『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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魔王復活編

399.お喋りをしている余裕は

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「お喋りをしている余裕は無いのでは?」

 拮抗しているように見える鍔迫り合いだが、徐々にジークの顔が苦しげに歪んでいく。
 一方のナルツは、余裕の表情だ。一定の力を剣に込め続け、じわじわとジークを追い詰める。
 ジークの額に汗が浮かぶ。

「えげつないなー」
「だが見事だ」

 観戦しているムダイは、言葉に反して楽しそうに目を細める。対してカイは、素直に賞賛した。
 ナルツとジークが拮抗しているようにしか見えない雪乃とマグレーンは、カイとムダイを見る。戦いの様子を映したまま、カイは視界の端に雪乃を入れた。

「ジークの剣は、スピード重視の攻撃なのだろう。鍔迫り合いになれば活かせない。ナルツ殿はそれを見切り、ジークが逃れられないように調節しながら押し続けている。派手さは無いが相手の攻撃を防ぎつつ体力を奪える」
「日頃の鍛錬の違いだね。ナルツに比べてジークの方は、筋力もスタミナも足りない」
「なるほど」

 雪乃は舞台に目を戻す。解説を聞いてから見れば、ナルツには余裕があり、ジークは切羽詰っていることが表情から分かる。

「でもこのままじゃつまらないね。どちらが動くと思う?」
「この状態では、ジークに打つ手はないだろう? 剣だけならばの話だが」

 カイの答えに、ムダイは面白そうに口角を上げた。
 ここは魔法ギルドであり、ジークは魔法使いの中から選ばれた戦士なのだ。ならば当然、魔法を用いてくるだろう。

 その予測どおり、ジークが動きだす。彼の体の周りに白い線が幾つも光り、剣を通してナルツを襲う。
 ナルツは剣に掛けていた力を一瞬だけ強めてジークの刃を押し、バランスを崩させる。その隙を突いて、素早く後退した。
 金色の稲妻ジーク、その二つ名の通り、雷魔法を得意とする魔法剣士のようだ。

 不意を突いた攻撃でも、ナルツにダメージを与えることはできなかった。だが鍔迫り合いから逃れたジークは残影が見えるほどの速度で舞台の上を縦横無尽に駆け、四方八方から攻撃を仕掛ける。その全てをナルツは剣で弾いてみせた。

「おー、前に打ち合ったときより腕を上げてるみたいだね」

 ムダイは楽しそうだ。
 雪乃はすでにジークの足を追いきれず、ナルツだけを見ている。金属音がしたりチカリと光ったりしているので、剣と剣が打ち合っているのだろうとは思うが、それだけだ。何が起こっているのかさっぱり見えない。

 いつもの柔和な表情が消えたナルツは、顔を体の正面に据えたまま、剣を動かし攻撃を弾く。
 わずかに映る軌跡を辿っているのか、音を拾っているのか、あるいは本能か。思考する時間も与えられぬまま、全ての太刀筋を防いでいく。

「受けているばかりでは、勝てないよ?」

 攻めに回ったジークの声が届いても、ナルツの行動は変わらない。ひたすらに腕を動かし剣を受ける。そのまま数分が経過した。
 単調な攻撃に焦れたのか、あるいは疲労からか、攻めあぐねていたジークが動く。

 白く光る線が、ジークを覆っていく。魔力に意識を向けたことでほんのわずかに落ちたスピードを、ナルツは見逃さなかった。
 右後方から背後を通って前方へと駆け抜けるジークが左脇腹へ打ち込んできた剣を、ナルツは右膝を軽く折ってかわしつつ、握る剣で下から強く跳ね上げる。
 ジークの表情が口惜しげに歪む。だがその直後、笑んだ。雷光が剣を伝ってナルツを――

「わー」

 ナルツを襲うことなく、逆にジークの脛に衝撃が走った。

「なっ?!」

 自慢の雷撃を無効化されたジークは、信じられないと目を大きく見開きナルツを見る。

「あー……」

 情けない声を出したのはナルツだ。
 電光石火の勢いで駆け回っていた男が足を引っかけられ、さらに気を逸らしてしまったのだ。自身の勢いを止めることもできず、ジークは吹っ飛んでいった。
 舞台から落ちて床を転がり、客席前の障壁にぶつかってようやく止まったジークは、顔が腫れ手足も変な方向に曲がっている。生きてはいるが、結構な重傷だ。

「試合中に気を逸らしたら、危ないですよ?」

 勝負あったと見たナルツは緊張を解くと、小さな子供を諭すように、眉間に皺を寄せながら声を掛ける。
 観客席からはジークを心配する悲鳴と、ナルツに向けられた黄色い歓声が沸き起こり、雪乃たちの耳はキーンっと高音を奏でた。
 カイは耳を押さえて蹲り、雪乃から治療を施される。

 倒れているジークを心配そうに見る雪乃だが、すぐに魔法使いたちが集まって治癒魔法を掛け始めたので、見守ることにした。
 そんな雪乃を、扇子で口元を隠したローレンが血走った眼で睨んでいたのだが、ジークの治療をおろおろとしながら見学している雪乃は気付かない。

 ジークの治療が終わると、今度はローレンが舞台に立っていた。上ってきたのではなく、いつの間にか立っていた。
 左下を向いた顔の口元には黒バラが咥えられ、肘を高く上げた右手は頭の後ろに、左手はドレスの裾を右側に引っ張るように持ち、いつでも踊りだせそうな態勢でスタンバっていた。
 会場の照明が落ち、一際明るいスポットライトがローレンを浮き上がらせると、彼女はかっと目を開く。赤や青、黄色のスポットライトが、舞台上を縦横無尽に走り出す。

「今度は私がお相手をいたしますわ! さあ! 出てきなさい!」

 口元の黒バラを手に取ると、びしりと雪乃を指した。カイたち勇者チームは、揃って不快そうに眉をひそめる。
 いくら相手が女性で、こちら側にいる女性が雪乃だけだといっても、まだ小さな女の子を戦いの場に指名することに好感など持てない。
 女性には優しいムダイでさえ、嫌悪感を向けていた。カイに至っては、目が暗殺者っぽくなっている。

 心配そうにナルツが雪乃に視線を落としたが、当事者である雪乃は特に気にしていないようだ。不思議に思ったナルツが微かに動揺すると、他の者たちも気付いて雪乃に視線を向けた。

「雪乃?」
「はい?」

 名前を呼ばれて、雪乃は後ろを見上げる。怒っていた狼獣人の表情は柔らかくなっており、困ったように眉を落としている。

「大丈夫か?」
「? はい。元気ですよ?」

 ぽてりと幹をかしげた雪乃は、知らぬうちに自分の葉が萎れでもしていたのかと、軽く葉っぱを引っ張って視界に入れる。いつもと変わらぬ青々とした健康な葉っぱだ。
 問題なしと、雪乃はうむと頷いた。
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