『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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魔王復活編

381.言葉と行動が

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 雪乃やカイの正体が露見しないよう、使用人たちにはお茶を入れた後、退室してもらった。隠そうともしないダルクが人間ではないことはばれているだろうが、もはや取り繕いようがない。
 後でローズマリナが説明し、適当な処置を取るだろう。

「なんだか懐かしい光景だね。雪乃ちゃん、羨ましいんじゃないの?」

 ここにいない親ばか魔法使いを連想したらしきムダイは、雪乃をからかう。

「別に羨ましくなんかありませんよ。私は元々、べったりなんて苦手なんです。一人でも全然問題ありません」

 ぷくりと頬葉を膨らませた雪乃は、膝の上に乗せてくれているカイのローブを、きゅっと握り締めていた。
 言葉と行動が一致していないことは一目瞭然だが、誰もそのことを指摘したりはしない。文句を言いつつも、この小さな樹人は親ばかな魔法使いを慕っていたのだ。
 なんとか無理矢理に、雪乃はダルクを紹介する。

 ダルクが魔王の遺跡にいたダークエルフだと知って驚いたムダイだったが、ダルクが敵ではなく、ついでにムダイの顔を憶えていないことに気付くと、そのまま初対面のふりをした。
 じとりと睨んだ雪乃だが、遺跡破壊はさすがにやりすぎだ。ダルクが気付けばまた喧嘩になるだろうと、仕方なくこの場は見て見ぬふりをすることに決める。

「それよりダルクさん、説明してください。私やマンドラゴラの次はローズマリナさんですか? 誰でもいいんじゃないんですか?」

 やつ当たりするように尖った声を出す雪乃の頭を、カイは優しく撫でてやる。

「誰でもいい訳がないだろう? 母上は母上だけだ」

 反論したダルクへ、じとりとした視線を雪乃は投げかける。ついでにマンドラゴラたちも、揃って投げかける。特にカイのローブから出てきたマンドラゴラの視線が冷たい。

「おかしいのはお前だ。なんで母上ではないのに、悪意が反応したんだ?」
「私に聞かれたって知りませんよ。ダルクさんが詳しいのでしょう?」

 にらみ合うダルクと雪乃を見ていたローズマリナから、ふふっと笑い声がこぼれた。

「笑ってごめんなさい。でも二人とも、なんだか兄妹みたいで」

 雪乃は不満そうに口葉を尖らせるが、ダルクは小さく首を傾げる。

「母上の子は俺だけです。でも母上がこいつも娘にすると仰るのなら従いますけど」
「なっ?! どうしてそうなるのですか? こんなわけの分からないお兄さんなんてお断りです。暴走するのはノムルさんだけで充分です」

 ぷいっと雪乃はダルクから顔を背けた。

「お前、母上に失礼だぞ? それに母上の仰っていることは、間違ってはいない」
「何を仰るのでしょう? 私には兄なんていません」

 珍しくけんか腰の雪乃の頭を、カイはぽんぽんっと叩く。ローズマリナは困り顔だが、止めはしない。
 雪乃とダルクのやり取りは本当に怒っているわけでも、相手を嫌っているわけでもないと見抜き、見守っているようだ。

「だがお前は俺と同族だろう? 人間ならば娘か妹という立場だろう?」

 ダルクの提唱に、カイは「ああ」と膝を打つ。雪乃は不満そうだが、反論はできないようで口をつぐんだ。
 情報のないムダイとローズマリナは首を傾げる。

「ダルク君はダークエルフではないの? ユキノちゃんと同族には見えないのだけれど?」

 樹人の雪乃とダークエルフと呼ばれる種族に似た外見をしているダルクを、交互に見た。

「違います、母上。俺は樹人です。成木になって根を張ったため動くことができなくなり、精霊体となった後、物質化しただけです」

 すぐにダルクは訂正した。
 ダルクに注目が集まり、そのまま雪乃へと移動する。

「え? それってつまり、雪乃ちゃんもダークエルフの姿になれるの?」

 戸惑いながら、ムダイが問う。

「ダルクさんみたいな姿じゃないです。髪は緑でしたし、ラスエルさんに近かったです。ついでに羽もありました」

 鏡は見ていないので面立ちや目の色は分からないが、雪乃は見たことを伝えた。
 カイとムダイ、ローズマリナは、まじまじと雪乃を上から下まで見つめる。

「ローブの下って、樹人だよね?」
「ええ、樹人ですよ」

 フードを取って、雪乃は顔をさらす。こんもりと葉の茂る、毬藻のような丸い顔だ。
 三人の眉間に皺が寄る。

「さっき言った外見は何? 誰かに聞いたの? っていうか、羽?」

 ムダイは顔に困惑を貼り付けている。

「成木になったときに、人型になったんですよ。鏡がなかったので顔は見れませんでしたけど」

 雪乃の言葉に、ムダイの口元が下を向いた三日月のように情けなく下がる。カイに視線を向けるが、カイは知らなかったと言うように首を左右に振った。

「せっかく人型になったのに、なんで樹人に戻ったの?」

 わざわざ樹人の姿を選ぶ雪乃の考えが分からず、ムダイは問わずにはいられない。ローズマリナも怪訝な表情を浮かべている。

「だって、人間の身体って不便じゃないですか。服が必要ですし、お腹は空くし、すぐに怪我するし、身体を壊すし、動けなくなるし、弱いし、排泄も必要だし、お布団も必要だし……」

 次々と列挙される人間の問題点に、人間たちはじわじわとダメージを受けていった。

「じゅ、樹人は便利なのね」
「そうみたいですね」

 ローズマリナとムダイは疲れたように肩を落として頷きあう。だからといって、二人は樹人になりたいとは思わなかったようだが。

 話しこんでいるうちに、ナルツも帰ってきた。その後ろには、フレックとマグレーン、ララクールの姿もある。
 四人に続いて音もなく入室した執事は、テーブルの上の冷めたお茶を下げ新たに人数分のお茶を用意すると、一礼して静かに退室した。

「おかえりなさい、ナルツ様」
「ただいま帰りました、ローズ」

 ソファから立ち上がったローズマリナと扉から入ってきたナルツは互いに歩み寄り、うっとりと見つめ合う。ローズマリナの腕にはダルクがくっ付いたままなのだが、まったく視界に入っていないようだ。
 見つめ合うナルツの脇を抜けて、フレックとマグレーン、それにララクールが雪乃の元へとやってきた。

「お久しぶりです、カイ殿、ユキノ殿」
「ああ」
「お久しぶりです、ララクールさん。置いてきてしまって、ごめんなさい」

 ゴリン国からローズマリナと共にルモンに向かう予定だったララクールを、雪乃たちは置いたままゴリンを発ってしまったのだ。

「いえ、ローズマリナ様がご無事だったのですから、問題ありません」

 とは言ったものの、ララクールの表情は困ったように強張っている。少し目が死んでいるように感じるのは、気のせいだと思いたい。
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