『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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魔王復活編

394.巌のようにごっつい男から

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 千年もの時が経過しているとは思えぬ錆一つない銀色の刃に、おおっという感嘆の声が円卓の方から幾つも上がる。
 直視して非礼とならないように視界の端で要人たちを窺っていたナルツは、全員が見終えたと見て取り刃を鞘に戻す。

「我が国の近衛騎士であり、ゴリン国ゴーリー公爵家のご令嬢の婚約者にございます」

 円卓に座る要人たちが、揃って息を飲んだ。中には白目を剥いている者もいる。
 ナルツについて紹介されるなり、ドインの隣に座る巌のようにごっつい男から、触れれば灰塵となりそうな禍々しい殺気が膨れ上がったのだ。
 左胸に右手をあて礼を取り、一歩下がって椅子の前に立つナルツは、決して男の座る方向に視線を向けない。表情こそ動かないが、彼の背中はびしょ濡れだった。

 ナルツが会場に入ってからずっと、男はナルツだけを睨み続けていた。
 特注のスーツでも隠し切れないムッキムキの鍛え上げられた筋肉の鎧を持つ初老の彼は、赤く燃える髪をオールバックに固めている。背後に燃える獅子の幻が見えるようだが、気のせいだろう。
 まぶたがこれでもかとばかりに開かれ、白目が赤くなっているが、黒目部分が動くことはコンマ一秒もなかった。

 もうお気付きかもしれないが、彼の名はモンテスキュー・ゴーリー。ゴリン国ゴーリー公爵家の当主――つまりはローズマリナの父であり、ナルツに溺愛する娘を奪われた男である。

「続きましてマグレーン・クープ。多くの魔術師団長を排出してきた、クープ家の者です。我が国の魔術師団に席を置いているため、ラジン国の魔法ギルドには所属しておりません」

 国の中枢に身を置く以上、他国の支配下にあるギルドに身を置くことは許されない。それゆえに魔法使いたちがラジンに召喚されても、国が機能しなくなるなどといった大混乱は避けられている。
 ほうっと、感心したような声が要人たちから漏れる。どうやらクープ家は他国まで名が知られるほどに有名な家柄のようだ。
 名を呼ばれて一歩前に出たマグレーンは、右手を左胸に当てて礼を取る。

「続きましては冒険者ギルドより、Sランク冒険者、竜殺しのムダイ」
「はい」

 一歩踏み出したムダイは、余裕の爽やかスマイルを浮かべる。
 いったい誰にアピールしているのだろうかと雪乃はぽてりと幹を傾げたが、円卓の方に顔を戻して瞬き二回。わずかに視線を下げてからもう一度、顔を上げて円卓に座る人々を確認した。
 美男子ムダイの極上スマイルは、老若男女問わずに人間たちを籠絡していた。

「リリアンヌ?!」

 聞いたことのある声が、戸惑いのこもる悲痛な叫びを上げた。すぐに幻の甘い砂糖細工のバラが飛び交っていたが。

「次は――」

 と、渦巻き髭は視線を動かし、言葉を切る。本当に良いのか? と、問うような眼差しだったが、カイは眉一つ動かさない。
 この場にカイが出る必要はなかった。獣人のカイに対して、集まった要人たちがどのような反応を示すかわからない。
 それを懸念して、アルフレッドはカイに出席しないように勧めたのだが、カイが押し切った。

「獣人と人間のわだかまりを取り除くには、表に出たほうが良いだろう?」

 ふてぶてしく白い犬歯を見せて笑って見せたカイだったが、彼の真意がどこにあるのかは明白だった。
 人間の中から選ばれた三人の戦士に関しては、政治的な理由を除けば好意的な評価が得られるだろう。そしてルモン大帝国という後ろ盾にも守られている。
 だが一人、後ろ盾もなく、人間たちの反応が読み切れない子がいた。場合によっては好意的どころか、危険に晒されかねない。
 何かあればムダイたちが守ると言ったのだが、カイは例え人間たちの敵意を一身に受けることになろうとも、雪乃から離れて安全な場所に身を置くことを良しとしなかった。

 渦巻き髭はカイの意志に、誰にも気付かれないようにそっと息を吐き、紹介を続けた。

「ヒイヅル国第六皇子、カイ殿下」

 ざわりと、空気が揺れる。フードをとったカイに向けられる、戸惑い、困惑、怪訝、軽蔑……。負の感情が、会場を満たしていく。

「なぜ獣人など?」
「使い捨てるにしても、わざわざこの場に連れてくることはありますまい」
「獣人にも皇子がいたとは、驚いた」

 人間たちの醜い選別意識に竦んでしまった雪乃は、カイの手にしがみ付く。そんな雪乃の頭を、カイは反対の手でぽんぽんと叩いた。
 見上げた雪乃の視界には、微笑むカイの顔が映る。
 顔を上げたカイは部屋の中を見回して、にやりと不敵に口角を上げた。

「ずいぶんと我等を侮っているようだ。確かに獣人は人間ほどの繁殖力は持たない。だが我等の力を見くびられては不愉快だ」
「なにを? 獣人風情が」

 と言いかけたどこぞの王族は、言葉を失った。
 肩の高さまで上げられたカイの右腕から巨大な炎の龍が現れ、広い会場の上を狭そうにう覆っていく。静かに人間たちを見下ろしているだけの龍から発せられる熱で、要人たちは息を荒らげ汗を滴らせた。
 涼しい顔をしているのは、事前にカイから作戦を聞き対策を取っておいた、ルモン大帝国皇帝と皇太子アルフレッド。それに冒険者ギルド副会長ドイン、氷魔法の使い手であるアイス国王女リリアンヌと彼女の夫マークだけである。

「おお! カイさん、見事です」
「ムダイ殿の幻術を参考にしてみた」
「うわー。僕はまだ炎も出せないのに。喜ぶところ? 悲しむところ?」

 勇者側に座る五人も平気そうだ。ナルツとマグレーンは事前に聞いてはいたが、実物を見て顔にこそ出さないが驚いている。
 偉そうにしていた要人たちがぐったりと弛緩して机や椅子に身を投げ出し、戦意が消えうせたところで、カイは炎の龍を消した。
 要人たちの側近たちはその場に座り込み、選び抜かれてきたはずの護衛たちさえも、立っているのがやっとといった有り様だ。

 くすくすと、鈴を転がしたような声が響く。意識のある者が視線を向ければ、リリアンヌが扇の下で笑っていた。

「あらあら、情けないこと。ですがこれでは会談を続けられませんわね。ユキノ様、お手数をおかけしますがお願いできます?」

 にっこりと、白く透き通る肌に乗る桜色の唇で弧を描く。

「もちろんです」

 立ち上がった雪乃は、ポシェットから杖を取り出した。
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