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魔王復活編
383.今回は父上がご無事だったから
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「えーっと、説明していただいてもよろしいでしょうか?」
右枝を上げて、雪乃が切り込んだ。全員、気持ちは同じだっただろう。
「悪意は心に隙がなければ入り込めない。母上は父上が傍らにおられた時は、悪意を拒否できたと仰っていた。今回は父上がご無事だったから、母上は悪意を跳ね除けていたのだろう。だから俺は、今まで母上を見つけることができなかったんだ」
人間の憎悪を集めた悪意は、心の傷から侵入して、闇を広げ増幅させる。先代聖女は愛する人を失った悲しみにより、悪意に抗えなくなったのだろう。
ダルクは嬉しそうに笑う。
「えっと、ダルク君? 俺のせいでローズを見つけられなかったみたいだけど、いいの? 俺に怒ったりとかしないの?」
戸惑うナルツに、きょとんとダルクは首を傾げる。
「俺は母上の苦しみを取り除いてさしあげたかった。母上が幸せそうで、俺は嬉しい」
白い歯並を見せて花が咲いたように笑むダルクは本当に嬉しそうで、その言葉に裏も偽りも無いと一目で判断できた。彼はただ、母の幸せだけを願っていたのだ。
顔を見合わせたローズマリナとナルツは、ふっと相好を綻ばせる。
「私は幸せよ。とても」
ナルツに肩を抱かれるローズマリナを、ダルクはにこにこと見つめている。
「ふふ。こんなに立派な息子ができるなんて。ユキノちゃんを見たときに、何だか懐かしさと愛しさが込み上げてきたのだけれど、きっとダルク君を思い出していたのね」
「ローズの息子なら、俺の息子だ。明日から剣の鍛錬を付けよう」
「はい、父上」
すっかり仲良し親子と化している三人を、外野はあ然として眺めるしかない。
ローズマリナを母親の生まれ変わりと認識しているダルクはともかく、なぜナルツとローズマリナがすんなりと受け入れているのか。
いまいち付いていけない雪乃たちは首を捻った。
「えっと、なんだか良い話にまとめられているけど、これで良いの? いきなり子持ち? え? ナルツはそれで良いの?」
なんとか声を発したのは、フレックだった。動揺で文章が途切れ途切れだ。
「ダルクがローズを異性として見ていないのは明らかだし、俺とローズの年齢を考えたら、子供がいても不思議ではないだろう?」
むしろ何が問題なのか? と問うような顔で返されて、フレックはますます混乱する。視線をさ迷わせ、眉根を寄せ、首を捻り、目をつぶってから、
「そ、そうだ、な?」
と、煮え切らないながらも肯定した。他の一同も、反論できずにぎこちなく頷く。
どちらにせよ、決めるのは当事者であるナルツたちである。ナルツとローズマリナがまだ二十代であり、ダルクが千歳を超えていたとしてもだ。
外見年齢であれば、ダルクは十代半ばに見える。それでも親子というには年が近すぎるのだが、外野が口を出すことではないだろう。
疑問は尽きないが、とりあえず放っておくことにする。これ以上考えていても話は進まない。そして雪乃たちの思考回路も、許容範囲をオーバーしそうだった。
いったん落ち着いてから、雪乃は今までに入手した情報を伝える。
話を聞き終えて最初に口を開いたのは、ナルツだった。彼は雪乃ではなくダルクに向かい合う。
「ダルク、先代の聖女は愛する人が傍らにいる間は、魔王にならなかったんだね?」
その重く真剣な声に、全員の意識が向かった。
「はい。父上がいる間は、母上は悪意に抵抗できていたと仰っていました」
「その男性は、どうして命を」
と問いかけたナルツは、口をつぐんだ。死の原因を聞いたところで、何の解決にも繋がらないと思ったのだろう。けれどそんな思いに気付かないダルクは、すんなりと答える。
「婚姻のために神殿に行くと、神官が、母上が魔王になると告げたそうです。父上は母上を逃がそうとして、命を落とされたと聞きました」
静まり返った室内に、誰のものなのか息を飲む音が響く。
「それってつまり、神殿は聖女の魂を見分ける手段を持っていたということ?」
「悪意を封じた赤玉は、神殿に保管されていましたから」
悪意を溜め込んでいたあの赤い球体は、魔王の出現を知らせる魔法石として中央神殿にご神体のように飾られていたらしい。
そして恋人を失い弱った聖女の心に悪意が流れ込むようになると、気付けば聖女のそばにあったという。
聖女の死後は再び神殿に戻っていたそうだが、成木となり力を得たダルクが神殿を破壊して奪い取ったそうだ。母を見つけるため、そして二度と母を奪われないように。
室内は水を打ったように静まり返る。
「というかこれ、俺とララは聞いてよかったの?」
「あ。」
話の内容の大きさに、フレックがぽろっと独り言のように尋ねた言葉に、全員が揃って情けない声を上げたのだった。
フレックは困ったように苦く笑み、ララクールも申し訳なさそうに眉を寄せる。しかしすぐに表情を引き締めた。
「他言はいたしません」
「同じく」
元騎士の二人は即座に宣誓したのだった。
すでに外は日が沈み薄暗くなっている。詳細は後ほどということで、食事にすることにした。
「雪乃はどうする? 寝たほうがいいだろう?」
邸の中は明るいので、その気になれば起きていられるのだが、身体には負担となる。膝を折って目線を合わせるカイに、雪乃は話の先が気になりつつも頷く。
「そういえば樹人の身体は暗くなると動けなくなるんだったな。なんで樹人に戻ったりしたんだ?」
ダルクが訝しげに雪乃を見下ろす。
「人だって、夜更かしは身体に良くないんですよ?」
負け惜しみを言う雪乃に、ダルクの目が不機嫌そうに細くなる。
「そうよ。ユキノちゃんはまだ幼いんだもの。しっかり眠らないと」
小さな樹人の頭を、ローズマリナは優しく撫でた。その途端、
「母上の仰るとおりだ。まだ成木になったばかりなんだ。夜は寝ていろ」
と、ダルクは掌を返した。
「くっ。なんという方でしょう? こんな人が私の同族だなんて」
ぎっとダルクを睨みつけるが、柳に風と、まったく効果はなかった。口葉を尖らせてお怒りモードの雪乃を、カイはさっさと抱き上げる。
ぶーぶー言っていた雪乃は、口葉を戻し、皆に向かってぺこりと幹を曲げる。
「おやすみなさい」
「おやすみ」
それぞれと夜の挨拶を済ませてから、雪乃はカイに抱えられて玄関から出ていった。
ララクールだけが困惑した様子で眉間にシワを寄せていたのだが、難しい話をしたせいだろうと、特に誰も気に留めてはいなかった。
「がうう」
庭で伏せて眠っていたぴー助が、気付いて顔を上げる。雪乃が枝を伸ばすと、ぴー助は甘えるように鼻を摺り寄せてきた。撫でる雪乃の葉を、ぴー助の鼻息が揺らす。
雪乃はぴー助にも「おやすみなさい」と挨拶して、裏の木立に運ばれていった。
右枝を上げて、雪乃が切り込んだ。全員、気持ちは同じだっただろう。
「悪意は心に隙がなければ入り込めない。母上は父上が傍らにおられた時は、悪意を拒否できたと仰っていた。今回は父上がご無事だったから、母上は悪意を跳ね除けていたのだろう。だから俺は、今まで母上を見つけることができなかったんだ」
人間の憎悪を集めた悪意は、心の傷から侵入して、闇を広げ増幅させる。先代聖女は愛する人を失った悲しみにより、悪意に抗えなくなったのだろう。
ダルクは嬉しそうに笑う。
「えっと、ダルク君? 俺のせいでローズを見つけられなかったみたいだけど、いいの? 俺に怒ったりとかしないの?」
戸惑うナルツに、きょとんとダルクは首を傾げる。
「俺は母上の苦しみを取り除いてさしあげたかった。母上が幸せそうで、俺は嬉しい」
白い歯並を見せて花が咲いたように笑むダルクは本当に嬉しそうで、その言葉に裏も偽りも無いと一目で判断できた。彼はただ、母の幸せだけを願っていたのだ。
顔を見合わせたローズマリナとナルツは、ふっと相好を綻ばせる。
「私は幸せよ。とても」
ナルツに肩を抱かれるローズマリナを、ダルクはにこにこと見つめている。
「ふふ。こんなに立派な息子ができるなんて。ユキノちゃんを見たときに、何だか懐かしさと愛しさが込み上げてきたのだけれど、きっとダルク君を思い出していたのね」
「ローズの息子なら、俺の息子だ。明日から剣の鍛錬を付けよう」
「はい、父上」
すっかり仲良し親子と化している三人を、外野はあ然として眺めるしかない。
ローズマリナを母親の生まれ変わりと認識しているダルクはともかく、なぜナルツとローズマリナがすんなりと受け入れているのか。
いまいち付いていけない雪乃たちは首を捻った。
「えっと、なんだか良い話にまとめられているけど、これで良いの? いきなり子持ち? え? ナルツはそれで良いの?」
なんとか声を発したのは、フレックだった。動揺で文章が途切れ途切れだ。
「ダルクがローズを異性として見ていないのは明らかだし、俺とローズの年齢を考えたら、子供がいても不思議ではないだろう?」
むしろ何が問題なのか? と問うような顔で返されて、フレックはますます混乱する。視線をさ迷わせ、眉根を寄せ、首を捻り、目をつぶってから、
「そ、そうだ、な?」
と、煮え切らないながらも肯定した。他の一同も、反論できずにぎこちなく頷く。
どちらにせよ、決めるのは当事者であるナルツたちである。ナルツとローズマリナがまだ二十代であり、ダルクが千歳を超えていたとしてもだ。
外見年齢であれば、ダルクは十代半ばに見える。それでも親子というには年が近すぎるのだが、外野が口を出すことではないだろう。
疑問は尽きないが、とりあえず放っておくことにする。これ以上考えていても話は進まない。そして雪乃たちの思考回路も、許容範囲をオーバーしそうだった。
いったん落ち着いてから、雪乃は今までに入手した情報を伝える。
話を聞き終えて最初に口を開いたのは、ナルツだった。彼は雪乃ではなくダルクに向かい合う。
「ダルク、先代の聖女は愛する人が傍らにいる間は、魔王にならなかったんだね?」
その重く真剣な声に、全員の意識が向かった。
「はい。父上がいる間は、母上は悪意に抵抗できていたと仰っていました」
「その男性は、どうして命を」
と問いかけたナルツは、口をつぐんだ。死の原因を聞いたところで、何の解決にも繋がらないと思ったのだろう。けれどそんな思いに気付かないダルクは、すんなりと答える。
「婚姻のために神殿に行くと、神官が、母上が魔王になると告げたそうです。父上は母上を逃がそうとして、命を落とされたと聞きました」
静まり返った室内に、誰のものなのか息を飲む音が響く。
「それってつまり、神殿は聖女の魂を見分ける手段を持っていたということ?」
「悪意を封じた赤玉は、神殿に保管されていましたから」
悪意を溜め込んでいたあの赤い球体は、魔王の出現を知らせる魔法石として中央神殿にご神体のように飾られていたらしい。
そして恋人を失い弱った聖女の心に悪意が流れ込むようになると、気付けば聖女のそばにあったという。
聖女の死後は再び神殿に戻っていたそうだが、成木となり力を得たダルクが神殿を破壊して奪い取ったそうだ。母を見つけるため、そして二度と母を奪われないように。
室内は水を打ったように静まり返る。
「というかこれ、俺とララは聞いてよかったの?」
「あ。」
話の内容の大きさに、フレックがぽろっと独り言のように尋ねた言葉に、全員が揃って情けない声を上げたのだった。
フレックは困ったように苦く笑み、ララクールも申し訳なさそうに眉を寄せる。しかしすぐに表情を引き締めた。
「他言はいたしません」
「同じく」
元騎士の二人は即座に宣誓したのだった。
すでに外は日が沈み薄暗くなっている。詳細は後ほどということで、食事にすることにした。
「雪乃はどうする? 寝たほうがいいだろう?」
邸の中は明るいので、その気になれば起きていられるのだが、身体には負担となる。膝を折って目線を合わせるカイに、雪乃は話の先が気になりつつも頷く。
「そういえば樹人の身体は暗くなると動けなくなるんだったな。なんで樹人に戻ったりしたんだ?」
ダルクが訝しげに雪乃を見下ろす。
「人だって、夜更かしは身体に良くないんですよ?」
負け惜しみを言う雪乃に、ダルクの目が不機嫌そうに細くなる。
「そうよ。ユキノちゃんはまだ幼いんだもの。しっかり眠らないと」
小さな樹人の頭を、ローズマリナは優しく撫でた。その途端、
「母上の仰るとおりだ。まだ成木になったばかりなんだ。夜は寝ていろ」
と、ダルクは掌を返した。
「くっ。なんという方でしょう? こんな人が私の同族だなんて」
ぎっとダルクを睨みつけるが、柳に風と、まったく効果はなかった。口葉を尖らせてお怒りモードの雪乃を、カイはさっさと抱き上げる。
ぶーぶー言っていた雪乃は、口葉を戻し、皆に向かってぺこりと幹を曲げる。
「おやすみなさい」
「おやすみ」
それぞれと夜の挨拶を済ませてから、雪乃はカイに抱えられて玄関から出ていった。
ララクールだけが困惑した様子で眉間にシワを寄せていたのだが、難しい話をしたせいだろうと、特に誰も気に留めてはいなかった。
「がうう」
庭で伏せて眠っていたぴー助が、気付いて顔を上げる。雪乃が枝を伸ばすと、ぴー助は甘えるように鼻を摺り寄せてきた。撫でる雪乃の葉を、ぴー助の鼻息が揺らす。
雪乃はぴー助にも「おやすみなさい」と挨拶して、裏の木立に運ばれていった。
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