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魔王復活編
376.ダルクは何か知っているのかも
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揃ってしげしげとダルクの身体を上から下まで観察し、それから人間よりも長い耳をじいっと見つめる。しっかりとエルフの特徴を持っている。色は違うが。
「種族を明らかにするつもりはないが、お前も気をつけろ。人間は論外だが、短命種なんかと関わると碌な目に遭わないぞ」
苦虫を噛み潰してしまったように、ダルクは顔を歪めた。
雪乃とカイは、アイコンタクトで対応を確認する。予想に反してダルクは何か知っているのかもしれない。とりあえず、魔王について聞いてみることにした。
「魔王の遺跡にいたが、魔王を知って」
問いかけたカイは、息を飲む。
禍々しいまでの威圧感で、周囲の空気が薄くなった気がした。もしかすると、本当に酸素の量が減っているのかもしれない。
気だるげな表情をしていたダルクの目は、炎のように容赦なく焼き尽くそうと、カイを捉える。赤い瞳に映る自分の姿が鮮血に染まっているように見え、カイは思わずたじろいだ。
「ダルクさんのお城だと聞きましたが、ダルクさんはお一人で住んでいたのですか?」
空気をぶった切って、雪乃が問う。
常に大魔王様と共に暮らしていた彼女は、多少の殺気も威圧も、自分に向けられたものでなければふるりと震える程度で受け流せる。良いことなのか、哀れなのかは知らないが。
ダルクの視線はカイから雪乃へと移る。カイへの警戒は消えていないようだが、圧が緩んだので、カイは肩を揺らして呼吸を調えた。
「ここ千年近くは、一人で暮らしていた」
冷めた声だが、答えてはくれるようだ。
雪乃はそのまま質問を続ける。
「ということは、千年前は他の方も――」
聞きかけて雪乃はダルクの後方を見た。
彼は母親の墓へ参りに来たのだ。ならばと雪乃は質問の内容を軌道修正する。
「お母さんも、一緒に暮らしていたのですか?」
予想は当たっていたようで、ダルクの瞳は蝋燭の火のように頼りなく揺らめいた。まぶたを落とし、苦しげにまつ毛を震わせる。
目を開いたダルクは、わずかに後ろを振り返った。そこにあるのは、雪乃の知る石でできた墓とは違う。銀色の、飾り気もない一本の剣が、大地に突き刺さっているだけだ。
剣を見つめるダルクの眼差しは今にも泣き出しそうで、雪乃まで切なくなってくる。
「優しいお母さんだったんですね」
千年経っても忘れられず、会いたいと願い続けているのだ。
「ああ。とてもお優しい方だった」
ダルクは剣に向かって歩を進める。伸ばして触れようとした手はしかし、触れる前に止まり、ためらうように震えてからダルクの下へ戻った。
「俺にもっと力があれば、もっと早く大人になっていれば、救えたかもしれないのに」
悔しそうに握り締められた拳が、赤くにじんでいく。
雪乃はぽてぽてとダルクに近付くと、そうっと枝を伸ばした。両枝でダルクの手を包み、傷を癒す。
「少し羨ましいです」
ダルクの隣に立った雪乃は、墓代わりの剣を目に映す。
怪訝な表情でダルクが眉を上げると、雪乃は一度視界を閉じ、気持ちを落ち着かせる。
「私も、そんなお母さんが欲しかったから」
風が吹き、さわさわと草を揺らす。いや、びよよん、びよよんっと揺れている。巨大な草原は、草の揺れ方も豪快だった。
ダルクの視線が雪乃に降り注いでいたが、ふっと途切れた。彼もまた、剣を見つめる。
「何を聞きたい? ああ、なぜお前を『母上』と呼んだのか、だったな」
険の取れたダルクの声に、雪乃は顔を上げる。
「いえ、それはいいです。聞きたくありません」
きっぱりと言われて、ダルクは不機嫌そうに眉根を寄せた。
「聞きたいと言ったのはお前だろう? お前を『母上』と呼んだ記憶はないが」
「当たり障りのなさそうな話題を振ってみただけです。やっぱり記憶喪失ですか?」
ダルクと雪乃は見つめあう。じいっと見つめ合ってから、
「誰が記憶喪失だ? 年寄り扱いするな」
「だって憶えていないじゃないですか? それに千才って、充分お年じゃないですか?」
言い争いが始まった。
「いつ、どこで、俺がお前を『母上』などと呼んだ?!」
「春前に、蟻人さんたちの蟻塚で、いきなり攻撃してきて呼びました! って、やっぱり憶えていないんじゃないですか!」
突然始まった口論に、カイは驚き対応が遅れた。止めたほうが良いのか、『人』である彼は割り込まないほうが良いのか、悩んだ末にとりあえず様子を見ることにする。
危険があればすぐに雪乃を守れるよう、油断だけはしない。
「はあ?! 春前に蟻人たちの蟻塚だと? あそこにいたのはお前ではないだろう?」
「いましたよ。いきなり攻撃してきて、『助ける』とか言いながら、私ごと吹き飛ばそうとしましたよね?」
思い出した雪乃は、苛立ちを強めていく。
ノムルの障壁があったから無事でいられたものの、普通ならば跡形もなく消滅しそうな攻撃を、ダルクは雪乃に向けて放ってきたのだ。
二人は睨みあう。
先に目を逸らしたのは、ダルクだった。顎に軽く握った拳を添えて何か考えるような素振りをすると、雪乃のフードを取った。
「やはり別樹人だろう? もう少し大きかったし、樹形も違う」
冷静に告げられて、雪乃の怒りも静まる。ぽてりと幹を傾げてから、衝撃の事実に気が付いた。
「仰るとおりです。今の私は、あのときの私とは違うのです。挿し木をして、新しい体になったのですから」
雪乃はおもむろにカイを見る。
「外見や匂いは少し変わっていたが、雪乃は雪乃だからな」
視線の意味を察したカイは、さらりと答えた。中身が入れ替わっても、外見が変わっても、彼は雪乃を判別できるようだ。
だが雪乃は新しい身体を手に入れてから、すでに何人もの人間と再会している。その誰もが、雪乃であると認識していた。
「つまり、私の知人たちは、皆さん外見よりも中身を重視する方々なのですね」
きらきらと葉をきらめかせている雪乃だが、彼女は気付いていない。
常にローブで身を覆い、深くフードを被っている子供の中身が入れ替わっても、声と言動さえ同じならば、気付ける人はいないことに。
そして外見が少し変わったくらいでは、同じ種類の似たサイズの樹人を区別できる人間は、まずいないということにも。
「わー……」
「わー……」
「わー……」
マンドラゴラたちが残念そうに雪乃を見上げ、最後には諦めるように根を左右に振っていたことにも、彼女は気付いていなかった。
「挿し木……。そういう方法があったのか」
樹人以外には必要のない情報に、ダルクが食いついていたことにも。
「種族を明らかにするつもりはないが、お前も気をつけろ。人間は論外だが、短命種なんかと関わると碌な目に遭わないぞ」
苦虫を噛み潰してしまったように、ダルクは顔を歪めた。
雪乃とカイは、アイコンタクトで対応を確認する。予想に反してダルクは何か知っているのかもしれない。とりあえず、魔王について聞いてみることにした。
「魔王の遺跡にいたが、魔王を知って」
問いかけたカイは、息を飲む。
禍々しいまでの威圧感で、周囲の空気が薄くなった気がした。もしかすると、本当に酸素の量が減っているのかもしれない。
気だるげな表情をしていたダルクの目は、炎のように容赦なく焼き尽くそうと、カイを捉える。赤い瞳に映る自分の姿が鮮血に染まっているように見え、カイは思わずたじろいだ。
「ダルクさんのお城だと聞きましたが、ダルクさんはお一人で住んでいたのですか?」
空気をぶった切って、雪乃が問う。
常に大魔王様と共に暮らしていた彼女は、多少の殺気も威圧も、自分に向けられたものでなければふるりと震える程度で受け流せる。良いことなのか、哀れなのかは知らないが。
ダルクの視線はカイから雪乃へと移る。カイへの警戒は消えていないようだが、圧が緩んだので、カイは肩を揺らして呼吸を調えた。
「ここ千年近くは、一人で暮らしていた」
冷めた声だが、答えてはくれるようだ。
雪乃はそのまま質問を続ける。
「ということは、千年前は他の方も――」
聞きかけて雪乃はダルクの後方を見た。
彼は母親の墓へ参りに来たのだ。ならばと雪乃は質問の内容を軌道修正する。
「お母さんも、一緒に暮らしていたのですか?」
予想は当たっていたようで、ダルクの瞳は蝋燭の火のように頼りなく揺らめいた。まぶたを落とし、苦しげにまつ毛を震わせる。
目を開いたダルクは、わずかに後ろを振り返った。そこにあるのは、雪乃の知る石でできた墓とは違う。銀色の、飾り気もない一本の剣が、大地に突き刺さっているだけだ。
剣を見つめるダルクの眼差しは今にも泣き出しそうで、雪乃まで切なくなってくる。
「優しいお母さんだったんですね」
千年経っても忘れられず、会いたいと願い続けているのだ。
「ああ。とてもお優しい方だった」
ダルクは剣に向かって歩を進める。伸ばして触れようとした手はしかし、触れる前に止まり、ためらうように震えてからダルクの下へ戻った。
「俺にもっと力があれば、もっと早く大人になっていれば、救えたかもしれないのに」
悔しそうに握り締められた拳が、赤くにじんでいく。
雪乃はぽてぽてとダルクに近付くと、そうっと枝を伸ばした。両枝でダルクの手を包み、傷を癒す。
「少し羨ましいです」
ダルクの隣に立った雪乃は、墓代わりの剣を目に映す。
怪訝な表情でダルクが眉を上げると、雪乃は一度視界を閉じ、気持ちを落ち着かせる。
「私も、そんなお母さんが欲しかったから」
風が吹き、さわさわと草を揺らす。いや、びよよん、びよよんっと揺れている。巨大な草原は、草の揺れ方も豪快だった。
ダルクの視線が雪乃に降り注いでいたが、ふっと途切れた。彼もまた、剣を見つめる。
「何を聞きたい? ああ、なぜお前を『母上』と呼んだのか、だったな」
険の取れたダルクの声に、雪乃は顔を上げる。
「いえ、それはいいです。聞きたくありません」
きっぱりと言われて、ダルクは不機嫌そうに眉根を寄せた。
「聞きたいと言ったのはお前だろう? お前を『母上』と呼んだ記憶はないが」
「当たり障りのなさそうな話題を振ってみただけです。やっぱり記憶喪失ですか?」
ダルクと雪乃は見つめあう。じいっと見つめ合ってから、
「誰が記憶喪失だ? 年寄り扱いするな」
「だって憶えていないじゃないですか? それに千才って、充分お年じゃないですか?」
言い争いが始まった。
「いつ、どこで、俺がお前を『母上』などと呼んだ?!」
「春前に、蟻人さんたちの蟻塚で、いきなり攻撃してきて呼びました! って、やっぱり憶えていないんじゃないですか!」
突然始まった口論に、カイは驚き対応が遅れた。止めたほうが良いのか、『人』である彼は割り込まないほうが良いのか、悩んだ末にとりあえず様子を見ることにする。
危険があればすぐに雪乃を守れるよう、油断だけはしない。
「はあ?! 春前に蟻人たちの蟻塚だと? あそこにいたのはお前ではないだろう?」
「いましたよ。いきなり攻撃してきて、『助ける』とか言いながら、私ごと吹き飛ばそうとしましたよね?」
思い出した雪乃は、苛立ちを強めていく。
ノムルの障壁があったから無事でいられたものの、普通ならば跡形もなく消滅しそうな攻撃を、ダルクは雪乃に向けて放ってきたのだ。
二人は睨みあう。
先に目を逸らしたのは、ダルクだった。顎に軽く握った拳を添えて何か考えるような素振りをすると、雪乃のフードを取った。
「やはり別樹人だろう? もう少し大きかったし、樹形も違う」
冷静に告げられて、雪乃の怒りも静まる。ぽてりと幹を傾げてから、衝撃の事実に気が付いた。
「仰るとおりです。今の私は、あのときの私とは違うのです。挿し木をして、新しい体になったのですから」
雪乃はおもむろにカイを見る。
「外見や匂いは少し変わっていたが、雪乃は雪乃だからな」
視線の意味を察したカイは、さらりと答えた。中身が入れ替わっても、外見が変わっても、彼は雪乃を判別できるようだ。
だが雪乃は新しい身体を手に入れてから、すでに何人もの人間と再会している。その誰もが、雪乃であると認識していた。
「つまり、私の知人たちは、皆さん外見よりも中身を重視する方々なのですね」
きらきらと葉をきらめかせている雪乃だが、彼女は気付いていない。
常にローブで身を覆い、深くフードを被っている子供の中身が入れ替わっても、声と言動さえ同じならば、気付ける人はいないことに。
そして外見が少し変わったくらいでは、同じ種類の似たサイズの樹人を区別できる人間は、まずいないということにも。
「わー……」
「わー……」
「わー……」
マンドラゴラたちが残念そうに雪乃を見上げ、最後には諦めるように根を左右に振っていたことにも、彼女は気付いていなかった。
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