『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

文字の大きさ
348 / 385
魔王復活編

400.ご指名が

しおりを挟む

「あのさあ、雪乃ちゃん。ご指名が掛かっているみたいなんだけど?」

 困ったように頬を掻きながら、ムダイはローレンをこっそり指差した。
 思っていたような反応が返ってこなかったためか、ローレンは次の言動に移れず、黒バラを突き出したポーズを維持し続けていた。なんだか目が潤んでいるようだ。顔も熱っぽく赤い。
 ムダイの指摘を受けた雪乃は、ぽてりと幹を傾げてから、責めるような声を出す。

「何を言っているんですか? ムダイさん。私はただの薬師の子供ですよ? 私と戦いたいなんて、ただの弱い者いじめじゃないですか。そんなこと、するはずないじゃないですよ。バラを向けているのは私へではなくて、私たちへでしょう?」
「えー?」

 不満そうな声を上げるムダイに、男たちは同情の念を寄せる。
 雪乃がただの薬師の子供などではないことを、彼らは知っている。そしてローレンの目は、一直線に雪乃を貫いているのだから。

 しかし雪乃は、自分が対ノムル以外では戦力として数えられていないことを、重々承知している。しかも相手は大人であり、有名な冒険者だ。自分を相手になどするはずがないと、微塵も疑っていなかった。
 黒いバラが、小刻みに震える。

「そ、そうですわ! 当然ではありませんか! そんな子供と戦うなど、この黒バラのローレンがするはずがありませんわ!」

 オーッホッホッホッホとぎこちなく笑うローレンを、男たちは疑わしげに見つめた。

「それで、どんな勝負をするのだ? あの男のように、使い物にならないようにしてやれば良いのか?」

 ぞわりと、全身が総毛立つような、低く冷たい声がカイから発せられる。
 あまり怒ることのないカイが顕わにした感情に、雪乃は心配そうに振り向く。カイは視線を下ろすことなく、ローレンを冷たく見据えていた。

 ローレンの笑い声が途絶え、高笑いするために大きく開いていた口の端が、ひくひくと震えている。
 真っ直ぐに立ち直して口元を扇子で隠したローレンは、視線をカイに向けた。対するカイは、絶対零度の極寒の眼差しで迎える。
 息を飲んだローレンの視線は、ちらりとナルツを映してからジークに向かう。

 治癒魔法により大きな怪我は修復されているとはいえ、顔はまだ腫れており、美男子だった面影はない。だらだらと、ローレンのドレスの下を汗が流れる。
 決意を固めて再び勇者サイドを見れば、絶世の美貌を持つ赤い男に目が囚われる。
 整った眉、切れ長でありながら優しげな瞳、筋の通った鼻、自信に満ちた口元。野性味を感じさせながら気品のある面立ちに、ローレンは思わずほうっと吐息を漏らす。

「む、ムダイ様と」

 うっとりと引き込まれるように、ローレンは無意識にその名を口に上らせていた。
 客席がどよめいたことによって生じた音と振動でローレンは我に返り、絶望で顔が青ざめる。
 冒険者ギルドの頂点、竜殺しのムダイ。ローレンが戦って勝てる相手ではない。だらだらと、先ほど以上に汗が滴った。

「気持ちは嬉しいけれど、僕は弱い相手には興味ないんだよね」

 ムダイは困ったように頬を掻く。ほっと、ローレンから肩の力が抜けた次の瞬間、

「だから、戦闘以外の方法で勝負しようか? 勝負方法は、君に任せるよ」

 にっこりと、ムダイはそれは爽やかな笑顔で言った。今度は勇者サイドが固まる番だ。

「ムダイさん、ここが元魔法ギルドだって分かっていますよね?」

 耳元でマグレーンがささやく。仲間たちからのじとりと疑念に満ちた視線を受け、ムダイは目を泳がせたが、

「もちろんだよ」

 と、営業スマイルを浮かべた。
 考えなしだったのだと察した雪乃たちは、呆れた眼差しを向けるのだった。
 魔法対決になったらムダイの負けは確実である。雪乃たちはローレンがどのような勝負を持ち出すか、固唾を飲んで見守る。
 ローレンの口元を隠していた扇子がぱちりと閉じ、弧を描いた赤い唇が姿を現した。

「では、ダンス対決はいかが?」
「いいでしょう」

 気の強そうなローレンの声に、ムダイは鷹揚に応える。だが彼の仲間たちは動揺した。

「え? ムダイさん、大丈夫なんですか?」

 この世界でダンスといえば貴族たちが嗜む社交ダンスであり、平民が祭りなどで踊る踊りとはまったく別物である。ついでに言うと競技として行われている社交ダンスのような、派手な動きはない。
 ダンスの教養がある平民出身の者がいないわけではないが、滅多にいない。ナルツとマグレーンは慌てて聞いたのだが、張本人は平気な顔で笑っている。

「大丈夫大丈夫。心配いらないって」
「ムダイさん、ローレンさんの仰るダンスとは、ソーラン節や泥鰌掬いではないと思いますよ?」

 雪乃も心配そうに幹を上向けた。

「どうしてそのチョイス?! 僕のイメージどうなってるの?! というか雪乃ちゃん、もしかしてその二つ、踊れるの?」

 余裕の笑みが消えて、驚きと困惑が噴き出した。
 雪乃は墓穴を掘ってしまったようだと、ついーっと視線を逸らす。

「修学旅行で学びました。ソーラン節は運動会で。ちなみに伝統的な方のソーラン節です」

 昔から伝わるソーラン節のほかに、テンポの速いよさこいソーランもある。
 学校で採用されやすいのは後者なのだが、雪乃の小学校は伝統を重視したようだ。単に担当教師が踊れたのが、そっちだけだったのかもしれないが。

「座禅もしてたよね? どういう小学校なの? 仏教系?」
「普通の公立小学校です」

 きりりと、雪乃は真面目な顔をして答えた。開き直ったとも言う。 
 ナルツたちには理解できない単語がぽんぽん飛び交っているが、いつものことなので気にせず二人の会話が落ち着くのを待つ。

「まあいいや。行ってくるよ」

 肩越しに軽く手を振りながら、ムダイは舞台に飛び乗る。
 ローレンが真っ直ぐに差し出した手をムダイが下からすくうように取ると、赤を中心とした情熱的なライトアップは白や青の落ち着いた色へと変わり、ワルツが流れ出した。
 そのまま二人は優雅に踊り始める。

「これって、どうやって勝敗を決めるのですか?」

 雪乃はナルツとマグレーンに視線を向けた。視線を受けた二人は、

「さあ?」

 と首を捻る。
 地球には競技ダンスもあるが、通常はペアで戦う。ペアとなった男女のどちらが優れているかを競うことはない。
 ちなみに競技ダンスは社交ダンスから発展しているが、社交ダンスとは別物である。社交界ではあんなに激しく踊らない。
しおりを挟む
感想 933

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

処理中です...