『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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魔王復活編

389.なんだか幸せそうだ

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『早くエン君が来ないかなー? ナルツの攻略に失敗して散々だったけど、まさかこんな隠しルートがあったなんて。それともコラボ企画でもあったのかしら? でも二次元キャラでもエン君のイケメンには勝てないのね。あー、早く私をここから連れ出してくれないかしら』

 声のトーンも高く、なんだか幸せそうだ。
 雪乃とナルツから表情が抜け落ち、無我の境地へと入っていく。乙女の心は意外と鋼鉄でできていたようだ。
 準備が整ったとの声が掛かり、ユリアの部屋の扉をノックする音が届く。ムダイが扉から顔を出した途端、ユリアは笑顔を浮かべて飛び跳ねるようにムダイに駆け寄った。

『エン君、来てくれたのね! 嬉しいわ!』

 格子越しに満面の笑みを浮かべ、甘えるような声で話しかける。

『中々会いに来られなくてごめんね。今日は君に紹介したい人がいて連れてきたんだけど、いいかな?』

 一瞬だけ笑みを硬くして視線を横に流したユリアだが、すぐに笑顔に戻った。

『ええ、いいわ』
『ありがとう』

 承諾したユリアににっこりと微笑んで、ムダイは扉の向こうに控えていたダルクを呼ぶ。あまりに爽やかなムダイの笑顔に、雪乃は目を瞠って凝視した。

「あれがアイドルスマイル」
「アイドル?」

 ムダイは自分の職業をアイドルだとは言っていなかったはずなのだが、雪乃は勝手にそう解釈していたようだ。この世界にはない言葉を聞き、男たちは頭上に『?』を浮かべる。
 それはさておきダルクである。ムダイの合図を受け、開いた扉から入ってきた。
 彼の姿を目に映すなり、ユリアは目を丸くしてダルクを凝視した。

『え? ダルク? なんで?』

 小さな呟きを拾った一同に、緊張が走る。なぜユリアはダルクの名前を知っているのか。

『誰だ? 貴様は?』

 ダルクは不快感を隠しもしない。

『なんでダルクが? 嘘でしょう?』

 一方のユリアはといえば、困惑し始めた。顔を青ざめさせて、こめかみを押さえると、ふらふらと後退る。

『落ち着いて、ユリアちゃん。僕が付いているから。彼を知っているの?』

 優しげな笑みを浮かべて、ムダイは甘い声で宥める。声に引っ張られるように顔を向けたユリアは、頬を染めてうっとりとムダイを見上げる。
 雪乃と男たちは、感心しつつも少しばかり引いた目でムダイを凝視した。
 見えない仲間たちの視線に気付いたのか、口の端を微かに引きつらせながら、ムダイは笑顔をキープする。

『大丈夫だよ。何かあっても、僕が守るから』
『エン君』

 怯える眼差しをダルクに向けたまま近付いてきたユリアの耳元に、ムダイは歯の浮くような台詞を平然とささやいてのけた。
 ユリアはきらきらとした乙女の目でムダイを見上げているが、他の面々は呆れと、ある種の尊敬を向けている。芝居や二次元では珍しくないが、現実には恥ずかしくて素面では言えない台詞だ。
 ムダイを蕩けるような表情で見上げていたユリアの唇が動く。ちらりとダルクにきつい視線を向けると、

『その魔族は赤い魔水晶を使って女と契約し、魔王を復活させるの』

 と、ダルクについて説明を始めた。

『は?』

 ユリアの言葉に最も反応したのはダルクだった。何を言われたのか分からないといった様子で、きょとんとしている。
 何か言おうと口を開きかけたが、ムダイが視線で制した。
 不満を顕わにしつつも、ダルクは言葉を飲み込む。不快ではあっても、ローズマリナからムダイの指示に従うようにと言い含められていたため、渋々受け入れたようだ。

 しかし睨み付けられたユリアは、小さく悲鳴を上げて身を強張らせる。その手は格子を抜けて、しっかりとムダイの服を掴んでいた。
 これ以上ダルクがいても口を硬くさせてしまうだけだと、アルフレッドはムダイを残してダルクには引き上げさせるよう、指示を出した。
 伝言を受け、ダルクは苦く顔をゆがめながらもユリアの部屋を出て、雪乃たちが待つ隣の部屋に入ってきた。

「何だ? あの女は? 人間は俺を魔族と呼んでいたのか?」

 部屋に入ってくるなり、ダルクは不満を口にする。

「彼女に関しては、少しおかしな発言があるのだ。我々にも理解できない部分がある。気にしないでくれ」

 アルフレッドに諌められたダルクは、苦虫を噛み潰したように顔をしかめながら、部屋に設置されていたソファにどかりと身を沈めた。
 ダルクがいなくなった部屋で、ムダイは慣れた様子でユリアから情報を引き出していく。
 
『ダルクも攻略対象者なの』

 魔法道具から聞こえてきた言葉に、雪乃とアルフレッド、ナルツは、眉間に皺を寄せてあんぐりと口を開けた。

「死神さんがダルクさんのことだったのでしょうか?」

 『死神』はただ一人、正体不明の攻略対象である。雪乃の指摘を受けて、人間たちはダルクに注目してから首を傾げる。

「いや、雪乃嬢が去ってからムダイ殿に聞き取ってもらったところ、死神は暗殺者だと言っていたから、違うのではないか?」

 アルフレッドの意見を裏付けるように、

『ダルクは魔王が契約した魔族なの。ナルツを勇者に選ぶとダルクルートが解放されて、魔王を倒した後に攻略できるの』

 と、ユリア本人によって、ダルクの死神説は否定された。
 だがこの発言で、人間たちは困惑に顔をしかめる。
 魔王を倒すために勇者候補となる男たちを集めていくという説明だったはずなのに、魔王を倒してから手に入る男がいるというのだから。

 ダルクは自分のことでありながら、事実とあまりに乖離した内容の連続に、

「付き合ってられん」

 と、奥に置かれたソファで眠りだした。
 
「攻略対象とは五人ではないのか? まさかまだ出てくるのではないだろうな?」

 ユリアとムダイの会話を聞きながら、アルフレッドは頭を抱え込む。攻略対象が増えれば増えるほど、詳細の聞き出しや身辺調査などの仕事が増えるのだろう。
 気の毒そうに目を向けながらも、雪乃たちは魔法道具から聞こえてくる会話に耳を傾けるのであった。

『ノートには、ダルク君のことは書いてなかったよね?』

 ムダイの質問は続く。

『ええ。攻略するつもりはなかったもの』
『どうして?』

 甘い声での尋問に、ユリアはうっとりと頬を染めたまま、ためらうこともなく答える。

『だってダルクを攻略するには魔王が完全復活する前に倒して、代わりにヒロインが魔王になって人間を滅ぼさないといけないから、難易度が激高なのよ』
「はあ?!」

 思わず素っ頓狂な声を上げる、雪乃とアルフレッド。防音魔法が使われているとはいえ、大きな声を出したことに、お互いに目を向け合って咎めあう。
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