乃を、見限ってしまった可能性は否定できない。しかし、あのノムルである。

「もしや私が動かないと思ってどこかに出かけている間に、私がここに移動してしまったのでしょうか?」

 自分のうかつな行動に気付き、雪乃はがく然とした。

「こうしてはいられません。ぴー助、戻りますよ。私が抜け出したとばれたら、ノムルさんが何を仕出かすか分かりません!」

 何だかんだ言いつつも、自分がノムルのストッパーとなっていることは、理解している雪乃だった。スイッチかもしれないが。

「カイさん、私は戻ってノムルさんを抑えなければなりません。失礼します」

 ぺこりとお辞儀をすると、ぴー助に騎乗するため根を動かす。だが巨大化したぴー助は、伏せていても数メートルの高さがある。小さな雪乃に上れるはずがなかった。
 なんとかよじ登ろうとしているが、少しよじ登ってはずるずると滑り落ち、再びよじ登ってはずるずると落ちて根餅をついてしまった。

「なんと情けないのでしょう」

 自分の無力さに拳を握り締め、葉を食いしばる。
 憐れみの眼差しを向けていたカイだが、近付いて抱き上げると、ぴー助の背に乗るために地面を蹴ろうとしたのだが、

「わー」

 と、マンドラゴラに止められた。

「どうした?」

 カイが振り向くと、マンドラゴラはカイの肩を蹴って、雪乃の頭の上に着地する。それから自分の葉を雪乃の葉に合わせた。
 誰かから言伝が届いたのだと、雪乃はマンドラゴラ電話に意識を向ける。
 静かに聴いていた雪乃の気配が不穏なものとなり、しまいには、はらりと一枚の葉が舞い落ちた。

「雪乃?」

 碌でもない内容なのだろうと思いながらも、情報を共有するためカイは確認を取る。だがその内容は、カイにも予想外というか、予想通りというか、落ち込ませるに充分な内容だった。

「えーっと、ナルツさんからです。ノムルさんが、魔王になったそうです」

 雪乃の身体がぷるぷると震える。震源は雪乃ではなく、彼女を抱き上げているカイだった。

「それは、ナルツ殿のところで暴走しているということか?」

 ナルツに対してではなく、近くにいる可能性の高いムダイを相手に魔王化している気もするが、細かいことは置いておく。

「いえ、千年に一度現れるという、本物の魔王になったようです」

 宙に浮かんでいた雪乃の根っこが、地面に着く。カイが呆れや困惑で、しゃがみこんでしまったのだ。

「あの人はいったい、何なんだ? あれより更に魔王化するのか? 魔王とはいったい?」

 頭を抱え込んでいるカイに、雪乃も答えられない。呆然と立ちすくみ、空を見上げていた。

「意味が分かりません。私の悩みはなんだったのでしょうか?」

 何度も何度も何度も、ストーカーのように、スッポンのように、しつこく魔王になることを勧められてきたのだ。
 それが知らぬ間に、雪乃ではなくノムルがその座に就いていたのだから。

「いえ、別にいいのですよ。私はその椅子に興味はありませんから。それに私などよりもノムルさんのほうが相応し……いえ、ええー?」

 どこにどうツッコミを入れ、何に落ち込めば良いのか、雪乃には最早分からなかった。

「とりあえず、ネーデルに向かおう。ナルツ殿かムダイ殿に話を聞いたほうが良いだろう」

 カイの判断に、雪乃も素直に同意する。今はとにかく情報が欲しい。
 雪乃とカイはぴー助に乗り、西に向かって飛び立ったのだった。
しおりを挟む
感想 933

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

処理中です...