『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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魔王復活編

390.お久しぶりですわ

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「魔王を討伐するための予言だったのではないのか?」

 悄然として片手で顔を覆うアルフレッドを気の毒に思いつつも、雪乃もナルツも慰めの言葉をかけられなかった。
 人類を滅ぼすことを、ただ難しいからという理由でやめたと言ってのけるユリアを、改めて気味の悪い存在だと、アルフレッドとナルツは忌々しそうに凝視する。
 その後もムダイは聞き取りを続けたが、特に新しい情報は入ってこなかった。

 雪乃たちは城を出て、ナルツの邸へと戻る。アルフレッド側の準備が整うまで、今しばらく待機だ。しかし翌日になると、雪乃は再び城へ呼び出された。

「お久しぶりですわ、ユキノ様」
「久しぶりだな、その節は世話になった」

 雪乃、カイ、ムダイが案内された部屋にいたのは、アイス国のリリアンヌ王女とマーク王子、それに冒険者ギルド副会長ドインだった。
 眠り病に侵され命の灯火が尽きようとしていたマーク王子を、リリアンヌ王女は彼女の魔法を使い、十年もの長きにわたって延命させていた。けれど結婚の適齢期となった彼女に、周囲は諦めるよう説得を始め、別れの日が決められてしまう。
 共に過ごせる時間はあとわずかというときに、護衛として雪乃とノムルが現れ、マークを救ったのだった。

「お久しぶりです、リリアンヌ王女、マーク王子。遅くなりましたが、ご結婚おめでとうございます」
「ありがとう」

 相変わらず仲睦まじい様子の二人に、雪乃は葉をきらめかせる。

「お体のほうはどうでしょう? 何か問題はありませんか?」

 回復の経過も見ずにアイス国から下山した雪乃は、気になっていたことを確かめる。
 
「問題ない。目覚めてしばらくは歩くこともままならなかったが、リリアンヌが常に付き添ってくれたからな。今では眠りに就く前と変わらぬ。これもユキノ殿の知識と、リリアンヌの愛のお蔭だな」
「まあ、マークったら」
「ははは。照れなくてもよい」

 相も変わらず砂糖菓子が飛び交っている新婚夫婦は、二人の世界に没入してしまったようだ。
 雪乃はドインのほうに向きを変える。

「お久しぶりですドインさん」
「お久しぶりです、ドイン副会長」

 カイとムダイも一緒に挨拶を述べる。

「ああ。……あの馬鹿がまた迷惑を掛けたみたいだな」

 ぼりぼりと、ドインは頭を掻く。
 融筋病で体の自由を失っていたドインだが、もう動きに支障はないようだ。松葉杖もなく、自分の手と足だけで動いている。
 ドインの言葉に、雪乃はノムルを思い顔を伏せた。

「時間が無いので話を進めさせてもらう」

 再会のあいさつが終わったと見て取ると、アルフレッドは声を発した。全員が表情を引き締めてソファに着席する。部屋には防音魔法も展開され、会話が外に漏れることはない。

「あらましはすでに伝わっていると思うが、貴殿たちの意見を聞きたい」

 アルフレッドの呼びかけに対して最初に声を上げたのは、一つのソファにべったりとくっ付いて座っている、リリアンヌとマークだ。手を恋人つなぎにして、なんともラブラブだ。

「私たちはユキノ様とノムル様に救っていただきました。アイス国女王ならびにドューワ国王からも、今回の件に関しましては全権を預かっております。両国はユキノ様を全面的に支持いたしますわ」
「我が故国には樹人の群があるが、帰国次第、保護するよう働きかける」

 新婚夫婦ははっきりと言うと、頷きあった。
 続いてアルフレッドの視線はドインへと向かう。

「魔物の件に関しては、すぐにどうこうということは無理だ。今まで討伐してきたものが、実は世界を守ろうとしていたなんて広まったら、さすがに混乱が大きすぎる。とりあえず今回の魔王の件を片付けてから、どう対処するかを決めていこうとなったんだが」

 頭痛を覚えているのか、苦しそうに顔をしかめて頭を押さえながら、言葉を切った。鈍い動作で顔を上げると、鋭い眼差しを雪乃に向けたが、すぐに挫けるように歪んだ。

「本当に、その、樹人なのか?」

 疑ってはいないが信じきれないといった、微妙なわだかまりを解消しようと、ドインは確かめる。
 こくりと頷いた雪乃は、被っていたフードを外す。緑の葉が茂る、丸々とした毬藻のような頭が現れ、ドインの上下の唇が離れた。リリアンヌとマークも事前に聞いていたとはいえ、目が丸くなっている。

「あー」

 床へと視線を落としたドインは、くしゃりと頭を掻くと、

「なるほどな。アイツやお前たちが隠していたわけだ」

 と、睨むようにカイとムダイを一瞥した。カイはしらっと無視しているが、ムダイのほうは苦笑を浮かべる。

「正直お勧めはせんぞ? 正体がばれればどんな目に遭わされるか分からん。それでなくとも嬢ちゃんの立場は危うい。隠れていたほうがいいんじゃないか?」

 庇護者であるノムルが魔王となった以上、雪乃への手出しを控えていた者たちも動き出しかねない。それどころか魔物である雪乃が黒幕なのではないかと、糾弾される可能性もある。

「でも、ノムルさんを助けたいんです。それに樹人が魔物として討伐されている現状を変えなければ、いつか精霊はいなくなってしまいます」

 雪乃は精霊を宿す樹人の王として、成木となることができた。しかし樹人が魔物として討伐対象となっている以上、次の樹人の御子が無事に生き延びられるとは限らない。どこかで食い止める必要がある。

「もし私に何かあったとしても本体は別にいますから、精霊が生まれなくなるということはないと思いますし」
「雪乃?!」
「わーっ?!」

 精霊を生み出す樹人の王としての身体は、エルフ領に置いてきている。そう考えて言った雪乃だったが、カイと彼のマンドラゴラが絶叫した。
 アルフレッドとリリアンヌの目が、糸で引っ張られているかのようにマンドラゴラを凝視する。

「雪乃、お前が犠牲になることは許さない。次の御子がお生まれになるまでには、人間たちの行いを改めさせてみせる」
「わー!」

 詰め寄るカイに、マンドラゴラも大きく根を上下に動かして同意する。

「でも今までだって、獣人の人たちは努力していたんですよね? 大きな切欠――今回のような騒動で私の存在を知ってもらうほうが、良いのではないでしょうか?」

 カイは大きく開いていた瞳を震わせながら雪乃を見つめていたが、まぶたを下げた。
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