『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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魔王復活編

386.食べられかけたのでは?

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「ぴー助、今日もよろしくお願いしますね」
「がうう」

 雪乃は鼻先を寄せてくるぴー助を全身で撫でてから、カイに抱き上げてもらってぴー助の背中に乗る。
 ローズマリナはダルクがお姫様抱っこをして、ふわりとぴー助の背に着地した。ムダイはまあ、勝手に乗り込んだ。
 ぴー助が飛び立つ姿を見送った後、フレックとララクールは、自分たちが任されているローズマリナの店へと向かった。

 しばし空を楽しんでから、先日と同じように騎竜たちが休む広場に着陸してぴー助を預かってもらうと、タイミングよく迎えに来てくれていたマグレーンの運転する車で、城へ向かう。

「マーちゃんが教えてくれたんだよ」
「わー」

 どうやらティンクルベルが伝言を送っていたようだ。指の腹で優しく撫でるマグレーンに、マーちゃんは根を摺り寄せてご機嫌だ。マグレーンも幸せそうにマーちゃんを見つめている。
 二人はすっかり相思相愛の仲となっているようだが、雪乃はおもむろに首を傾げた。

「マーちゃんたちは、マグレーンさんに食べられかけたのでは?」

 ナルツに保護された時、彼と共にいた魔法使いに食べられかけたのだと、マーちゃんは雪乃に訴えたのだ。
 ぴしりと、車内の空気が凍る。マグレーンの表情が固定されたまま、首がゆっくりと雪乃へと回った。軽いホラー映像に、雪乃はカイにしがみ付く。
 心の中で呟いたつもりが、声に出ていたようだ。

「え? 俺が? マーちゃんを? こんなに可愛くて素直なマーちゃんを?」

 マーちゃんに向かって微笑んでいた時のままに顔が固まってしまったマグレーンは、頬肉が盛り上がって完璧な笑顔なのに、目が殺気立っている。

「わー?」

 と根を傾げているマーちゃんは、

「わー!」

 と、思い出したようにまっすぐに伸び、それから葉をわっさわっさと左右に振ったと思うと、大きく頷いた。

「えーっと、食べようとしたのはマグレーンさんではないわけですね。別の魔法使いが食べようとした、と」
「わー」
「わー」

 マーちゃんだけでなく、ティンクルベルもしっかりと頷く。

「誰? 俺の可愛いマーちゃんを食べようとしたっていう、人間失格の魔法使いは?」

 マグレーンから殺気が駄々漏れである。

「えーっと……」

 雪乃は答えに詰まった。このまま正直に話してしまうと、おそらくタッセだと思われる魔法使いの命が危ない。そう判断した雪乃は、

「私の聞き間違いだったようです」

 澄ましてすっとぼけた。
 雪乃は平和主義者だ。無用な争いは本来好まないのである。ノムルと旅をしていたと知る者には、まったく説得力のない台詞ではあるが。
 疑わし気な目で見据えていたマグレーンだが、雪乃は決して視線を合わせない。横を向いて知らんぷりだ。

「わー……」

 そんな雪乃の気持ちを汲み取ったマーちゃんは、悲しそうな声を上げながらマグレーンを見上げる。

「っ?! マーちゃん、そんな悲しそうな目をしないで。ごめんよ、君のお母さんを虐めているんじゃないんだ」
「わー……」

 マグレーンにはマンドラゴラには存在しないはずの目が、マーちゃんに見えているらしい。しかしそれより、

「お母さん?」

 そちらの単語に雪乃は反応した。
 せっかくダルクの母親という立場から逃れたというのに、今度はマーちゃんのお母さんになってしまったようだ。
 がく然とする雪乃を、ローズマリナは眉を下げて気の毒そうに見る。
 カイの隣でそっぽを向いて肩を振るわせる赤い男を、雪乃はじとりと睨んだが、ついっと幹を戻した。

「確かに、マンドラゴラたちは私から生まれたわけですから、間違ってはいませんね。ですが、私はまだ……」

 まだ子供を持つ年齢ではないのだ。雪乃はしょぼーんと項垂れた。
 カイが慰めるように頭をなでているが、雪乃を心配してなのか、単に毛繕いがしたいだけなのか、ちょっとだけ分からなくなってきた雪乃だった。
 
「そうでした。忘れる前に、これをお渡ししておきますね。疲労回復薬です」

 気を取り直した雪乃は、ポシェットから油紙で包んだ粉薬が入った瓶を取り出す。
 薬作りに参加していなかったムダイが興味深そうに覗き込んでいるが、雪乃はスルーする。

「用法は?」
「湯飲みに一包みずつ溶いて試してみてください」

 今回は参考となる人間がフレックしかいなかったため効果ははっきりとは分からないが、以前作ったマンドラゴラエキスの例を考慮すると、充分に効果は発揮できるはずだ。

「分かった。ありがとう」
「お役に立てたなら嬉しいです」

 雪乃は葉をきらめかせて答える。
 車が止まりマンドラゴラたちが隠れると、雪乃たちは城へと入っていった。



 応接室に案内されて待っていると、扉が開いてアルフレッドが顔を出した。ナルツだけを連れ、アルフレッド付きの近衛騎士は廊下に待たす。
 本来ナルツは皇太子妃付きの近衛騎士なのだが、魔王騒動が落ち着くまでは、任を半分解かれていた。
 アルフレッドの疲労はさらに悪化していて、目の下は真っ黒で頬がこけている。今にも過労で倒れそうだ。
 ソファに身体を預けるようにして座ったアルフレッドは、お茶を入れ終えた従者にも部屋から出るように手を振って指示を出す。

「待たせたな」

 ぱたりと扉が閉じて雪乃の正体を知る者だけになると、申し訳なさそうに言った。話すのも辛そうで、呼吸と共に声を出し、まぶたが落ちかけている。
 後ろに控えているナルツも、アルフレッドを心配そうに見ていた。

「お気になさらないでください」

 ローズマリナが代表して応じる。公務に加えて魔王や勇者についても動かなければならないのだ。多忙なのは仕方ないだろう。
 雪乃はマグレーンに視線を移した。頷いたマグレーンは、雪乃に渡されていた瓶を出す。

「それは?」

 今にも閉じそうな目をなんとか開いて、アルフレッドは瓶からマグレーン、それから雪乃へと目だけを動かした。
 取り出したのはマグレーンだが、その前のアイコンタクトで雪乃が関わっていると察知したのだろう。
 雪乃はちらりとカイを窺うように見上げる。目で頷いたカイは、頭をぽんぽんと叩いた。アルフレッドに向き直った雪乃は、姿勢を正す。

「私が調合した薬です。お疲れのようですから、どうぞ。でもできれば、私が調合したことは内密にお願いしたいです」

 後半のお願いに、アルフレッドは理由を問うように眉を跳ねた。
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