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魔王復活編

395.高レベルの治癒魔法

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 清涼作用のあるマオーケウキナを生やし、フードの下でこっそり引っこ抜くと、杖と共に握りこむ。それからマグレーンから教わった、魔法石の力を一定の範囲に拡散することができる魔法の応用で、薬草の効果を拡散した。
 薬草を直接使えば早いのだが、やはり樹人の薬草は見せないほうが良いということで、魔法っぽくしている。

 ひんやりとした空気が室内にそよぎ、茹だっていた人間たちが意識をはっきりとさせ起き上がっていく。驚いたように自分の体を確認し、周囲の様子も見回した。

「さすがですわ。ユキノ様」

 にっこりと、リリアンヌが微笑む。その言葉と動きで、自分たちを治療したのが誰か察した人間たちは、雪乃に驚愕の目を向けた。
 一人を治すだけならまだしも大勢を一瞬で治癒させることは、国を代表する魔法使いでも難しいとされる高レベルの治癒魔法だ。
 外見から雪乃を侮っていた者たちの目が変わったところで、改めて雪乃の紹介が行われる。

「最後になりましたが、精霊の女王、ユキノ様です」

 部屋の空気がざわりと揺れた。
 勇者側に並ぶ男たちを含むルモン大帝国の人間、そしてリリアンヌ、マークとドインは平然としていたが、その他の人々は動揺を押し隠すことができない。
 「まさか?」と疑うような眼差しと、「本当に?」という期待に満ちた輝きが、目にも顔にも現れれいる。

 注目を一身に浴びてしまった雪乃は、固まっていた。
 精霊王として紹介するとは聞いていたが、今の紹介は無い。ゆるりと動き出した雪乃は、

「わ、私は、女王では……」

 と、よろめいて後退ると、ふるふると震えだした。

「そこなんだ? 女王様」

 がばりと、雪乃はムダイを見上げて睨む。にっこりと、それは楽しそうなイケメン爽やかスマイルが返ってきた。

「くっ! なんと言う屈辱」

 小枝を握り締め、口葉をへの字にして悔しがる雪乃をひょいっと抱き上げたカイは、宥めるように撫でてやりながら、ムダイをにらみつける。

「あまり雪乃で遊ぶな」
「ごめんごめん」

 うう……と声を漏らす雪乃は、心理的ダメージにぐったりしていた。

「馬鹿な、精霊王など……。伝説どころか空想の産物であろう? いくら大国ルモンといえど、ふざけるのは大概にしていただきたい」

 声を荒げたのは黒ちょび髭だった。
 ギロリと睨まれた雪乃はわずかに身を強張らせるが、覚悟を決めて床に下ろしてもらう。マンドラゴラたちもスタンバイは整っている。
 会場に流れるマンドラゴラたちの歌声。

「「「わわわわ~」」」

 雪乃はローブを脱いだ。
 本来の人型は樹人形体よりも身長が高くなるのだが、そこは幻覚なので、マンドラゴラたちに上手い具合に調節してもらう。
 練習はこの数日の間でしっかり行い、幻覚とは思えない仕上がりになっている。

 雪乃が姿を現した直後、人間たちは固まった。
 艶やかな常磐緑の髪に包まれた肌は、白磁のように滑らかで透明感がある。新緑のように澄んだ瞳と目が合えば、吸い込まれそうなほどに魅入られる。人間とは違う長く形の良い耳も、髪飾りのように彼女の美しさを引き立てていた。
 まるで人形のような、いや、人形ですらこれほど美しくはないだろうと思えるほどの、完璧な美しさがそこにあった。

 さらに視線を下へと動かせば、淡い紅藤色の花びらが幾重にも重なった、花のドレスが目に入る。精霊たちが女王の周囲に群がっているのか、きらきらときらめいていた。
 彼女が人間ではないことは本能で理解できたが、背中から覗いている淡い光を放つ二対四枚の羽が、本物の精霊の女王であると如実に語っている。

 固まっていた人間たちの間から、ごくりと唾を飲む音が発せられ、静寂をわずかに揺らした。すでに見ていたはずのムダイたちやアルフレッドもまた、目を見張っている。
 雪乃は思った。

(さすがです。ローズマリナさん!)

 花のように可憐で美しい淡紅藤色のドレスは、刺繍を施されて本物の花びらで作られたような仕上がりとなっていた。さらに魔石のビーズも縫い付けられ、動くときらきらと光る。
 ぐっと拳を握り締める雪乃を、マンドラゴラたちは歌いながら残念そうに見る。

 そっと背中を叩かれて、雪乃ははっと身を引き締めた。
 ローズマリナに教えてもらった淑女の礼を取り、アルフレッドから渡されていた口上を述べる。

「お初にお目にかかります、人間の皆様。精霊王の雪乃と申します」

 それだけである。
 実はもっと長い口上が用意されていたのだが、あまりに大根な雪乃に指導をしていたフランソワが根を上げ、自己紹介だけになった。後は渦巻き髭さんが引き取る予定だ。

 雪乃の声を聴き意識を引きもどしたらしき人間たちの中には、慌てて椅子を蹴り跪く者もいた。周囲の様子を伺い、ドインとリリアンヌたちも、席を立って跪く。
 予想していなかった事態に雪乃の方が動揺し始めたが、カイに背中を押され、ぴしっと立ち続ける。

「精霊王様は、人間と精霊の共存を提唱されており、こたびの件に協力を名乗り出てくださりました」
「共存? すでに精霊と人間は上手くやっているであろう?」

 渦巻き髭の説明に、椅子に座ったままの要人から声が上がる。疑念を含んだ声は、あまり精霊王に対して好意的には見えない。
 跪いている者たちから非難の視線が向けられたが、気にする様子はないようだ。国によって精霊に対する考え方は異なるのだろう。

「いや、魔法使いたちが反乱を起こしたことを考えると、精霊たちの中でも争いがあるのでは?」

 応じたのは、椅子に残った別の要人だった。

「なるほど。人間の世界は精霊の争いに巻き込まれたというわけか」

 話はどんどん逸れていき、精霊黒幕説まで出てき始めた。
 むうっと、雪乃は唇を尖らせるが、すぐにカイに頭を小突かれて直した。

「静粛に。勘違いをされては困ります。魔王を生み出したのは精霊ではありません。我等人間です」

 ざわりと、何度目かのどよめきが起こる。
 視線を一手に引き受けたアルフレッドは、控えていた神官を呼び寄せる。彼の腕には古い本が数冊、抱えられていた。

「魔王について改めて調べさせたところ、神殿に伝わる古い資料の中に、その記述がありました」

 と、アルフレッドは赤玉から始まる魔王と聖女に関する真実を述べ上げる。
 記述として残っていなかった部分もあるのだが、たとえ一国の王であろうとも神殿に伝わる秘蔵書を読むことは早々許されることはないから露見することはないと、しれっと混ぜ込んでいた。
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