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魔王復活編
375.ダルクが発した言葉に
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ダルクは静かに雪乃を見つめる。
雪乃も緊張しつつ、ダルクの視線を受け止める。
そして、
「誰だ? お前たち」
見定めるように上から下まで雪乃を見たダルクが発した言葉に、雪乃とカイは、ぽかーんと呆けた顔を向けてしまった。
あれだけ雪乃を「母上」と呼んで奪おうとし、果ては魔王にまでしかけておきながら、この台詞はないだろう。
母と呼ばれることに嫌悪感を抱いていたはずの雪乃だが、解放されたらしき喜びよりも呆れのほうが感情を埋め尽くした。
「ええっと、以前ダルクさんから『母上』と呼ばれて、魔王の遺跡で連れ去られた樹人です」
自分でも訳の分からない自己紹介をしてしまい、雪乃は眉葉をひそめる。カイも同情するように、雪乃の頭をぽんぽんと何度も叩いた。
「何言ってるんだ? お前が母上のはずがないだろう? ふざけているのか?」
雪乃は俯いて口葉を噛みしめながら、ふるふると震えた。
散々、雪乃を「母上」と呼んで暴走しておいて、この態度である。
「ふんにゅーっ! なんという人なのでしょう? 身勝手にも程が有ります! それとも記憶喪失だとでも言う気ですか?!」
小枝を握り締め、空に向かって吼えた。
「ああ、なるほど。そういうことか」
荒れ狂う雪乃の隣から、納得したように落ち着いた声が届いた。雪乃はがばっと振り向いて、カイを見る。
「ノムル殿にひどい折檻を受けていたからな。あの状態で生き残れるのは、エルフや竜人、ムダイ殿くらいだろう。記憶がなくなるのも仕方がないかもしれない」
ノムルの怒りを買い、外見を留めないほどに痛めつけられて、ボロ雑巾のように倒れていたダルクを思い出し、カイは苦く顔を歪めた。
雪乃もまた、ノムルの怒りを買って制裁を受けたパーパスのギルドマスターの姿を思い出し、納得して頷いた。
「なるほど。それは仕方ありませんね。事情も聞かずに怒りをぶつけてしまい、申し訳ありませんでした」
雪乃はぺこりと素直に謝った。
だがダルクの方は怪訝な様子で眉根を寄せている。
「何を言っている? 記憶を失うなど、あるわけないだろう?」
せっかくなんとか気持ちに折り合いを付けた雪乃とカイだったのだが、ダルクに否定されてしまい、視界を細めて胡乱な眼差しを向けた。
「カイさん、この方は予想以上に役に立ちそうにありません。聞いても何もご存知ないのではないでしょうか?」
「俺もそんな気がする」
「がうう」
「わー」
「わー」
「わー」
雪乃たちは車座になって、作戦会議を行う。
まったく声をひそめる気もないようで、ダルクの尖った耳に筒抜けである。
「おい、意味は分からんが、馬鹿にされているのは分かるぞ」
雪乃は幹を回し、ダルクを見つめる。ぴー助も顔を上げ、マンドラゴラたちも根を捻ってダルクを見る。彼らの視線には、なんだか残念なものを憐れむような感情がこもっていた。
そして一斉に、小さく幹や首や根を左右に振って、ダルクから仲間たちへと視線を戻す。
「おい」
ダルクの声が、二オクターブほど低くなった。額には青筋が浮かんでいる。
「ここまで来て収穫は無しか。まあ始めから駄目で元々と思って来たのだ。気にすることはあるまい」
「そうですね」
「がうう」
「わー」
「わー」
「わー」
皆の気持ちを労い、元気付けるカイに、揃って同意する。
「おいこら、無視をするな」
後ろで一人怒るダークエルフ。
雪乃とぴー助とマンドラゴラは仕方なく振り向くが、その表情には面倒くさいと、ありありと書かれていた。
「何ですか? こちらは取り込んでいるんです。御用があるのなら、端的にお願いいたします」
丁寧な言葉遣いだが、口調は投げやりだった。
ダルクはまぶたを落として顔を下向け、肩を震わせている。
「お前達がここへやってきたんだろうが?! それを何だ、その態度は?」
指を差して怒り出した。
雪乃とぴー助とマンドラゴラたちは、困ったようにダルクを見る。
「仲間に入れて欲しいのなら、そう言えはいいじゃないですか。知らない人のふりをしたりするから、相手にしてもらえなくなるのですよ?」
教え諭すように言う、小さな樹人。
ダルクは口をぱくぱくと動かしながら、あ然として雪乃を凝視した。さすがにカイも思うところがあったのか、困った顔をして雪乃の頭をぽんぽんと叩く。
「雪乃、おそらくだが、少し違うと思うぞ? 然して気にすることでもないだろうが」
「はて?」
カイを振り仰いだ雪乃は、ぽてりと幹を傾げる。
「気にしろっ!」
後ろでは、ダルク少年が叫んでいた。
「それで、何の御用ですか?」
仕方なくといった様子で、車座を解いてダルクに向き直った雪乃は問う。
ダルクの顔は困ったような怒ったような、何とも言えない感じに崩れていた。
「お前が何の用だ?」
オウム返しに問い返されて、雪乃は眉葉を寄せる。
「一応、聞いてみたらどうだ? エルフは長命だ。少しくらい役に立つことも……」
ちらりとダルクを一瞥したカイは、
「どこにヒントが転がっているか分からないからな」
と、まったく期待していなかった。
「そうですね」
頷いた雪乃の表情も、似たようなものだった。
「失礼だろう?! 俺は千年ほど生きているんだぞ? 短命種が」
怒鳴り声を上げたダルクだが、そこで言葉を切り、じいっと雪乃を見つめる。ようやく思い出したのかと呆れ眼を向けた雪乃だが、ダルクの口から出てきた言葉は、予想とは異なった。
「お前、俺の同族か?」
「は?」
雪乃もカイも、吃驚だ。
たしかに樹人とエルフは近い種族と聞いたが、同族ではない。というより、
「ダークエルフさんとエルフさんは、同族なのでしょうか? ラスエルさんは否定していましたが」
と、疑問を抱いてカイを見上げた。カイは眉間に皺を寄せて窺うようにダルクを見ていたが、雪乃へと視線を落とす。
「ラスエル様が否定したのならば違うのだろう」
カイも知らないようだ。
確認作業をする雪乃とカイに、放置されたダルクは不機嫌そうに顔をしかめた。
「言っておくが、俺はエルフではないぞ?」
無視されて寂しくなったのか、ダルクが会話に割り込んできた。雪乃はカイとの会話を止めて、ダルクへと向き直る。
「知っていますよ。ダークエルフさんなのでしょう?」
肩を竦めて答えたのだが、
「違うと言っている。俺はエルフでも、ダークエルフでもない」
「は?」
ダルクの告白に、またしても雪乃とカイは素っ頓狂な声を上げた。
雪乃も緊張しつつ、ダルクの視線を受け止める。
そして、
「誰だ? お前たち」
見定めるように上から下まで雪乃を見たダルクが発した言葉に、雪乃とカイは、ぽかーんと呆けた顔を向けてしまった。
あれだけ雪乃を「母上」と呼んで奪おうとし、果ては魔王にまでしかけておきながら、この台詞はないだろう。
母と呼ばれることに嫌悪感を抱いていたはずの雪乃だが、解放されたらしき喜びよりも呆れのほうが感情を埋め尽くした。
「ええっと、以前ダルクさんから『母上』と呼ばれて、魔王の遺跡で連れ去られた樹人です」
自分でも訳の分からない自己紹介をしてしまい、雪乃は眉葉をひそめる。カイも同情するように、雪乃の頭をぽんぽんと何度も叩いた。
「何言ってるんだ? お前が母上のはずがないだろう? ふざけているのか?」
雪乃は俯いて口葉を噛みしめながら、ふるふると震えた。
散々、雪乃を「母上」と呼んで暴走しておいて、この態度である。
「ふんにゅーっ! なんという人なのでしょう? 身勝手にも程が有ります! それとも記憶喪失だとでも言う気ですか?!」
小枝を握り締め、空に向かって吼えた。
「ああ、なるほど。そういうことか」
荒れ狂う雪乃の隣から、納得したように落ち着いた声が届いた。雪乃はがばっと振り向いて、カイを見る。
「ノムル殿にひどい折檻を受けていたからな。あの状態で生き残れるのは、エルフや竜人、ムダイ殿くらいだろう。記憶がなくなるのも仕方がないかもしれない」
ノムルの怒りを買い、外見を留めないほどに痛めつけられて、ボロ雑巾のように倒れていたダルクを思い出し、カイは苦く顔を歪めた。
雪乃もまた、ノムルの怒りを買って制裁を受けたパーパスのギルドマスターの姿を思い出し、納得して頷いた。
「なるほど。それは仕方ありませんね。事情も聞かずに怒りをぶつけてしまい、申し訳ありませんでした」
雪乃はぺこりと素直に謝った。
だがダルクの方は怪訝な様子で眉根を寄せている。
「何を言っている? 記憶を失うなど、あるわけないだろう?」
せっかくなんとか気持ちに折り合いを付けた雪乃とカイだったのだが、ダルクに否定されてしまい、視界を細めて胡乱な眼差しを向けた。
「カイさん、この方は予想以上に役に立ちそうにありません。聞いても何もご存知ないのではないでしょうか?」
「俺もそんな気がする」
「がうう」
「わー」
「わー」
「わー」
雪乃たちは車座になって、作戦会議を行う。
まったく声をひそめる気もないようで、ダルクの尖った耳に筒抜けである。
「おい、意味は分からんが、馬鹿にされているのは分かるぞ」
雪乃は幹を回し、ダルクを見つめる。ぴー助も顔を上げ、マンドラゴラたちも根を捻ってダルクを見る。彼らの視線には、なんだか残念なものを憐れむような感情がこもっていた。
そして一斉に、小さく幹や首や根を左右に振って、ダルクから仲間たちへと視線を戻す。
「おい」
ダルクの声が、二オクターブほど低くなった。額には青筋が浮かんでいる。
「ここまで来て収穫は無しか。まあ始めから駄目で元々と思って来たのだ。気にすることはあるまい」
「そうですね」
「がうう」
「わー」
「わー」
「わー」
皆の気持ちを労い、元気付けるカイに、揃って同意する。
「おいこら、無視をするな」
後ろで一人怒るダークエルフ。
雪乃とぴー助とマンドラゴラは仕方なく振り向くが、その表情には面倒くさいと、ありありと書かれていた。
「何ですか? こちらは取り込んでいるんです。御用があるのなら、端的にお願いいたします」
丁寧な言葉遣いだが、口調は投げやりだった。
ダルクはまぶたを落として顔を下向け、肩を震わせている。
「お前達がここへやってきたんだろうが?! それを何だ、その態度は?」
指を差して怒り出した。
雪乃とぴー助とマンドラゴラたちは、困ったようにダルクを見る。
「仲間に入れて欲しいのなら、そう言えはいいじゃないですか。知らない人のふりをしたりするから、相手にしてもらえなくなるのですよ?」
教え諭すように言う、小さな樹人。
ダルクは口をぱくぱくと動かしながら、あ然として雪乃を凝視した。さすがにカイも思うところがあったのか、困った顔をして雪乃の頭をぽんぽんと叩く。
「雪乃、おそらくだが、少し違うと思うぞ? 然して気にすることでもないだろうが」
「はて?」
カイを振り仰いだ雪乃は、ぽてりと幹を傾げる。
「気にしろっ!」
後ろでは、ダルク少年が叫んでいた。
「それで、何の御用ですか?」
仕方なくといった様子で、車座を解いてダルクに向き直った雪乃は問う。
ダルクの顔は困ったような怒ったような、何とも言えない感じに崩れていた。
「お前が何の用だ?」
オウム返しに問い返されて、雪乃は眉葉を寄せる。
「一応、聞いてみたらどうだ? エルフは長命だ。少しくらい役に立つことも……」
ちらりとダルクを一瞥したカイは、
「どこにヒントが転がっているか分からないからな」
と、まったく期待していなかった。
「そうですね」
頷いた雪乃の表情も、似たようなものだった。
「失礼だろう?! 俺は千年ほど生きているんだぞ? 短命種が」
怒鳴り声を上げたダルクだが、そこで言葉を切り、じいっと雪乃を見つめる。ようやく思い出したのかと呆れ眼を向けた雪乃だが、ダルクの口から出てきた言葉は、予想とは異なった。
「お前、俺の同族か?」
「は?」
雪乃もカイも、吃驚だ。
たしかに樹人とエルフは近い種族と聞いたが、同族ではない。というより、
「ダークエルフさんとエルフさんは、同族なのでしょうか? ラスエルさんは否定していましたが」
と、疑問を抱いてカイを見上げた。カイは眉間に皺を寄せて窺うようにダルクを見ていたが、雪乃へと視線を落とす。
「ラスエル様が否定したのならば違うのだろう」
カイも知らないようだ。
確認作業をする雪乃とカイに、放置されたダルクは不機嫌そうに顔をしかめた。
「言っておくが、俺はエルフではないぞ?」
無視されて寂しくなったのか、ダルクが会話に割り込んできた。雪乃はカイとの会話を止めて、ダルクへと向き直る。
「知っていますよ。ダークエルフさんなのでしょう?」
肩を竦めて答えたのだが、
「違うと言っている。俺はエルフでも、ダークエルフでもない」
「は?」
ダルクの告白に、またしても雪乃とカイは素っ頓狂な声を上げた。
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