『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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魔王復活編

369.助けてよかったのだと

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 天に召されるはずだったフレックの命を、雪乃は引き止め生かした。手足を失った状態で生きることは肉体的な苦労もあるが、精神的に追い込まれかねない。場合によっては生かされたことを後悔し、引き戻した雪乃を恨んでしまう可能性だってあった。
 けれど二人の話を聞く限り、フレックは大丈夫そうだ。
 助けてよかったのだと、雪乃は心が軽くなるのを感じた。

 ローズマリナの話が一通り終わったところで、今度は雪乃の番だ。
 雪乃はヒイヅルに向かう旅の途中であった出来事を話していったのだが、ローズマリナとムダイの顔には困惑が張り付き、頭の上には『?』が浮かんでいる。
 話が進むにつれて、取り繕っていた引きつった笑顔さえ消えて、真顔になってしまった。増加し続けていた頭上の『?』マークも、いつの間にやら浮かべることができなくなったらしい。

「それでですね、ノムルさんったら、人魚になったんですよ」

 人間二人の視線は、雪乃からカイへと移る。顔には「どういうこと?」と、誰が見ても分かるほどに書かれている。

「気持ちは分かる。俺も自分の目で見ていながら訳が分からなかったが、事実だ」

 ムダイとローズマリナの顔が、非常に面白く歪んだ。
 ノムルのぶっ飛んだ言動は二人も実際に目にしているため、まあそういうことなのだろうと、無理矢理に納得させる。

「大変だったわね」

 しみじみと、ローズマリナは雪乃を労う。
 雪乃が話す内容はそのほとんどが、ここにはいない親ばか魔法使いのことで埋め尽くされていた。
 そんな話をしていると、大人しく座っていたティンクルベルが立ち上がり、ローズマリナの膝をわっさわっさと葉で叩いた。

「あら、ありがとう。お帰りになったのね?」

 ローズマリナに葉を優しく撫でられ、嬉しそうにきらめいてから、ティンクルベルはこくりと頷く。

「ナルツ様がお戻りになったみたいだわ」

 その言葉の通り、少しすると玄関のほうが騒がしくなり、足音が近付いてきた。扉が軽く叩かれて、入室の許可を求める執事の声が聞こえる。
 雪乃はすでに人が入ってきてもいいように、フードを被っている。

「奥様、旦那様がお戻りになられました」
「どうぞお通しして」

 ローズマリナの返事を受けて扉が開くと、ナルツが入ってきた。

「おかえりなさい、ナルツ様」
「ただいま帰りました、ローズ」

 帰宅のあいさつを交わすと、ナルツはローズマリナと共に雪乃たちの向かいに腰を下ろす。
 それから、たとえ雪乃たちでも詳細は話せないがと前置きした上で、雪乃たちが城を辞してからのことを、アルフレッドから許可を得ている範囲で教えてくれた。
 さっそくアルフレッドは各所へ連絡を取り、協力を仰いでいるそうだ。雪乃の正体に関しては今のところは秘匿しておき、もう少し様子を見ながら公表する方針とのことだった。

 いつの間にか日が暮れて、外は薄暗くなっている。まだ影は見えるが、もうじき暗闇に覆われるだろう。
 雪乃をどこで寝かせるか、カイはナルツに相談する。

「裏の木立を使ってくれればいいよ。ぴー助君の傍がよければ、庭でもいいけど」
「分かった。使わせてもらう」

 二人の会話を聞いていた雪乃は、ソファからぴょこんと下りて皆の方を向くと、ぺこりとお辞儀をして、

「おやすみなさい」

 と挨拶をした。

「おやすみなさい、ユキノちゃん」
「おやすみ」

 ローズマリナたちからもおやすみの挨拶をもらい、雪乃は葉をふるりと輝かせてから、フードを被りなおしてカイと手をつなぐ。
 とはいえムダイもそろそろ帰ると席を立ち、ローズマリナとナルツが外まで見送りに出てきてくれたのだが。
 庭に出ると丸まっていたぴー助が顔を上げた。雪乃が近付くと、気遣わしげに鼻を寄せる。どうやら泣いてしまった雪乃を心配していたようだ。

「ありがとう、ぴー助。もう大丈夫ですから」
「がうう」

 安心したように、ぴー助は目を細める。

「ぴー助の傍のほうが安全かもしれないが、土が痩せているな。裏の木立の方が良いだろう」
「がうう……」

 庭の土に触れていたカイの判断に、ぴー助はしょ気るように項垂れた。

「明日はお爺ちゃんのところに向かいます。よろしくお願いしますね」
「がううー!」

 明日は一緒にいられると理解したぴー助は、機嫌を直したようだ。



 翌日、雪乃とカイはローズマリナとナルツに見送られ、日の出と共にぴー助に乗り移動を開始した。大きな飛竜はあっという間にネーデルの空を抜け、グレーム森林に向けて飛んでいった。
 太陽が真上に昇る少し前に、雪乃たちはグレーム森林に到着する。こんもりとした緑生い茂る木々の中に、頭一つ出た古老の樹人が見える。

「お爺ちゃん」
『ヒイーメエエエエーーーーッッ!』

 雪乃が声をかけるなり、古老の樹人は叫び声を上げた。周囲の木々も、わっさわっさと蠢いている。樹人の群だろう。
 ぴー助が高度を下げていくと、枝が伸びてきて、ぴー助ごと雪乃を捕獲した。

『ヒイーメエエエエーーーーッッ!』
「がううーっ?!」

 樹人対飛竜という、謎の怪獣対決が開戦する。絡め取られたぴー助は、ちょっと涙目だ。
 本能的に危険を察知したカイは雪乃を連れて、ぴー助の背を古老の樹人の幹から逃げるように走る。
 頬擦りという名の摩擦攻撃を仕掛けた古老の樹人だったが、突然ぴたりと停止した。地面には樹人おろしが小さな山を作っている。飛竜の肌は、大きな樹人を摩りおろすには最適だったようだ。
 古老の樹人が満足して解放したら、順番に雪乃に触れようと集まっていた樹人たちは、思わず後退る。

「ええっと、これは何かに使えそうな、使えなさそうな。とりあえず、大丈夫ですか?」

 呆れ眼になりながらも、雪乃は古老の樹人を気遣う。萎れた古老の樹人は項垂れるように頷いた。どうやら無事らしい。
 解放されたぴー助は涙目になって雪乃の後ろに身を隠しているが、怪我はしていないようだ。
 ノムルの肌よりも飛竜の肌のほうが丈夫だったと知り、雪乃はほっとして葉をさわりと揺らす。古老の樹人に治癒魔法を掛けてから、改めて見上げた。

「今日はお爺ちゃんに教えてもらいたいことがあって来たのです」

 ぼてりと、古老の樹人は幹を傾げる。

「魔王について、知っていることを教えてください」

 古老の樹人は雪乃をじいっと見つめ、それから幹を捻って考え込む。しばらくして、

『ブオオォォォーーッ』

 と、暴風を起こした。
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