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魔王復活編
374.雪乃とカイの困惑は
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「わー!」
「わー」
「わー」
カイのマンドラゴラの声に応じるように、雪乃の身体からもマンドラゴラたちが出てくる。根をつき合わせて相談すると、それぞれの持ち場に付き、小芝居を始めた。
進むに連れて、雪乃とカイの困惑は悪化する一方だ。
マンドラゴラたちが演じた小芝居は、以下の内容だった。
ダルクと共に行動していたマンドラゴラは、ダルクと共に倒れた。
一方、悪意に囚われていた雪乃の下から、一匹のマンドラゴラが葉っぱの舟に乗って脱出に成功する。
脱出したマンドラゴラは弱っていたダルクのマンドラゴラに近付くと、中身を追い出して代わりに入り込んだ。
「つまり、ダルクと行動していたマンドラゴラは死んで、代わりにお前が肉体……肉体で良いのか? を、乗っ取ったということか?」
若干引き気味のカイが問えば、不満そうに見上げてきたマンドラゴラたちが、もう一度小芝居を始める。
死んだわけではなく、追い出されただけのようだ。追い出されたマンドラゴラ役のマンドラゴラは、困ったようにうろついている。
「それはやはり、お亡くなりになったということでは? え? 幽霊? アンデッド系? マンドラゴラの?」
雪乃は混乱していた。
この世界には、肉体を失ってもなお生きる魔物も存在はしている。だが相手は一応、植物であるマンドラゴラだ。
「マンドラゴラとはいったい?」
彼らの宿主であるはずの雪乃も、理解しきれていないようだ。雪乃もカイも、マンドラゴラたちを見つめたまま固まっていた。
「わー」
「わー」
「わー」
二人に見つめられて、マンドラゴラたちは恥ずかしそうに赤く染めた根を捩ったり、ぴょんこぴょんこと跳ねたり、勝手に遊んだり寝そべったりしている。
要するに、自由だ。
「と、とりあえず、深く考えるのはやめておこう。ノムル殿の問題が解決したら、ヒイヅルに戻って我が君やラスエル様にお聞きすれば、何か分か、るのか?」
先送りを提案するカイだが、まったくもって彼らの実態を明らかにできる自信はなさそうだ。
だが雪乃もこの提案に乗る。
「そうですね。考えたら負けな気がします。置いておきましょう」
マンドラゴラについては、先送りすることで意見は一致した。今はダルクを見つけることが先決である。
カイは少し上向いて、空気を肺いっぱいに吸い込む。
「微かに嗅ぎ取れたが、近くにはいないようだ。草の匂いが強くて、正確な方角も分からんな」
ハーブとして利用できそうな香り高い植物も多く、獣人の嗅覚を持ってしても、見つけ出すことは困難だったようだ。
「ではいつもの通り、マンドラゴラたちに頑張ってもらいましょう。マンドラゴラたち、今回は薬草ではなく人探しですが、頼めますか?」
「わー」
「わー」
「わー!」
ぴょんこぴょんこと跳ねて、了承の意思を示したマンドラゴラたちは、草原の中を四方八方へと駆け出した。
見送った雪乃とカイは、なんだか疲れてげっそりと肩を落とす。
「がうう?」
ぴー助は不思議そうに、小首を傾げて二人を見下ろした。小首というにはあまりに大きな首だったが。
草原の葉が倒れてミステリーサークルが作られているが、草なのでぴー助が飛び立てばまた復活するだろう。
「それにしても、ここは不思議な場所だな」
カイは巨大な草を見上げる。
「まるで冒険者ギルド本部で見た、魔デンゴラコンのようだ」
「そうですね」
ノムルが魔力を込めて巨大化させた魔デンゴラコンには及ばないが、この辺りの草も、異様に巨大化している。本来は大人の腰ほどまでしか育たない植物である。
見上げていた雪乃とカイを包む空気が、次第に不穏なものとなっていく。
「なあ、雪乃?」
「あまり聞きたくはありませんが、なんでしょう?」
カイの問い掛けに、雪乃は静かに答える。
「……。たいしたことではない。気にしないでくれ」
「はい」
二人は心で通じ合った。
なんとなく、魔植物に通じるものを感じるアトランテ草原の植物たちへの追求は、そっと飲み込むことにした。
「わー」
残っていたマンドラゴラが、ぺしぺしと雪乃を叩く。
「おや、早いですね」
「わー」
以前は全員で探索し、戻ってきて教えてくれていたマンドラゴラたちだが、数匹が残って伝言を飛ばす方法に改良していた。
マンドラゴラたちの能力が上がったこともあるが、雪乃が発生させられるマンドラゴラの数が増えたことが大きいだろう。
「わー!」
駆け出したマンドラゴラを追って、雪乃とカイは歩きだす。
もはや木と呼んでも差し支えないような草の間を一時間ほど歩いたところで、カイが警戒するように雪乃を抱き上げた。
ユキノを抱きかかえたまま、カイが音を立てないように進んでいく。
草の間から、人影が見えてきた。日の光を受けて、長い髪がきらきらと銀色に輝いている。
「今すぐ立ち去れ」
相手もこちらに気付いたようだ。振り返ることもなく、凪のように平坦な声を放った。
「聞きたいことがある」
ダルクから決して目を話すことなく、カイは問う。
緊張する空気に、雪乃は邪魔にならないようにじっと大人しくしていることしかできない。
「飛竜を連れて道に迷ったわけでもあるまい。人間ではないようだが、不愉快だ」
冷たく拒絶するような声に伴い、ダルクの手に黒い闇の塊が集まっていく。カイの身体が強張り、つばを飲んだ咽が揺れた。
ノムルがいた時には脅威ではなかった相手だが、カイと雪乃ではダルクには敵わないだろう。
カイは逃げ出すタイミングを窺い、ぴー助も警戒を強めていく。マンドラゴラたちも雪乃たちの前に立ち並び、守ろうとしているようだ。
仲間たちの様子を見て、雪乃は勇気を出して声を発する。
「待ってください。話を聞いてください」
未だに振り向きもしないダルクだが、手に集まる闇が膨張を止めたことから聞く気はあるようだと判断した雪乃は、急いで言葉を続ける。
魔王について聞きたいところだが、今はダルクの警戒を緩めることが先決だろう。そう考えた雪乃は、
「なぜダルクさんは、私を『母上』と呼ぶのですか?」
と、聞いてみた。
正直、答えはいらない。というか、欲しくない。
どんな勘違いがあったとしても、雪乃はまだ子供を持つ年齢ではないのだ。ましてや自分よりも年上と思わしき少年の母親になど、なりたくはない。
母親になるよう説得されてしまったらどうしようかと、雪乃はドキドキしながらダルクの出方を待った。
ぴくりと、ダルクの指が動く。それからようやく、ゆっくりと雪乃たちの方に顔を向けた。
さすがは生命力が強いとされるエルフの回復力というべきか。目に映る範囲に傷は残っていなかった。けれど以前は燃えるような光を宿していた赤い瞳は、今にも消えそうなほど微かな灯火となっていた。
「わー」
「わー」
カイのマンドラゴラの声に応じるように、雪乃の身体からもマンドラゴラたちが出てくる。根をつき合わせて相談すると、それぞれの持ち場に付き、小芝居を始めた。
進むに連れて、雪乃とカイの困惑は悪化する一方だ。
マンドラゴラたちが演じた小芝居は、以下の内容だった。
ダルクと共に行動していたマンドラゴラは、ダルクと共に倒れた。
一方、悪意に囚われていた雪乃の下から、一匹のマンドラゴラが葉っぱの舟に乗って脱出に成功する。
脱出したマンドラゴラは弱っていたダルクのマンドラゴラに近付くと、中身を追い出して代わりに入り込んだ。
「つまり、ダルクと行動していたマンドラゴラは死んで、代わりにお前が肉体……肉体で良いのか? を、乗っ取ったということか?」
若干引き気味のカイが問えば、不満そうに見上げてきたマンドラゴラたちが、もう一度小芝居を始める。
死んだわけではなく、追い出されただけのようだ。追い出されたマンドラゴラ役のマンドラゴラは、困ったようにうろついている。
「それはやはり、お亡くなりになったということでは? え? 幽霊? アンデッド系? マンドラゴラの?」
雪乃は混乱していた。
この世界には、肉体を失ってもなお生きる魔物も存在はしている。だが相手は一応、植物であるマンドラゴラだ。
「マンドラゴラとはいったい?」
彼らの宿主であるはずの雪乃も、理解しきれていないようだ。雪乃もカイも、マンドラゴラたちを見つめたまま固まっていた。
「わー」
「わー」
「わー」
二人に見つめられて、マンドラゴラたちは恥ずかしそうに赤く染めた根を捩ったり、ぴょんこぴょんこと跳ねたり、勝手に遊んだり寝そべったりしている。
要するに、自由だ。
「と、とりあえず、深く考えるのはやめておこう。ノムル殿の問題が解決したら、ヒイヅルに戻って我が君やラスエル様にお聞きすれば、何か分か、るのか?」
先送りを提案するカイだが、まったくもって彼らの実態を明らかにできる自信はなさそうだ。
だが雪乃もこの提案に乗る。
「そうですね。考えたら負けな気がします。置いておきましょう」
マンドラゴラについては、先送りすることで意見は一致した。今はダルクを見つけることが先決である。
カイは少し上向いて、空気を肺いっぱいに吸い込む。
「微かに嗅ぎ取れたが、近くにはいないようだ。草の匂いが強くて、正確な方角も分からんな」
ハーブとして利用できそうな香り高い植物も多く、獣人の嗅覚を持ってしても、見つけ出すことは困難だったようだ。
「ではいつもの通り、マンドラゴラたちに頑張ってもらいましょう。マンドラゴラたち、今回は薬草ではなく人探しですが、頼めますか?」
「わー」
「わー」
「わー!」
ぴょんこぴょんこと跳ねて、了承の意思を示したマンドラゴラたちは、草原の中を四方八方へと駆け出した。
見送った雪乃とカイは、なんだか疲れてげっそりと肩を落とす。
「がうう?」
ぴー助は不思議そうに、小首を傾げて二人を見下ろした。小首というにはあまりに大きな首だったが。
草原の葉が倒れてミステリーサークルが作られているが、草なのでぴー助が飛び立てばまた復活するだろう。
「それにしても、ここは不思議な場所だな」
カイは巨大な草を見上げる。
「まるで冒険者ギルド本部で見た、魔デンゴラコンのようだ」
「そうですね」
ノムルが魔力を込めて巨大化させた魔デンゴラコンには及ばないが、この辺りの草も、異様に巨大化している。本来は大人の腰ほどまでしか育たない植物である。
見上げていた雪乃とカイを包む空気が、次第に不穏なものとなっていく。
「なあ、雪乃?」
「あまり聞きたくはありませんが、なんでしょう?」
カイの問い掛けに、雪乃は静かに答える。
「……。たいしたことではない。気にしないでくれ」
「はい」
二人は心で通じ合った。
なんとなく、魔植物に通じるものを感じるアトランテ草原の植物たちへの追求は、そっと飲み込むことにした。
「わー」
残っていたマンドラゴラが、ぺしぺしと雪乃を叩く。
「おや、早いですね」
「わー」
以前は全員で探索し、戻ってきて教えてくれていたマンドラゴラたちだが、数匹が残って伝言を飛ばす方法に改良していた。
マンドラゴラたちの能力が上がったこともあるが、雪乃が発生させられるマンドラゴラの数が増えたことが大きいだろう。
「わー!」
駆け出したマンドラゴラを追って、雪乃とカイは歩きだす。
もはや木と呼んでも差し支えないような草の間を一時間ほど歩いたところで、カイが警戒するように雪乃を抱き上げた。
ユキノを抱きかかえたまま、カイが音を立てないように進んでいく。
草の間から、人影が見えてきた。日の光を受けて、長い髪がきらきらと銀色に輝いている。
「今すぐ立ち去れ」
相手もこちらに気付いたようだ。振り返ることもなく、凪のように平坦な声を放った。
「聞きたいことがある」
ダルクから決して目を話すことなく、カイは問う。
緊張する空気に、雪乃は邪魔にならないようにじっと大人しくしていることしかできない。
「飛竜を連れて道に迷ったわけでもあるまい。人間ではないようだが、不愉快だ」
冷たく拒絶するような声に伴い、ダルクの手に黒い闇の塊が集まっていく。カイの身体が強張り、つばを飲んだ咽が揺れた。
ノムルがいた時には脅威ではなかった相手だが、カイと雪乃ではダルクには敵わないだろう。
カイは逃げ出すタイミングを窺い、ぴー助も警戒を強めていく。マンドラゴラたちも雪乃たちの前に立ち並び、守ろうとしているようだ。
仲間たちの様子を見て、雪乃は勇気を出して声を発する。
「待ってください。話を聞いてください」
未だに振り向きもしないダルクだが、手に集まる闇が膨張を止めたことから聞く気はあるようだと判断した雪乃は、急いで言葉を続ける。
魔王について聞きたいところだが、今はダルクの警戒を緩めることが先決だろう。そう考えた雪乃は、
「なぜダルクさんは、私を『母上』と呼ぶのですか?」
と、聞いてみた。
正直、答えはいらない。というか、欲しくない。
どんな勘違いがあったとしても、雪乃はまだ子供を持つ年齢ではないのだ。ましてや自分よりも年上と思わしき少年の母親になど、なりたくはない。
母親になるよう説得されてしまったらどうしようかと、雪乃はドキドキしながらダルクの出方を待った。
ぴくりと、ダルクの指が動く。それからようやく、ゆっくりと雪乃たちの方に顔を向けた。
さすがは生命力が強いとされるエルフの回復力というべきか。目に映る範囲に傷は残っていなかった。けれど以前は燃えるような光を宿していた赤い瞳は、今にも消えそうなほど微かな灯火となっていた。
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