325 / 385
魔王復活編
377.話を進めさせてもらってもいいか?
しおりを挟む
「ではお前があのときの樹人だったとして、俺が『母上』と呼んだ理由だが」
「言わなくていいです」
雪乃は速攻で制止する。
「聞いたのはお前だろう?」
「言わなくていいです。聞きたくありません」
にらみ合いの第二ラウンドが開催された。
「すまん、話を進めさせてもらってもいいか?」
ついに痺れを切らし、カイが割って入ってきた。雪乃とダルクは揃ってカイに首を回すと、こくりと頷いた。何だか息が合っているようだ。
疲れたように息を一つ吐き出して、カイは気持ちを切り替える。
「魔王について情報が欲しい」
単刀直入に切り込むと、先ほどまでの空気が一変して、再びダルクは怒気を含んだ警戒モードに入った。慌ててカイは付け足す。
「知り合いが魔王になったようなんだ。どうにかして止めたい」
空気が緩み、ダルクの表情があからさまに嫌そうにしかめられた。
「あいつか。さっさとどうにかしてくれ。こちらは母上の探索を邪魔されて、迷惑極まりないんだ」
雪乃とカイは、ダルクに気付かれないように視線を交わす。
「お母さんの探索とは、どういうことでしょう?」
雪乃が問うたほうが警戒が弱いと思って口を開いたのだが、ぎろりと睨みつけられた。直接睨みつけられ、雪乃はびくりと震えてよろめいたが、すぐにカイが支えてくれた。
「大丈夫か?」
小さくささやくと、落ち着かせるように優しく幹を撫でる。
「大丈夫です」
雪乃はカイに答えて根を踏ん張り直すと、ダルクへと顔を戻す。
「話してください。私たちはノムルさんを元に戻したい。ダルクさんも、ノムルさんがこのままでは困るのでしょう? お互いに協力できることがあるのではないでしょうか?」
震えそうになる体を、カイの手を握って耐えながら、雪乃は訴えた。
ダルクはじとりと雪乃を見下ろしていたが、
「いいだろう。人だけならば断るが、同族の誼だ」
と、カイを睨みつけてから、近くの草を引っ張って曲げ、腰を下ろした。
「俺と母上が出会ったのは千年ほど前になる。人間どもに襲われていたところを母上に助けられた」
生まれて間もないダルクは、森の中をさ迷っていた。自分が何者なのかも分からず、歩き続けた。そして森の端まで辿り着いた時に、人間に見つかってしまう。
「人間どもに鉈(なた)を振り回しながら追いかけられて、何の力も持たなかった俺は逃げるしかなかった。だがすぐに捕まり、振り上げられた鉈が俺の上に襲い掛かった」
けれど人間が振るった鉈が、ダルクを傷付けることはなかった。黒いローブを着てフードで顔を隠した人間の女性が、ダルクを襲っていた人間たちを吹き飛ばし、救ってくれたのだ。
ダルクは自分を救ってくれた女性と行動を共にすることにした。ダルクという彼の名前は、彼女がつけてくれたのだという。
「美しい人だと思った。けれど時々、苦しそうに呻き声を上げて蹲っていた。俺は彼女を助けたくて、薬草を集めた」
けれど女性の発作は徐々にひどくなっていく。それだけでなく、女性は人間たちに追われていた。正体が露見するたびに、ダルクと女性は追い回され、攻撃され、町に出ることも難しくなっていく。
二人は砂と岩だらけの人の住まぬ土地に辿り着くと、女性の魔法で岩山を切ったりくり抜いたりして城を造り住み始めた。
その頃には、女性はダルクを息子のように扱い、ダルクも女性を母と慕うようになっていたという。
食料を得ることが難しい土地だったが、幸いにもダルクの能力で果物や山野草を作り出すことができたので、女性が飢えることはなかった。
ダルクは水を必要としたが、これは女性が魔法で作りだした。
そうして二人は、不便ではあるが穏やかな暮らしを送る。
しかしそんなささやかな幸せも、長くは続かなかった。彼女とダルクの居場所を掴んだ人々が、二人の城へ何度も攻撃を仕掛けてきたのだ。
人間たちは女性を亡き者にしようとし、獣人とエルフはダルクをさらおうとする。その度に女性は魔法を使って追い払うが、彼女の魔力は無限ではなかった。
「常人ならば、休めば回復する。だが母上の魔力は減る一方だった」
女性の持つ魔力は彼女自身のものではなく、千年の間に貯えられた魔力を、悪意が反応した人間に流し込んだものだった。
悪意を流し込み切る前に命を奪われぬよう、彼女を守るために。
残りの魔力量を考えながら、彼女は襲ってくる者たちを必死に追い払う。けれど彼女に襲い掛かるのは、人だけではなかった。
「悪意と呼ばれる黒い霧が母上にまといつき、母上の心を蝕んでいったのだ」
雪乃の精神を侵そうとした、あの黒いタールの海だ。
「母上は必死に抗っていた。俺は母上の力になりたくて、虫たちを使って薬草を集めた」
そして必要な薬草を集め終えた時、異変が訪れた。ダルクが成長し、根を張ったのだ。
「すみません、幾つか確認させてください」
「俺もだ」
必死にツッコミたい気持ちを抑えて、静かに聴いていた雪乃とカイだが、限界が来たようだ。二人とも、ふるふると肩を揺らしている。
母との思い出をせっかく話して聞かせていたダルクは、不快感を顕わにしてあからさまに顔をしかめた。
「なんだ?」
でも聞いてくれるようだ。
雪乃は感謝してから、質問をする。
「あの、ダルクさんはもしかして、樹人の王子様だったのでしょうか?」
あまりにも身に覚えのある内容だ。
そう思って聞いたのだが、自分で口にした単語に雪乃は白目を剥きかけた。雪乃もまた、樹人のお姫様なのだ。
「樹人の爺さんは、そう呼んでいたな。この姿になってから会いにいったら、ぼけたのか俺を認識できなくなっていたが」
当たっていたようだ。
ダルクは顔色一つ変えず、さらっと答えた。王子様と呼ばれることに、恥も抵抗もないらしい。
雪乃はダルクとの関係や一人で悩んでいたことなど、この世界に来てからの記憶が走馬灯のように蘇り、困惑と脱力と叫びたい気持ちでふるふると震え続けた。
冷静に考えてみれば、雪乃も成木となった後は一時的にエルフのような姿をしていたのだ。ダルクが雪乃を同族と呼んだ時点で気付いても良かったはずだ。だが雪乃の思考回路は、彼女に別のことを気付かせてしまった。
「ダルクさんは、私のご親戚?」
ぽつりとこぼれ落ちた言葉に、カイとダルクの注目が向かう。
「つまりダルク殿は、樹人の王ということでしょうか?」
すでに答えは出ているようなものだったが、確かめるようにカイは問うた。
千年前、生まれてすぐに力を失い、精霊を生み出すことのなかった樹人の王。しかし、
「さあな。どうでもいい。俺が望むのは、母上との再会だけだ」
ダルクにとって大切なのは、あくまで母の存在だけのようだ。
「言わなくていいです」
雪乃は速攻で制止する。
「聞いたのはお前だろう?」
「言わなくていいです。聞きたくありません」
にらみ合いの第二ラウンドが開催された。
「すまん、話を進めさせてもらってもいいか?」
ついに痺れを切らし、カイが割って入ってきた。雪乃とダルクは揃ってカイに首を回すと、こくりと頷いた。何だか息が合っているようだ。
疲れたように息を一つ吐き出して、カイは気持ちを切り替える。
「魔王について情報が欲しい」
単刀直入に切り込むと、先ほどまでの空気が一変して、再びダルクは怒気を含んだ警戒モードに入った。慌ててカイは付け足す。
「知り合いが魔王になったようなんだ。どうにかして止めたい」
空気が緩み、ダルクの表情があからさまに嫌そうにしかめられた。
「あいつか。さっさとどうにかしてくれ。こちらは母上の探索を邪魔されて、迷惑極まりないんだ」
雪乃とカイは、ダルクに気付かれないように視線を交わす。
「お母さんの探索とは、どういうことでしょう?」
雪乃が問うたほうが警戒が弱いと思って口を開いたのだが、ぎろりと睨みつけられた。直接睨みつけられ、雪乃はびくりと震えてよろめいたが、すぐにカイが支えてくれた。
「大丈夫か?」
小さくささやくと、落ち着かせるように優しく幹を撫でる。
「大丈夫です」
雪乃はカイに答えて根を踏ん張り直すと、ダルクへと顔を戻す。
「話してください。私たちはノムルさんを元に戻したい。ダルクさんも、ノムルさんがこのままでは困るのでしょう? お互いに協力できることがあるのではないでしょうか?」
震えそうになる体を、カイの手を握って耐えながら、雪乃は訴えた。
ダルクはじとりと雪乃を見下ろしていたが、
「いいだろう。人だけならば断るが、同族の誼だ」
と、カイを睨みつけてから、近くの草を引っ張って曲げ、腰を下ろした。
「俺と母上が出会ったのは千年ほど前になる。人間どもに襲われていたところを母上に助けられた」
生まれて間もないダルクは、森の中をさ迷っていた。自分が何者なのかも分からず、歩き続けた。そして森の端まで辿り着いた時に、人間に見つかってしまう。
「人間どもに鉈(なた)を振り回しながら追いかけられて、何の力も持たなかった俺は逃げるしかなかった。だがすぐに捕まり、振り上げられた鉈が俺の上に襲い掛かった」
けれど人間が振るった鉈が、ダルクを傷付けることはなかった。黒いローブを着てフードで顔を隠した人間の女性が、ダルクを襲っていた人間たちを吹き飛ばし、救ってくれたのだ。
ダルクは自分を救ってくれた女性と行動を共にすることにした。ダルクという彼の名前は、彼女がつけてくれたのだという。
「美しい人だと思った。けれど時々、苦しそうに呻き声を上げて蹲っていた。俺は彼女を助けたくて、薬草を集めた」
けれど女性の発作は徐々にひどくなっていく。それだけでなく、女性は人間たちに追われていた。正体が露見するたびに、ダルクと女性は追い回され、攻撃され、町に出ることも難しくなっていく。
二人は砂と岩だらけの人の住まぬ土地に辿り着くと、女性の魔法で岩山を切ったりくり抜いたりして城を造り住み始めた。
その頃には、女性はダルクを息子のように扱い、ダルクも女性を母と慕うようになっていたという。
食料を得ることが難しい土地だったが、幸いにもダルクの能力で果物や山野草を作り出すことができたので、女性が飢えることはなかった。
ダルクは水を必要としたが、これは女性が魔法で作りだした。
そうして二人は、不便ではあるが穏やかな暮らしを送る。
しかしそんなささやかな幸せも、長くは続かなかった。彼女とダルクの居場所を掴んだ人々が、二人の城へ何度も攻撃を仕掛けてきたのだ。
人間たちは女性を亡き者にしようとし、獣人とエルフはダルクをさらおうとする。その度に女性は魔法を使って追い払うが、彼女の魔力は無限ではなかった。
「常人ならば、休めば回復する。だが母上の魔力は減る一方だった」
女性の持つ魔力は彼女自身のものではなく、千年の間に貯えられた魔力を、悪意が反応した人間に流し込んだものだった。
悪意を流し込み切る前に命を奪われぬよう、彼女を守るために。
残りの魔力量を考えながら、彼女は襲ってくる者たちを必死に追い払う。けれど彼女に襲い掛かるのは、人だけではなかった。
「悪意と呼ばれる黒い霧が母上にまといつき、母上の心を蝕んでいったのだ」
雪乃の精神を侵そうとした、あの黒いタールの海だ。
「母上は必死に抗っていた。俺は母上の力になりたくて、虫たちを使って薬草を集めた」
そして必要な薬草を集め終えた時、異変が訪れた。ダルクが成長し、根を張ったのだ。
「すみません、幾つか確認させてください」
「俺もだ」
必死にツッコミたい気持ちを抑えて、静かに聴いていた雪乃とカイだが、限界が来たようだ。二人とも、ふるふると肩を揺らしている。
母との思い出をせっかく話して聞かせていたダルクは、不快感を顕わにしてあからさまに顔をしかめた。
「なんだ?」
でも聞いてくれるようだ。
雪乃は感謝してから、質問をする。
「あの、ダルクさんはもしかして、樹人の王子様だったのでしょうか?」
あまりにも身に覚えのある内容だ。
そう思って聞いたのだが、自分で口にした単語に雪乃は白目を剥きかけた。雪乃もまた、樹人のお姫様なのだ。
「樹人の爺さんは、そう呼んでいたな。この姿になってから会いにいったら、ぼけたのか俺を認識できなくなっていたが」
当たっていたようだ。
ダルクは顔色一つ変えず、さらっと答えた。王子様と呼ばれることに、恥も抵抗もないらしい。
雪乃はダルクとの関係や一人で悩んでいたことなど、この世界に来てからの記憶が走馬灯のように蘇り、困惑と脱力と叫びたい気持ちでふるふると震え続けた。
冷静に考えてみれば、雪乃も成木となった後は一時的にエルフのような姿をしていたのだ。ダルクが雪乃を同族と呼んだ時点で気付いても良かったはずだ。だが雪乃の思考回路は、彼女に別のことを気付かせてしまった。
「ダルクさんは、私のご親戚?」
ぽつりとこぼれ落ちた言葉に、カイとダルクの注目が向かう。
「つまりダルク殿は、樹人の王ということでしょうか?」
すでに答えは出ているようなものだったが、確かめるようにカイは問うた。
千年前、生まれてすぐに力を失い、精霊を生み出すことのなかった樹人の王。しかし、
「さあな。どうでもいい。俺が望むのは、母上との再会だけだ」
ダルクにとって大切なのは、あくまで母の存在だけのようだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。
お小遣い月3万
ファンタジー
異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。
夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。
妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。
勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。
ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。
夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。
夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。
その子を大切に育てる。
女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。
2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。
だけど子どもはどんどんと強くなって行く。
大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる