『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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魔王復活編

401.ムダイは爽やかな笑みで

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「舞踏会に呼ばれるような身分じゃなかったから、ダンスの良し悪しなんて分からないな。今はローズのパートナーを務められるように、特訓中だけど」
「俺は一応は踊れるけど、苦手だからなあ。フレックは得意だったけど」

 騎士だったナルツは、城の警備などで遠目に見たことはあっても実際に踊ることはなかったようだ。これからはその機会も増えるだろうが。
 ちなみに獣人は人間とは文化が違うため、話に聞いたことがあるだけで、見るのも初めてらしい。

 軽いリズムの曲が終わると、テンポが早い曲へと変わる。ゆったりとした曲、荘厳な曲……。
 雪乃たちには流れる曲が違うだけで、同じように動いているように見えているが、それぞれに違うステップを踏んでいるのだろう。
 ムダイは爽やかな笑みでリードを続け、ローレンはなんとか笑顔を張り付かせているが、目が真剣になっていた。

 最後の曲が終わると、スポットライトは一つになって舞台上の二人だけを照らす。華麗なダンスに社交界には縁のない者たちも、息を潜めて見入っていた。
 張り詰めた静寂の中、二人の身体が離れる。ムダイは右手を左胸に当て、ローレンはドレスの裾を取って互いに一礼する。その直後、会場を割れんばかりの大歓声が満たす。

「ムダイさん、凄かったです! そのような特技があったとは!」

 戻ってきたムダイを、雪乃は葉をきらめかせて出迎える。

「ヨーロッパの方に行くと時々誘われたからね。映画の役でも必要だったし。こんな所で役立つなんて思ってもみなかったけど、なんでも身に付けておくものだねえ」

 ムダイは何でもないことのように笑みを浮かべたまま答えた。
 きらめいていた雪乃の葉が、すんっと影を落とした。同じ地球出身でも、雪乃とムダイは違う世界に生きていたようだ。
 興奮冷めあらぬ客席からの歓声が、突如としてトーンを落とす。舞台に残っていたローレンが、崩れ落ちたのだ。

「ま、負けましたわ。この私が、ダンスで後れを取るなんて」

 悲劇のヒロインのように横座りで、悔しそうに床に突いた拳を握り締める。
 魔法の国でありながら、まったく魔法とは関係ない勝負だったことは、彼女のみならず誰もが意識の外に忘れ去っているようだ。
 ムダイは振り返ると、よく通る声を彼女に向けながら、ゆっくりと再び舞台に上がる。

「ローレン嬢ほどの技術を持つ令嬢のお相手は、中々できません。楽しませていただきました」
「ムダイ様……」

 手を差し出しほほ笑むムダイに、ローレンは頬を染めて手を伸ばす。
 背景に赤いバラが見えるのは、錯覚なのか何かの魔法なのか、雪乃には判断が付かなかった。だがその感動の瞬間に、割って入るものがいた。

「ローレン、ほだされるな! そいつは敵だ!」

 治療を終えて顔の腫れもなんとか引いたジークである。杖を構えてムダイに雷撃を放った。

「ムダイ様! 嗚呼、なぜあなたはムダイ様なの?!」

 両手で顔を覆い、ローレンは悲鳴を上げる。それから顔を伏せて左右に振ると、ぐっと耐えるように奥歯を噛みしめて顔を上げた。
 悲しみと切なさは見せない。目尻に光る雫を残し、黒バラをかざす。

「今のって雷魔法? え? 静電気?」

 ジーク渾身の攻撃をもろに食らったはずの男は、きょとんと瞬きながら自分の体をしげしげと見ている。ノムルの雷魔法を食らっても平然としている男には、まったくダメージを与えられなかったようだ。

 気まずい沈黙が落ちたが、無理矢理にジークとローレンは破り捨てる。ジークの杖から雷撃が走り、ローレンのバラが伸びて荊の鞭が蛇のように動きだした。
 二人の攻撃はムダイのみならず、勇者チームを襲う。

「魔植物?」

 制御不能と思われた魔植物を従えられるようになったのかと、雪乃は身を乗り出してローレンのバラを観察する。

「雪乃、危ないぞ」

 カイはひょいっと雪乃を抱き上げたが、その表情に焦りはない。何かあればすぐに移動できるように、念のために抱き上げたようだ。
 雷撃の閃光が絶え間なく瞬いているというのに、ずいぶんと余裕である。
 それもそのはず、ジークとローレンの攻撃は、雪乃たちにまったく届いていなかった。
 マグレーンが障壁を張ってはいたのだが、ジークとローレンの攻撃は、障壁に触れることさえなかった。というより、ジークが放った雷撃はローレンを襲い、ローレンのバラの鞭はジークを攻撃していた。
 
「な、なぜ?」

 せっかく治療した体が、再び切り傷だらけで赤く染まったジークと、顔は煤こけ髪はちりちりドレスはぼろぼろになってしまったローレンは、膝を突いてがく然とした声をこぼした。

「精霊の力か?」
「わーわー」

 小さな声で問うたカイに、マンドラゴラは根を左右に振る。
 精霊を生み出す樹人の王である雪乃を攻撃することを、精霊たちが拒否したのかと考えたカイだが、違ったようだ。
 雪乃はふむうっと鉄砲型にした小枝を顎に当てて考える。そして思い出す。ジークとローレンの杖が、何から出来ていたのかを。

「なるほど、お二人の杖は樹人から作ったと聞きました。つまり」
「わー」

 雪乃の推理に、マンドラゴラは大きく頷く。
 あのお爺ちゃんを筆頭とした、姫大好き種族である。生命力の強い彼らは、杖となっても意識がわずかだが残るのだ。
 雪乃は思わずポシェットの中にある、お爺ちゃんの枝から作った杖に意識を向ける。

「どうやら同族に助けられたようです。ありがとうございます」

 葉をきらめかせる雪乃から感謝の念を受けて、ポシェットの中の杖が嬉しそうに叫び声を上げたのだが、幸か不幸か蓋が閉まっていたので誰も耳にすることはなかった。

「へえ? あの二人が使っている杖って、樹人なんだ?」

 いつの間にかムダイも戻ってきていた。

「よくノムルさんが許したね? 樹人の杖だなんて、可愛い娘の同族でしょう?」

 何気なく言ったのだろう。きっと。わざとではなかったのだ。
 直後にジークの雷魔法など本当に静電気だったと思わせる、闘技場内を真っ白に染め上げるような落雷があったとしても。

「わー……」
「わー……」
「わー……」

 マーちゃんを筆頭としたマンドラゴラたちが呆れながらも、マグレーンが張ったままにしていた障壁を強化して防いでくれたお蔭で雪乃たちは無傷である。
 けれど場内は、散々たる有様だった。
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