『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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魔王復活編

396.国の中枢にいる者たちは

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 話が進むに連れて、要人たちの顔は疑念から困惑へと移り、最後はそれぞれの思惑や思想によって、異なる表情へと変わっていった。
 だが共通して、明るい表情の者はいなかったとは記述しておこう。

「過去には人間の愚行により、天寿を全うすることなくその命を奪われた精霊王もおられたそうです。先代の精霊王も、魔王の騒動に巻き込まれ、その力の多くを失ってしまいました。それゆえに新たな精霊は誕生せず、魔法を使える人間が減り続けたそうです」

 一部の者たちはまぶたを伏せる。リリアンヌやマーク、ドインもまた、瞑目していた。
 魔法が使える人間が減り続け魔法の威力も下がっていることを、国の中枢にいる者たちは知っていた。

「精霊王の望みは、これ以上の精霊の減少、ひいては精霊の消滅を防ぐため、精霊と彼らの眷族たちの保護を求めるということです」

 少し違う気もするが、分かりやすくしたようだ。

「眷属とは?」

 沈痛な空気の中、誰かが問うた。

「エルフを筆頭とする、獣人、竜人、人魚、虫人、そして樹人などです」

 静寂が揺れ動きざわめく。
 戸惑いや懐疑、嫌悪や憤怒といった、あらゆる感情が入り乱れ渦巻いていく。

「エルフは分かる。だが獣人など、ましてや虫人や樹人となれば、魔物ではないか」

 今まで見下してきた種族たちが精霊王の眷属として列挙されたことに納得がいかないのか、顔を朱に染めて口角泡を飛ばす者がいた。彼の中では虫人も魔物に入るようだ。
 顔見せを終えた雪乃にローブを着せるため、しゃがみ込んでいたカイは、立ち上がり男の方に体を向ける。

「エルフは精霊王に仕えることを誇りとし、樹人は精霊王に近しい種族だ。そして我ら獣人は、精霊王を祀りお守りすることを使命としている」

 言うだけ言うと、再びしゃがみ込んで雪乃のローブのボタンを留めていく。雪乃一人でも留められるのだが、小枝の指では時間が掛かるのだ。ましてや袖から指を出せないと、更に遅くなる。
 そんなわけできっちりとカイにボタンも留めてもらうと、雪乃はフードを被った。直後に人間たちから残念そうな吐息が漏れた。
 びくりと震えた雪乃は、人間たちを見回す。

「ろ、ろりこん?」

 思わずこぼれでた精霊王の一言に、人間たちは赤く染めた顔を逸らし、こほりとわざとらしく咳をした。

 その後は大人の話が飛び交い、椅子に座っていた雪乃はだれて根を揺らし、マンドラゴラたちもいったん雪乃の身体にもぐりこみ、退屈しているうちに休憩となった。
 雪乃とカイは、ここでお役御免だ。用意されている控え室に移動して、念のために会談が終わるまで待機しておく。
 結局呼ばれることはなく、ローズマリナの家に戻ることになったのだが。

 そして三日後。
 勇者たちは魔王討伐のために、帝都ネーデルを旅立ったのだった。
 ぴー助の背には、ムダイ、マグレーン、雪乃、カイ、ナルツの順に五人が乗っている。
 戦力として考えていたダルクは、お留守番だ。ローズマリナから離れたがらなかったのもあるが、ノムルを怖がって拒否された。

 ルモン大帝国を横断するように作られていた線路が途切れると、暗雲に覆われたラジン国が見えてくる。
 国を守るように張られた障壁の手前には、大勢の軍隊がひしめき合って警戒している。障壁を破ろうと攻撃を繰り返しているようだが、小さなひびさえ与えられずにいた。 

「ぴー助、一度降りましょう」

 このまま突入すれば障壁にぶつかってぴー助が怪我をしてしまうかもしれないと恐れた雪乃は、いったん着地して障壁を抜ける方法を探そうと考えた。しかし、

「がうう」

 と、了解したぴー助は、そのままゆっくりと高度を落としながら、障壁を抜けた。

「ん?」

 雪乃はおもむろに後ろを振り返る。ムダイたちも、やっぱり後ろを振り返っている。
 障壁にぶつかることを危惧して着地させようと考えたのだが、あっさりと障壁を抜けてしまっていた。

「ぴー助、上昇しろ! 敵陣で呑気に着地は危険だ!」

 メンバーが呆気にとられている中、唯一冷静だったカイが、急いで指示を出す。慌ててぴー助は翼を動かし、再び上空へと昇る。
 ぽかんとしていたのは雪乃たちだけではなく、ラジン国側の国境に集まっていた魔法使いたちもだった。
 絶好の攻撃機会を逃し、悔しそうに地団駄を踏んだり、だめもとで攻撃魔法を飛ばしたりしている。だがその魔法はいずれも威力が弱く、ぴー助に届く前に消滅した。

 そんなわけで特に危険もなく、雪乃たちは魔王ノムルがいるであろう、魔法ギルド本部上空へ到着したのだった。
 魔法使いたちによって守られている建物を眼下に、まずはムダイが飛び降りる。なんだか悲鳴やら絶叫やら衝撃音やらが響いてくるのを、雪乃たちは右の耳から左の耳へと通過させた。

「下りてきていいよー」

 着陸許可が出たようなので、雪乃はぴー助を着地させる。予想通りというべきか、魔法使いたちが死屍累々として散らかっていた。
 ぴくぴくと指先が動いたり、呻き声が聞こえたりするところを見るに、生きているのだろう。

「ぴー助は入れないので、上空で待機です。疲れたらラジンから出て休んでいて良いですからね」

 適当な指示を出して鼻先を撫でてやると、ぴー助は一吼えしてから空へと舞い戻った。
 見送った雪乃たちは、目の前にそびえる元魔法ギルド本部、現魔王城を見上げる。緊張しながら、一歩踏み出した。
 扉を開けて、中へと入る。

「魔法ギルドっぽいと言うべきか、魔王城っぽいと言うべきか」
「以前は清潔感のある建物だったはずなんですけど、魔王の影響ですかね?」

 目から力を失っているムダイの呟きに、口の端を引きつらせながらマグレーンが答える。そんな二人の会話から、雪乃はそうっと顔を逸らした。
 魔王城の中は、魔植物たちであふれていた。
 蛇のようにうねる蔓性魔植物が、天井も床も壁も覆いつくしている。ノムルに連れられて魔法ギルドに来たときよりも、更に悪化していた。
 ムツゴロー湿原とどちらがマシかと聞かれたら、答えに窮するであろう惨状だ。

 呆然としながら建物内を見回していた雪乃たちだが、人の気配を感じて、雪乃を除く男たちは瞬時に構える。
 受付らしきカウンター裏の扉が開いて出てきたのは、魔法ギルドで受付を担当していた青年、ベクターだ。彼の怒りに染まった目は唯一点、雪乃へと向けられている。
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